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ほんとの『好き』を教えて?  作者: 原田 楓香
19/37

19. 想太の大変だった一日① 出会い


朝。

「ほんとについていかなくて、大丈夫?」

 かあちゃんが言った。

「大丈夫やって。道も分かってるし、心配せんでええよ」

 そんなやりとりをして、想太は家を出た。


 家を出て、電車に乗って、オーディション会場の最寄り駅に着いた。

 会場は、駅から歩いて10分ほどのところにある。

 

 歩道を歩いていると、ななめ前方に、タクシーを拾おうとしているのか、おじさんが道路沿いに立っている。

 酔っているのか貧血か、分からないけど、なんだかふらふらしている。脚に力が入らないのか、足元が心もとない感じだ。

 それでも、必死に車道に身を乗り出しているので、 ついつられて、想太もタクシーが来ないか、道の向こうを伺ってしまう。普通の乗用車は何台も通るけれど、タクシーは通らない。

 そのときだ。

 その男性が、急にくたくたっと全身の力が抜けたように、その場にしゃがみ込んだのだ。そして、そのまま、くずれるように、道に倒れ込んでしまった。


(え、これって、やばいんちゃうん?)

 想太は、あわてておじさんに駆け寄った。周りを見回すが、みんな気づいていないのか急いでいるのか、横をどんどん歩き去って行く。


「大丈夫ですか? 大丈夫ですか?」

 倒れているおじさんの肩をたたきながら、必死で訊く。

 反応はない。 

 呼吸をしているかどうかを確かめようと、鼻と口元に手を近づけてみるけれど、よくわからない。でも、息をしていない気がする。

 スーツの前を開けて、シャツの胸元を開く。胸の動きを見る。上下していないようだ。よくわからないけど、やっぱり呼吸していない感じがする。胸に耳を当てても、鼓動を感じない。

 いや、ドクドクいってる気もするけど、自分の鼓動なのか、相手の鼓動なのか、焦っている自分には、よく分からなくなってくる。


(人工呼吸。心臓マッサージ。え~と。どうするんだっけ)

 つい先週、学校で習ったばかりだ。思い出せ。思い出すんだ、自分。

 想太は、必死で自分を励ます。でも、1人だと、なんだか心細くなってきて、めちゃくちゃ焦る。

(これでええんかな。なんか忘れてへんか、オレ)

 

 そのときだ。

「救急車は呼んだ?」 頭の上から声がした。

「いや、まだ」 

 答えて顔を上げると、想太と同い年くらいの少年が立っている。きりっとほほ笑むと、彼は言った。

「じゃ、僕、かけるね」

「ありがとう。頼む」


 1人、協力者が増えて、気持ちがホッとして、それと同時に、先週の救急救命の授業の記憶がよみがえってくる。

「そや。気道確保。人工呼吸は、感染性の病気などもあり得るから無理にはしなくてもいい。だから、まず心臓マッサージ、やったな」

 思い出して、一生懸命心臓マッサージを始める。

「イチ、ニ、サン、シ、ゴ……・」

 声を出して数えながら、力を加える。何度も繰り返す。すぐに腕がだるくなってくる。でも、まだまだだ。そんなに時間はたっていないし、おじさんの意識も戻っていない。


 しばらくして、スマホで119番への通報をし終えた少年が、想太の横にしゃがんで言った。

「大丈夫? 僕、交代しようか? 腕、けっこうだるくなるでしょ? 交代でやろう」

「ありがとう。そしたら、もう3分ほどしたら、交代してもらってもええかな? 案外、きついわ」

「わかった。この人の家族の連絡先とか、わからないかな」

「さあ、自分も通りすがりで、この人見かけただけやから、わからへん」

「このへんで、AED置いてるところなかったかな」

「う~ん。そやなあ。どうやろ? 公共の建物とかならあるかも」

「あ。この道沿いのすぐ近くに、図書館があった。そこならあるかも」

「ほんま? じゃあ、交代したら、オレ取りに行くわ」

 そう言って顔を上げると、周りには少しずつ人が集まり始めていて、その中の1人の若い女の人が、

「じゃあ、私が、AED借りてくるわ」と言ってくれた。

「ありがとうございます。じゃあ、お願いします」

「よし、そろそろ交代しよう」 

「ありがとう」

 交代して立ち上がり、すっかりだるくなった腕をもみほぐしながら、想太はおじさんの様子を観察する。まだ、意識も呼吸も感じられない。


(思ってたより、きついな。心臓マッサージって……)

 学校の授業でやったときは、全員が練習するので、1人ずつは、ほんとに短い時間だったから、自分でも出来そう、と思ってしまった。でも、実際は、1分でもすごく長く感じる。めちゃくちゃきつい。

(早く救急車来てくれへんかな)

 想太がそう思ったとき、通行人の会話が耳に入った。

「この先の交差点越えたあたりで、事故があって、車が身動きできないんだって」

「ああ、それで、車がずらっと停まってるんだね」




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