ある研究の結果と経過
「やったぁぁぁぁ! こ、これでつ、ついに完成だぁ! やりましたよぉぉぅ!
ふぉおおう! 嬉しいぃぃ! えへへ、喜ぶのは当然じゃないですか! せんせぇ!
ついに、実ったんですよ! 僕らの努力が! うふははは! せんせいせんせい!
あはははは! あっふあはげほっ、ごほっ、ききき、あははは! げほっ、おえっ」
二〇二九年 一月十六日 東日新聞 見出し
【認知症の特効薬ついに完成 この春に臨床試験 すでに希望者殺到】
「ええ、問題ありません。はい、ええ。そうですね。来年。ええ、そうしましょう。
こちらは問題ないです。彼も、それにあの新聞社ももう、ええ手は打っておきました」
二〇二八年 十二月二十五日 オーラムニュース ウェブサイト 見出し
【相次ぐイタズラ画像と動画 政府も問題視 悪質なデマにご注意を】
「あの、やっぱり僕、もう、え、なに、なにするんですか! 誰ですかこの人たちは!」
「うちの研究チームだ。あとは引き継ぐ」
「そんな、勝手な! 先生と僕がここまで!」
「君にも引き続き協力してもらうよ。先生のようにな」
二〇二八年 十月十八日 東日新聞 見出し
【ホームレスの不審死多数 頭に噛み傷も】
「この前の件は問題ない。取材ももうないだろう?」
「あ、ありがとうございます……」
「大丈夫か?」
「はい、僕は、はい……」
「違う、研究の方だ」
「あ、それは、まあ……はい」
「ならいいんだ。多少の失敗や副作用は目を瞑ろう」
二〇二八年 六月二十五日 オーラムニュース ウェブサイト 見出し
【相次ぐ自宅の排水管から不審な音と振動は日頃の疲れ、あるいは南海トラフ地震の前触れの可能性も】
「先生! やめ、やめてくださいよ! 僕です! 僕が分からないんですか!?」
「ひ、ひ、ひひ、きいいぃぃぃぃ! きいいいぃぃぃぃ!」
「ああああ、うわあああ! あ、あ、あ、あ……先生……」
二〇二八年 六月八日 東日新聞 見出し
【認知症医療 第一人者 生口吾郎医師 都内川岸付近で死亡確認】
「あ、ど、どうも」
「先生は?」
「え、ええと今、その……ちょうどお休み中でお会いには……
昨夜ちょっと、いや、なんでも、あ、徹夜で
その、ええ、さすがに人間、眠らないとですからね……」
「またか。まあ、いい。それで進捗状況は?」
「ええ、じゅ、順調です……」
「本当だな?」
「は、はい! もう、ええ、はい……」
「来年にはいけるだろうな」
「え、はい! あ、いや、それは、はい、もちろんです
遅くてもまあ再来年とか……あはは……」
二〇二八年 五月九日 オーラムニュース ウェブサイト 見出し
【認知症特効薬完成間近 医療関係者、各家庭に期待の声が広がる】
「先生、お加減の方はどうですか? その、彼らが……。
帰ってもらいましたけど、催促を、また今度様子を見に来ると……」
「せ、せかい、おおおせかいが、おおおあああああはははははは! ききききき!」
二〇二八年 四月二八日 東日新聞 見出し
【都内、野良猫の変死相次ぐ 不審者の目撃情報も多数 関係ありか】
「先生、本当にご自身でなさるおつもりですか……?」
「ああ、脳の衰えを自覚できているからちょうどいい。
ふふ、役得というやつだな。はは、なんてな」
「ですが……あの連中は……」
「大丈夫だ。きっと上手く行く」
二〇二八年 四月十五日 ザ・フェイクニュース ウェブサイト 見出し
【ネズミ人間現る!? 大きさは小学生男児程 白色の体毛に背中には脳みそ】
「先生、前のあのラットたち……」
「言うな。偉大な発明には犠牲がつきものだ。どうせすぐに収まるさ」
「でも、これ多分、大きくなって、それに繁殖を……」
二〇二七年 十月十日 東日新聞 見出し
【大ネズミ。集団で夜の渋谷を襲撃。若者を中心に怪我人多数】
「先生、実験用のラットが……」
「も、問題ない。たった数匹だ。しかし、いや、これは、金属製だよな? この檻……」
二〇二七年 八月四日 同協通信 ウェブサイト 見出し
【新種の大ネズミ発見。既に死亡しているも専門家はこれまで見たことがないと驚愕(写真アリ)】
「あ、これ見てくださいよ先生。僕も写ってますよ」
「ん、新聞か。ああ、あの時の写真だな……」
「もう何年前でしたっけって、日付があるか」
「ああ……だがあの時以上に、企業からせっつかれている。
もう時間がない。研究を早めなければな……」
二〇二三年 四月六日 陽光新聞 見出し
【オーラムテック社支援 認知症治療本格始動】