6.今後の目標。
多恵子さんがお重と汁椀を持ってきてくれた。
和の中に異国を感じる。不思議だ。
ご飯、カラフルな具の味噌スープ(?)、猪肉の生姜焼き、カラフルな野菜のサラダ。
ご飯は非常に美味しかった。
お米、醤油、味噌があるのが分かって少し安心したよ。
やっぱり郷土の味があると落ち着くね。
部屋着は完全に浴衣だった。
クロちゃんは小さいが、スタイルが良いのでこれはこれで色っぽい。似たような形状なのにイメージが全然違う。
ゴクリッ。なんてね。
若返ったし、もしかしたら私もいい感じかもしれない。
ふふん。
『意識がどこかに旅立っている所悪いが、色々と話し合っておかないといけないことも多いので、戻って来るのじゃ。』
眠たいが、確かに話しあっておいた方が良いだろう。
気合を入れ直そう。
「そうだね。聞きたいこともたくさんあるのでよろしくお願いします。」
『うむ。まず、じゃが。瑶子の目標の確認をしておこうと思うの。瑶子は「春愛希との再開」か「元の世界に戻る」で良かったかの?』
「うん!ハル君に会いたい!最悪の場合でも出来れば元気でいるって事を伝えたい。優しい子だから、すごく心配していると思うんだ。」
『親御さんや恋人、友人は良いのかの?』
「欲を言えばお父さんや友達にも会いたいけど、優先はハルくんです。ハルくんにはもちろん会いたいんだけど、ただ会いたいって言うよりもすごく心配なの。お姉ちゃんがいなくなって生きていけるかどうか…。心配過ぎるの。…ちなみに恋人はいません………。(ボソッ)」
ハル君って儚い雰囲気あるし、たまに生きること自体には執着していないように見えることがあるんだよね…。
それとですね。社畜には恋人なんで出来る機会も時間もありません!
残念ながら、学生時代もいませんでしたが!
幼稚園の頃はいたのよ?実は。
髪と目の色のせいか男女ともに嫌厭されることが多かったのよね。
『真面目にちょっと阿呆な事を言っておるが、まあ良いかの…。あまり心配しなくても大丈夫だと思うのじゃが、行動の原動力となるならそれでも良いのじゃ。』
ハルくんは超お姉ちゃんっ子なのです。
最近は一人暮らししてあまり会えてないけど、中学生になるくらいまではベッタリだったのですよ。
『で、じゃ。こちらの世界で会うにしろ、元の世界に戻るにしろ、まずやらなければならないことは変わらぬ。力を得ることと、死なぬことじゃ。』
「死なないのは当然として、力を得るってどうしたらいいの?筋トレ…とか?」
マッスル瑶子になってしまう。
『筋肉を鍛えることも悪いことでは無いが、それだけでは世界は渡れぬし、生き残ることも難しいかも知れぬのじゃ。』
それはそうだよね。筋トレして別世界に行けたら大変だ。
「何をすれば良いか全然分かりません。クロちゃん先生教えてください。」
おもむろにクロちゃんが紙と黒いチョーク様な物を取り出した。
『うむ、良かろう。黒乃先生が教えて進ぜよう。これから瑶子が力を得る方法は「化け物を退治する」、「神や仏の加護を得る」、「信仰を集める」。この3つなのじゃ!』
説明しながら、サラサラと鬼や神仏の絵を描いていく。
クロちゃんノリ良いし、絵上手いな!
多分順番に聞かないと分からなくなっちゃうから、1つずつ聞いていこう。
「はい。クロちゃん先生、質問です!化け物を退治するとどうして力が得られるのですか?そもそも私達に化け物が退治できるのですか?豆鬼でも雑魚と書いて強敵と読むんですよね?」
『良い質問じゃな。今の吾々にとっては豆鬼と言えど雑魚である。だが、倒す方法はあるのじゃ。長くなるのでそれは後ほど説明しようぞ。まず、豆鬼が退治された時を思い出してみよ。消えてなくなり、何も残らなかったであろう?』
「うん。形が崩れて消えて行っちゃった。あの時は動転してたけど、今考えるとびっくりだよね。」
『そうじゃろうな。鬼、妖どもは概念が妖気を纏い、魂を持ったものなのじゃ。実体はないので、死ぬと何も残らぬ。魂は輪廻転生をせず漂い、最後には根源へと還る。その際に倒した者に魂の一部が吸収され力を得ることになるのじゃ。』
「魂を吸収って…。魂自体も良く分かってないんだけど…。吸収しちゃって大丈夫なの?混じっちゃったら違う人になっちゃうんじゃないの?」
『魂が混じるか。面白い事を考えるの。安心するが良い。確かに魂が混じり合えば別人になる事もあるかも知れぬが、魂の吸収とは人が食物を食べるのと似たようなものじゃ。牛をたくさん食べても牛にはならぬであろう?魂の養分のようなものじゃの。』
「なるほど。分かりやすいです、先生。」
『それとじゃな、例外として人や動物が妖気を纏った者もおるが、強力な個体に成り易いので、吾々はとにかくすぐに逃げた方が良いじゃろうな。』
「分かりました!!では先生、この神様や仏様の加護とはなんですか?私とクロちゃんとの関係みたいな感じですか?」
