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4-36 CL(墜落暦)一三二日から:休日とその後数日

 CL(墜落暦)一三二日。ヨール王二三年四月三十日(日)。


 雨が降りそうだ。動くなら午前中に済ませたい。今日のテンギは来ないと聞いている。タランは、来るかもしれない。あるいはタランも、今日という休日を、報告をまとめる日に充てているかもしれない。見張小屋にはシークとヨーク。ヨーク曰く「休みの日に家にいると店の手伝いをさせられるから志願した」と。シークは網の使い方を先日のテンギから教えられていて、「当番」が暇なら二人でエビでも捕ってみようかとか話ながらここまで来たらしい。シークは網の練習のための志願だと言った。勤務中の役人がエビ捕りをしているのは、平和ではあるんだろうな。


 新池周辺を歩きながら考える。まだ〇七二五M。蚤の市あたりに用がなければ、ネゲイまで出るには早い。地図関連の作業は昨晩のうちに終わっていて、羊皮紙三枚にまとめられている。領主館で見た地図と同様に各区画の中に区画番号と面積を記入してあり、領主館の地図にはなかった境界各点の番号も記載。これは地図とは別に用意した面積計算に必要なものだ。面積計算ををどのような形で納品するか、確認していなかった。地図の裏側に座標計算と面積計算を入れようとしたのだが、文字数が多くて面積が足りなかったので、標準サイズの木簡一枚分だけサンプルとして用意してみた。これの納め方はまた聞こう。


 天候のことを考えたら午前中のネゲイに今から出るか?。出て、領主館の面々の休日は邪魔せずに、適当に買い物でもしてみるか?。買わねばならないもの、というのは今は思いつかない。何か見つけてしまったら、またそれが忙しい何かを呼んでしまうかもしれない。折り畳みコンテナの製造も放置されている。工房の建物が完成して必要な道具類を運び込んで、折り畳みコンテナだけでも動き出すにはまだ十日以上はかかるだろう。


 最近は毎晩やっている「実験」も、マーリン7のすぐ近くにはヨーク達がいる。天気のこともあるし最近は数も減ったらしいが休日だから見物人も来るかもしれない。日中はやりにくい。


「うわとっ!。」


 考えながら歩くのはよくなかった。一応は安定している小径を踏み外して、右足が泥の中だ。池で簡単に洗えるが。


「どうしました?。」


 オレの声に驚いたシークが駆け寄ってくる。


「イヤ、大丈夫だ。ちょっと歩くところを間違えて、足が汚れただけだよ。」

「変にひねったりしてなければいいですけど。歩けますか?。」


 オレは立ち上がって歩いてみる。大丈夫。変な痛みはない。


「大丈夫なようだよ。心配させたね。」

「足の泥汚れだけなら、小舟用に掘った『港』が洗うのに丁度いい深さだと思いますよ。」

「そうだな。ちょっと綺麗にしておくか。」


 泥濘の解消で思いつくのはセメント。池の周囲全部である必要はない。セメントを撒いて混ぜようか。少しは歩きやすくなるだろう。この前できたばかりの見張り小屋も、移動は簡単だから適当な時にセメントで強化した場所に移すよう提案できる。先日ネゲイ南原と名付けられたばかりの近辺をバギーで移動しながら、見物人の目がないところでセメントの粉を集めるというのは、ほぼ無人なので今からでも可能だ。


 「生物からは抽出しない」という条件も、あれから何日か試してみて、意識して制禦できる「感じ」にはなっている。いつかゴールが言っていた「ウーダベー」は、話したとおりのことを起こせる、か。「生物以外」ということも、生物の定義とかに踏み込んでいくと話は複雑だが、言葉にすることで実現するなら、多分「生物」への影響は最小限だろうと思う。怪我をした時の滅菌処理などもできるかもしれない。「目に見えない細菌が人体に対して……」というような知識があって、ウーダベーで細菌を殺すとか取り除くことができれば。有用性はとんでもないことになる。ネゲイでの怪我や病気の時の処置についてどういう方法が一般的なのか、機会があれば聞いてみよう。


