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5-12 正十二面体

 一三二〇M。まだ時間はあるのでセカンド・クォータの説明に入ろうか。また隔壁エアロックを通ってセカンドにり、まずはエンリも知っている上級船員用の個室が並ぶ区画から。その中でもエンリに使わせることになるルームCから。


 ルームCのドアには「エンリ・ゴール」の名札が貼られていた。表記はネゲイの文字のみ。オレのインプラントにはアルファベットで字幕が重ねられる。隣のオレのルームAと、さらにその隣、今はネリが眠っているはずのルームBにも同じように「ネリ・ショー」の名札が貼られていた。オレ達がヘッド・クォータにいる間に用意されたものだろう。ルームAの名札はアルファベットだけで、ネゲイの文字での表記はない。


「このあたりは、この船の乗組員用の部屋が並んでる。エンリが船に来たときは、この部屋を使ってもらおうと思ってる。」

「同じような扉ばかりでわかりにくかったですけど、ここはこの前と、今日の午前中に使った部屋ですね。」

「そうだよ。名前も貼っておいたから、間違えにくくなっただろ?。」

「ありがとうございます。隣は、マコト様の部屋ですね。」

「ああ。見てみる?。エンリの部屋と、大きさ以外は変わらないけどね。」

「お願いします。」


 少しだけ、エンリの部屋、ルームCを覗いてからルームAに入った。


「やっぱりここは人が使ってる部屋ですね。ものが多いです。」

「エンリの部屋とは違うさ。」


 それなりに整頓はしているが、マーリン7の技術解説(紙の本は電源がなくても読める)や蠟板などが置かれた書類仕事用の机、椅子の背もたれには剣帯が掛けられている。その他の衣類はクロゼット。エンリの部屋にもあるタンク、浴室など。エンリは室内を見回した。


「見たことのないものも多いです。」

「エンリにも必要なものがあれば、用意するよ。船の中でしか使えない、外で使ってもらって構わない、そういうのは、その都度説明しよう。」

「ありがとうございます。でも、何が必要なのかもわかってませんから、今は何もいらないですよ。」


 エンリはあまり動き回らずに部屋の入り口あたりからあたりを見回していた。まだオレのインプラントはエンリと同じく「赤」を重ねたままなので、動き回ることに慎重になっているのはわかる。そしてエンリは、机に置かれた小物の一つに注目した。彼女の両手が合わされる。以前に作って、そのまま死蔵されていた正十二面体だ。小ニムエが抽出から出しておいたらしい。一応、神聖なるものへの敬意を示すが如く、きれいに折られた清潔な白布の上に載せられている。白布は、糊も効いていて固そうに輝いている。これは、オレの予定にはなかったぞ。


『完全に忘れてるみたいだったから、出しておいたわ。今ならエンリから、話を聞くのに都合いいでしょ?。マコトが聞き忘れてることがあれば補足するから。』


 まだネリが起きてくるまで一時間ほどはある。いつかは確認しておこうと考えていた項目の一つでもある。ここはαの企みに乗っておこうか。


「これが気になった?。」


 オレはエンリが注視していた正十二面体を示す。神聖なものだから、素手で触るのは避けよう。


「ええ。神様がそんなに……。」

「神様?。」

「神様の形です。ええと……。」

「神様の形?。」

「そうです。五つの点を五本の線で結んであって……。」


 エンリは自分の蠟板を取り出すと、五角形を描いた。


「神様の形です。」

「神様の形か。ええと、ここに来て、あちこちでこの形を見て、多分神様に関係ありそうな感じだったから作ってみたんだけど、外に出していいのかどうか、ちょっと心配になったから出してなかったんだ。エンリは、これを前にも見たことはある?。」


「いえ。ありません。でもモルにあるデージョー神殿には『神様の形をした石がある』って聞いたことがあります。特別な日に特別な人だけが見ることができるって。どんな形だろうって思ってましたけど、そういう形なんですね。」

「今まで聞いてなかったけど、まず神様のことから教えてもらわないといけないんだろうな。そのあたり、この辺じゃあ大人なら知っているはずのことを、私は知らなくて、大人なのに知らない、それを人に知られることでも問題が起きそうで、ああ、ややこしいな。言ってること、わかるかい?」

