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4.森野村。

最近では「良い鬼」がいるかもしれないから、豆をまいてはいけない、という方がいるらしいですね。

その方々は豆を手渡しするそうです。




驚愕しました。


桃の生っている木が両脇に2本ずつ見えた。


桃の木が目印だって言ってたから、村に着いたのかな?


桃の木まで着くと視界が開けた。

棚田が広がっている。恐らく稲だろう植物が等間隔に植えられている。

少し登っていった所に藁葺(わらぶき)き屋根の家が何軒か見える。

ザ・田舎の夏の景色って感じだ。


桃の木の方を良く見ると三列互い違いなるように綺麗に並んで生えており、見える限りには森との境にはずっと続いている。


「やっと着いたー。もう足がパンパンだよー。」

はじめての村到着!

思っていたよりも慣れ親しんだ景色で安心する。


「そんなにキョロキョロして、村がそんなに珍しいのか?」


「珍しくないところに、安心してるところなの。桃の木が並んで生えてるのは珍しいかも。どうしてあんな生え方しているの?」

自然の生え方ではなさそうだけど、植えるにしては収穫しづらそうだし…。


「珍しくないだろ…?土質の関係で育たない地域以外は村でも街でも外周に植えるもんだろ?念のため家の周りに植えることもあるけどな。」


「へ?どうして?皆桃が大好きなの?私も好きだけど。」


もしかして、この世界は空前の桃ブームなのかもしれない。土地の空いている所全てに桃の木が植えられているのかもしれない。


「そんなことも知らないのか。本当にあんた面白いな。知らないでいることの方がむしろ奇跡だぞ。桃の木は結界の役割のため、村の外周全てに植えられているんだ。そうしないと化け物どもが村に入ってくるからな。」


全然違った。桃ブームではないようだ。

結界ってクロちゃんが言ってたやつだな。


『吾が説明するのじゃ。良いか、瑶子。桃、桃の木には霊力が宿る。邪気(じゃき)を持つ存在は力の弱い者じゃと近付けぬし、力の強い者でも嫌な感じがするのか近付いては来ぬ。例外もあるから完璧ではないがの。特に人間などはどんなに邪気(じゃき)(まと)っていても、生きている限りはすり抜けてしまう。』


「へーー。そうなんだ。じゃあ、桃から生まれた桃太郎は最強だね!霊力でバンバン鬼が切れちゃう!邪気って何?」


「なんだ?その桃太郎って?有名なやつか?」


『綱太郎よ。気にするでない。見ての通り瑶子は常識を全く知らぬ。超が付く箱入り娘じゃ。桃太郎は鬼を退治する物語の話じゃ。そして、瑶子よ。考えて喋るように気を付けよ。桃太郎の話は的を射てはおるがの。邪気とは邪悪な気よ。ざっくり言うと悪い奴らじゃ。』


う゛っ。

考えずに喋ってた。早く設定を作り上げねば!


「鬼を退治する物語か。それは興味深いな。是非聞かせてくれ。」


見た目ワイルドな割にもしかして思ったより、本とか好きな人?


『ちと長くなるから、宿に付いてから…。出来れば後日に話して聞かそう。先に瑶子と話さなければならないことがたくさんあるからの。』


「そうか。俺は路銀が尽きてしまったから、しばらくはいる予定だ。いつでもいいから聞かせてくれ。」


『良かろう。礼がてら他にも其方(そなた)の興味のありそうな話をいくつか聞かせようぞ。宿に行く前に村長に挨拶に行った方がいいかの?』


「それは有り難いな。村長夫妻が宿をやってるから、その受付ついでに挨拶するといいぞ。」


藁葺き屋根の家がたくさん見えてきた。

数十軒が立ち並んでいる。

ここが村の中心かな?


「村は結構広いのね。あの大きな家が村長さんの家?村人もたくさんいるの?」


「そうだ。大きい家が村長の家で、泊まる場所は手前に見える家数軒だ。俺はあの一番小さな家を借りている。村人はそこそこいるが、200人もいないんじゃないか?あそこに見える五十軒くらいの家と外周近くの家が数軒ずつくらいしかないな。」


「こんなに広いのにどうして外周近くに住んでいるの?…村八分にされてるとか?」


「村八分ってなんだそりゃ?村の中で強い者を住まわせて警戒してるんだ。人や獣は結界関係なく入ってくるからな。」


奥が深いな。

強い人ってどれくらい強いんだろう?

子どもでも豆鬼退治出来るらしいし、熊みたいな人達かもしれない。


「でも、まだ誰とも会ってないよ?本当に警戒してるの?」


「家の中から見ていたぞ。俺は一度会っているし、二人とも害がありそうに見えなかったから、そのまま素通しただけじゃないか?後、皆が俺やあんたみたいに人見知りしないわけじゃないぞ。村人なんぞ、半数以上が人見知りだ。」


人見知り?

そういえば渡辺さんと合流してから、クロちゃんの口数が激減してるような…?

「まさかクロちゃん人見知りなの?」


『瑶子…。心の声ならともかく、そのまま声に出ておるぞ…。確かに吾は人見知りじゃ。正直初対面の人となぞ、まともに話せぬ!話術も下手くそじゃから信仰が集められなかったのじゃ!占いが出来るのにじゃぞ!』


おぉう。

クロちゃんの気にしている所に刺さってしまったようだ。

ほろり。

クロちゃんカワイソウに。


「でも、私の時は大丈夫だったよね?あれっ?考えてみたら最初喋り方とか喋る長さとかおかしかったような…?」


『なっ…!あれは現代語に慣れてなかっただけじゃ。たまたま相性が良さそうで喋れたわけでは…。久しぶりに喋れて長く喋り過ぎたわけでは…(ゴニョゴニョゴニョ)』


かっ

かわいいっ!

