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6-6 公的な茶会

 ヤダやネゲイでは建物の中で梁が剥き出しになっている形式が多く、「虫」達の多くは梁の上で会話を収集ししていたが、カースンまで南下すると建築様式は若干変わってきていて、梁の上に屋根まで届く壁が設けられている。『ヨール殿』達との会合の後、αは王城内での情報を集めようとはしたのだが、会話を拾えるような場所に「虫」達を配置することができなかったようだ。ネゲイ館に戻り、夕食や明日の予定についての確認などを終えてαと話をする。


『明日のために情報は集めたかったんですけどね。建物の外壁、庇の裏とかで、建物内に入ったあなた達との通信中継はできるはずだけど、そのあたりはデージョーに比べたら簡単だったわ。』

『手に入るものでなんとかしよう。印象としては、カースンはネゲイで始まった動きに便乗したい、けど、ネゲイに対してあまり強権的にも出たくないから使える搦め手を探っている、と、そんな風に感じたけどαの分析はどう?。』

『それに近いわ。ネゲイに対して強権的に出過ぎたら、他の四位領主達の反応が気になってくるでしょうし。』

『そのあたりの力関係が、理屈ではともかくオレ達には感覚ではよくわからないな。四位領主の議会もあったよな。』

『議会の中でも閣僚の中でも、派閥とかがあるでしょうしね。そのあたりの情報は、噂話でもいいから少しでも集めていくしかないわね。でもカースンでの動きは、集めにくいわ。』

『手に入るものでなんとかしよう。情報は少ないけど、今後の動きとして予想できるのは、まあ、何かの理由をつけて人と金、利便性の提供、そういうところから徐々に始めてカースン全域でバランスよく技術力の向上を図る、というのが国政としてのやりかただと、オレは思っているがどう?。』

『地球文明圏的な発想なら、いい政治家はそう動くでしょうね。ここのでやり方はよくわからないけど、当面はそれを基軸に考えていいんじゃないかしら。そこに派閥の勢力争いが絡んでくると、先が見えにくいですけど。』




 ヨール王二三年六月十九日(火)。


 この数日の移動でそれなりに埃や泥汚れなども付いていたバギーは、今朝一番で洗った。このあたりでは滅多に見ることのない金属光沢は、よく目立ってネゲイの宣伝になってくれると思う。


 二の鐘の頃に四位門、というのが予定ではあったが、バギーでの移動は人通りが少ない方が騒ぎになりにくい。宣伝と騒ぎのどちらを取るかは悩ましいが、遅れて困ることはあっても、少々早めについて困ることはないだろうし、門衛は一の鐘を過ぎれば立っているから、オレとアン、バースとミナルを乗せたバギーは〇八〇〇Mにネゲイ館を出た。既にジンが先触れで出ている。人通りもあるので運転のアンもスピードは出さない。ボンネットにはネゲイとオレの紋章が描かれているので、それが何の紋であるかは知らなくても、それなりに地位のある人間が乗っていることはわかるだろう。もしかしたら「蠟板のマーク」などと思う人間もいるかもしれない。


 常に各地の領主が入れ替わりながら集まってくる町の住人は、どこかの紋章が入った乗り物には近づかない方が無難であることを知っている。〇八〇〇Mを過ぎればそれなりに人通りもあったが、バギーで初めてネゲイに行った時ほどの騒ぎにはならず、徒歩よりは少し早い程度のスピードで進んで〇八二〇Mには四位門に到着した。門衛と先触れで走っていたジンが立っていた。門衛に声を掛けられる。


「こちらは、ネゲイの方ですね。門を開けます。あと、剣はいつものように預からせていただきますので。」


 門をくぐるとまたジンが先行して馬車置き場まで誘導する。本物の馬車なら、このあと馬を外して厩舎に連れていって……という手順が入るが、その必要はない。待っていた馬丁は「仕事はなかったのか?」というような表情を浮かべて去っていった。


 ジンにはバギーの警報器のことを話しておいた。ジンの制止を聞かずに誰かが無理矢理バギーに乗ろうとしら、まあ、王城中で聞こえるような音が出るだろうと。


「誰かが恥をかかないように止めるのが今日のジンの役割だよ。」


 バースの言葉にジンは頷いている。まあ、どこかの馬鹿が恥をかく羽目になっても、オレはジンを責める気はないが。


 少し早かったこともあって、今日の世話役のエンゾ・ノールはまだ到着していなかった。この馬車置き場は四位門の附属施設で、待ち合わせは四位門だ。バース達はここから本館内の四位領主控え室までの経路も当然知っているが、あまり動き回るわけにはいかない。丁度、αから連絡が入る。


