和菓子王子と婚約者の私
応募の都合上……試行錯誤の末、本文は千文字で終わりです。
私の婚約者は王子様。
王位継承順位は、そこそこ低い。
ご公務とかも、本当にそこそこ。
殿下はいつも暇そうで、それでも時々は忙しく。
「でんかー……」
「やあ婚約者殿」
ここは殿下と私の研究室だ。
暇人の趣味の部屋とも言う。
「今日も婚約者の私が様子を見に来ましたが……」
暇人なのは殿下であって、私は暇ではない。
珍しくご多忙の殿下だけど。
「……お疲れではありませんか」
「いやまったく。仮に疲れていても、君に……って、そんなことより」
今日は何か様子がおかしい。
殿下が、と言うよりも、部屋の空気が違う。
「これを見てくれ。すごいだろう」
ちょっと高そうな小皿が並んでいた。
王族が、と言うよりも、おしゃれな貴族や商人が使いそうなやつだ。
皿の上には。
「これは……どこかの使節のお土産ですか?」
違和感の正体。
テーブルを彩る珍しいお菓子。
「そうだ。『和菓子』と言うらしい」
今この国では国際会議が開かれている。
人手が足りないので、王族はみんな駆り出された。
「まるで美術品ですね。食べるのが勿体ないです」
「うむ、俺もそう思った。先方は笑っていたが」
この口振りからすると、会談の席でも出されたのだろう。
「でも……召し上がったんですよね。お味はいかがでした?」
「うむ……」
口籠もる。
「えっ……」
何か問題でもあった?
口に合わなくて……おいしくないと思ったのが顔に出ちゃった?
外交問題……!?
「いやいや、問題はない。淡白で上品な味だった」
良かった。外交問題にはならなかった。
「俺をなんだと思ってるんだ。ただ……」
ほら来た。
「……自分でも作りたいと思って、レシピを聞いてきた」
違和感の正体。
部屋の空気が……甘い匂いがする。
「だが和菓子の再現は素人には難しく……」
この人は……やっぱり暇なのだろうか。
「……試行錯誤の末、出来上がったのが……これだ」
ちょっと高そうな大皿が出てきた。
特におしゃれとかではないけど、しっかりしたやつだ。
皿の上には。
「なんですかこれ?」
努力の跡は見える……気がする。
一つ一つに顔のようなものが描かれている。
なんだか絶妙にかわいくない。
「これは……和菓子には名前を付けることがあるらしい」
「はぁ」
「銘は……『婚約者』だ」
正直笑った。
不細工過ぎでしょ。
「お茶にしましょうか。まずはこちらを……食べられるんですよね?」
「あ、ああ。お茶もあるぞ。和菓子に合うお茶だ」
お菓子とお茶なんて、まるで王子と婚約者の会話だ。
甘い殿下。
苦い私。