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7.無名の世界。


朝、鶏の鳴く声で目が覚めた。

見慣れない天井。


そうだ、ここ異世界だった。

それにしても昨日は濃すぎる一日だったな。

身体中が痛い。筋肉痛だ。

若返ったのに全然ダメだな。


朝ごはんは…。ないんだったな…。

目が覚めてすぐだけどお腹空いたかも。

普段は社畜で寝不足で朝お腹すかないんだけど。

これは良質な睡眠と若返り効果か。


布団の中でウゴウゴしてても仕方ないし、起きるか。

そういえば何かいい匂いがするな。


『起きたかの。さっそく朝餉(あさげ)にするのじゃ。』


「あれ?朝ご飯あるんだね。1泊2食付きって昼と夜だと思ってたよ。」


旅館でも朝ご飯と夜ご飯のプランも多いな。

勘違い勘違い。


『こちらの世界は遅めの朝餉(あさげ)と早めの夕餉(ゆうげ)のニ食が基本なのじゃ。国によっては一日三食や一食の所もあるみたいじゃがな。』


基本が1日2食だった。


「そうなんだねー。1日1食だとお腹ペコペコになりそうだよ。あっ。クロちゃん先生!国があるんですね。この村も日本みたいな国の一部なんですか?」


『其れは続けるんじゃな…。吾も楽しかったから、まあ良いかの…。朝餉(あさげ)を食べたらこの世界の国についての講義をするかの。』


「はい!今日もよろしくお願いします!もうお腹ペコペコです!」


『ふふっ。腹がすく事は良い事じゃ。昼は村に出て、夜は昨日の続きをするのじゃ。では、いただこうかの。』


「いただきます!」


朝ご飯はお米、味噌スープ(?)、干物に納豆。

ふむふむ。干物もあれば発酵の技術もあるのか、冷蔵の技術はもしかしたらないのかな?

少ないサンプルの中分析してみる。

当然サンプル数も少なく、分析力もあるわけではないので答えが出るわけではない。

考えてみただけだ。


健康的な食事だな。

良い睡眠に健康的な食事。

いいね。


……


「ごちそうさまでした。」


『ごちそうさま。では此の国について説明をするかの。』


「お願いします。」


『此の国の名前は「()(もと)大和国(やまとくに)」と呼ばれる連邦国じゃ。一般的には「()(もと)」や、「大和(やまと)」と省略することが多いの。字は()の様に書くのじゃ。国土はかなり大きいが、支配領域は()れ程でもないの。

この連邦国は貴族、武家、術師の名門が治める周辺六国、(すめらぎ)が治めると言われている中央の「(こう)国」の七ケ国で形成される。周辺六国は加茂(かも)家が治める「艮国(うしとらのくに)」、芦屋(あしや)家の「幽国(ゆうのくに)」、渡辺(わたなべ)家の「武国(ぶのくに)坂上(さかのうえ)家の「雅国(みやびのくに)」、橘家の「唐国(からのくに)」、藤原(ふじわら)家の「彩国(さいのくに)」からなるのじゃ。今はこの辺りじゃの。』


クロちゃんが紙にさらさらと地図の様に国名を書き、丸で囲んでいき、最後に「唐国」の南東の端辺りを指した。

()(もと)大和(やまと)


「日本みたいな名前だね。」


『そうじゃ。日本の名前が固定していない昔に呼ばれていたものの一つじゃ。この国に住んでいるのは千年程前に八十神(やそがみ)が日本から攫ってきた者の子孫がほとんどなのじゃ。故郷を(しの)び、忘れないようにと国名としたのじゃな。』


何だか寂しいな。

帰りたくても帰れなかったんだね。

私も帰れないけど。


「だから家も名前も日本みたいなんだね。でも、髪の毛が紺だったり、濃い茶色だったりカラフルなのはなんでなの?あ、野菜の色もカラフル!」


『人の髪には霊力が宿るのじゃ。溜められた霊力の量や質により、様々な色をしておるのじゃろう。瑶子の髪も同じことじゃぞ?野菜の色については吾も何故かは知らぬ。』


え?そうなの?


