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空中給油と謎の機影

 4月21日 2016時 南シナ海 シンガポール東側上空


「よし、少し上昇してそのままの高度を維持してくれ」

 KC-30A空中給油機のブームオペレーター席で、シャルル・ユベールがHMDに映された白黒の赤外線画像を見ながら巨大な給油ブームを操作していた。その画像には、シンガポール空軍のF-15SGイーグルが映っている。イーグルの給油口が開き、パイロットが被っているヘルメットの形もはっきりと見えている。ユベールはブームを素早くF-15SGの給油口に接続させた。

『こちら"フィッシュ1"。給油機との接続完了』

「"フィッシュ1"、こちら"バイソン1"。給油を開始する」

 F-15SGへKC-30AからJet-A1が流れ込んでいく。そして、戦闘機はあっという間に燃料が満タンになった。

『"フィッシュ1"、給油完了』

 F-15SGが離れるのを、ユベールは赤外線画像を通して確認した。以前乗っていたKC-135の場合、機体の後部、給油ブームのすぐ上にある窓から目視しながらの給油作業となるため、夜間の空中給油訓練では極めて気を使っていた。だが、KC-30Aならば、赤外線カメラが備わっているおかげで、昼夜天候に関係なく、違和感の無い給油を行うことができる。そして、KC-135では、給油ブームの操作には、まさに職人技とも言えるレベルの繊細さが求められていたが、KC-30Aでは、ブーム操作をコンピューターが補正してくれるため、その作業が極めて簡単になったのだ。

「"バイソン1"より"ウォーバード1"へ。給油を行う」

『"ウォーバード1"了解』


 佐藤勇はF-15EXのエンジン推力を絞り、慎重にKC-30Aへと接近した。真っ暗な空の中に、赤と緑の航空灯が星座のように見える。

『よーし、隊長。そのままのペースでゆっくり上昇してくれ。あと30フィートだ』

 佐藤は操縦桿を慎重に、ほぼ小数点以下のミリ単位で操作し、空中給油機に近づく。何のことは無い。空自にいた頃も、今でも、当たり前のようにやっていることだ。しかし、ちょっとした油断が大きな事故を起こすのがこの訓練だ。佐藤は、ユベールの指示に従いながら、F-15EXをKC-30Aの後ろへ接近させた。

『隊長、そのままニュートラルに。給油を開始する』

 KC-30Aのブームが下がり、F-15EXの左エンジンの空気取り入れ口の付け根にあるリセプタルに先端を接続させた。そして、多機能ディスプレイに映る燃料の残量の数値がどんどん増加を始める。

 空中給油自体が危険極まりない行動なのに、それを夜間に訓練するとなると尚更だ。だから、佐藤は決して油断せず、キャノピー越しに自機とKC-30Aとの距離感を常に監視していた。

「隊長、燃料が満タンになりました」

「了解」

 ガコン、という音と共に、給油ブームがF-15EXから離れた。佐藤は戦闘機のスピードを緩め、やや高度を下げてから左に旋回し、次に給油を受けるジェイソン・ヒラタが乗るF-16Vのために場所を空け、待機空域に機種を向けた。


 4月21日 2019時 南シナ海 シンガポール東側上空


 ニコライ・コルチャックは、Su-30MKを慎重にKC-10Aに接近させた。KC-10Aの後部から、空中給油用のドローグバスケットが風に揺られて曳航されている。Su-30MKのプローブにはライトが付いているため、夜間でも一応は給油用のホースドローグユニットを目視できるが、実際には、ドローグユニットの位置と動きがわかる程度にしか照らしてくれないため、光源としては極めて心もとない。

 それに、コルチャックは"ウォーバーズ"にやって来るまで空中給油の訓練を受けた経験が無かった。それも、以前、所属していたベラルーシ空軍が僅かに保有していたSu-27UBには空中給油能力が無かったからだ。だから"ウォーバーズ"にやって来たコルチャックは、空中給油能力を追加されたSu-27SKMで、KC-135Rからの空中給油訓練を徹底的に行った。そのおかげもあって、今ではすっかり空中給油というものが、コルチャックにとっては当たり前のことになった。

「接続完了。給油を開始してくれ」

 コルチャックは、Su-30MKの給油プローブをKC-10Aのドローグユニットにあっさりと接続させた。やはり、フライングブーム方式の方が空中給油としては簡単なのではないか、とコルチャックは思った。確かに、空中給油にフライングブーム方式を採用している軍の方が少数派で、それも実質上、アメリカの同盟国しかいない。この方式を採用している空軍は、アメリカの他には、日本の航空自衛隊、オーストラリア、シンガポール、韓国、イスラエル、サウジアラビア、そしてNATOでF-16とF-35を採用している国の空軍くらいだ。

