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 さて。大混乱のフェスター家から手紙を受け取ったレルブレフ家も動揺した。娘はフェスター家の令息をとても気に入っている様子。挨拶をした程度だけど、最近の若い子としては珍しいとも言える程礼儀正しかったのは覚えている。信用できる商人も彼を知っていると言うので話を聞いたら、仕事もできるし人柄も申し分ないと絶賛していた。どこをとっても不足がない。王太子殿下に面会を希望されていることや、それに関係があるのか、最近周囲が娘の様子を窺うようになってきて心配だったこともあり、本当は娘に彼への気持ちをはっきりと確かめたかった。けれど前向きな気持ちを聞かされても色々な事情から自分達が声を上げるべきではないか…と悩んでいる最中に届いた便り。突然の手紙申し訳ない。一度お会いできれば有り難い。と書かれているだけで目的は定かではない。けれどきっと二人に関する事だろう。もしかして彼も娘を気に入ってくれたのか。


 今日でも構わない。いつでも応じると使いをやったら、その使いが二時間後に伺いますと伝言を持って帰ってきた。向こうも何やら急いている様子。情けない程期待してしまう。けれどこれ以上息子に近付くなど言われる可能性もある。二人は生きた心地のしない二時間を過ごした。




 きっちり二時間後。二人の両親は対面した。互いに野心家ではないことから社交界で目立つことはなかったものの、堅実で真面目な印象は持っていた。


 ましてやフェスター家にしてみれば格上の相手。息子の為とはいえ青ざめるほど緊張している。しかしそれは実はレルブレフ家も同じ。ほぼ初対面であるにもかかわらず、自己紹介や時候の挨拶もまともにできずに沈黙に近い数分を過ごした。


 ややあってフェスター伯爵が切り込む。大きく深呼吸をすると小さな声を絞り出した。


「…本日は突然の訪問でご迷惑をお掛けして、大変申し訳ない」


 ぺこり。と、フェスター家の二人は頭を下げる。


「いや、気になさらず」


 と、ぶんぶんと首を横に振ったレルブレフ家の二人。暑くもないのにハンカチで汗を拭うフェスター伯爵の様子に、言い辛い話題を持ってきたことは察していた。それは想像しているどちらにも当て嵌まる。どっちだ。


「…実は、うちの息子が…」


 やっぱり。さぁ、どっちなんだ。


「こちらのご令嬢のラルフィール様と、その、け…結婚したいと言い出しまして…」


「…!!」


 気まずそうに絞り出したその言葉に泣きそうになった。いや、隣で妻はもう泣いている。まん丸になった目に力を入れて涙が零れるのを堪えている。


「…そ…そうですか」


「ほ、本当に、侯爵家の大切なご令嬢にこんな伯爵家の馬鹿息子など釣り合わないのは分かってはいるのですが…」


「とんでもない!!」


 と、それこそ怒鳴るような口調で叫ばれて「ひぃっ」とフェスター伯爵は悲鳴を上げた。その彼に向かって、上半身を可能な限り近付けてレルブレフ侯爵は捲し立てた。


「娘はお宅の息子さんを強く慕っております。是非、話を進めて頂きたい!」


「…へ?」


 罵詈雑言を浴びせられて叩き出されると思っていたフェスター伯爵夫妻は目を丸くした。その前でレルブレフ侯爵夫妻は泣きながら頭を下げた。


「娘を、どうか宜しくお願いします。最後は本人から返事をさせますが、様子を見ている限りでは息子さんに心を奪われているのは間違いない。それだけではなく、私達もお宅の息子さんの元になら安心して娘を送り出せます」


「…えええええ?」


 僻地に引き籠もったっきり、何故か荒稼ぎしている息子に何が起こっているのか両親にはちんぷんかんぷん。社交界にも碌に顔を出さないあいつに何がどうなったらこんな奇跡が起きる訳? と、ぽかんと顔を見合わせた。


「…レルブレフ侯爵。私共はその、大変お恥ずかしい話なのですが息子が何をしていたのか全く存じないのです。こちらのお宅と息子に接点はございましたか?」


「…ああ、そうでしたか」


 お互い、安心したのもあってその後は穏やかな話し合いになった。そして伯爵の姉からオーソクレースを紹介されたこと。その後、二人は何度か会っていること。娘は彼をとても信頼していると思う。自分達の印象も外から聞いた話もすこぶる評判が良かった。娘は今時の子と比べると地味で飾り気がないから気に入って貰えると思っていなかったけれど、我が子の良さを中身で理解して貰えたのなら本当に嬉しい。この話、はっきり確認をした訳ではないけれどきっと喜ぶと思う。とレルブレフ侯爵は本当に嬉しそうに言う。それを聞いて「姉ちゃん、早く言ってよー(意訳)」とフェスター伯爵は思ったけれど息子の幸せにケチを付ける気はない。


「そうでしたか…。いや…本当に自分の子どものことを何も知らなくて。申し訳ない…」


「いえいえ。男の子はそれくらいの方が」


「ええ。本当に。立派に独り立ちしていて頼もしい」


「そ…そんな…。ありがとうございます」


 本当に滅茶苦茶好感触だな!! と、戸惑いながらフェスター夫妻は緊張が緩んだように笑った。

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