5-13 手段と目的
ヨール王二三年五月二五日(火)。
鏡に戻ろうか。火力の問題はあるが。一番身近な職人であるノルンに聞いてみよう。
「ノルン、この前石鹸を試したときに鏡の話題が出て、『これはもっと先だ』とかいう話をしたけど、あんな鏡を作ろうと思ったら、鍛冶仕事みたいに炉がいるんだ。ある程度の大きさがあって、多分、このあたりで私が見たことのある炉よりも熱くできるようなヤツ。ネゲイで一番いい炉は、どこにあるか知ってる?。」
「鍛冶師じゃないですけど、熱くできる炉ならハイカク師匠のところにもあります。でも多分、もっと大きなものを考えてるんでしょう?。」
ハイカクの炉は見たことがある。細工師サイズのものだ。容積は小さい。どうせ鏡や鏡に必要なガラスを作るなら、窓枠サイズに手を出したいと考えているオレの目的には足りない。
「ハイカク殿のところの炉か。見たことはあるし、私やノルンなら頼みやすいとは思うけど、ちょっと小さいかな。『お試し』だけならそれでもいいけど、もっと大きなものを、作らないとダメかなあ。」
「炉と、ほかに必要なものはありますか?。」
「材料を掘れそうな場所は、一応見つけた。銀もある。あと、銀を貼り付ける方法だな。銀でなくても、『スズ』でもいいんだが。」
「『スズ』?、マコト殿のところの言葉ですか?。」
翻訳に失敗したようだ。
「色は銀に似てる。ネゲイでも食器とかに使われてるのを見たことがある。」
「ああ、多分錫のことですね。確かに、色を見たら使えそうです。」
「それと、ガラスに銀箔なり錫箔を貼り付ける方法だな。私が知ってる方法はが使えそうな炉を、ここでは見たことがない。何かそういう方法を知ってるかい?。」
「銀とかをきれいに貼る方法ですか。『ディオス』って、水みたいに流れる銀があるんです。きれいに仕上げるには時間がかかりますけど。」
水銀アマルガムはここでも知られていたか。精錬された金や銀があるのだから、水銀が使われていてもおかしくはないな。
「ああ、それは知ってるけど、使いたくないんだ。」
「仕上がりはきれいですよ?。」
「知らないかな?。それをやってる職人は早死にする。体に悪いんだ。」
「そういうものですか。私も時々使ってましたけど。」
「あれはできるだけ使わない方がいいと思ってる。この工房で使ったら、使った本人だけでなくて、下流にある新池やヤダ川全域に毒が回りかねない。『少しだけ』ならいいかもしれないけど、どこまでが『少し』なのかわからないからね。」
「金が掘れる山の下流の村は、とか聞いたことがあります。思い出しました。ヨーロイのどこかで、川筋に沿って全部流刑人ばかりの場所があるそうです。そこに送られると入れ墨で印を入れられて、外に出てもどこから来たかすぐにわかるから連れ戻されるんです。上流は金が掘れます。」
ここでは鉱毒汚染地域を丸ごと刑務所にしているということか。
「興味はあるけど銀を貼る方法に戻ろう。膠でも小麦粉の糊でも虫が出した汁でも、何か使えそうな物に心当たりはないかな?。」
「難しいですね。ディオス以外ですか。順番に試してみるとしか、今はそれしか言えないかもしれません。マコト殿が知ってる方法はどうやるんです?。」
「鍋に氷を入れて火に掛けると水になってお湯になって、だんだん量が減っていくだろ?。金や銀でも、同じことが起きる。この減った分は、水なら、湯気として目に見える。鍋の中の銀で作った湯気にガラス板を当てると、銀がガラスに貼り付くんだ。」
「ああ、なるほど。銀で試したことはないですけど、水や蠟でそんなことになってるのは見たことがあります。仕組みはわかりましたけど、それだと多分今使ってる炉じゃあ難しそうですね。ディオスじゃあダメですか?。」
「ディオスを使うなら、さっき話に出たヨーロイのどこかでやるよ。もうディオスで汚れまくってるだろうから。あと、ヨーロイの沖で獲れた魚は食べたくないね。」
少なくとも、ネゲイ近辺で採集した小エビから水銀は検出されていない。ヨーロイの海産物全てが汚染されているわけではないだろうが、刑務所流域の河口近くで採れたものは要注意だ。
