3.はじめての戦闘?
初めての敵豆鬼登場です。
節分です。
色々とたまたまです。
クロちゃんの事、私の事、ハル君の事、他にも他愛の無い事も話しながら、森の中を進んでいた。
結構歩いたと思うが、まだ森の中だ。
クロちゃんが気さくな神様で良かった。
不安な行程も楽しみながら進んでいける。
しかし、そうは言ってもやはり疲れてはくる。
私もクロちゃんも、所々に出てる木の根っこや、石にぶつかったり、転んだりしている。
もしかしたらクロちゃんも私と同じでどんくさ子さんなのかもしれない。まあ、浴衣みたいな着物だから歩きにくいのかもしれないけど。
能力?権能?よく分からないけれど、「視る」って言ってたよね。目の前のことも見えてないけれど。
いぇい!どんくさシスターズ!
2人は仲良し!
どっちがお姉ちゃんだろう?
身長は私の方が大分高いけど、胸は同じくらいかな?
雰囲気はやっぱりクロちゃんの方がお姉ちゃんっぽいな。
ハル君の第1お姉ちゃんの座は譲れないけど、クロちゃんがお姉ちゃんでもいいかもしれない。
クロお姉ちゃんだ。
『歩き疲れたのはよく分かるが、何良く分からんことを考えておる。何がどんくさ子さんじゃ。何がどんくさシスターズじゃ。吾の方がお姉ちゃんに決まっておろう。第一お姉ちゃんとは意味不明じゃが…。』
「運動不足過ぎて、意識が遠のいていたよ。大分歩いたけど中々着かないねー。」
社畜生活が身に沁みる!
と言っても予想に反して、大分歩けているし、まだ問題なく歩けそうだ。
森歩きの能力が開花したのかもしれない。
『もうすぐなはずじゃぞ。桃の木がたくさん生えている所が目印じゃ。ちょうど生っている時期じゃから、見付けやすかろ…ムッ…!不味い!!』
「え!何なに!何かマズいことが起きたの?!」
『瑶子の守りの効力が消えた!力を使い切ってしまったのであろ。急ぐぞ!』
今までずっとハル君のお守りが守っていてくれたの?
ハル君ありがとう!
そして、もしかして今は危険…?
「もしかしてクロちゃん、お守りの効力を知っていたから『確信がある!』って言っていたの?まだ着いてないけど。」
『何の事かのー。そんな事よりも急ぐぞ!!』
「あっ。ごまかそうとしてるー。」
がさがさ
がさがさっ
「何かいる!!」
『とにかく先に進むのじゃ。』
ばっ!
少し離れた斜め後ろの茂みから拳くらいの大きさの小さな緑色のナニカが飛び出してきた。
『豆鬼じゃ逃げるぞ!』
鬼なの!?
あれ!
二人とも全力で走り出した。
予想通りクロちゃんも同じくらい遅い。
「アドバイスは!?補助は!?あれちっちゃいけど怖いやつなの?!」
『ない!!三十六計逃げるに如かず。とにかく逃げるのじゃ!あやつは雑魚じゃが、吾らにとっては雑魚と書いて強敵と読む!ちょうど殺されるくらいの怖さじゃ!』
ちょうど殺されるくらい!
こわっ!
作戦なし!
「ぐぎゃぎゃぎゃgygy」
こわっ!
何あの鳴き声!
奇声を発しながら豆鬼が追いかけてくる。
だだだだだっ!
音の割に二人とも速くない。
幸いにも豆鬼も小さいため、速度は拮抗している!
どてっ!
クロちゃんが転んだ。
「クロちゃん!!」
『吾のことは良いから、先に行け!!』
「そんな!置いてなんて行けない!!」
『駄目じゃ!二人とも死ぬだけじゃ!!』
「イヤよ!!」
クロちゃんに抱き付いた。
何としてでも守らねば!
