偵察作戦
4月28日 1223時 タイランド湾 カンボジア領海外
『オーケー。今のところ、レーダーに反応は無いわ。さっさと済ませて帰りましょう』
レベッカ・クロンヘイムは、JAS-39Eのコックピットから辺りを見回した。編隊には、F/A-18FとSu-30MK、F-15EXが加わっている。
スーパーホーネットには、サイドワインダーとAMRAAM、増槽に加え、胴体下にはAN/ASD-12偵察ポッドが搭載されている。また、Su-30MKはパイソン5、ダービーの空対空ミサイルの他、スパイス1000誘導爆弾。F-15EXには、AMRAAMとサイドワインダー、そしてSDB-Ⅱ。グリペンには、空対空ミサイルのミーティアとIRIS-T、増槽、SPK-39偵察ポッドが搭載されていた。
クロンヘイムらの任務は、カンボジア南部への偵察任務だ。シンガポール空軍のレーダーサイトの分析から、先日、シンガポールを襲った航空機はカンボジアまたはベトナムから飛来したものとシンガポール空軍は結論付けた。
そこで、戦術偵察任務を行う飛行隊として"ウォーバーズ"に白羽の矢が立った。カメラポッドを使って国境付近を偵察し、情報を持って帰るのだ。勿論、攻撃を受けた場合は、パイロット各自の判断で反撃・交戦してもよい、との条件で、だ。ゴードン・スタンリー司令官は、シンガポール空軍の将軍が偵察作戦を依頼してきた時、この条件だけは頑なに譲らなかった。スタンリー司令官にとっては、ミサイルを放つことで地域が不安定化するよりも、自分の仲間が生還してくることを重視しているからだ。マームード・ロー大佐は難色を示したが、この条件でなければ戦術偵察の依頼は断ると粘ったため、最終的にロー大佐は折れてしまったのだ。
4月28日 1225時 チャンギ空軍基地
「うーん、大丈夫なのか?本当に」
佐藤勇は、フライトスーツ姿でエプロンをうろうろしてていた。その佐藤のF-15EXは、整備を受けている最中だ。
「一応、お迎えが必要になったら、俺とジェイソンが行くことになっている。今日は隊長はお休みだな」
佐藤に話しかけたのはオレグ・カジンスキーだ。カジンスキーのMiG-29UPGにはパイソン5が2発とダービーが4発、増槽が搭載されている。
やがて、大きなエンジン音がした。白い機体に濃淡2色の青いストライプ、尾翼にANAの文字が描かれたB787-10が離陸していく。日本人である佐藤にとっては、見慣れた飛行機だ。
「旅客機が離発着しているということは、ここはまだ"やばい場所"だとされてはいないようだな」
続いて、鮮やかな水色に塗られた大韓航空のB777-200が着陸した。他にも、シンガポール航空にガルーダ・インドネシア航空、カンタス航空と色とりどりの旅客機が離発着している。今日はよく晴れて、絶好のフライト日和になりそうな天気だ。その分、気温と湿度は非常に高く、外にいると熱中症になってしまいそうだ。実際、"ウォーバーズ"の飛行機を警備している警備隊は、FN-SCAR-L自動小銃とグロック19拳銃を携行しているものの、防弾チョッキもヘルメットも身に付けておらず、丸首の半袖Tシャツに短パン、野球帽にスニーカー、サングラス、マグポーチという軽装だ。傍目からは、銃で武装した愚連隊にしか見えない。
やがて、轟音と共に、滑走路にコックピット部分のみにしか窓が無い、無骨で巨大な飛行機が着陸した。ガンシップグレー一色に塗られ、垂直尾翼に箱を持ったカンガルーの絵が描かれている。"ウォーバーズ"と協力関係にある傭兵部隊"アーセナル・ロジスティックス"が持つC-5Mだ。C-5はブレーキをかけると、ゆっくりと誘導路を通り、"ウォーバーズ"が利用している区画へと向かった。
エプロンに駐機したC-5Mは、APUを回したまま機体前部のカーゴランプを開いた。まるで、巨大な口を開いているようにも見える。C-5Mの兵員区画にタラップが設置されると、乗っていたクルーが次々と降りて梱包された荷物を下ろし始めた。荷物は、梱包された戦闘機の予備部品だ。
「さて、ゴーディ、次の注文は何だ?」
ハーバート・ボイドがゴードン・スタンリーの方を見て言った。
「ミサイルと爆弾をどっさりだな」
「はいよ。全部いつものやつでいいか?AMRAAMとサイドワインダー、ミーティアにASRAAM、IRIS-Tにパイソン、ダービー、R-77にR-73、JASSM、JSOW、ストームシャドウとタウルス。あとはペイブウェイとJDAM、スパイスの誘導キットとMk80系爆弾とクラスター爆弾で」
