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栞は知っていた

「はあ..」


 政志さんは何度もタメ息を吐く。

 間違いなく史佳の浮気に絶望している、可哀想な政志さん...


「落ち着いて、これでも飲みなさい」


 そんな彼の為に私は鞄から水筒を取り出す。

 家から作って来た特製のココア、保温していたのでまだ冷めてはいない。

 紙コップに移し、政志さんに差し出した。


「ありがとう栞」


「いいえ」


 ちょっとだけ彼に笑顔が戻る。

 だってココアは政志さんの大好きな飲み物だから、特に私の作るココアは絶品でしょ?

 今日のはいつもより増して...


「どうしたの?」


「いや...なんでも」


 ココアを飲み干した政志さんは頻りにアクビを繰り返す。

 どうやら効いて来たみたいね。


「疲れたんでしょ?

 昨日は寝てないみたいだし」


「え...なんで知ってるの?」


 しまった!


「か...顔を見れば分かるわよ」


「...そっか、そうだよな」


 危ない危ない、なんとか誤魔化せた。

 私が政志の事全部知ってるのは秘密なんだから。


「ほら、着いたら起こしてあげるから」


「分かった...」


 政志さんは車の背もたれに身体を預け、静かな寝息をつき始める。

 これで良い、睡眠薬で3時間は起きない。


どうせ史佳は直ぐ政志のアパートに行く事は出来ない。

政志の携帯は自分の手元にあるから連絡も出来まい。

今頃は自分のしでかした事の重大さに気づいて狼狽えているだろう。


「お嬢様」


 バックミラー越しに運転手が呟いた。

 彼の正体は私の専属運転手の山内、幼少期から私を知る。


 今日はいつものリムジンではなく、お父さんが経営するタクシー会社の車。

 山内もタクシー運転手に変装して貰っている。

 そうしないと政志さんは車に乗ってくれないと思ったのだ。


「動きがありましたらお知らせします」


「ありがとう山内」


 山内の耳にはイヤホンが入っている。

 そこからは史佳の室内の様子がスマホを通じて聞こえている。

 二年前、政志に貸してあげたスマホはただの携帯電話では無い。


 全ての会話内容や、SNSのやり取り、更に周りの音声、カメラの映像まで全ての情報が私の手元に届く様に改造されているのだ。


 それは電源を切ってもバッテリーが無くなるまで行われる。

 もちろんそんなスマホだと政志は知らないだろうし、違法な事だと分かっている。

 たが、全ては政志を知る為だ。


 1ヶ月前、最早史佳の浮気は疑い様の無いところまで来ていた。

 政志は最後の賭けとばかりに史佳の誕生日プレゼントを買うため、無茶苦茶なバイトを入れた。


 節約だと言って食事を切り詰め、遂に政志は倒れてしまった。

 私はそんな政志を放っておく事も出来ず、食事を提供した。

 最初は遠慮をしていた政志だが、倒れては元も子も無いと、なんとか説得し、証拠を固める為に動いた。


「さてと」


 タクシーに置かれていたアタッシュケースから一冊の資料を取り出す。

 これは史佳の浮気記録。

 その相手、ミミズ男に関する物。

 探偵を使い、史佳の周辺を調べさせて貰った。


御瑞之(おずの)満夫、32歳か...」


 32歳高卒で職歴はアルバイトのみ。

 なんで史佳はこんな奴に引っ掛かったのか。

 添付されている男の写真からも魅力は一切感じない。


「...分からないものね」


 満夫は史佳のバイト先で働く先輩。

 一年前、史佳がバイトを始めた頃から執拗に口説き、3ヶ月前の飲み会で酔ったバカ(史佳)を遂に寝取った...


「未成年を酔わせるか?」


 今日で史佳は二十歳だ、3ヶ月前なら未成年じゃないか。

 満夫と言う男はあまりにも屑だ、何度読んでも吐き気がする。


 それよりクズとのセックスに嵌まり、政志を裏切るなんて、史佳は所詮ビッチだったの?


 次のページには一線を越えてしまい動揺する史佳を満夫と仲間達は甘い言葉で安心させたと書いてあった。


 きっとバレなきゃ大丈夫とか言ったんだろう。

 そして、次々と満夫の仲間とも史佳は...


「揃いも揃ってクズね」


 あの馬鹿(ビッチ史佳)の浮気相手は一人じゃ無かった。

 確かに最初は史佳にも同情すべき点がある。


 だが恋人が居るのに、男だけの飲み会に女一人参加したのは明らかに史佳の落ち度、自制するのは当然なのに。


 なにより許せないのは男共と謀って政志さんを騙し笑い者にした事だ。

 政志さんの誕生日を悪夢に変えた責任は重いぞ。

 私にはご褒美だったけど。


「政志さんを譲るんじゃなかった」


 昔から感情を出すのが苦手な私は周囲の人間から冷たい人だと思われていた。

 でも政志さんは違った、本当の私を見てくれていたんだ。


 未だに政志の前では素直になれない、天の邪鬼な人間だ。

 だから史佳に先を越されてしまった。


 史佳の告白に政志さんは頷き、付き合う事になった日、私は一応祝福したが、泣きながら家に帰ったのは決して忘れない。


 悔しかった。


 史佳が憎かった。


 アイツは私が政志を好きな事を知っていて奪ったのだ。


「お嬢様」


 怒りに震えている私を山内が呼んだ。


「何かしら?」


「どうやら家を出たようです」


「そう、一人で?」


「そのようです」


 意外と早かったな、まだ2時間しか経ってないわよ。


「男は?」


「どうやら逃げたみたいですね」


「逃げた?」


 なんで逃げる必要が?


「どうやら両親への口裏合わせを頼んで断られた様です」


「...バカ」


 そんな事、クズ野郎がする訳無い。

 未成年に酒を飲ませて輪姦(まわ)す様な奴だぞ?


「いよいよ破滅ね、覚悟なさい」


 私はそっと携帯を取り出す。

 最後の仕上げに取り掛かるのだ。


「もしもし、お父さん?

 うん、みんな集めてくれますか、ええ逃げたバカも一緒に...」


 要件のみを伝え、通話を切る。

 例え様の無い昂りに身体が震える。


「もう少しだからね政志...貴方は私のもの」


 眠る政志の頬に口づけた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 栞屋そちも中々の悪よのう。 しかし、薬は盛るわ、盗聴盗撮紛いするわ、全力でヤル気元々満載だったんだな。 [一言] 何と、ミミズ同学の誰かかと思えば、32歳高卒フリーター。まあ言いたくな…
[良い点] ミミズ男って…… 仮面ライダーの怪人かよ(笑)。 デカい奴にNTRれるのが定番のなろう界隈で、ミミズだからいいってのは珍しいですね。 [一言] 更新ありがとうございます。 紗央莉さんが…
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