小説断章『低空の赦し(Forgiveness Below 100ft)』
――2026年9月。ドネツク州・クラマトルスク前線の南30キロ。
「パブロフ、進入コースを修正しろ。左に5度だ」
A-10Cのコックピット。キャプテン・タリナ・パブロフ少佐は、HUD越しに荒れ果てた野戦病院跡を見下ろしていた。ロシアの火砲が前夜、病院とその周囲の避難民を容赦なく焼いた。
その報復任務だった。今日のターゲットは、自走砲と補給車両、歩兵混成中隊が集まる野戦指揮所。
高度150フィート。速度230ノット。地上レーダーには掴まれにくいが、目視対空火器と短距離ミサイルの射程圏だ。
――最初の一撃
「TALON-2、目標確認。トラック10両、SPH3両。照準データ入力」
タリナはGAU-8/A 30mm機関砲のサイクルを「HIGH」に設定し、接近角度をさらに下げる。大地が跳ねる。
ドオオン――ドドドドドッッッ!!
マズルフラッシュが閃き、30mm劣化ウラン弾が一列に並んだ車列をなぞった。トラックが火を吹き、歩兵が飛び散る。
「命中確認。ターゲット・エリア一部火災」
だが、その瞬間、RWR(レーダー警報装置)がビープ音を放った。
「ロックされた!」
後席の電子戦オフィサー、少尉のオリックが叫ぶ。
Pantsir-S1、赤外線パッシブ誘導――発射確認。
地上から、2条の白い煙が蛇のように追尾してくる。
――被弾
「フレア!全投下!」
自動フレア放出が始まる。A-10の左右から閃光と熱源が次々と飛び出す。タリナは緊急回避旋回を仕掛けるが――
ズガァンッ!!
右主翼の外縁部に直撃ではなくニアミスの衝撃波が叩きつけられた。フラップが吹き飛び、油圧警報が鳴り始める。
「ハイドロ2系統、ロスト!エンジン1過熱!」
「バスタブ装甲は持った。飛べるか?」
「……あと3分は」
――不時着決断と脱出
「帰還無理。脱出エリア切り替え。ZULU-17、旧農場地区」
無線は通じていた。**ウクライナ特殊部隊の回収チーム「GRYPHON-4」**が待機する地点だ。
速度を落とし、高度を下げる。だが、機体は滑空に近い状態。爆薬搭載のパイロンを投棄し、コックピット後部のエンジン噴煙が黒くなっていく。
「着陸脚、出ない!」
「草地に突っ込む。衝撃に備えろ!」
――墜落
ズズッ――バギャァァアアン!!
泥に車輪のない胴体が突っ込み、左翼が折れ、コックピットは半回転しながらスライド。タリナは頭を打ちつけ、視界が一瞬、白くなる。
周囲は静かだった。だが、5秒後、機体から炎が上がる。
「生きてるか?」
オリックが助け起こす。二人は脱出ハッチから這い出し、マップコード“ZULU-17”へ向けて走る。
――敵の追跡と回収作戦
15分後。赤外線スキャンを行っていたロシア軍オルラン無人機が墜落地点の熱源を発見。BTG(大隊戦術群)の一部が即座に出撃する。
GRYPHON-4は4人の特殊部隊員で構成された空挺捜索救難チーム(CSAR)。
彼らは事前に**「ダークスモーク」信号弾**を発見。接近した。
「キャプテン・タリナ、GRYPHON-4です、伏せて!」
パァン!パァン!パァン!
5.45mmの小銃弾が飛び交う中、CSARチームの隊員が敵の小隊に対しグレネードランチャーで牽制。もう1人がタリナたちを引きずる。
「撤収地点コード:ECHO-99!5分でAH-64が来る!」
――帰還とその後
AH-64E アパッチ攻撃ヘリが到着し、重機関銃で敵部隊を分断しながら離脱。
タリナたちは全身泥まみれのまま、基地へ帰還した。
機体は失われた。敵も損害を出した。だが、“人”は生きて帰った。
その夜、彼女は食堂の隅で言った。
「A-10は戦車を殺せる。でも……この戦争では自分も殺される側だった。」




