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第17話 エピローグ

 プロポーズの動画が拡散したおかげで、私は学校内で一躍時の人となった。


 廊下を歩けば、遠巻きにひそひそ話をされ、あるいは直接冷やかしの言葉をかけられる。

 休み時間になれば、教室でも動画の詳細を根掘り葉掘り訊かれる。

 おかげでクラスメイトの名前と顔は全員、覚えてしまった。

 すくなくとも、真也さんに助けてもらった時のようなピンチには、もう陥らずに済む。


 真也さんと言えば、写真部の副部長として忙しい毎日を送っている。

 騒動のおかげで入部希望者が殺到したので、その相手をしてもらっているのだ。

 私が頼んだわけじゃなくて、自分からやりたいと言ってきた。


 真也さんはカメラにハマったようで、機材をどんどん買い足している。

 いまはOM-4Tiに明るい中望遠レンズが多数。そこにモータードライブを装着し、ポートレイトを撮りまくり。

 主な被写体は私……。

 だって、〈写真部の活動〉として頼まれたら、断れないじゃないか。


挿絵(By みてみん)


 交換日記は、まだ続いている。

 プロポーズの返事は、保留のまま。


   ◇


 真也さんがらみでもうひとつ――


刺草(いらくさ)、もうオレにつきまとわないでくれ。はっきり言って迷惑だ」

 と、真也さんからきっぱりと拒絶された刺草さんだったが、ある日、私に詰め寄ってきた——


「どうやってたぶらかしたか知らないけど、真也があんたみたいな陰キャブスにプロポーズするなんてあり得ないんだから!」

「知らないよ、あっちが勝手にしてきたんだから……私だって迷惑してるの」

「迷惑!? 真也に求婚されて迷惑だなんて! あんた何様のつもり!? とにかく、何もかもあんたのせいだからね! 責任とって真也の前から消えなさいよ! いや、地球上から消えなさいよ!」

「私に死ねってこと?」

「察しがいいわね。そうよ、死んでよ!」

「軽々しく死ねとか……」


 大きく息を吸って、おなかに力を入れて――


「いつまでもごじゃっぺぬかしてっとぶちくらすぞ!」


 周囲の空気がビリ付くほどの大音量。

 叫んだのは、若城さんに教えてもらった方言による脅し文句だ。


「あ、な……なに言って――」


 なじみのない言葉と、とんでもない大声で凄まれて、刺草さんは金魚みたいに口をぱくぱくさせている。

 もう一発カマしてやろう。

 使い慣れてない方言だから、セリフをいちど頭の中で形作ってから――


「あぁ? やんのがこのでれすけ!」

「だ、だから……何言ってるのか――」

「やんのがって聞いてんだよ、あよ!」

「う……ぐっ……」

「やんならまっとこっちさこぉ! あたまかっくらしてやっから!」


 手にしたカメラを頭上に振り上げる。

 こんな金属の塊で殴られたら、ひとたまりもない。


 刺草さんがビクッと身体を震わせ、じりじりと後ずさる。


「うぅ……も、もういいッ」


 涙目になった刺草さんが、私の前から逃げ出した。

 いい気持ち!


   ◇


 真也さんの友達だった2人――〈まゆげ〉と〈色メガネ〉は、原因不明の〈奇病〉で休学中。

 掃除のバイト代をもらいにオカケンの会室を訪ねた折、紗友さんとその話になった。


「――やはりレプリカだと効きがイマイチね」

「何の効きですか?」

「……呪い」


   ◇


 お昼ご飯は相変わらず部室で食べているけど、今はぼっち飯じゃない。

 新入部員の何人かが、私と一緒にお弁当を食べている。


「美里センパイのお弁当、おいしそう」

「自分で作ったんですよね」

「すごい……飾り切りとか、それもうプロじゃないですか」

「えへへ……ありがとう」


 かつらむきができるようになると、包丁の扱いが格段に上手くなる。

 伯母さんからも、


「――これで、いつお嫁に行っても恥ずかしくないわね」


 と、褒められるのは良いのだが……。


「結婚なんてまだ早いですよ……」

「早いことなんてないのよ。美里さん、いい人いるの?」

「へっ……い、い……いないです!」

「あなた奥手なんだから、学生のうちに結婚相手を見つけておきなさい」

「……はぁ」


 ことあるごとに結婚の話をされるので、閉口している。


   ◇


 ユウの姿がフィルムから消えたので――もとから写ってなかったみたいだけど――自信作だったその写真で、コンテストに応募してみた。


 結果は〈佳作〉


 ひそかにもっと上を目指してたけど、現実はそう甘くない。

 寸評に、〈将来性がある〉とか、〈他の作品も見てみたい〉とあったのが、何よりも嬉しかった。

 これで腹は決まった。


「伯父さん……私、カメラマンになりたいので、写真の専門学校へ行こうと思ってるんです」


 ある日、夕食の席で切り出すと、


「そうか、好きにしなさい。学費のことは積み立ててあるから心配しなくてもいい」

「え……」


 学費とか、この家を出た後の生活費については、自分で何とかしようと思ってたので、びっくりした。


「君を引き取ったときから、少しずつ積み立ててたんだよ」

「そう……だったんですか」

「美里さん、専門学校よりも大学に行った方がいいんじゃないの? 結婚相手だって、大学で見つけた方が――」

「押しつけは良くない。美里の人生なんだから、美里が決めるべきだ」

「でも、写真家なんて不安定な仕事……心配だわ」

「心配……してくれるんですか」

「あたりまえでしょ、育ての親なんだから」

「う……あ、ありがとうございます」

「あらあら、何も泣くことないのに」

「だ、だって……」


 その日は、ずっと泣き通しだった。


   ◇


 専門学校を選ぶにあたって、若城さんの意見を聞こうと、ワカギカメラを訪ねた。


「美里ちゃん、いいところに来た……これ見てよ」


 机の上に広げられたのは、古い卒業アルバム。

 私が通っている高校のものだ。


「ずいぶん前の卒業アルバムなんだけどね……うちの店で撮ったもので、オヤジが保管してたものを倉庫で見つけたんだ」

「これが何か……」

「ここを見て」


 若城さんが指差した写真を見ると――


「あっ……」


 そこに写っていたのは、ユウの姿。


「どうしてユウが……若城さん、この写真は――」

「やっぱり……これ、美里ちゃんのお父さんだよ」

「え……お、お父さん……」


 写真の下に書かれている名前をみると、〈三代川(みよかわ) (まさる)〉とある。

 お父さんの名前だった。

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