『エンゾ・ノールが出勤してきたわ。五位門から入って四位門に移動中よ。』

『わかった。二~三分かな?。』

『そうね。そんなものよ。』



 ジンとバギーを残してエンゾ・ノールの案内でオレ竜は四位領主の控え室に移っている。案内役のノールは手順を再確認してくると告げて一度立ち去った。数分で戻ってきたノールは二人の侍女を連れていて、侍女達はそれぞれ両手でトレイを持っている。


「まず、お茶です。それから、昨日の万年筆と紙を一旦お返しします。昨日の最後の打ち合わせのとおり、他の閣僚方の分を含めて、改めて献上という形で。ええと、全員分、昨日お話ししているとおり用意していただいてますよね?。」

「アン、今朝出発前にも確認したよな。」

「ええ。更に予備分もあります。全部、使い方の説明書も入ってますよ。」


 アンは自分の荷物から「お土産」セットを取り出しながら答えた。ノールはテーブルに並べられた「お土産」の数を確認しながらトレイに積み直す。


「よし。ここでできる準備は多分完了です。あとは、呼ばれて、挨拶して、この品を渡して、幾つか簡単な質問と回答、そんな流れですね。」

「挨拶と、お土産の献上、質問と回答。わかったよ。正式な礼儀もネゲイで少しは練習したけど、バース様の真似とかしながら無礼にならないよう努力する。」

「少し復習もしておきますか?。彼女達はそういう作法をよく知ってますよ。」


 ノールは連れてきた侍女達を示す。


「いいね。待ち時間もあるし、それもお願いしようか。練習しておくのは悪いことじゃないからね。」



 「練習」は謁見が行われる部屋の大きさを考慮したものになる。今は定例の閣議が行われている時間帯で、今日予定されている内容の最後がオレ達と会うことだと聞かされた。王が臨席する会議が行われる部屋は決まっており、室内のレイアウトや立ち位置の説明を受ける。αも説明は全部聞いているから一度聞けば「忘れる」ことは心配していない。そのようなリハーサルの何回目かの途中で呼び出しが来た。閣議が行われている会議室前に移動して扉が開かれるのを待つ。部屋の中の音は聞こえない。国の方針を定める会議を定例で開くような部屋だから、防音も考慮しているのだろうと思う。


 到着して数分で扉が開かれた。短い廊下があって数メートル先の右側にも扉がある。その扉の向こうが閣議の行われている部屋だ。案内の小姓を先頭にしてバース、オレ、ミナル、アン、最後にノールが続いて入室した。「献上品」となる万年筆と紙を載せたトレイはアンが持っている。


 部屋に入って、定位置とされるあたりにオレ達四人は立ち止まった。オレ達の前後を挟んでいた小姓とノールは左右に分かれて立つ。


 部屋は十二畳ほど。オレ達から見て左の壁には明かり取りで大きな窓が並んでいる。ここではガラスが使われていた。デージョーで見たような三十センチほどの正方形のガラスを四枚一組にしている。オレやアンの視覚を通じて建物のレイアウト情報を更新し続けているαによると、窓の外は中庭の池らしい。盗み聞きされる心配を小さくしていると言うことか。ここも天井はなく梁がむき出し。誰かが屋根裏に隠れて閣議の内容を盗み聞きすることはできないが、「虫」は配置できる。今はここに「虫」を置いても、ネゲイからの距離がありすぎて中継できないが。


 室内中央は曲線で作られた三本の長机が馬蹄形に配置されていて、入口から見て正面奥にはヨール王。左右に、多分二位王族だろう王妃と、娘か?。年齢的にはそんな感じに見える女二人が並んでいる。オレから見て左列奥には昨日も会っている三位宰相のテルプ・モル。それ以外の顔ぶれは知らない。左右のテーブルは四人ずつの合計十一人が座れるようになっているが、どちらも末席は空いていて座っているのは九人。この九人がいつものメンバーで、話の内容に応じて追加で呼ばれた誰かが今空いている席に座るものと思われる。各員の前には木簡や筆記具。王を始めとした数人の前には蠟板も置かれていた。


