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4-32 CL(墜落暦)一二九日:測量

 CL(墜落暦)一二九日。ヨール王二三年四月二七日(木)。


 水準器は、小ニムエ達の頑張りもあってなんとか間に合った。材料は用意できていたが組み立てで何度もガラスを割ってしまったとのことで、歩留まりは悪い。次の機会があればガラスの強度なども色々試してみたい。一の鐘で夜明け。すぐに外に出てテスト。OK。手順と持っていく物を再確認して、五体の小ニムエ達と出発した。



 〇六五〇M頃に現地到着。ヒーチャン達もまだ来ていない。人が少ないうちにやっておきたいことがあった。「虫」の成果や昨日複写した地図から仮に決めておいた場所に小ニムエ達が杭を打つ。畑作の邪魔にならず、工房で見通し線が遮られないような位置を選んである。杭の中心にレーザーを当てる。これで「虫」達が杭位置を即座に座標化する。次いで、レーザー測距儀で各点間の距離をa確認。座標から求めた距離と測距儀の測定結果の差は高低差によるもの。αはそれらの数字を即座に飲み込んで処理してゆく。〇七二〇M。レーザー測距儀を使う作業は終わった。エンリとネリが、昨日話をしたボマーを含む一団を引率して近づいてくる。


「おはようございます。」

「おはよう。こっちの準備はさっき終わったところだよ。どっちから始めようか。東?、西?、」

「歩きながら話してたんですけど、皆さん自分の畑で何かしながら待ってるそうなので順番はどうでもいいそうです。ただ、あちらのエンゾさんは午後から用事があるそうで、早いほうがいいって言ってました。」


 名前が出たエンゾが手を上げる。


「俺の畑は東から三番目だあ。」

「それなら、東端から始めよう。移動しようか。」



 さっき設定したばかりの測点のうち東端に近い二点にアンとベティが借りてきたものと新しいもの、二台の横コントを据えている。オレは農夫達の説明を聞いている。畑を区切る畦は上段の畑の一部。昔はあちこちに境界石があったが、埋まったか亡失しているものもある。水路は共有部分なので面積に組み込まない。水路の両脇「三分の二クーイ」も水路の一部とする、など。


 基本ルールを聞いてから、まずは測量予定範囲の東北端へ向かう。「この石積みの根のところが端っこだあ。」などとあらためて聞き、指さされたところにクララが杭を打ち込み始める。クララを残して次の点へ。周囲に人がいなくなったクララは、打ち込んだばかりの杭の頭にレーザーを当てているはず。集合前の作業と同様に「虫」で観測して座標化させるためだ。レーザーを当て終わると、今度は点の上に竿を立て、二台の横コントで角度を読んでおく。グレン達に説明する手順ではこっちの数字を使う。アンとベティも読み取った数字を蠟板に記入する。二点目ではダイアナが杭担当。三点目はエリス。その頃にはクララが一点目での作業を終えて戻ってきている。


 次々に点が決められてゆく。境界石が残っているところでは、石は動かさずに杭だけを横に立てる。杭の頭には矢印を描く。これも同じように石の頭にレーザーを当てておく。ヒーチャン達も二の鐘の少し前に到着した。丁度アンとベティは横コントの位置を次の側線に移動させている途中だった。横コントを据え直し、改めてクララ達の示す方向を読み始めたアンとベティを見たヒーチャンが言う。


「マコト殿の手伝いの娘さん達はコントも使えるのか。息子の嫁に、イヤ、息子が足りない。養子をとらなきゃな。」



 〇八〇〇Mの少し前に始まった境界の確認は一〇三〇M頃に終わった。エンゾの「午後から用意」にも余裕で間に合う。農夫達はそれぞれの仕事に戻っている。グレン師はまだ来ていないな。忙しいのか?。明日の午後なら絶対に来ているはずだが。


 「虫」による測量もINS誤差を含んでいるからセンチ単位ではずれている。ここでは過剰だと思うが、横コントを使った再測はやっておきたい。農夫達の待ち時間を気にする必要もなくなったので、測線を変えてさっき測った境界点の角度を測り直してゆく。時間に余裕があるので、エンリとネリのほか、、ヒーチャン達のうち手空きになった希望者にもやらせてみた。建築に支障が出ない範囲だが。ヒーチャンだけは経験があったらしいが「コントは位置決めが面倒で、使わないようにしてたんだよなあ。」と、素人レベルだった。オレも、αに頼らねば器械の据え付けは上手くできないから笑えない。経験者のヒーチャンが喜んだのは副尺だった。予想はしていたが。


「長い間使ってなかったけどハイカクに頼んでオレのコントも改造してもらおうかな。こんなやり方があったとは。だけど必要性以上に性能を上げてしまってる気もするな。水平出しの道具も何にでも使えそうな気がするけど、ハイカクにできるかな。マコト殿のものを何でも作ってたら、細工師連中の手が回らなくなるんじゃないか、心配だ。」


 ちょっとした工夫で道具の性能が向上することに不満を感じる人は滅多にいない。そして道具を改良する手が不足しそうなことはもう何人もが心配を始めている。


「実際そうなんだよ。ゴール殿もそのあたりを気にしてる。職人の数とやりたいことの数が釣り合ってないってね。『一つずつ』って、お互いに言い合ってるんだけど。」



 ほぼ三の鐘の頃にはグレンも姿を見せた。遅れたことをしきりに謝っているが、こっちは気にしていない。グレンに見せるためだけに作業の一部を明日に残すべきか?、とか考えていたところに来てくれたのだから、歓迎だ。再測作業に加わったグレンも、ベティから副尺の説明を聞いて飛びついた。蠟板を取り出して計算を始めている。「十二分の十一を掛けたら八は……。」


「まったく。本当に。酷い。こんなやり方、もっと早く知りたかった。七十近い老人にこんなことを教えるとは、マコト殿は本当に酷い人だ。」


 言っている内容と、笑顔が全然合っていない。楽しそうだから、いいか。



 再測の作業中にヒーチャンに聞かれた。


「角度ばかり測ってるけど、長さは要らないのか?。面積を出すのに、三角に割ってどうこうとか、昔やったことがあるんだが。」

「最初に長さはきちんと測っておいたから要らないんだ。あとは角度があれば計算できる。ちょっと複雑だけどね。」

「そういうものか。マコト殿のやりかたは覚えたいけど、ついて行きにくいな。どんな風にやるんだい?。」


 計算は幾つかの段階に分かれていて、最初に使うのは三角関数だと話し始めると、ヒーチャンは退散してしまった。三角関数の次はヒーチャンにもなじみがある四則演算だけなのに。桁数は多いけど。



 四の鐘を過ぎて素人達による全測点の再測が終わりに近づいた頃、ブングがやって来た。


「池の横に立てる小屋の材料が揃ったから運んできた。テンギ殿は池かな?。」


 いい機会なので、その場にいた何人かで進捗や予定を確認する。明日は池横の小屋建設、というか、組み立て見物の日になりそうか。現地作業は一段落したので、借りていた道具と余った杭を返しに領主館へ行く。巻尺は、結局使わなかった。


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