「私の髪と目が他の人と違うのも霊力のせいなの?母の遺伝ではないの?」


『髪は違うの。確実に強い霊力が宿っておるのじゃ。目は受け継いだものじゃろう。』


そうなんだー。

母は金髪に金の瞳だったから、黒髪黒目の父との遺伝子が突然変異したと思ってたよ。


「私強い霊力があるのに弱々なんだね。世知辛い。そういえば八十神やそがみ様ってよく聞くけど、どんな神様なの?悪いことたくさんしてるし、邪神的な?」


『強さに関しては今後の努力次第じゃ。改めて講義をしていくから頑張るのじゃ。八十神(やそがみ)か…。まず八十神(やそがみ)とは沢山の神という意味で、一柱の神ではない。個として真名も名も持ち合わせはおらぬが、八十神(やそがみ)という総称で歴史に残っておるため、それなりに力を持っておるのじゃ。残念なことに彼奴等(あやつら)は邪神ではないし邪気すら(まと)っておらぬ。恐らく楽しむ為にやっておるだけではないかの。多くの神は人とは全く違う考え方をするのじゃ、吾は人を長く見てきた(ゆえ)、人に近しい考え方をするがの。神は其々(それぞれ)其々(それぞれ)の価値観で動くので、考えを理解する事すら難しいのじゃ。』


な、なんて迷惑な…。


八十神やそがみ様がこの世界を放棄したって言ってたと思うけど、飽きちゃったの?」


『吾にも分からぬのじゃ…。彼奴等(あやつら)は世界を中途半端に創って、突然管理を辞めてしまったのじゃ。だが、どうやら未だに(さら)ってきた者を時折放り込んでいっておる様なのじゃが…。何を企んでおるのか…。吾が仕上げねば、とうの昔に世界は崩壊しておるいうのに…。』


クロちゃんいなかったら、この世界なくなってたんだ…。


「とっても迷惑な神様達だよ。つまりはクロちゃんが世界を仕上げて(?)世界を救ったということだね!」


皆の者、黒乃様を讃えよ。

世界の救世主様じゃ。


『いいや、救えておらぬのじゃ…。幾許(いくばく)かの延命が出来ただけなのじゃ。管理する神がおらねば国は荒れ、いずれ世界は崩壊するのじゃ。』


荒れるの?崩壊するの?


「あっ!でもでも、クロちゃんが戻ったから大丈夫になったって事だよね!」


『其れも残念ながら違うのじゃ。真名を(もろ)うたが、管理出来る程、力は戻っておらぬ。名持ちの神になったお陰で長い時を経れば力も戻ろうが、崩壊には間に合わぬ。』


この世界崩壊一直線?

この世界来たばかりだけど、いきなり世界の危機?


「やっぱり崩壊しちゃうの?私達も死んじゃうの?」


『其れは安心せよ。荒廃は非道くなって行くが、崩壊は少なくとも数百年は先じゃ。其れ迄に吾が間に合わぬというだけなのじゃ。じゃが、吾は任された世界を何とかしたいのじゃ。実は瑶子にも協力して欲しい事があるのじゃ。』


どなたに任されたか知らないけど、聞く限りクロちゃん一柱(ひとり)だけだよね?

世界ワンオペで任されるの?

クロちゃん何だか私と同じ社畜の香りがするよ?

もしや神様にも社畜の文化があるのですか?