「マコト殿がディオスを嫌ってるのはわかりました。でも、どうしましょうか。炉の改造か、鏡は一旦諦めて、その前段階のガラスで手を打つとか?」
ここでのガラスの作り方はわからない。多分、珪砂とかを炉に入れて型に流し込んでいるのだろうと思ってる。鏡に使えるような精度は、金型の精度にもよる。多分、研磨も必要だろう。そうなると、金属鏡を磨くのと手間は変わらない。単純に銀の薄板を作って磨けばいい。それに、銀は曇るし、材料費としては砂の方が安い。ガラスを研磨する技術があればレンズにも手を出せる?。考え込んでいるオレにノルンが言った。
「どこまで進むかは、ドーラ様達次第かもしれませんよ。」
「そうだな。もう少し考えてみよう。放置してあるインク壺のいらないペンのこともあるし。ああ、順番をどうしようかなあ。」
「そろそろ紙にも手を出すんでしょう?。人手が足りないですねえ。作業場も、そうなりそうです。」
「期待されてしまうから答えたいとは思うんだよ。加工を全部自分でやれば話は簡単なんだ。でも、ネゲイで手に入る材料で、ネゲイの職人が今ある道具か、それを改造したものでって考えると、難しくなる。なかなか、うまくいかないな。」
「一度ハイカク師匠のところで試してみたらどうです?。どこまでできるか。試さないと何をどう変えればいいかもわからないでしょう?。」
「そうしようか。今日行って、会えるかな。」
ハイカクは暇そうに店番をしていた。
「やあ、マコト殿。と、エリス殿だったかな?。最近ちょっと仕事の中身が変わってきてる感じでね。マコト殿と池の関係なんだろうね。」
「どんな風に?。」
「今の季節はどこかに弟子入りとかする若いのが多いから、指輪の注文が増えたね。これは一時的なもんだとは思ってるけど。あと、蠟板関係で下請けをやってる。直請けは避けたんだ。マコト殿宛の権利料を計算するのが面倒そうだから。今は、指輪の仕事に戻って炉が暖まるのを待ってるんだ。」
「丁度いい。ハイカク殿が使ってる炉を見せてもらいたいと思って来たんだ。」
「炉で何か作りたいのかい?。」
「ガラスはどうかなと思って。」
「うちの炉で試したことはあるよ。でも形を作るのがむつかしいし、量もこなせない。冷やし方を間違えたら冷める頃にはヒビが入ってる。掌に乗るほどの材料を扱うための大きさの炉だしね。」
「見せてもらうことはできるかな?。」
「構わないよ。そろそろアタシも炉を見に行こうかと思っていたんだ。」
オレ達は店の奥の工房に移動した。
「メレン、炉はどうだ?。」
「まだだと思いますよ?。あ、マコト様、お久しぶりです。」
鞴を踏んで炉に空気を送り込みながらメレンが答えた。
「メレン、久しぶり。今日は炉を見学させてもらえないかと思って来てみたんだ。」
「まだ温まってないから、もうちょっと待っていただかないと。」
主燃料は木炭。エリスが赤外線量で計測した炉の温度の数字は、オレにも伝わってきた。摂氏で七〇〇度ほど。金銀銅や鉄のような金属はまだ融けないが、ガラスは柔らかくなる温度か。炉の横の棚に幾つか置かれた坩堝の容積は、小さいな。一番大きなものでも五〇〇CCほどか。厚さ五ミリの板ガラスとして……。
『三一センチの正方形ね。』
当たり前だが、αの方が計算が早い。
「ハイカク殿はこの炉でガラスを試してみたのかい?。」
「そうですよ。割れたガラス屑で何かできないか、そこの坩堝で融かしてみたんだが、まあ、一塊にまとめるぐらいしかできなかったよ。形の悪い置物にしかならなかった。飾りにもならん。」
「その時のガラス屑はどこから?。」
「二~三年前だったかな。モルまで巡礼をしたんだ。その時にモルの蚤の市で見つけた。黒っぽい色で、形はバラバラだったけど、ナイフとして、売ってたんだ。握りやすいように、革が巻いてあった。割れる前に何に使っていたかは、知らない。」
モルではガラスが使われているということか?。