 他に砂鉄やガラスなど、あった方がいいものは幾らでも思いつく。硫黄やマグネシウムなど、思いついた便利そうなもの、ついでに貯蔵しやすそうなものを、原子番号の若い順に試してみようか、イヤ、原子番号よりも分子量の小さい順の方がよさそうだな。セメント以外にも、例えば単純に、塩化ナトリウムは、ヤダの奥の洞窟でも採取はしていたようだが、海から離れた土地では重宝されるはず。今日は雨が降り始めるまで、バギーでこの南原中あちこち回ってみるか。衛星からの観測で資源分布地図も作っていたはず。現地調査を伴っていないから精度はキャリブレーションが必要だが、そういう機会が作れるよう、αとも話をしておこう。




 CL(墜落暦)一三三日。ヨール王二三年五月一日(火)。


 測量の成果を領主館に届けるつもりの日だったが、二の鐘の少し前からテンギが領主館の首脳陣を独占してしまっている。テンギの報告と提案が今日だとは聞いていたから予定のとおりではあるのだが、ヨーサ以外は漁業知識が全然ない首脳陣だから、説明にも時間がかかっている。「虫」ではテンギが作った絵図の詳細はわからないが、池で投網漁をやって、採れた小エビは池の上流、少し流速のあるところに作った生け簀に暫く置いて泥抜き。その後は干すとかそのまま売りに出すとかの提案をしている。今の見張り小屋と同じような作業小屋も、最低一つ、できれば二~三棟作りたいと。漁具は、当面はモルから買うことになる。バースは「ネゲイの職人で作れるようになるにはどのくらい時間がかかるかねえ」などと言っているが、ゴールは「マコト殿の知恵の分だけでも職人は足りていないんです」などなど。話の中心は内需から始めたいゴールVS最初から外需まで狙っているバース。議論は続いていて、先週のオレの仕事であるクボーの測量成果の話のために出発する時間が読めない。


 議論の場にはエンリとネリもいるが、タランは加わっていない。「虫」によると、ネゲイから新池に至る新池街道にもタランの姿はないようだ。領主館がこんな様子であることを知ってどこかで時間を潰しているか、あるいはもうカースンに帰ったか?。


 「虫」経由で領主館での話を聞き続けていたが、絵図の詳細が見えていないので全体がわからない。また、話がいつ終わるかもわからない。動かないのも退屈なので、領主館の状況確認はαに任せ、出ることにした。通り道だから工房の様子も見て、進捗を聞こう。今日のお伴は、ベティの日だったか。



 工房は仕上げ段階に近づいている。井戸も使えるようになっているし、排水溝も掘り上がっていた。排水溝。セメントがあるから、U字トラフを作ってみようか。芯材に、鉄とグラスウール、どちらがいいか実験してみよう。ハイカクの弟子で既に独立しているというノルンにも今日初めて紹介された。ハイカクの店よりは広いと聞いていたが、自分が今借りている建物が結婚するなら少々手狭だと感じていたところで領営とも呼べる工房の話が来て、それなりに乗り気になっていると。今日は建物の広さの確認に来たらしい。工房一棟だけで今のノルンの店にある道具類を全部運び込んめるだけの面積はあって、「今までにないものを作れると聞いて、楽しみにしてますよ。」と。


 今ノルンが使っている道具類は、新設される組合が一旦全部買い上げるとも聞いた。その資金を組合がどこから調達するかと聞いたら、組合に必要な資金は、当面は全て領主館から出る予定だという。領主が百パーセントを出資する公社のようなものだな。まだネゲイの商習慣に関する知識が少ないので判断しにくいが、オレが提案できるものを組合が生産し、その組合のトップに近い地位にノルンを充てるという初期構想は、実現に近づいているようだ。



