断層の空(Faultline Skies)
午前02:14。南シナ海北部、洋上高度38,000フィート。
機体の輪郭が月明かりに沈む中、F-35AライトニングIIは、台湾西方の戦略空域へ滑るように侵入していた。敵防空網の中心部、HQ-9のカバー範囲に差しかかっている。
機体識別コード「Shaman 3-2」。パイロットのマッコール少佐は、酸素マスク越しの無音の呼吸に意識を集中していた。機体のステルス被写界深度は、敵のレーダー波にほぼ反射を示さない。だが、彼の心拍だけが、それに反してやけに存在を主張してくる。
> 「Shaman 3-2、電子シグネチャ確認。ターゲット・エミッターは052D艦、300km南西。火器管制レーダーL-band、断続波。」
電子戦支援機EC-130からの暗号通信が届く。F-35のDAS(分散型開口センサー)が360度、無音で敵艦の電磁スペクトラムをスキャンしていた。映像MFDには赤くマーキングされた敵艦の姿が浮かび上がる。
マッコールは軽く顎を引いて応答する。
> 「了解、ターゲットIDをBlueNet経由で転送する。ハンターよりシューターへ。Let’s wake ‘em up.」
機体が静かに旋回し、データパケットが暗号化されて宇宙経由で転送される。その宛先は、F-16部隊“Viper Flight”。
【INT. F-16C COCKPIT – 嘉手納基地より出撃後、巡航中】
暗い海の上、四機のF-16Cが縦隊を組んで西へ向かっていた。
「Viper 2-1」=キャプテン・ジーン・カーツの目には、HUDに表示されたターゲットポイントが点滅している。F-35からのリンク情報が転送されたばかりだ。
> 「Shamanから来たぞ。敵艦の位置、航跡、レーダーパターン、全て含まれてる。ターゲットは052D、旗艦。」
僚機からの応答はない。EMCON(電磁沈黙)レベル3が発令されている。
ジーンは右手でMFDを操作し、AGM-158C LRASMのミッション設定ページを開いた。
ステルス型の長距離対艦ミサイル。射程約500km、自己航法可能、パッシブシーカー装備。
つまり、“撃ったら戻る”兵器だ。パイロットが最も無力感を覚える類の。
> 「左舷、ミッション入力完了。ターゲット:MH-7465、航法モード:Sea Skim。終末誘導:Auto, Prioritize CIC(戦闘指揮所)。」
彼はミサイルに命令を託した。
撃った後にやれることは、祈るか、敵のSAMから逃げることだけ。
【発射:スタンドオフ攻撃フェーズ】
高度26,000フィート、風速20ノット、機体姿勢良好。
ジーンは一息吸って、マスターアームスイッチをARMに切り替えた。
HUD表示:WEAPON HOT
「Fox Three…」
親指がトリガーを押し込む。
左翼下のLRASMが切り離され、黒い夜の底へ滑るように落ちていった。
ブースターは点火せず、滑空からシースキミングへ。海面すれすれを音もなく飛ぶミサイル。まるで死の鳥。
> 「…One away。」
続いて右舷。
> 「Two away。」
機体は軽くなる。HUDに「MISSILE TRACKING」と表示。
ジーンはスティックを左へ倒し、回避機動に入った。5Gの旋回、汗が眉をつたう。
遠方では、レーダー静寂だった海がざわつき始める。
【同時:F-35 BDA支援フェーズ準備】
再びF-35。Shaman 3-2のマッコールは、衛星リンク経由でミサイルの飛翔経路と標的追尾状況を監視している。
> 「BDAフェーズに入る。電子妨害反応なし、敵艦のフレアもカウンターも確認されず。
> フリートは気づいていない、少なくともまだ…」
【終末フェーズ:LRASM命中】
052D駆逐艦のレーダーマストに一筋の光が走ったのは、その直後だった。
レーダーがようやく起動、しかし間に合わない。
LRASMはすでにシーカーモードに移行し、艦のIRシルエットを補足済み。
1発目がCIC(戦闘情報センター)へ突入し、煙柱と同時に艦橋が吹き飛ぶ。
2発目は船尾、ヘリ甲板下の燃料タンクに命中。黒い炎が海面を焼き尽くす。
【帰還】
ジーンはHUDに表示された「RTB GREEN」を確認し、そっと息を吐いた。
あとは帰るだけだ。再装填と再計画。
だが彼は知っている。これは始まりに過ぎない。
「次は、近接支援になるかもしれん。今度はSAMの中へ…」