「それと、Mk77ファイアボムとZAB-250とZAB-500焼夷弾を追加してくれ」
「おいおい、まさか、ベトナム戦争を始める気か?」
「まさしくその通りだ。敵の拠点がカンボジアかラオス辺りのジャングルの中にある。そうなると、通常爆弾やクラスター爆弾の効果は薄くなる。効果があるとすると焼夷弾だな。本当ならナパームが欲しいところだが」
「ナパームか。どこかでBLU-27/Bを密造しているという話は聞いたことは無いな」
「そいつは残念だな。特に、Mk77はガソリンとベンゼンだから、あまり延焼効果が良いとは言えないからな。だが、ナパームなら効果は絶大だ」
「まあ、BLU-27/Bの方は難しいだろうが、Mk77とZABなら割と簡単に手に入るから、そっちは掻き集めておいてやる」
「頼むぜ。結局のところ、ミサイルや爆弾が無いとどうにもならないからな」
「了解だ。これは人伝なんだが、そうそう、南米でゴタゴタが起きそうという話を聞いた」
「なんだ?アルゼンチンがフォークランドをまた強奪にかかるとかか?」
「まさか。今のアルゼンチンに、イギリスと真正面からぶつかる程の力なんて無いさ。ベネズエラの方だよ」
「ベネズエラ?」
「ああ。ベネズエラがガイアナの領土の西半分の領有権を主張し始めたのは知っているだろ?奴ら、次は、コロンビアの東半分を寄越せと言い始めた」
「やれやれ」
「コロンビアの東側で、大規模なレアアース鉱脈が見つかったんだ。その情報が流れた途端、ベネズエラの大統領はコロンビア国土の東半分の領有権を主張し始めた」
「やれやれ」
「まあ、とにかく、注文は受け取った。支払いは、また持ってきた時にな」
4月28日 1402時 シンガポール チャンギ空軍基地
4機の戦闘機がストレートインで着陸した。向こうのチャンギ空港のPBBからA330がトラクターに押されて離れ、エンジンの回転を回す。現在のところ、シンガポールは平穏を保っているが、先日のような攻撃が行われないとも限らないため、軍はデフコン2の体勢を敷いている。また、海軍基地に入港していたアメリカ海軍の駆逐艦3隻は沖合に出て、更にオーストラリアのダーウィンに寄港していた駆逐艦2隻が援護のためにシンガポールへと向かうという情報も入ってきた。
武装勢力が衝突をしている地域は、東南アジアだけではなかった。イエメンを占拠している武装勢力が、突如としてサウジアラビアとオマーンに侵攻を開始した。サウジ、オマーン両国は反撃を開始したが、その武装勢力は、100両を超える戦車を含んだ大規模な機甲部隊に10機の戦闘機、6機の輸送機、2機の空中給油機に加え、複数のフリゲートや潜水艦、更には短距離弾道ミサイルや中距離弾道ミサイルで武装しており、サウジとオマーンはかなり苦戦しているらしい。
他にも、ソマリアやシリア、アフガニスタン、西サハラといった『破綻国家』は、傭兵組織の格好の住処となっており、当然ながら、そこに手を出せるような国は無い。
国家同士の武力衝突や内戦ならまだしも、重武装化した傭兵組織同士の争いに手を出せるような国は無い。下手したら、介入した途端、傭兵組織に攻撃される恐れもある。そんな危ない橋など、誰も渡りたくないという訳だ。
シンガポールとマレーシアは、先日の攻撃により、警戒を強めていた。デフコン2の体制が敷かれ、シンガポールの国土各所に地対空ミサイル部隊が展開し、市民の生活は一変した。正式な意味での戒厳令はまだ政府からは発布されていないが、今の状況は事実上のそれになっている。入港していたアメリカ海軍の艦船は全て出港し、リアウ諸島の近くで遊弋し始めていた。
一方で、この武力攻撃によるシンガポール経済への打撃は一気に深刻化した。シンガポールでは、この先、複数の大規模なビジネスエキスポが開催される予定だったが、正体不明の武装勢力から攻撃を受け、更に、武力紛争リスクを調査し、関連情報を企業や個人、政府に提供する複数のコンサルタント会社が、シンガポールとマレーシアを、傭兵組織同士の武力衝突が起きるリスクが急激に高まったという情報を公開したのだ。
しかし、だ。当節では、傭兵同士の武力衝突など珍しくもなくなっている。今日も、アフリカでは、アルジェリアで暴れ回るイスラム過激派の拠点をエジプトに雇われた傭兵組織がSu-30MKとラファールEで空爆し、キプロスを拠点に活動している傭兵組織も、トルコ東部で暴れているクルド人武装勢力の拠点を中距離弾道ミサイルで攻撃していた。




