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④地下からの影 ――市街地下からの逆襲と撤退戦


1 静寂を割る足音

0430。

天幕の外はまだ夜の闇が支配していたが、東の稜線にはわずかな朱がにじみ始めていた。分隊陣地の周囲には、かすかな湯気が立っていた。冷え切った地面に温もりが移り、霜が溶け始めている。


スコット軍曹は眠れないまま、個人壕の中で膝を抱えていた。

無線はまだ、完全には回復していなかった。

支援要請は未達、後方補給も遅延中。唯一の連絡経路は、昨夜斥候に出したフランクの手書き地図を持った通信兵。だが彼は、まだ戻っていない。


「……変だな」

ライス伍長が隣壕から顔を出した。

「時間的には戻ってくるはずなんだが」


そのときだった。

**「ゴゴゴ……」**と微かに地面が鳴った。


一瞬、誰もが風のせいだと思った。

だがスコットはすぐに違和感を察知した。音が振動を伴っていたのだ。地中から、空気を押し上げるような低い圧力波。


「みんな起きろ、武装して迎撃体勢。地下から……何か来る」

言い終えるより早く、隣の建物の床が、轟音と共に崩れた。


瓦礫と煙が吹き上がり、建物が一部沈み込む。

その崩壊の中心部から、フルフェイスの迷彩ヘルメットをかぶった影が立ち上がった。

手榴弾を投げながら、発砲。


「敵だッ! 地下から来た!」

スコットの怒声とともに、各兵士が持ち場に走る。だが、斜面を利用して作られた壕の下部からも、煙が噴き出した。


そこには、昨日までなかった“入口”が開いていた。


2 地下陣地と反撃

「下から上がってくる。トンネル構造だ。全員、壕の開口部を制圧!」


市街地の地下には、敵が秘密裏に建設した迷路のような坑道網が広がっていた。

それはベトナム戦争期の“クチ・トンネル”の再設計版とも言うべきものだった。違いは、現代土木技術と都市ガス・水道網の利用である。


・下水道と接続された通路

・地下道を利用した爆破用通路

・民家の床下に開口したカムフラージュ出入口


この全てが組織的に“戦術ネットワーク”として統合されていた。

そして、それは今、目の前に開いている。


ジムが投げ込んだ閃光弾が一瞬、狭いトンネルを照らし出す。

青白い閃光の中、数人の敵兵が猿のように這い上がるのが見えた。

彼らは正面の遮蔽に身を晒すことなく、狭い斜坑を盾に侵入し、壕の内側から襲ってくる。


「敵の目的は、**後方連絡線の切断だ。**孤立させて、掃討する気だ。」


ライスがSAWで接近路を制圧するも、すぐに反撃の銃弾が上がる。

通常の交戦距離ではない。3〜5メートル。

匍匐での撃ち合い、遮蔽もろとも跳ね上がる土と火花。防弾チョッキを貫く5.45 mmが、ライアンの肩を撃ち抜いた。


「救護! チューバックがやられた!」


スコットは咄嗟に撤退を指示する。


「第1・2班、Aラインまで後退! 第3班はトンネル開口部を爆破! ここは放棄する!」


フランクが戻ってきたのは、その直後だった。

背中には血が滲み、顔は泥にまみれていたが、手には確かな図面が握られていた。

「市街地の下……まるで蜂の巣だ。入口、あと4箇所。……それもこっちの陣地のすぐ下にある。」


「間に合うか」

「……わからん」

フランクは無言でスリングをほどき、M24の照準を再びトンネル口に向けた。


3 トンネルの恐怖と遅滞戦闘

第3班の榴弾手と機関銃手が、地下開口部にM67手榴弾を連続投下した。爆風と共にトンネルが崩落する。だが、それは1つの通路を塞いだに過ぎない。


フランクは低く言った。

「奴らの目的は“支配”じゃない、“撹乱”だ。出口を無数に作って、戦線の内部を破壊してる」


事実、戦線の中央が折れた。

第1分隊は後退、2名が孤立。市街地の民家2棟が既に制圧され、敵が内側から味方の背後を撃ち始めていた。


「スコット軍曹、決断を」

「よし、全員後退。第1分隊は左翼の排水溝から撤退。第2分隊は損傷車両の陰に沿って斜面を降下。第3分隊は殿しんがりを務める」


「トンネル口にはすべてClaymoreを設置、**クレイモアで“後追い阻止”**だ。パック弾薬が残ってるものはSAWへ供出しろ」


フランクが補足する。

「民家の床下は空洞だ。重量に耐えられない。Claymoreで爆破すれば、下に崩れる」


「その瞬間が撤退タイミングだ」


午前0530、撤退開始。

通信は依然妨害されていた。全てはサイレントのハンドサインと目配せで進行した。


市街地の裏通り。瓦礫を越え、レンガ壁を踏み、ライアンが負傷兵を背負って走る。斜面下のブラッドレー車体の裏に、数人の生存者が滑り込む。


フランクは殿として最後尾に残り、トンネル口にClaymoreをセット。ペダルを踏むタイミングで、敵兵がちょうど登ってきた。


その瞬間、

**「クラッ」**という爆鳴とともに、地面が陥没。トンネルの“影”が、土煙と一緒に沈んだ。


4 崩れた戦線、再構築への序章

約10名が戦線から脱出した。

市街の占領は放棄。

連隊本部はこれを「局所的撤退と再編」と称した。


スコットは草地の斜面に腰を下ろし、無線機の破損パーツを取り出した。

ライスは煙草を一本取り出し、しかし火をつける前にやめた。


「奴らのトンネルは……俺たちの戦場認識を完全に裏切った」

「都市という皮膚の下に、もうひとつの戦場があったんだ。」


市街地の奪還は未定。だが、次の作戦は既に決まりつつあった。

敵のトンネル網を潰すためには――土木工兵、空爆、燃料気化爆弾による地下制圧が不可欠である。

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