 領主館での会合がもすぐ終わりそうだというαの報告を受けて動くことにした。テンギの提案は「池の上流に小屋一つ」をベースに漁網その他の必要資材などを調達する線でまとまりつつある、と。湿原地帯で小屋を作れるような場所がそれほどない、というのも理由の一つに挙げられている。やはりセメント粉による土壌強化も今後考えてゆくべきか。セメント粉の製造は現時点でオレにしかできない。属人性を薄めるには「火」を出せるエンリの訓練も必要なのだろうか。「ウーダベー」のタブーの度合いを確認する機会には中々出会えない。オレに「火」を見せてくれたエンリ、「ウーダベー」の語義を教えてくれたゴール、このどちらかと、二人だけで話す時間が欲しい。



 領主館に着いて「測量の件だ」と話してゴールとの面会を求める。ゴールの執務室へ通されると、疲れた顔のゴールが待っていた。


「みんな休みの日に何かやって、それを一斉に休み明けに話しに来るから疲れる。前はこんなことはなかったと思うんだが。多分、全部マコト殿が悪い。」

「自分ではそんな気はないよ。一応、ネゲイにとって悪いことにはなってないつもりだし。」

「ネゲイにとって悪い話でないのは多分そうだが、儂にとっては仕事が増えるばかりのような気がしててね。」

「ゴール殿だけ見れば、そうかもしれないな。今日は追加の測量分の報告と、仕上げの方法について確認したくて来たんだが。」

「聞こう。この件は任されている。儂一人でいい。」

「タラン殿は?。私のことをカースンに伝える仕事があるんだろう?。」

「タラン殿は今朝カースンへ帰った。昨晩挨拶に来てな。今頃は馬車の中で寝てるんじゃないか?。」

「まだ何日かはネゲイにいるんだろうと思ってたよ。早かったな。」

「マコト殿の全部を知らせようと思ったら何ヶ月もかかりそうだから最初の調べだけでも、とか言ってたぞ。」

「最初の報告としては、それもありだな。」

「ああ。儂もそう思う。で、測量の話を聞こうか。複雑な計算が入ってくるならエンリも呼ぶぞ。エンリも朝からテンギの話を聞き続けて疲れているだろうが。」

「計算の確認はあとでゆっくりやってもらていい。まずは概要から話を始めていいかな?。」

「わかった。計算が面倒ならエンリに声をかけるとして、概要から聞こう。」


 オレは羊皮紙三枚組に清書した地図を机の上に出して説明を始めた。気になっていた面積計算の納品方法は、羊皮紙に清書となった。このあとでハパーの店に行こう。マーリン7の設備で羊皮紙もインクも模造品は製造できるが、百年経っても大丈夫かどうかはわからないから実績のあるものを使おう。


 その日の公的な活動はハパーの店で羊皮紙の追加を購入するところまでで終わった。



 その夜の「実験」にて、ガラスではなく炭素繊維を作ってみた。


 αの提案だったが、上手くすればセメントで作るU字溝用の芯材にできるし、大気中の二酸化炭素を原料にできるので周辺の地質を気にする必要がない。最初の挑戦は失敗。束で作ることができればよかったのだが、単繊維で形成された炭素繊維は巻き取ることも難しかった。「一本だけ」はさすがに強度が足りない。インプラントへ送り込むイメージを工夫しなければならないだろう。紙と同じように、内部構造を持つものは難しいのかもしれない。紙と違って今のネゲイの技術力で作れるものとは思えないので、作ってもオレ専用だし、そこに至るまで、しばらくは試行錯誤が必要かと思う。また、これが実現できるなら紙も同じように作れるかもしれない。なにしろ実験だ。何を食べたかにもよるが、一晩に現象を起こせる回数は限られているので効率のいい計画を立てなければならない。こういう立案はニムエ達の得意分野であるはずなのだが、オレが「U字溝」などと思いついたりするので変更も多い。




 CL(墜落暦)一三四日。ヨール王二三年五月二日(水)。


 クララと共にネゲイへ行き、午前中に面積計算の羊皮紙を領主館のゴールに納めて測量関連の仕事は一旦終了となった。測量で使った計算手順はエンリが小ニムエ達から教わっている。昨日預けていたサンプルの木簡は、既にエンリによって検算されていた。若干の誤差はあったらしい。領主館の三角関数表と平方根表は、小数点以下の精度が四桁しかなかったからそうもなるだろう。多分、エンリはカースン国内でXY直交座標系における計算に最も経験豊富な計算者となったに違いない。


