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ほんとの『好き』を教えて?  作者: 原田 楓香
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9.  つき合ってるの?


 「ねえ。もしかして、みなみ、想太くんとつき合ってるの?」

 

舞台の翌日、掃除の時間に、ナナセが言った。ちょうど周りに人がいないタイミングを見計らって。

 「え?! な、何それ?」

 私は、びっくりして、思わず大きい声が出た。


し~っと、口の前に人差指を当てて、ナナセが言った。

 「昨日見たのよ。あんたと、想太君が、劇場のホールで会話してるところ」

 「え、ま、まさか、ナナセも、観に行ってたの?」

 

(恥ずかしい、めちゃくちゃ泣いてるところ見られたかも)

 「うん。お姉ちゃんと2人でね。で、なんか、めっちゃ可愛くてカッコいい男の子がいる、って、お姉ちゃんが言うから、そっち見たら、想太くんと、みなみがいてさ」

 「そ、そうだったんだ。……声、かけてくれたらよかったのに」

 私が、そう言うと、

 「かけようと思ったわよ。だから、すぐ近くまで行ってさ。そしたら……」

 「……会話、聞いた?」

 「きらいにならないで、ってやつ? でもって、絶対、きらいになれへん、ってやつ? 」

 

 しっかり聞かれてた……。

 ほっぺたが熱くなる。

 「いや、あれは、その場の勢いって言うか、なんていうか」

 「ふ~ん。でも、あれって、つき合ってる人たちの会話じゃない? みなみは、ワンワン泣いてるし、2人、めっちゃ熱い雰囲気だし、で、声なんかかけられなかったよ」

 「そうだったんだ……」

 

 「ちょっと、ちゃんと聞かせなさいよ。あれは一体何だったの?」

 ナナセが、じろりとにらんでくる。

 「ファンクラブ会長としては、見過ごせないから」


 そこで、私は、昨日、一緒に舞台を見に行ったいきさつから、舞台に夢中になって泣きまくったこと、なだめるために想太があんな風に言ってくれただけなのだと、話した。

 「つき合ってるとか、それは、ない。そんな風に言われたこともないし。幼なじみのポジションから、いまだ、昇格したことはないよ、残念ながら」

 「そうなの? まあ、私は、ファンクラブ会長とはいっても、推しがいる気分を楽しみたい派だからいいけど、他の会長たちの中には、ガチで想太くんに恋してる子たちもいるから、気をつけなよ」

 「う、うん」

 「でも、なんか、昨日の想太くんのセリフ、かっこよかったわ~。ほら、『オレやったら、あんなふうに、別れへん。絶対、もう一回一緒に笑えるようになるように、がんばる。1人で彼女を泣かせたままにせえへん』って。ちょっとドラマチックで。あと、10年後くらいに聞きたい気がしたわ」

 ナナセは、笑いながら、ホウキを動かし始めた。




 昨日、あのあと、なかなか泣き止まない私を、なだめるように、想太はそっと背中をとんとんしてくれた。大丈夫大丈夫。そう言いながら。

 そこへ、想太のお母さんが、劇中に使用された曲の、ピアノ譜を買ってきてくれて、

 「みなみちゃん、これ、おみやげ。さっき、楽譜欲しいって言ってたでしょう?」

そう言って、にっこり笑いかけてくれた。ひまわりみたいな明るい笑顔で、心に光が差す。

 「お、さすが、かあちゃん。オレの分もある?」

 「あるよ」

 「やったあ。 なあ、みなみ。これにのってる曲、1つずつ弾けるように練習していって、今度、一緒に弾こう」

 想太が私の顔をのぞきこんで、笑顔で提案する。

 「う、うん」

 「ほら、行こか」

 想太の笑顔が眩しい。


 帰りの電車の中では、すっかり、私の涙も収まって、3人で楽譜を見ながら、この曲のこのフレーズがいいよね、とか盛り上がった。

 家まで送り届けてもらい、想太のお母さんと私のお母さんが、話をしている間、私と想太は、楽譜集の中の1番目の曲をいつまでに弾けるようになるか、約束をした。

 そして、夜、ベッドの上で、私は、想太の言葉を思い返していた。

 『絶対。何があっても、オレ、みなみのこと、きらいになんかなれへん』


『きらいになれへん』ってことは、今、『好き』ってことでもあるよね?

 想太は、私のことが好き、ってこと? でも、その好きは、どういう好きなんだろう?

 幼なじみとして?

 1人の女の子として?

 そのへんが、よくわからない。

 私自身の好きが、ほんとなのかどうか、という問題もあるけど、想太の好きも、どうなんだろう?


 


 昨日の夜から、頭の中にぐるぐるしている疑問を、ぼんやり考えていると、ナナセが言った。

 「……なんか、ぐるぐる考えてるみたいだけど。とりあえず、今はそうじ! でもって、すごく素敵な舞台だったから、あとで、舞台の話も、こっそりしようよ」

「うん。そうだね」

私は、ホウキをにぎり直す。




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