「モルじゃあ、モルで蚤の市以外でもガラスは見たのかい?。」
「多分デージョー神殿だな。小さい窓、そうだな、掌くらいからもう少し大きいのまで、ガラスを枠にはめて並べて、明かり取りになってるところがあったよ。窓になってたのは色の薄いガラスだった。細工物では、見てない。もしかすると何か作ってるのかもしれんが。」
「親方、そろそろ。」
鞴を踏み続けていたメレンがハイカクに声をかけた。炉に載せられた坩堝の中で何かの金属が形を失いつつある。ハイカクはその様子を見て、オレに言う。
「マコト殿、悪いが今からちょっと集中して短い時間の間に細かい仕事をするから、見ててもらってもいいけど、話はナシで。」
「ああ。邪魔にならない場所から見学だけさせてもらうよ。」
ハイカクは脇の作業台に準備されていた鋳型を手に取った。
ハイカクの店にあった炉はやはり小さくて、ハイカクの仕事用ならともかく、オレが考えている仕事用には容量が足りない。三一センチ四方の正方形板ガラスでは家一軒分の窓でも一日仕事になってしまう。本当にちょっとした小物を頼むぐらいのことしかできなさそうに見える。ガラスを含む窯業に手を出すなら、新しい炉という設備投資が必要だ。
しかし工房で新しい設備投資をするなら、ある程度資金を回収してからにすべきだ。まだ五月の下旬だ。工房資金として、石鹸を試作するための材料を買ったときなどの細かい決済は取引のたびに済ませている。だが既に生産に入っている蠟板関連の収支など、大口の決済は四半期毎に行われる。状況はニムエも集計していて、少なくとも六月末決算は無事に通過できる見込みだが、思わぬところで未収金が発生したりすれば話は変わってくる。
ガラスや鏡は、材料はあるが加工ができない、と、収支への不安も含めて中間報告をしておこう。そこまでやっておけば、六月末の収支報告が届くまでは方針決定も保留されるだろう。ネゲイの職人を使わずに、純粋にオレ達だけなら、ここで手に入る材料だけで一応のものは作れそうなのだが。
何度か話は出てきているが、職人が足りていない。自分達だけで作る、という選択肢も考えておくべきである気がする。その夜、「オレ達だけ」案を、一応、αと検討してみた。一度言葉に出して整理すれば状況確認になるし、今後何をどうすべきか、判断に迷う状況が生じたときにはαが思い出させてくれるだろう。
「化学的な処理なら、材料さえあればマーリン7の設備でもできるし、マコトの『ウーダベー』でもできるわね。その方面では今だと多分、マコトにやってもらうのが一番早いと思うわ。ライブラリから分子構造の情報をマコトのインプラントに転写するだけだから、正味で必要なのは、できあがったものを入れておく容器を準備する時間だけね。」
マーリン7の設備を使う場合は格納容器以外に材料の調達、事前加工、触媒の準備と機器の余熱その他、準備が秒単位で終わることはあり得ない。品質はともかく、量の限界もある。搬出入はオレか小ニムエの人海戦術しかない。
「蠟板やコンテナはアイデアだけを売ってるから、オレ達がいなくなっても生産は続けられる。石鹸もそうするつもり。今動いてるのは、そんな方向だよな?。」
αは意外な答えを返した。
「一つ問題があって、品質管理よ。」
「材料の話かな?。」
「ええ。この前マリスの店で仕入れた油は、同じ種類の一番油でも成分に違いがあったの。見分けの付きにくい近傍種の種子とか、不純物の理由は、可能性が多すぎて今は特定できないわ。」
「そのあたりも含めてカバーできる作り方を目指してるんだろ?。」
「でも私達が関わった、いわば『マコトブランド』になってくると一定の品質保持ができないと信用に関わってくる。季節による変動も含めて、今後ずっと入ってくる油の品質ばかり気にしてるわけにも行かないでしょ。灰も、同じように材料の違いでpHが変わってくるわ。ここでは材料の比率の指定はともかく、あまり細かく『摂氏何度で何分間』みたいな書き方もできないし。」
「対策は?。」
