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第9話 リベンジ

「お嬢様、おかえりなさい!」

「……ええ」


シルクが喫茶店を出て馬車に乗り込むのを確認すると、マリーは御者に「伯爵邸まで」と声をかける。


「待って。その前に寄る所があるわ」

「え?」


シルクはカーテンを閉めると、馬車に積んでいたトランクを開く。中には化粧道具やウィッグ、落ち着いた色のドレスが詰まっていた。今日はこのためにマリーを連れてきたのだ。


「何かすることでもあるんですか?」


薄暗くなった馬車の中でシルクの瞳が鋭く光る。シルクはパキパキと指を鳴らした。


「リベンジよ」


***


「チャンネル登録者数一万人を突破しました」


『キヌカ』は真剣な顔で赤髪の男と向かい合っていた。


「なるほど」


男――ダレルは前回と変わらぬ穏やかな表情でこちらを見ていた。丸眼鏡をかけると、棚から取り出した資料に目を通し始めた。


(きっと大丈夫……よね?)


これまで配信スタイルを模索してきたが、昼は大衆向けの明るく面白みのある雑談をし、夜はASMRなどちょっぴり大人向けな内容に変えて配信したことが功を奏したらしい。

無事に一万人を達成したが、ダレルの反応は如何に。シルクは緊張の面持ちで返事を待った。


ダレルは手元を眺めながら思案顔でいたが――やがて、にこりと微笑んだ。


「いいでしょう。契約を結びましょう」

「本当ですか!?」


ダレルは引き出しから紙を取り出すと、そこに何やら書き付けた。


「ひと月このくらいお支払いします」

「!?」

「もちろん今後の伸び次第で変動しますし、その都度ボーナスも考えましょう。いかがですか?」


シルクは迷うことなくダレルの手を取り、固い握手を交わした。


「よろしくお願いします!」


ダレルはすぐに契約書を作成し、シルクに差し出した。


「ではこれに目を通して頂いて、ここにサインを……」

「はい!」


シルクは羽根ペンを受け取ると書面に目を走らせた。驚くほどの好条件だ。この男、想像以上に気前がいい。

シルクは迷わずに署名をする。

そのとき、ふふ、という笑い声が漏れてきて、シルクは手を止めて顔を上げた。


「……何か?」

「いえ。親しみやすい配信をしているキヌカさんがこんな方だとは誰も思わないでしょうね」

「え?」


『こんな』というのはこの格好のことか。失礼な、と憤慨しかけ――すぐに納得した。メイクは濃いし、確かに強そうな見た目ではある。


「……って、あれ。私の配信聴いたんですか?」

「ええ。友人のお喋りを聞いているような雰囲気でなかなか面白かったです。他のチャンネルと差別化も出来ていていいですね。キヌカさんの人気の理由がよくわかりました」

「ありがとうございます」


シルクは照れくさくて頭を掻いた。そのうちに、もう一つ頼むべきことがあったのを思い出した。


「あの。ついでに新しく口座も開設したいんですけど。出来れば外国からでも引き出せるようにしたくて……」

「それならメレディス銀行がいいですね。手続きはこっちでやっちゃいますね」

「お願いします!」


***


「完璧だわ……」


リード商会を後にしながら、シルクは邪悪な笑みを浮かべた。ここまで上手く話が進むとは思っていなかった。笑いが止まらないとはまさにこのこと。

しばらく道なりに進むとマリーが手を振って待っていた。合流し、二人並んで街を歩く。


「大通りの方に馬車を止めておきました」

「ありがとう」

「ていうかわざわざその格好に着替えてどこ行ってたんですか?もしかして何か悪いことでもしてます?」

「エッ!?い、いや、ホラ。気分転換よ気分転換。あは、あはははは……」

「へえ?」


幸いマリーはあまり興味がなさそうにしているが、これ以上深掘りされるとまずい。シルクは何か別の話題を探そうと辺りを見回した。そしてひと気のない細道が目に留まり、足を止めた。


「ねっ、ねえ! こっち通った方が近道じゃない?」

「あ、その道は……」


そのとき、正に今進もうとしていた道の奥から悲鳴が響く。若い女性の声だ。それに気付いた瞬間、シルクは反射的に声の方に走り出していた。


「待ってくださいお嬢様!」

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