「私が使ってる計算盤ではギリギリでした。板の外まで算木を並べてましたから。」


 とはエンリの弁だ。今のオレの場合は数式を見ただけでαが即座に計算してくれるし、インプラントをあまり使っていなかった頃に愛用していた計算機もあるのだが、十進数のアラビア数字表記だからエンリがこれを使うのは難しい。


「エンリ、前にも言ったが、こんな桁数の計算を何ダースも間違いなくできるようになって欲しいとは思ってないよ。できないよりはできる方がいいとは思うけどね。計算やり方だけ憶えておけばいい。必要な時は、クララ達が手伝ってくれるはずだ。」

「エンリちゃん。私たちは計算なら得意ですから、頼っていただいて構いませんよ。」

「クララさん達は、この桁数の計算を見ただけで答えを出してますもんね。どうやってるんですか?。」

「計算盤を思い浮かべて算木の動かし方を考えてるだけですよ。」


 クララの回答は、まあ、AIの思考手順をネゲイで理解されるレベルに言語化すればそうなるだろうか。嘘ではない。真実からも遠いが。


 エンリやネリが使えるように、ネゲイでの数学表記に合わせた計算機を作るべきだろうか?。普及させるつもりはない。インプラントを彼女達に施し、数学的な問題はニムエ達に任せることができると理解させれば問題は解決する。今のところは彼女達に埋め込むインプラントに期待しているのは船内表記の理解とマーリン7の構造その他の機密事項に対する箝口だけで、その方向でこちらの準備もしている。計算やその他の分野まで機能開放するかは決めかねている。ここの人達が地球人類と同じ遺伝子構造を持っていることはわかっているから、インプラントも既存のもので適合する。理論上は。だが彼女達にインプラントを入れることに、オレとしては、まだ抵抗がある。


『そのあたりは結婚を決めた時に決心したと思ってたわ。』

『理屈はわかってるよ。気分とか感情とかの話さ。いつどうやってインプラントを入れるかも、まだ決めかねてるしね。』

『誠実であろうとするなら、ちゃんと話すべきでしょうし、規定にはないけど内緒で入れる方法もあるわ。何も知らずに何日か寝込むのと、何が起きてるかわかって一晩だけ不愉快な思いをするのと、どっちがいいか、明らかでしょ。規定以外の方法だと私の制禦も甘くなるから、変な事故が起きる可能性もあってお勧めしません。』

『そのあたりは考えたよ。結局、同意の上で、埋め込み措置をするしかないんだろうけど、外見もグロテスクだしね。』


 インプラントは脳に寄生する線虫を改良したものだ。初期の開拓惑星で発見された彼等の生存戦略は、自分の宿主を強化して自分も生き残ることだった。脳に寄生虫を入れたままの人間が知力体力に問題がないどころか、寄生されていない人間に対しても体力的に明らかな優位性を示すことがわかってから、その生態は分析され、遺伝子改良を受け、電波を通じて外部との通信までできるように改良されて今に至る。神経系に潜り込むための体つきなので、外見は、悪い。


 結局は利便性が勝つことはわかっている。埋め込みはαが制禦する環境下でなければ、漏洩や脳以外の変な部位への定着などの事故も起こりうる。だがαが制禦できる環境下、マーリン7の船内へ連れてくるのに最初はインプラントなしだ。一回目。最初だけ。そこに不安がある。


『ネリとエンリなら事前に言い聞かせておけば大丈夫よ。ルーナは危ないかもしれないけど。』


 オレが心配しすぎなのだろうということは、わかっているつもりだ。だが一度入れてしまうと除去困難な代物を自分以外の人間に入れることに関して、責任を考えるのは不誠実とは呼べなだろう。



 領主館を出てまだ〇九五〇M。工房の様子は昨日見ているし、何をしよう?。折り畳みコンテナ、紙、ステンシル、木板印刷、万年筆、ガラス、U字溝……。ハパーか。ハパーの店で、試作に使えそうな道具を探してみよう。