『うむ。またしても良い質問じゃの。加護とは神仏等の高位の存在が能力の一端を貸し与えることなのじゃ。加護は攻撃だったり、守りだったり、癒やしだったりとその存在の能力毎に違う。中には運が良くなるとか賢くなる等の漠然とした加護もあるの。吾は瑶子に加護を与えてはおるが、関係としてはもっと強い繋がりがあるの。』
賢くなるとかいいな。
賢者瑶子だ。
「先生。神様や仏様の加護を得るのはどうすれば良いですか?お経を唱えるとかですか?」
『非常に惜しいの。お経を唱えても良いが、祈りでも良い。神や仏に願いが届けば良いのじゃ。しかし、聞き届けるかどうかは神仏次第じゃから加護がもらえるかどうかは不確定なのじゃ。そして、最初に大事な事は神や仏へと声が届く所を探さねばならぬ。この世界は神仏がいる世界とは遠い世界なので、普通に願っても聞こえぬのじゃ。』
「声が聞こえる場所を探して、祈りを捧げて、神様仏様がOKだったら加護がもらえるということですね!ちなみに声が聞こえる場所ってどういう所なんですか?神社とかですか?」
『正解じゃ!!瑶子はやれば出来る子なのじゃ。神社、寺、祠や石像など神仏が祀られており、吾が視て繋がりが感じられる場所ならば声が届けられるのじゃ。』
褒められながら質問するの楽しいな。
私はやれば出来る子、YDKなのよ。
「先生!この信仰を集めるとはどういうことですか?新興宗教を立ち上げて、信者を集めるということですか?」
黒乃神様を崇め奉る黒乃教の爆誕かもしれない。
『天才じゃな!それが出来るのが理想的なのじゃ。たくさんの信者と強い信仰があれば、神の力は強くなるのじゃ。しかし、それが理想的なのじゃがのう…。吾は幾度となく挑戦したが、成功した事は一度もないのじゃ。正直向いてないのじゃ…。と言うことで、とりあえずは人の感謝や賞賛を集めるという方向性で行きたい思うのじゃ。信者がいるという事には当然及ばぬが、想いの強さや数に応じて力には出来るのじゃ。』
確かに信者を集めるって難しそうだな。
下手をしたら、いや下手をしなくても
「信者になりませんか?」
「あんた頭大丈夫か?」
ってなるよな。
クロちゃんもそうだけど私も向いてなさそうだよ。
クロちゃんはどうやってチャレンジしたんだろう…。ちょっと気になるな。
「では先生。一日一善的なことをしてクロちゃんに感謝の声を集めましょう、という方針でよろしいでしょうか?」
『うむ、よろしい。じゃが、対象は吾でも瑶子でもどちらでも良いのじゃ。瑶子は吾に真名を与えた事により、吾にも加護を与えている状態でもあるのじゃ。お互いの加護が作用する事により、瑶子も神に準じた存在、亜神になっているとも言える状態なのじゃ。』
何だか強そうだ。
女神様(?)瑶子爆誕!
『亜神と言っても強くなった訳ではないから、気を付けるのじゃぞ。』
「はい!分かりました。気を付けます!とりあえず感謝の声を集めるのは私でも良くて、一緒に頑張るということですね!」
『そうじゃ。頑張るのじゃ。本当は信者は欲しいのじゃが、無い物ねだりをしても始まらぬからのう…。』
よーし。
大体のことは、ふわっとわかったぞ!
聞きたいことはまだたくさんあるけど…。
あるけど…。
超…眠い…。
ふわゎあ
あくびが出てきた。
「先生…。睡魔という強敵が突然襲ってきました…。」
『そうじゃの。もう遅いし、かなり疲れておるからの。これで第一回目の講義を終了するのじゃ。続きはまた明日の夜にするのじゃ。』
「はい…。クロちゃん…。おやすみなさい…。」
…
言い終えた途端、私の意識はそこで途切れた。
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ストーリー外メモ
仏教の教えの中に「輪廻転生」「六道輪廻」があります。
天道
人間道
修羅道
畜生道
餓鬼道
地獄道
死ぬと生前の行いにより、六道の内どれかに転生するんですね。
「天道」は六道の中で一番マシで享楽なか楽しく過ごせる世界です。ただ、亡くなる時に苦しみが溢れ出すとか、他の五道に転がり落ちるとか手放しで喜べる世界ではありません。
「人間道」は今の私達の世界ですね。四苦八苦、苦しみに溢れている世界だとされています。
「修羅道」は争いの絶えない世界。ずっと戦いつづけてます。
「畜生道」は獣、鳥、虫などの畜生の世界。苦しみながら死んでいきます。
「餓鬼道」は常に餓えています。お腹がぷっくり膨れた鬼の絵は見たことがありますか?ずっとそんな感じの世界です。
「地獄道」は一番イメージしやすい、地獄ですね。罪を償わされます。釜茹でされたり、鬼に追われたり、えらいこっちゃです。
原始仏教ではそんな苦しみしかない世界から、修行をし、悟りを開いて輪廻の輪から外れる「解脱」を目指すんですね。
現代日本で暮らしていると大半の方が、苦しい事もあれば楽しい事もあり、あまり実感は出来ませんが、昔々はインドも中国も日本も大変だったんですね。