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ほんとの『好き』を教えて?  作者: 原田 楓香
29/37

29.  伝われ~!


「想太。すごいね。よかったね」

 私は、頬をピンク色にして、目をキラキラさせている想太を見つめて言った。

 想太があまりにきれいで、輝いていて、なんだかうまく言葉が出てこない。

 目の前にいるのに、なんだか今にも走っていってしまいそうな気がして。背中に透明な羽まで見えるような気がして。

「うん。嬉しかった。でも、まだ、合格なんかどうかもわかれへんねんなぁ……」

「でも、オーディションの日と、その次の、今日のライブにも呼ばれたんでしょう? やっぱり、合格じゃないの?」

「そうかなぁ。でも、まさか今日も行けるとは思ってへんかったからびっくりした」

 琉生くんと一緒に帰っている途中に電話があって、「明日も来れる? 」と聞かれたのだそうだ。もちろん、琉生くんも。


 オーディションの日、一緒に初舞台を踏んだメンバーのうち11人が、ライブ2日目にも来ていたらしい。来ていなかった人たちがどうしたのかは、わからないけど、たぶん、初日の舞台もオーディションの一部だとすると、そこでまた、ふるいにかけられたのかもしれない。めちゃくちゃ厳しい世界なんだ……。ため息が出そうになる。

でも、目の前の想太は、ニコニコしている。


「厳しい世界だね。……緊張するね」 ため息交じりに私が言うと、

「うん。たしかに。でもさ、歌って踊る自分たちも人間で、それを聞いて見て楽しんでくれるお客さんたちも人間や、って思ったら、なんかな、うまく言われへんねんけど。お互いの気持ちがつながって、一緒に楽しめたらええな、って。きっと、思いは伝わるって、そんな気がしてさ。歌うときも踊るときも、緊張するより、気持ちが前に、お客さんの方に向かって飛んでいく感じで……。一緒に楽しもうね~って、わくわくするねん」

「そうなんだ……」

「目の前にいる人が笑顔になったら、よっしゃ! 伝わった!って、気がして」

 

 緊張してカチコチになってしまう私とは大ちがいだ。気持ちが前に飛んでいく、と言う想太とちがい、私は、きっと自分にばかり気持ちが向いているのかもしれない。自分のことしか見ていないから、こんなに緊張するのかも……。


「想太は、きっと、アイドル、向いてるね」

「そうかな?」

「うん。きっと向いてる。ステキなアイドルになれる」


 ほほ笑んだ想太が、プリンのフタを開ける。そして、あっという間に1個を平らげる。すかさず、私は、2個目を献上する。

「え? またもらってええの? 嬉しい。ありがとう。でも、みなみの分……」

「大丈夫。今日は最初っから3個持ってきたんだよ。だから、あともう1個ある。あ。これは、私のだからね。あ~げない」

 3個、のところで、一瞬顔を輝かせた想太に、私は軽く舌を出して笑いかける。

「……そっか、残念。さすがに3個はな。でも、いつもありがとう。なんか、このプリン、オレにとって、ごほうびプリンやな。これを楽しみに、がんばろって思うわ」


 想太は2個目のプリンも、幸せそうな笑顔でペロリと食べてしまう。ほんとは、3個あげてもいいけど、でも食べ過ぎてもありがたみがなくなるかな、と思いつつ、私は自分のを食べる。

 最後の一口をすくったところで、想太の視線を感じた。

 先に食べ終わっている想太は、テーブルに肘をつき、組み合わせた両手の上に、ちょこんとアゴをのせて、こちらを見ている。

「最後の一口」

 うらやましそうに言う。

「ふふ。いいだろ」

「うん」

「いる?」

「いるいる」

「じゃ、あ~ん」

 私が、最後の一口を乗せたスプーンを差し出すと、

 あ~ん、と素直に想太が口を開けた。ヒヨコみたい。いや、ひな鳥? 可愛いすぎ。

 口のそばまで行って、一瞬迷う。

「やっぱ、や~めたっ」

 最後の一口は、私の口の中に収まった。

「あ。な~んや。期待させといて~。ずる~」

 想太がぼやいている。

「ふふん。残念でした~。ああ、美味しかった。最後の一口」

「うう。でも、また、がんばったら、ごほうびプリン、な?」

 想太がねだるように言う。大きな薄茶の瞳の前で、長い睫毛が上下する。

「しょうがないなぁ。また、今度ね」

「やったあ~」 笑顔が輝く。

 

 可愛いすぎるよ。想太。

 やっぱ、大好きだよ、想太。

 想いがあふれてきて、私は、一瞬泣きそうになる。


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