「『火に掛けた鍋』だけで作れるようにしようと思ったら、お勧めは触媒ね。塩水から塩素を抜いて水酸化ナトリウムを残すの。これが一定量あれば性能は確保できるわ。」
「その方法だと、オレ達は油の品質を気にし続ける必要はないけど、触媒は需要に合わせて作り続けることになるのかな?。どこまで製造工程に関わるかは悩ましいけど、属人性が高まるのは、前は避けたかったけど、最近、ある程度は容認する気分になってるけどね。」
「どこまで関わるか、は、まだ最適値がわからないことの一つね。過去何十年かの石鹸の需給分析でもあるならもかく、そんなものはないから走りながら需給の均衡点を探すしかないわ。」
「触媒なら小石ほどの大きさでも鍋一杯分ぐらいは簡単に処理できるか。」
「こっちで現物を製造することに比べたら、触媒だけを作る方が手間はかからないわ。小石ほどの大きさで、鍋何十回かは使えるでしょうね。表面積を稼ぎたいから、水に浮く程度の比重で不規則に整形するつもりよ。」
「水に浮く?。比重はどうして?。」
「鍋の底で反応させて塩素の泡が出てくるとして、水酸化ナトリウムの量が増えてきたら泡が水面に届く前にまた塩水に戻ってしまうわ。だから水面近くで反応させたいのよ。」
「なるほどね。『何十回かは』って回数制限は、不純物で触媒の表面が汚れる話?。」
「そうよ。その不純物の量や成分がわからないから触媒の寿命もわからないけど。」
「『塩水から塩素を抜いて水酸化ナトリウムを残す』って、それは例えば触媒を汗ばんだ手で握ったら、掌を火傷したりしないか?。」
「塩化ナトリウムが塩素とナトリウムに分離する反応は回りの不純物や温度にもよるけど、間違えて体内に取り込んでしまっても問題が起きない、このあたりでの水の沸点の範囲内で処理できる、そんな条件で考えて、摂氏なら五十~九十度ぐらいの範囲のエネルギー量でで反応が発生するするようにするつもりよ。」
「安全性は考慮済み、と。ライセンスのことを考えたらその方が管理しやすいか。」
「触媒の販売か貸し出して製造権を得る、ということで、難易度は単価設定は蠟板の時と同じくらい。製造権利者が誤魔化しをやってないかのチェックは、ほぼゼロ。この点は蠟板の手間の一四四分の一以下よ。」
αはネゲイ風の言い回しで手間が少なくなることを表した。
「触媒の再賦活化対策は?。」
「水溶性分ならともかく、固体成分が付着し始めたら、割って汚れのない内面を露出させるしかないでしょうね。或いは、『ウーダベー』で汚れを取り除ける人がどのくらいいるのか、『ウーダベー』で汚れを除去するときに触媒の一部も一緒に剥がれたりしないか、考えることは沢山あるけどそれは問題が起きてからでもいいと思うの。」
「了解。なにしろ一度は試しで、触媒でやってみるか。ダメなら、この方法は封印すればいい。」
「オレ達だけ」案はαも一部容認か。オレ達由来の技術の属人性。αも「指針」からそれほど外れた内容は考えていないはずだが。
「石鹸はまだ使ってみた感じがどうなるかを領主館で試してる段階だけど、触媒を使ったレシピとか、ミラにも扱えるレベルでまとめられるんだろ?。」
「私達が作ったものと同一にはならないでしょうけど、前に聞かせてもらってる石鹸の製造方法の説明をしてくれた人だから、それなりのものは作れるでしょうね。」
「それなり、か。失敗したかな。領主館に置いてきてる試作品との違いが大きすぎたらミラに苦情が行きそうな気がする。」
「大丈夫よ。試作品はここの材料で作れるレシピをベースにしてるけど、ミラが作ることを前提に少し品質を落としてあるの。だからミラが作ったものが完璧にレシピのとおりでなくても、性能で見れば領主館に置いてきているものと遜色ないものになるわ。」
「ならいい。多分、レシピと完全に同じにできていないことはミラも気付くだろうし、そうすればレシピに近づけるよう工夫することもできるだろうな。」
「またはレシピの改良も含めてね。そんな話を、ちょっと前にしたばかりじゃなかったかしら?。」
αは付け加える。