「私も神様に詳しいわけじゃあないですよ。でも、知ってる範囲だけ、お話しはできます。」

「うん。お願いするよ。例えば、神様というのは、いっぱい?。それとも一人?。」

「『天』『火』『動物』『水』『土』で、五柱ですね。神様の形は、それをつないだものだって教えてもらいました。」


 古代ギリシャ人と似た発想だが、数え方はちょっと違うようだ。補足の質問を何度か繰り返す。エンリに聞いたことをまとめると、天は上、人の手が届かないところ、水と土は下にあるもの。火と動物は、その間にあるもの。植物は土の一部と見做されている。人間はそれら五つの要素からは独立していて、世界は、人を住まわせるためにそれぞれの神が協力して創り上げたもの、という教義であるらしい。何のために人を住まわせるとか、多分何か理由付けはされているのだろうけれども、エンリは知らなかった。


 正十二面体に関していえば、エンリはそこまで強烈な宗教的シンボルを見たことがないらしく、「人に見せるのは避けるべきだと思います。」と言われてしまった。刺激が強すぎるだろう、と。エンリよりも基礎教育をきちんと受けているであろうネリの反応も見たいが、エンリがそう言うなら、やはりこれは封印だろう。ネリ=ネゲイ=町が可としても、エンリ=ヤダ=村の反発を受けてしまうのはよくない。折角作ったのに、と思わなくもないが、少しは宗教観の情報は得られた。今後この話題に関わる時の参考になる。


 ベティがオレ達を呼びに来た。間もなくネリ目覚めそうだと。αはそうなるように仕組んでいたのかもしれないが、オレとしては予定外の話題に踏み込んだおかげで、時間が進むのは早くなってしまった。セカンド・クォータのうちまだ案内していない範囲には映画上映もできる娯楽室兼会議室とか、見て興味を牽かれそうなものは他にもあったし、サードの倉庫区画にあるものに対してエンリがどんな反応を見せるかも気にはなっていたのだが、次の機会にしようか。



 オレとエンリはルームBに戻る。まだタンクのの蓋は開いていない。ダイアナが言った。


「エリス。私ですよ。の勝ちマコト達はショー殿が眼を醒ます前に帰って来たわ。」

「仕方ないわね。負けを認めましょう。マコト、もっとゆっくりここに戻ってもらってよかったのよ。」


 何の小芝居だろう。エンリに聞かせるのが目的だろうが、AIでも、来客に浮かれているのだろうか。


「何の勝負か知らないけど、文句は私とエンリを呼びに来たベティに言ってくれ。」

「ショー殿が目を覚ますまで、少し時間が余っちゃったのよ。準備の早い優秀な私達ならではの、ジョークよ。マコト達も来たし、もう、起こしても大丈夫なくらいになってるから、起きてもらうわね。」


 室内で待っているのはにはオレ、エンリ、ダイアナとエリス。少し手狭かな?。前回のエンリの時は、確かアンとエリスとオレだけだった。一人増えているだけか。一人増えただけでも感じ方は変わるもんなんだな。


 エリスがタンク脇のパネルを操作してタンクの蓋が開き始めた。ダイアナがタンクを覗き込む。


「ショー殿?。」


 ダイアナが声をかけると返事があった。


「はい。ええと、聞こえてます。」

「体を起こすわね。目はまだ無理に開けなくていいわよ。楽な範囲でね。」


 タンクの中の背もたれが起き上がり始める。ネリの顔が見えた。薄目のまま、左右を見渡す。口をぱくぱくと……、乾いているな。ダイアナは飲料水チューブを引き出してネリに咥えさせる。


「水が出るから、少し吸って。飲んだら楽になるわ。」


 そのままネリは少し水を吸い、舌で唇をなめた。目はもういつもの開き方になっている。


「いまどんな感じ?。」

「普通に、朝起きたときと同じような感じです。痛いところとかは、ないです。少し、汗をかいたかも。」


 少し発熱もしていたはずだから、汗も出ているだろう。今日の主治医のダイアナが言う。


「汗は、あとでまた洗うから気にしないでいいわ。」

「はい。」


 エンリの時は服装が替わっていることに驚いていた。ネリは自分が着替えていることに気付いているはずだが何も言わない。この数日のどこかで、エンリが着ていた船内服を見ていたのかもしれない。


 以降は、エンリの時の手順が繰り返される。危険なものが「赤」で見えているか?。「赤」の見え方の調整。木簡を読み上げさせて強制停止。今の時点で期待していた範囲の基礎部分は問題なさそうだ。中継用の端末ペンダントや船内服の説明を終えたダイアナが言った。


「マコト。仕上げよ。殿方は、退室をお願いします。エンリ、何か気付いたことがあればショー殿にアドバイスを頼むわね。」


 「磨き上げ勝負」とか、言ってた気もするが、審判役を押しつけられても、曖昧にしようとは思ってる。それから、次は三十日の休みの日になるか。ネリの一週間の検診と、エンリの仕上げの検診についても日時を打ち合わせしておかなくては。


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