誤魔化してるクロちゃんかわいいよ!


なでなでなで


『こらっ!撫でるでない!何故撫でる!?』


「おーい。俺がいること忘れてねーか?もう着いたぞ。入るぞー。」


はっ!忘れてた!


「何はっとしてんだよ。あんたらホント面白いな。」


渡辺さんが門扉の金具を叩いた。

カンカンカンッ!!


「村長ー!客連れてきたぞー!!」


カラッ。ガッ!

門扉が開いた。

「そんな大きな声で呼ばなくても聞こえてるわ!…なんだ?居候がまた増えるのか?」


熊だ。

熊が出てきた。


「居候じゃなくて、客だよ客。俺の分も払ってくれるらしいぞ。」


熊が近付いてきた。


「なんと…。それはすまなかった。歓迎するぞ。森野(もりの)村へようこそ。泊まるのはお嬢ちゃん達二人か?」


熊に話しかけられた。


「何びっくりしてんだ?村長だ。挨拶しとけ。」


熊じゃなくて、村長らしい。

大きい身体、茶色い髪、茶色い髭。熊要素が濃いね。


「初めまして、私は土御門瑶子と申します。宿に泊まらせていただきたいのですが泊まれますか?」


『吾は黒乃じゃ。二人で一ヶ月ほどは滞在したいのじゃが可能か?後色々買い物をしたいのじゃが、店もあるかの?』


こちらも一月で括られるんだ。

週とか年とかも同じかな?

一週間は月月火水木金金とかじゃないよね?


「ワシは村長の森野熊吾郎(もりのくまごろう)だ。一ヶ月でも二ヶ月でもいつまででも大丈夫だ。出来るだけ金は頂くがな。店はない。売り物は(うち)が扱っている物が全てだ。しばらく行商も来ないだろうから、ないものは諦めてくれ。コータロー、お前も期間は聞いてないが、それ位か?」


森のクマさんだった。

宿代、出来るだけでいいんだ。

見た目によらず、優しいクマさんなのかもしれない。


「分からんが、最低でもそれ位はいるな。先立つものを稼がないと出られんな。」


「では1人1日300(ぺい)で2食付きだ。3人で一日900平、とりあえず1ヶ月分で27,000平だが良いか?」


ぺい?

ペいはお金の単位だと思うけど、いくら位なんだろう?

後でお金のことも聞かねば。


「村長すげーな。計算できるんだな。俺は全然分からん。」


「ワシも少ししか分からん。よく使う数くらいだけは暗記しとるんだ。」


あんまり算数は発展してないのかな?

それとも田舎だから?


『金額は構わんが、大きめの金額は使えるかの?この札かこの札なんじゃが。』


クロちゃんが二枚のお札をそれぞれ束から抜いて出した。

札束だ。

どこに持っていたのだろう?

札は十万平と一万平と書いている。


「あんまり大きいのだと無理だが…。なんだこの柄は…。和永二百三十年って!よく見たら三百年前のお札じゃねーか!国が変わってるからどちらも使えねーよ。探せば蒐集家(コレクター)が買うかも知れんが、売れても二束三文だぞ。」


『なっ、なんと!!では、宝石か金貨はどうじゃ!』


クロちゃんが焦ってる。

袋からジャラジャラと金貨と銀貨を出した。

これはまさかピンチな流れか。

大丈夫だといいな。


「これは…。大金貨と大銀貨だな。同じように古いのかもしれんが、紙幣以外はそのままだから問題ない。釣りも出せる。宝石は鑑定出来る者が村におらんから、無理だ。それにしてもお嬢ちゃんお金持ちだな。他ではあんまり見せん方がいいな。流石に不用心だぞ。」


『良かったのじゃ。焦ったのじゃ。とりあえず大金貨六枚で払って良いかの?』


「良いぞ。計算機持ってくるからちょっと待ってろ。ついでに食べ物以外の売り物は大体そこの蔵に入っているから、見ていていいぞ。」


熊さんこそ不用心だけどいいのかな?

でも、ワクワクするな。

宿も決まってホッと一息。

村長邸鑑定団行ってみましょう。

多分何も価値分からないだろうけども。


『瑶子よ。疲れておらぬのか?さらっと見て今日必要な物だけ買っていくのじゃ。他は後日で良かろう。』


「そういえばすごく疲れてる。ホッとしたらお腹空いたし、眠たくもなってきた…。」


村長邸鑑定団とかやってる場合じゃなかった…。


「俺は路銀稼ぎのために、狩りに行って来るわ。今からでも1頭くらいは何か狩れるだろう。宿代ありがとな。」


『気にするでない。正当な対価じゃ。では、また後日じゃ。』


「おう!楽しみにしてるぜ!」



☆☆☆☆☆※※※※※※※※※☆☆☆☆☆

ストーリー外メモ


桃、桃の木は霊的な力は日本、中国の神話等の話の中に出て来ます。その象徴的なお話が桃から生まれた桃太郎ですね。


伊耶那岐命が黄泉の国で、見てはいけないと言った、伊耶那岐命の姿を見てしまい、逃げ帰る事になります。その際、伊耶那岐命は追手へと桃を投げ付けます。霊力の籠もった櫛や桃を使って無事逃げ帰るんですね。その功績により「意富加牟豆美命(おおかむづみのみこと)」という名前が桃に付けられ、神様として祀られております。


中国のお話でも邪気を払う仙木、不老長寿を与える植物として扱われる事がありますね。



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