「マコト。目的と手段が逆転しかけてるから気を付けてね。技術や製品を提供するのは私達の有用性を示すための手段で、有用性を示すのは政治的に上位の人間と接触するための手段で、政治的に上位の人間と接触するのは地球文明圏からの移住者を受け入れることを認めてもらうための手段よ。ある程度の属人性は認めないと進めないところはあるし、まだ『ステップその一』が動き始めたばかりだけど、『その一』が目的化しかけてるわ。場合によっては、捨ててもいいのよ。」
それは確かに。短期目標がいつの間にか長期目標にすり替わってしまうのは、人間がやりやすい失敗の一つだ。寄り道や脇道に入って、元の道筋から逸れたまま帰らなくなる。
「指摘をありがとう。忘れやすいことだけど、総合的に考えるようにするよ。」
「手段の一つとしては有用なのよ。でも上位者に接触するには一歩だけ前に出ていればよくて、私達だけで技術力を発揮すると一歩だけじゃなくて三歩も四歩も前に出すぎてしまう。ネゲイじゃなくてカースンの上位者と接触できる時期は早くなるかもしれないけど、ネゲイの中での商工業のバランスも崩れるし、今そうなりかけてる兆候もあるわ。やり過ぎると敵を作るわよ。今は、最適解がわかってないから色々な方向に手を伸ばすしかないけど。状況が整理できたら幾つかの方向は切り捨てることになるから、そのつもりでいてね。」
ネゲイの中のバランスを崩さないように物事を進めることができたとしたら、ネゲイは強くなる。少しぐらいならネゲイが前に出てもいいだろうが、やり過ぎるとカースンの中の政治的なバランスにも影響するだろう。ネゲイの中ならともかく、カースン全体での状況となると、まだ情報を効率的に集めることができない。情報が不足しているうからαも進むべき方向を明示できていない。属人性の評価も含めてだ。どこまで、属人性に依存させるか。依存を容認するか、容認したとして、継続性はどうなるか。AI達も答えを出せていない。
「もうすぐカースンから定例で巡察が来るんだよな。」
「ええ。ちょっと前に来ていたタラン・モルが報告した内容を元にして、カースンが私達をどう考えてるかを聞くチャンスでもあるわ。」
ネゲイはオレがここに留まり続けることを望んでいる。エンリ、ネリ、工房はそのための手段だ。カースンはどう出るだろう?。ネゲイにはできないがカースンが提供できるもの、というと、海か。交易に便利という利点もあるし、オレの「ウーダベー」なら海から抽出できそうなものは幾らでも思いつく。濃度はともかく、ネゲイでは採取できないあらゆるものが、海からは採れるだろう。今のオレの興味はその方面に向きがちだが、ネゲイもカースンもそのことは知らないし、知らせるかどうかはまだ検討中だ。
「カースンには少なくとも一度は行っておきたいけど、ネゲイがそれを了承する理由が、今はないな。」
「マコトがカースンに行ってみたいというのは、政治の話と海があることね。」
海のことはニムエも推察していたようだ。
「ああ。政治の話は当初からの計画の一部で、海は、ウーダベーの使い方の実験、というか、うん、何だろう?、何しろウーダベーと海があれば原料調達に困らないという気はしている。」
「もしカースンの誰かがマコトと同じように海から何かを取り出すような『ウーダベー』の使い方をしてたら、知りたいとは思うわ。情報源として色々聞きたいもの。」
「海岸線をずっと監視してるわけにもいかないだろう?。何か方法は考えてる?。」
「噂話を集めるところから始めるしかないわね。」
AIにしては原始的な意見だ。
「えーと、例えば鉄を集めるとして、『虫』を改造して鉄成分が抜き出されたら信号を出すとか?。」
「考えたわ。でもそれを検知した時にその近くにいないと、それをやったのが誰なのか特定できない。」
「なるほどね。なかなか、思うようには行かないもんだな。」
「オレ達だけ」案の度合い、配分はむつかしい。これからも、これに関する方針は色々変わりそうな気がする。最初の目的は、忘れないようにしなければ。