 姿勢を正し、ノールが言う。


「四位領主、バース・ネゲイ様と、ネゲイの知恵者、マコト・ナガキ・ヤムーグ様を紹介いたします。」


 宰相テルプ・モルが付け加えた。


「最近のネゲイでは面白いものを作り始めていると聞いている。今日はそういうものを考えた知恵者を招いた。最近私が使い始めた蠟板も、ネゲイで作られ始めたものの一つだ。」


 テルプは自分の蠟板を手に持って一同に示した。


「なかなか気に入っている。まずは、今日来てくれた者達の挨拶からだ。」


 テルプの言葉に続いてバースが言う。


「ネゲイを預かる四位領主のバース・ネゲイです。今日は先ほど宰相閣下が持っていらした蠟板などを考え出したネゲイの知恵者、マコト・ナガキ・ヤムーグ殿をお連れしております。」


 顔をオレに向けて小声で「マコト殿」と囁く。促されたオレの番だ。


「ネゲイのバース様に認められて最近ネゲイで色々なものを作り始めたマコト・ナガキ・ヤムーグという者です。長ければ『マコト』で結構。今日はご挨拶ということで、お土産の品も用意しております。」


 このあたりの流れは控え室での「練習」のとおり。アンが持っていたトレイを小姓が受け取り、テーブルの各員に紙と万年筆を配り始める。テルプが言う。


「マコト殿、これはどういう品物か、説明をしてもらえるかな?。」


 請われたオレも答える。


「まず白い方は『紙』。同じ重さの羊皮紙や木簡よりも薄く、何倍も字を書くことができます。それから、小箱の中身はインク壺を中に入れてあるので『紙』にして何枚分もペン先にインクをつけ直さずに書き続けられるペンです。使い方は、箱の中にも説明を入れてあります。」


 何人かは箱をの中の説明書を取り出して読み始めた。その中の一人、蠟板も使っていた閣僚の一人がオレに聞く。


「マコト・ナガキ・ヤムーグ殿。ここでの職人頭をやっているジリオ・スタンだ。工務省を預かっている。今は、カースンの国全体で職人が困らないように仕事を配分するのが仕事だ。ネゲイの噂は聞いている。職人が足りてないとかな。このペンも、説明書きを見る限り作るのは結構な手間になりそうだが需要がありそうなのもわかる。値段次第だが、字を書ける者達の全員が欲しがるだろう。何しろ職人の配分だよ。職人が足りないならネゲイに職人を送るか、作り方を広めてカースンの中の別の所でも作れるようにしないと、変な偏りができたら商務卿のワークに苦情を言われる。状況が悪くなったらワークだけでなくこの部屋にいる他の方々からもな。そのあたり、何か考えていることがあれば教えて欲しい。」

「そのあたりは、バース様とも話をしながら進めています。」


 想定問答の中の一つでもある。バースが付け加える。


「それはネゲイでも気にしておりまして、何をどの順で進めるか、様子を見ながら、新しいことの影響が落ち着くまでは新しいもにのは手を出しにくいと考えているところではあります。それに新しいものを始めるにはそれなりに資金も必要ですので、次から次へとは進められません。」

「困ったことになるような気配は、早めに知らせて欲しい。職人を送り込むにしても他の場所で作り始めるにしても、いきなり今日から始められるものではないからな。」

「心得ております。」

「蠟板を見た時は、これを自分で思いつかなかったことが悔しかったぞ。それに『紙』か。実は少し前にノール殿の報告で現物も見ている。これは、どうやって作っているのかな?。」


 これはオレが答えるべきものだ。


「草木や古布などを使います。ボロボロに砕いて、溶かしてから形を整える、言葉で説明すればそんな感じになります。」

「材料はそのあたりにあるものだな。布を作る話と似てる。カースンの中の他の場所でも作れるものかな?。」

「同じものにはならないかもしれませんが、作れると思います。今お届けしているものはネゲイで集めた草木が主な材料です。ネゲイ以外の場所では手に入る草木も種類が違ってくるかと思いますので、配合も工夫しないといけないでしょう。今まで試した中では、背が高く成長するもの、枯れる前の色が薄いものが適しているようですが、『これを少し混ぜたら』とか、例外もあるでしょう。」