…
ふわっ。
後ろからそよ風が吹いた気がした。
どんっ。どっ。
豆鬼が誰かに木の棒で殴られ、木にぶつかった音がした。
豆鬼は木の根で倒れていたが、石のような物を残し、崩れるように消えていった。
誰かが近付いてきた。体が大きな男の人だ。
細身だが筋肉質で、髪は少し長めで後ろで結んでいる。髪は珍しい紺色をしている。
「あんたら何やってんだ?すごいシリアスな感じだが、何かヤバいやつがいるのか?気配は感じないが…。」
危機は去ったようだ。
「え…。豆鬼…?さっきのあれヤバいやつじゃないの…?」
『吾らにとってはヤバいやつじゃが、此奴にとっては羽虫みたいなものなのじゃろう…。』
「豆鬼から逃げてたのか!あんなのにやられるのは物心付いていない赤ちゃんくらいだろう。豆鬼も殺したことのない箱入り娘か何かか?珍しい服着てるし、黒いお嬢ちゃんは上等な着物だしな。まあ、良く分からんが無事で何よりだ。」
私たちの強さはどうやら物心付く前の赤ちゃんと同等かそれ以下のようだ。
男の人をよく見ると、麻のような素材の服を着ていた。
上はボタンの付いた紺色の半袖で、下はふわりとしているが足首で絞られている茶色のズボン。
腰には大きな刀のようなものを佩き、背中に短い槍のようなものを背負っている。
あれがこの世界の一般的な服なのかしら?
「危ない所を助けていただいてありがとうございました。死んでしまうかと思いました。一応箱入りではないはずです。鬼は倒したことありません。」
『吾も感謝するのじゃ。終わったと思ったのじゃ。』
「本当に大したことはしてないから、気にしなくていいぞ。豆鬼はそれこそ羽虫を払ったようなものだしな。それにしても豆鬼すら殺さずに生きてこれたことが驚きだな…。まあ、それはいいか。あんたら村に向かってるのか?」
珍獣を見るような目で見られた。
現代日本には化け物を殺すような文化はないんですー。というかいないんですー。
「はい。村を目指してた所、豆鬼に襲われました。」
「じゃあ、村まで連れて行ってやるよ。そんなには遠くないしな。」
あっ、ありがたいっ。
もう一回二人で豆鬼に襲われたら、死んでしまう。
ましてや、それ以上のナニカだと即死ものかもしれない。
「ありがとうございます!とてもとてもとても助かります!でも、良いんですか?どこかに向かう途中だったんじゃないですか?」
「向かう途中というより、狩りの途中だ。旅をしているんだが、路銀が尽きてしまってな。宿代の代わりに同じくらいの獲物で泊めてもらうように交渉したんだよ。」
村の人じゃなくて旅人なんだ。
獲物を捕まえているようには見えないけどいいのかな?
「本当にいいのですか?助かりますが。お礼ができるようなものもありません…。」
「だから、良いって。気にするな。放り出して死なれても寝覚めが悪い。獲物なんぞ後からでも簡単に捕まえられる。」
『礼なら吾がしよう。金ならある!宿代を代わりに払おうぞ。』
そうだ!
クロちゃんお大尽様だった!
「それはありがたいが、それだとむしろ俺の方が申し訳ないな。」
『それこそ気にするでない。吾らの命の恩人なのじゃ!』
「分かった。それならばお願いしようか。村へは間違いなく送り届けよう。そうだ、自己紹介もしてなかったな。俺は渡辺綱太郎。武者修行の旅をしている。」
渡辺さん!
珍しい髪と目の色だけど、日本人っぽい。というよりも日本人にしか聞こえない名前だ!
武者修行の旅。
強そう。
「私は土御門瑶子と申します。私は…。私は?何をしているのかなクロちゃん?」
『瑶子は何も考えておらぬな…。吾は黒乃じゃ。名字は無い。吾らは都に向けて旅をしておる。』
確かに何も考えずに喋りだしちゃったよ。
不審な行動しないように気を付けないと。
流石に異世界から…とか胡散臭すぎるから、設定とか考えていたほうがいいのかな?
やっぱり設定は姉妹がいいかな。
クロちゃんの方がお姉ちゃんで、甘えるのもありかもしれない。
クロお姉ちゃん?
『瑶子。意識がどこかに旅立っておるぞ…。戻って来い…。』
「はははっ。あんたら面白いな。悪いやつらじゃなければ、大した詮索なんぞせんから大丈夫だぞ。興味深くはあるがな。じゃあ、そろそろ村へ向かい出すか。暗くなり出す前には着きたいだろう。」
いかんいかん。
また、ちょっとトリップしそうになりかけてた。
「はい!どうぞよろしくお願いします!」
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ストーリー外メモ
節分に豆まきをするのは、魔の目を潰す「魔目」、魔を滅する「魔滅」等の民間信仰から来ているそうです。
ヒイラギとイワシの頭を玄関に付けるのは鬼が嫌いだからみたいです。ヒイラギの葉が刺さったり、乾燥したイワシの匂いが臭いからですかね?