 ハパーの店での収穫は、霧吹き、何にでも使える木材、羊皮紙の端切れ。背負い籠六個。霧吹きと羊皮紙はステンシルの実験用。背負い籠は南原での植物収集用。木材は、セメントの型枠に使う。予備を含めて購入。ネゲイで遠慮なく使える現地産の旋盤が欲しい。水車と歯車を、紹介すべきか?。水に強い木と絵図さえあればこのあたりの職人にでも作れるだろうと思う。


 午後、船内では顔なし小ニムエ達が木材の加工。最初の目標はU字溝だが、オレが作ったポルトランドセメントの強度試験用に、同じ大きさのテストピースを作れるよう、同規格の型枠を作っている。これは単純に長方形の角柱だ。オレは、湿原で植物の採集。紙に使えそうなもの、あるいは、紙の前段階としてパピルスに加工できそうなものを探す。湿地のあちこちをバギーで移動し、同じ種類の植物を数キログラムずつ採取した。クララとダイアナも同行。エリス、アン、ベティも採集第二班として街道付近、足場の悪くない範囲で同じことを行う。採集する種類が重複しないよう、αを通じて情報交換も行う。


 採集班六名がそれぞれの籠に一種類ずつ、合計六種のサンプルを集めてマーリン7に戻ると、セメント試験組はもうテストピースを作り終えていた。まずは、骨材なし、中に鉄筋や針金、グラスウールなどの補強材もなし、濃度だけを変えた五センチ×五センチ×一五センチのテストピース三十〇個。今日が一応水曜ということになっているので、これから水曜の度に割っていくつもり。ポルトランドセメントが設計強度に達するには通常で数週間かかるのだから、もっと早く始めるんだった。硬化促進のための添加剤もライブラリにはあるが、まずは素の状態を知らねば改良もできない。


 採集した植物はまず組織の拡大写真で繊維の状態を確認する。ある程度茎が太く、内側の水分も多くて繊維が長そうなものを選んでいる。草汁の中に糊的な成分があれば尚いい。最終目標は紙だがまだ漉き枠などの道具類がない。中間目標としてパピルスは今夜からでも試せる。小ニムエ達が動いてくれるので、今日のサンプルからパピルスが作れるかは、朝にはわかるだろう。ダメでも、明日以降暫く同じようにサンプルを集めてみればいい。



 夜の実験ではαから新しい提案が出てきた。


「セメントもいいけど、『謎成分』も集められないかしら。そのあたりの植物にも含まれてるし、空気中にもあるわ。今までの分析結果から見て、明らかに播種じゃない、ヤーラ359-1原産の植物に由来してる何かのようだし。『生き物からは収集しない』って縛りの実験にもなるし。」

「上手くいけば『実験』の効率が上がるだろうけど、純鉄の時みたいに、一瞬で酸化して別物になったりしないかな?。」

「空気中にも含まれてるのよ。多分粉末か液体になるわ。注射は危ないかもしれないけど、錠剤か、カプセルにするつもりよ。効率のいい吸収ということなら、錠剤にはせずに水に溶かして飲むようにすればいいかも。そのあたりも実験ね。」


 試してみたいことのリストは積みあがるばかりで全然消化できていないから、これが上手くいけば効率は格段によくなる。



 精製された「謎物質」は少し緑の入った青い粉になった。


「やっぱりね。また船内で改めて確認するけど、多分、これはヤーラ359の波長に合わせて光合成を最適化してる葉緑素をベースにした何かよ。地球産植物のものとは構造がちょっとだけ違ってて、その上で、乾燥か何かの影響で少しだけ端部構造が変化してる。」

「似てはいても、構造が違うから人体内でも違う振る舞いをしてると?。」

「ええ。船内で合成できるか試してみたけど適当な触媒がないの。触媒を作るための触媒、またはその一つ前段階の触媒から作らないといけないかもしれない。培養は簡単なんですけどね。だからマコトにできるか試してみたんだけど、成功ね。『実験』の計画をまた書き直さなきゃ。」


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