「これ、『紙』は、値段次第でもっと欲しい。職人が足りなくなるのは困ると言ったばかりだが、『紙』は優先できないかな?。カースンの中の他の場所でもいい。どんな草木があるところがいいとか、条件を教えてもらえばその場所で『紙』を作れるような工房を作ることも考えたい。」

「ネゲイで使っている草木は見本をお渡しすることはできます。一旦ネゲイに帰ってからになりますが。他の場所で使える草木は、そこに行ってみるか、その場所で採れるものを見せていただかないとわかりません。あと、『紙』を作るには水も必要です。できるだけ濁りの少ない水の方が、仕上がりがきれいになります。」


 ネゲイでは井戸水を使っていた。ジリオも水質の話はすぐに理解する。


「川よりは井戸の方がよさそうだな。使っている草木の名前はわかるかな?。」

「存じません。ネゲイで誰も世話をしていない場所で勝手に生えているものを順に試していましたから。」


 このあたりは一度ベンジーで尋ねたことがある。グレン師も「名前があるのは人の役に立つものと避けるべき毒があるものだけ」という旨の答えを返した。博物学はまだまだ発展途上なのだ。ジリオの質問先はバースに変わった


「バース殿。『紙』はネゲイでは使われ始めているのかな?。」

「少しだけです。職人が足りていないので、今はマコト殿が試作したものが少量出回っているだけで、専従の職人を付けているわけではありません。」

「では、マコト殿、『紙』はマコト殿にしか作れないのか?。」

「いえ、工房の何人かには作り方は教えてあります。まだ試作用の道具が一組しかありませんので、大勢が入っても私一人で作る時より少し量を増やせるだけでしょうけど。」

「バース殿。マコト殿。『紙』の増産に力を貸していただくことはできないかな?。職人でも権利料でも、工房の資金でも、やりかたは出資でも貸し付けでもいい。これについては、実はここの閣僚方全員が気に入っているんだ。」


 色々あってよく忘れそうになるが、オレの現在の目的は人の役に立つものを作ることで有力者と近づくこと。それを第一歩として地球文化圏からの移民を入植させること。「指針」に従えばそうなる。「紙」が受け入れられるのは、その目的にはいいことだ。昨日の「ヨール殿」達との会合でもそういう感触は掴んでいる。一方でバースの第一目標はネゲイを栄えさせることなので、ネゲイの利益を最大化するためにオレという協力者を如何に使いこなせるかを考えている。


「『紙』は、マコト殿から初めて見せられた時からそうなることは予想していました。便利すぎますから。ただ、資金計画は今月末の四半期決算を見てから考えるつもりでおりました。増産を求められていることは承知しました。ただネゲイで増産に踏み切れていないのは職人のこともあります。そのあたり、四半期決算を見て、ネゲイの職人事情も改めて確認して、また来月にでもカースンでお話しさせてはいただけないかと思います。陛下の御前である必要もないでしょう。工務卿のジリオ殿とお話しさせていただければ。」


 ジリオは王に向き直った。


「陛下、今のように進めてよろしいか。私としては、ここから始めて何年かかけて徐々に『紙』を増やしてゆけばと思っておりますが。」


 話を振られた王も答える。昨日話した内容と大して変わらない話なので了解は得られた。ある程度は、「仕込み」も入っているのだと思う。


「ジリオ、『紙』はその線で進めてくれ。進捗があったら適宜報告を頼むよ。あー、マコト殿、『紙』の材料について、カースンにいる間にできる範囲でもいいから、ジリオか、ジリオの部下の誰かと話しておいてくれ。で、ネゲイの新しいものについては、まだ聞きたいこともあるが、一度に幾つも進めたらまた職人不足になりそうだから、今日はこのあたりにしよう。バース殿、マコト殿、ご苦労だった。今日の閣議はここまでする。あと、バース殿達四人は、昼のお茶に招待しよう。控え室で待っていてくれ。昼のお茶は、ジリオ、お前も来てくれよ。」


 ヨールの宣言で閣議は終わる。一〇二五M。少し休んだら、お茶会という名の休めない時間が始まるらしい。



 一一〇〇M頃、呼び出しの小姓の案内で別の部屋に移る。豪奢な応接室だ。庭に面した壁は全て観音開きの扉になっていて、明るい今の時間は全て開放されている。少し離れて、昨日の会合で使っていた四阿が見えた。今、そちらには誰もいない。壁には幾枚もの絵が飾られていた。そのうちの1枚はカースン全域の地図だった。縮尺が狂っていても問題ない。街道筋に並んでいる町の順序は合っているだろう。アンも地図の方向を見ている。αの声が聞こえた。


