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ほんとの『好き』を教えて?  作者: 原田 楓香
24/37

24.  前進


「オーディションの連絡、来てん」

 お昼の放送当番で、放送室に2人でいるとき、想太が言った。


 人命救助で、オーディションのチャンスを逃した想太は、あらためて、事務所に履歴書を送って、再度連絡が来るのを待っていた。

「よかったね! 想太」

「うん。今度は、何があっても大丈夫なくらい、思いっきり早く行くわ。そんで、ぜったい受ける」

 想太は、笑いながらも、力を込めて言う。

 『何があっても大丈夫なくらい』ということは、また同じような場面に出くわしたら、同じように人命救助する気か?……想太ってば。



 数日前に、ミヤちゃんやナナセ、サトミちゃんとおしゃべりしているときに、

「履歴書送っても、ずっと待ちぼうけになることもあるらしいよ。オーディションの日時は、公表されてないから、向こうからの連絡を待つしかないんだって」

 ナナセがそう言っていた。

「だから、この前のオーディションは、実はものすごく大きなチャンスだったんだよ。もしかしたら、もう二度と呼んでもらえない、そんな可能性だってあるみたい」

 ナナセが、雑誌やネットのいろんな記事を読んで仕入れた情報を話してくれた。


「そうだったんだ……。想太は、何度でもチャレンジするから大丈夫やって、笑ってたけど。ほんとは、めっちゃ不安なのかもしれないね」

「うん。でも、何度でもやるって、その気持ちも大事なんだよ、きっと」

 ミヤちゃんが言い、

「オーディション、また連絡来ますように」

 サトミちゃんも、手を合わせて祈るように言った。

 いつのまにか、想太の内緒の夢は、少しずつ、応援する人が増えつつある。


 みんな、想太が、目指す夢のために、一生懸命努力していることを知っているから、いくらでも応援したい、そんな気持ちになっている。

 きっと、このさき、どんどんそんな人が増えていくんだろうな。

 私1人分の応援ではなく、数え切れないくらいたくさんの人の応援を受けながら、想太は進んでいくんだな、きっと。


 そんなことを一瞬考えていると、想太が言った。

「今度の土曜日。今度は、NIGHT & DAYのアリーナツアーのライブ会場でのオーディションやねん」

 NIGHT & DAYというのは、EMエンタテインメントで、今人気上昇中のグループだ。うちのクラスにも、ファンがいる。この間、ライブチケット当たったって大喜びしてたっけ。人気のあるグループは、ファンクラブに入っていても、なかなかチケットが取れないんだそうだ。


「それって、同時にライブもオーディションもやる、ってこと?」

「いや、さすがに、同時進行ではないと思うけど。もしかしたら、1次審査のあと、ライブに出るのが二次審査とかかもしれへん」

「ええ、すごい! そしたら、いきなり舞台に出られるかも、ってこと?」

「出たとしても、アリーナの外周の端っこのほうやと思うけどな」

「そうか。そうやって、舞台度胸とかも試すってことなのかな」

「そうかも」

「……あ。曲、終わる」

 ちょうど、今まさに流していたのが、NIGHT & DAYの曲だった。

 想太がマイクに向かって、なめらかに話し始める。

「NIGHT & DAYの『新しい旅立ち』、お聴きいただきました。続いては……」


 

 そして、土曜日。

 想太は、連絡された時間より、はるかに早い時間に家を出て、オーディションのあるライブ会場に向かった。

 私は、マンションのエレベーターホールで想太を待って、下のロビーまで一緒に降り、想太を見送った。

 たぶん、今頃、ミヤちゃんやナナセ、サトミちゃんからの応援メッセージも、彼は受け取ってるだろう。

 今回は、心配してくれていた彼女たちには、オーディションがあることを、想太は話していたのだ。


『想太。 私たちが、ついてるぞ!』

 私は、メッセージと一緒に、小さなパンダたちがラインダンスしながら力一杯ポンポンを振り回す、スタンプを、想太に送った。

 まだ、今まで想太に送ったことのない、新しいスタンプ。

 想太、笑ってくれるかな?



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