作中における伏線や裏設定などを作者が解説
※ご注意
この文章は『写りたがりの幽霊なんて、写真部員の敵でしかない!』の読了後を前提とした、作者による解説特典です。
物語の根幹に関わるネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
作者が作品の解説をするのはヤボかな……と思うんですけど、特典ということで書いてみたいと思います。
乏しい筆力のせいで、読者様に伝わっていない仕掛けがあるかもしれません。思いつくままにつらつらと書いていきますので、そういった仕掛けを楽しんでいただければと思います。
■ユウの正体
この物語の核となっている、写りたがりの幽霊=ユウ。
ユウの正体は、ほぼ美里のお父さんだと思います。思いますというのは、作者も正体がわかっていないからです。
だけど、状況証拠からユウは美里のお父さんである可能性が高いと思います。
証拠A:手の印象
美里が強烈に記憶している父親の手。電車にひかれそうになるところを、助けてくれた手が、「お父さんの手」だと美里は確信しています。
証拠B:ユウの名前とお父さんの名前
ユウという名前は、美里がテキトーにつけたものです。一方、作品の最後の最後に判明するのは、美里のお父さんの名前〈三代川優〉。優は〈ユウ〉とも読めますから、美里は無意識のうちにユウに父親との繋がりを感じ取って、〈ユウ〉と名付けたのかもしれません。
証拠C:ユウのビジュアルとお父さんの若い頃のビジュアル
卒業アルバムの登場によって、ユウと美里のお父さんの若い頃の姿がそっくりであることがわかりました。
証拠D:ユウがちょいちょい古くさいこと、あるいは年長者・保護者的な言動をする
ユウはちょいちょい古くさかったり、大人びた言動をします。
例えば、死に装束から制服への早変わりの時の演出
〈ドロン、という音と煙――ベタな演出……昔の漫画とかにあるようなやつ。
なんか古くさい。〉
また、真也さんに好意を寄せる美里に対して、ユウは渋い顔をします。
ユウも美里のことが好きなのだと匂わせますが、これは娘として好きなわけです。
証拠E:ユウに対する美里の印象
美里は、ユウのことを〈好きだけど、それは兄弟に対するみたいな気持ち〉だと言っています。
これは作者のミスリードで、本当はユウの中に父親の存在を感じ取っているのだと思います。
■買い物デートで真也さんが買ったカメラ
OM-2Nは絞り優先オートなので、あまり失敗しないだろうという美里のチョイス。
あの日、真也さんがバシバシ撮った美里の写真は、ちゃんと写っていました。
その写真を眺めながら、真也さんはため息ばかりの日々を過ごしていたのです。
■買い物デートで真也さんが帰った理由
真也さんへのメッセージは悪友2人からのもの。
デートの様子を教えろ、とかそんな内容。
デートと告白のチャンスを潰された真也さんは、悪友たちに文句を言うために帰ってしまいました。
■ぶっちゃけられた若城さんの思い
若城さんは美里の話すことを真剣に聞いて、半ば以上信じています。それは、自分も人魂を見たことがあるし、美里の言うことを頭ごなしに否定はしたくないからです。
カメラとフィルムを美里から預かった後、あれこれ文献をあさったりするなど、美里に何が起きているのかを真剣に考えて、もしかしたら、そのユウという幽霊は美里のお父さんじゃないのか? という結論に若城さんは至りました。それで、三代川優が写っているはずのアルバムを探し出して、美里に見せることにしたのです。
■交換日記がA5サイズなこと
美里が交換日記用のノートに選んだのは、A5サイズのノートです。ちょっと小さめ。
これは、いざという時にさっと隠しやすいと考えて選びました。
いざという時ってどんな時なのかは、美里にもわかっていません。
■美里のカメラにある名前
火事でひとり助かった美里は、奇跡的に無傷だった父親のカメラを受け取ります。
父親との唯一の物的な絆であるカメラ。