『いいものがあったわね。どこかのタイミングで不自然にならない程度に近づいてよく調べておくわ。』


 テーブルには王と宰相、先ほどの閣議で紙の材料などについて尋ねてきたジリオ。職人不足という議題に対して妥当な人選なのだろうと思う。ここに呼び出される前の休憩中に聞いたが、閣議室にいたテルプ以外の五人の閣僚は治安防衛、食料、工業、流通、外交をそれぞれ束ねているという。全員が王城内に執務室を与えられてはいるが、外交以外の四人は王城外の官庁街にあるそれぞれの役所を本拠地としている。ジリオは工業だ。


 オレとバースが着席するとそれぞれの前に飲み物が置かれた。王が言う。


「最初にこれだ。昨日話してたマコト殿用の木札だ。これがあれば私に優先して面会できる。なくさないように。」


 王がテーブルに置いた木札をオレはありがたく受け取る。紐通しの穴が開けてあるから、後で適当な紐を付けておこう。オレが入門証の木札を物入れに仕舞うのを見届けて、すぐにジリオが話し始める。


「『紙』がどのくらい長保ちするのか、価格はどのくらいになりそうか、そんな話を陛下からも聞かせていただいた。役所も商人も職人も、ほとんどの木簡は長くて五~六年も経てば竈や暖炉だ。それ以上も経ったら安物のインクだと読めなくなるし、期間の長いものだけ長保ちするインクで書くというのも間違いが起きやすい。『紙』が安く手に入るなら、長期保存がいらないものは、『紙』に置き換えていきたい。そうすれば、インクも『紙用』『木簡用』で分けられて、間違いも少なくなる。それから、保管場所が今の十二分の一以下になりそうなのもいい話だ。バース殿には資金の話、マコト殿には材料と作り方の話、それぞれ、そういうことの話が得意な者と会ってもらいたいと考えている。この後か、明日のどこかで。この後なら、四の鐘以降ならどちらの担当も時間を空けておくように言ってある。お二方の時間の都合はどうだろう?。」


 バースが答える。


「明日の夕方までならカースンにおりますが、やるべき用事は早く済ませる方が気が楽になりますから、マコト殿、今日の夕方でいいと思うんだけどね。どうだろう?。」

「四の鐘過ぎですね。場所はどこですか?。」

「王城の中にある工務省の執務室か、外の工務省本館で。工務省の方が、ネゲイ館に帰るには近くなる。」

「バース様、お任せします。四の鐘なら少し時間もありますから、一度ネゲイ館に戻ってもいいし、私は材料の見本になりそうな何かを探して歩き回ってもいい。」


 ここで王が口を挟んだ。


「マコト殿、ジリオとの話が終わったら、こっちでも話があるからそのつもりでいてくれ。四の鐘までには余裕を持って終わるだろうけどね。」

「陛下、わかりました。バース様、どうします?。私は町中ももう少しみてみたいので、工務省の本館でも構いませんよ。」

「じゃあ、工務省に行ってみようかね。ジリオ殿、四の鐘で工務省。伺いますよ。儂の方は、決算を見てからでないと決めにくい話もあるから、どんな方法があるか聞くだけになってしまいそうだけど、マコト殿はそれなりに話もできると思う。」

「まあ、私の方も、お話しをするのに、いくらか現物見本があった方がやりやすいと思ってますから、適当なものを見つけられなかったら話をするだけになってしまうかもしれませんが。」



 ジリオが退席し、侍女が残された茶器を片付け、テーブルを拭いて去る。空いた席に新しいお茶が置かれ、そのお茶を運んできた本人がそのままその席に座った。閣議室で王の隣に座っていた女のうち若い方だ。王が言った。


「マコト殿はネゲイで結婚相手がほぼ決まっていると聞いているが、マコト殿ほどの知恵者なら、商売のためにもネゲイ以外の地縁があるコビンを持つべきだよ。」


 そういう話か。初対面であるとか、当事者双方の感情とかは重要視されないんだろうな。


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