「私に出来ることなら協力するよ!何をすればいいの?」


世界の救世主瑶子降臨かもしれない。


()うた時から思うておったが、少々瑶子は警戒心が足りぬの。言葉は全て信じるし、吾とも出会ってまだ二日じゃ。出会ってすぐの人にお願いされれば、普通警戒するのじゃ。吾としては有り難いが、今後が心配なのじゃ。』


「え?クロちゃん人じゃなくて神様だよ?それに私、人を見る目はすっごくあるんだ!クロちゃんの言葉は信用して良いって直感で分かるんだよ。女のカンというやつですな。」


『目の力があるんじゃろうが、やはりちと素直過ぎるの。吾が頑張るしかないかの…。』


クロちゃんが何か呟いている。

褒められている気がする。


なでなで

何故かクロちゃんに頭を撫でられた。

気持ちいい。


『協力して欲しい事はじゃな、八十神(やそがみ)共に盗み、隠された神器(じんぎ)を一緒に探して欲しいのじゃ。』


八十神(やそがみ)様、本当にロクな事しないな。


「神器って、テレビで天皇様のお供の人が運んでたのだね。」


『其れは日本の三種の神器じゃな。其れとは別の物なのじゃが、必要な神器は「 天沼矛(あめのぬぼこ)」「無名の国の設計図」「神代(かみよ)勾玉(まがたま)」の三つじゃ。』


説明しながら矛や、地図の様な形の設計図、勾玉の絵を描いていく。


「こんな感じの物なんだね。よーし、私も一緒に頑張って探すよー。でも、どうやって探すのこれを持って聞き込み捜査?足で稼ぐ的な?」


探偵瑶子誕生。

探偵の帽子と煙管(きせる)がほしいな。


『そうじゃの。其れしか無いかも知れぬ。上手く隠された所為(せい)で今の吾では視えぬのじゃ。全盛期なら何処(どこ)に隠そうとも探してみせるのじゃが。』


「そういえばクロちゃん見る事が得意って言ってたけど、何がどういう風に見えるの?千里眼的な?遠くが見えるの?」


『千里眼等良く知っておるの。全盛期の頃ならば、全ての世界の何処でも視る事が出来たのじゃ。見え方は視たい物を望遠鏡で視るような感じじゃ。過去の事も殆ど視えたし、未来の予知も一部は出来たのじゃ。』


「すごいね!ハル君やお父さん達の事も見えるの?」


『今は視えぬのじゃ。二里先を視るのが精々じゃな。縁の繋がっている者は視える事もあるが、自由に視る事は出来ぬのじゃ。過去や未来等はほぼ視えぬのじゃ。瑶子の力が強まれば、吾の力も戻り、春愛希達の事も(いず)れは視えようぞ。』


残念。

元気かどうかだけでも確認したかったけど、やっぱり無理だよね。


「それは私も頑張らないとだね。そういえば私、今コンタクトつけてないけど、よく見える。クロちゃんの加護?というやつですか?」


『加護の所為だけではないのじゃが、加護の影響は大きいの。慣れてくれば目に映る範囲以外も視えるようになってくるはずじゃ。』


あ、若返ったのも関係あるかな。

疲れ目でどんどん視力悪くなってたしね。

鳥みたいな視点で見れるようになったりして。

ちょっと楽しみ。


「練習して、必ずマスターするよ!目指せ鳥視点。」


『ふふっ。向上心がある事は良い事じゃ。では、そろそろ出ようかの。今日は村を見てまわるのじゃ。買い物の続きもしようかの。』


「シャンプーとリンス作りたり!材料と道具がほしい!」


『何!瑶子作れるのか!其れは最優先なのじゃ!先に買い物に行くのじゃ』


『そうしましょー!』


いざ、サラツヤ髪へ。



☆☆☆☆☆※※※※※※※※※☆☆☆☆☆

ストーリー外メモ


八十神(やそがみ)」は「古事記(こじき)」や「出雲国風土記(いずものくにふどき)」等の神話に登場します。

たくさんの神々という意味合いで名前や具体的な数を表す訳ではありません。

「古事記」では「大穴牟遅神(オオアナムチノカミ)」(「大国主命(オオクニヌシノミコト)」のことですね)の兄弟達とし描かれ、色々な嫌がらせをします。

因幡の白兎にケガを海水浸かって風に当たると良いとか嘘を付いて虐めたり(痛いですよね?)、大国主命へ焼いた大岩を落として殺したり(ひどくない?)、生きかえった大国主命をまた別の方法で殺したり(殺し過ぎじゃない?)、ロクでもない神様達ですね。

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