 今日は給油訓練のみ行う予定な上に、シンガポール周辺国の情勢を考えると空対空ミサイルの実弾を搭載する必要も無いとブリーフィングで説明されていたので、このフランカーのパイロンには何も搭載されていない。

「ふう。こんな真っ暗な環境で空中給油だなんて、ぞっとしないわね」

 サリー・モラが、KC-10Aから伸びているホースドローグユニットを後席から眺めながら言った。ホースドローグユニットは、気流に流されて大きく揺れている。

「俺もだよ。今でこそ慣れたが、これでもそれまでだいぶかかった。最初は晴れた昼間での給油訓練。そして、次は曇りの日の昼間、雨の日の昼間と、条件を変えて訓練。一番恐ろしかったのは、雨の日の真夜中での訓練だな」

 Su-30MKの燃料タンクは満タンになった。

「よーし、次だ。レベッカ、代わるぞ」


 フランカーがKC-10Aから離れると、次に給油を受けるJAS-39Eグリペンが、先ほどフランカーがいたポジションに向かった。


 レベッカ・クロンヘイムは、慎重にJAS-39Eを操縦した。古巣だったスウェーデン空軍には、空中給油機としてKC-130Hを導入しているものの、数は僅か1機しか保有しておらず、年に受けられる空中給油の訓練の回数も非常に少ない。

 スウェーデンがNATOに加盟してからは、イギリス空軍やフランス空軍、またはNATO-MMUのA330MRTTの協力を得て、スウェーデン空軍のパイロットが空中給油の訓練を受ける機会も増えたが、クロンヘイムが現役のスウェーデン空軍のパイロットだった頃は、そこまでその恩恵を受ける機会が無かった。


 しかしながら、パトリック・コガワやハンス・シュナイダーらの的確な指導もあり、クロンヘイムにとって、空中給油というのは、すっかり日常そのものになった。空中給油の技能無しに"ウォーバーズ"に居続けることはできないからだ。


 4月20日 2131時 南シナ海 シンガポールから東100kmの空域


 空中給油の訓練を終え、シンガポール空軍と"ウォーバーズ"は、パヤレバー基地を目指して西に向かった。途中、アメリカ海軍のイージス駆逐艦マッキャンベルとコンタクトを取る。


 彼らは途中、カンボジア方面へ向けて北上する航空機の集団をレーダーで確認した。レーダー断面積と速度から、それらは旅客機または貨物機だと判断した。


『あら、珍しいわね。カンボジアに大型貨物機が向かうだなんて。それも6機も』ファティマ・ウォン大尉は、F-16Cのレーダーに映る機影を確認して言った。確かに、これまでの訓練の期間中、カンボジアへの民間航路を大型の機体が通過するのを確認したことは無かった。ウォン大尉の言葉に、佐藤勇も、レーダーで件の飛行機の姿を確認する。

「これ、もしかしたら軍用輸送機じゃないの?」

F-15EXの後部座席から、アイリス・バラクが佐藤に話しかける。

「確かに、この編隊の組み方だと、少なくとも、パイロットは全員、軍隊上がりだな」

 レーダーに映る機影は、1機1機がかなり距離を取っているが、1番機を先頭に、2列目に2機、3列目に3機が横並びになり、上から見たらピラミッド型に見える、いわゆる『デルタ体型』の編隊を組んでいる。

『隊長、確かにあいつら、あのまま真っ直ぐ飛ぶと、カンボジア領空に入るな。燃料に余裕もあるしちょっと偵察してみるか?』オレグ・カジンスキーが提案してきた。

『ネガティブ。このまま帰還する計画の上に、着陸時間は決められている。このまま帰ります』

 ファティマ・ウォン大尉がカジンスキーの提案を却下した。今夜の訓練全体における主導権は、全て彼女が握っている。

『了解』

 カジンスキーの言葉には、やや不満が含まれていた。だが、ウォン大尉の命令を無視する訳にはいかない。


 佐藤は、何となくだが、この飛行機が気になった。今日のところは、帰還するしか無い。しかし、この飛行機の集団のことは、ゴードン・スタンリー司令官に報告だけはしておこう。そう心に決めたのだった。

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