カメラは高価な物なので、誰かに盗られてしまうのではないかと、幼い美里は考えました。
そこで、このカメラが自分のものであるとはっきりさせるために、目立つ場所に釘で自分の名前を彫り込んだのです。
カメラが焼け残ったことが、未来に美里が死なずに済むことにつながっているとも考えられます。
■ユウが消えたわけ
美里が推理した通り、ユウは美里の脳が作り出した幻だったのか、それとも美里の命を救ったことで、ユウの現世での役目は終わったのか。そのあたりは不明です。
だけど、〈見えるから見えている〉。見えていた美里にとって、ユウは確かに存在したのです。
■美里の走る能力
中学校では陸上部だった美里は、走るのが得意だし好きな方です。
憂さ晴らしに毎日のように走っていて、5キロのタイムは30分くらいと、なかなかの速度です。
紗友さんの家から逃走したり、真也さんとの追いかけっこをしたりと、美里の走る能力は作品の重要なキーになっています。
その走る能力は、小学生時代の美里が自転車を買ってもらえなかったという過去に発端があります。
友達の自転車の橫を走って移動する美里の姿を思い浮かべて、ニヤリとしてもらえていたら嬉しいです。
真也さんとの追いかけっこは、駅までは追いつくけど(これは真也さんの美里に対する想いの強さ故です)、プロポーズ後の逃走では真也さんは美里に追いつけません。そもそも走るのが苦手な真也さんですから、美里に追いつけるわけがないのです。
お弁当のシーンで、真也さんが言っています〈すごい! オレなんて運動苦手だから、5キロも走ったら死んじゃうな〉
■悪友二人(まゆげと色メガネ)の奇病
美里から事情を聞いた紗友さんの仕業。
呪いの儀式に使ったのは、マンション掃除の時に買ってきたアルマジロの干物のレプリカ。
■美里の声
普段はオタク風に小声で早口の美里ですが、意外に声量があります。
真也さんへのお礼で思わず大声が出てしまったのは伏線で、その伏線はエピローグの訛りによる凉香の撃退シーンにつながっています。ちなみに、登場する方言は茨城弁です。
■挿絵についての細かいこと
美里の部屋のベッドで、美里の橫にユウが寝そべっている挿絵があります。
よく見ると、シーツの皺が美里のほうにしか描かれていません。
ユウには重さがないので、シーツに皺が寄らないのです。
表紙とラストに使っている絵は、真也さんが構えるカメラのファインダーに写った美里の姿です。美里の周りにある黒枠は、真也さんが写真部に入ってから愛用しているカメラ(OM-4Ti)のファインダー画像になっています。
全体として、真也さんがファインダー越しに被写体である美里を見ている図になっています。
また、撮られている美里が持っているカメラは、オリンパスのOM-10にマニュアルアダプターとワインダー2を装着したマニアックな仕様になっています。これは真也さんのもので、撮影にあたって美里に持たせた小道具です。ストラップはオリンパスのロゴが入ったビンテージものです。
■裏設定 紗友さんの家庭事情
母親が有名占い師で、著書が毎年ベストセラーとなっている。
お金持ちなので、紗友さんは広いマンションを与えられている。
母親とは離れて住んでいて、親子が会う機会はめったに無い。
マンションの掃除の日、モンブランを食べるシーンで紗友さんがつぶやく〈いくらお金があっても、買えないものだってあるんだよ〉
紗友さんは幽霊が“見えない人”だが、呪術関連の才能は本物。
タロットは無名イラストレーターに頼んで描いてもらったオリジナル〈このタロット、波長が合うんだよね〉
スピンオフを書くとしたら、紗友さんとみっこセンパイを中心としたオカケンの話でしょうか。美里もちょっとだけ出る感じにしたいですね。
■このくらいで
細かい点を突っつけば、もっとたくさん出てくると思うのですが、キリがないのでこの辺にしておきます。読んでいただき、ありがとうございました。
まだ話が固まる前の表紙絵です。