26.森野村襲撃。①
「やはり六郎は戻って来なかったな。」
クマさんが大きなため息を吐いた。結局平田さんは村の外に逃げたまま、戻る事なかったようだ。
「早く行って、早く戻ってくるか。」
コウちゃんは屈伸をし、軽い準備運動をしている。
「村長さん、コウちゃん気を付けて行ってきてください。八咫烏、コウちゃんに付いて行って。」
白い紙で出来たカラスが飛び、コウちゃんの肩にとまった。
『何事も無ければ良いのう。』
クロちゃんがフラグを立てている。やはり気を付けないといけない。二人にも何も起こらなければ良いと願う。
「じゃあな。ちょっくら行ってくる。」
クマさんとコウちゃんが駆け出した。本人たちは軽くジョギング感覚の走りのようだが、実際には自転車でとばしている位のスピードが出ている。
一時間もあれば、隣村に付くのではないだろうか。
『確か、静は一心に願えと言うておったんじゃな?』
「うん。備えるようにと一心に願えと言ってたね。何に願うかは分からないんだけど。」
『分からぬが、現時点での事ならば、不動明王か薬師如来のどちらかであろう。真言を教えるのじゃ。今日は広場で練習するのじゃ。』
「はーい。頑張るよー。」
『瑶子は弓は使えるかの?』
「護身術で使えるよー。」
『其れは恐らく護身術ではないのじゃ。』
…
出来る準備をおこなってから、広場へと向かった。
……………………………………
森の中を二人は駆けていた。
「今日は豆鬼を全く見ないな。ちょっと異常かもしれん。」
「ああ、ワシの人生でこんなに森が静かだったのは二年前の時だけだ。」
森を抜け平野へと出てきた。もう隣村は近い。
「村が見えてきたな。桃の木が切り倒されてねーか?」
隣村は平地にあり、桃の木で囲まれた村である。綱太郎達から見える村の入口の桃の木は何本も無惨に切り倒されている。
「この切り口は刃物によるものだな。この辺りの化け物どもがこんなことを出来るとは思えん。」
二人は村の中へと入っていく。村の光景は悲惨の一言に尽きた。
家は焼かれ、食い散らかされた死体が点々と地面に転がっている。身体の下半分がない者、頭だけない者、延々と引き摺られたような血の跡。
「ひでーな…。」
「本当は弔ってやりたいが、時間が惜しい。戻るぞ。」
「ああ、とりあえず何がいるかは分からんが、村が全滅した理由の一つは分かったな。」
「そうだな。恐らく村に裏切り者がいたのだろう。六郎に詳しく話を聞き出せなかった事が悔やまれるな。」
「ぐぎぎぎぎぎがぎ」
「ぐぎゅるるるぎぎ」
「コロ…す」
子鬼と豆鬼の群れが、燃え尽きた建物の陰からワラワラと出てきた。
「そう簡単に帰してくれるつもりは、ねーみたいだな。」
「ワシらがこれ位で止められると思われているのは心外だな。」
ガッ
ザシュザシュ
熊吾郎が斧を両手に一本ずつ持ち子鬼達を押し潰すように切る。綱太郎が太刀で何体もの子鬼も豆鬼もまとめて切った。
暫く切り続けるが、鬼達は次から次へは湧いて出る様に増えていく。
「強くはねーが、切りがないな。」
「そうだな。だが、無限という訳でもなかろう。ワシの家族の安全のため、狩り尽くしてくれるわ。」
ガガガガガッ
熊吾郎が、斧を振り回し歩いていく。鬼達を切り分け、さながらブルドーザーのように道が出来ていく。
ザクッザクッザクザクザクザク
鬼達を切り分けた道を進みながら、打ちもらした鬼を綱太郎が槍で確実に仕留めていく。
「これは楽でいいな!」
村の出口まで来た。
出口の外には一体の優に3メートルはあろうかという巨大な褐色の鬼が待ち構えていた。手には同じくこん棒を持ち、腰蓑を付けている。さながら巨大な原始人のようだ。
「大鬼…。ではないな。ワシはこんなデカい鬼を見たことがないぞ。」
「鬼人だ!こいつはアンタでも厳しいぞ!代われ!」
熊吾郎は後ろにスイッチし、子鬼達を削りだした。
綱太郎は飛び上がり太刀で鬼人の上段へと斬り掛かった。
ガキン
綱太郎の一撃は鬼人のこん棒に防がれた。
「やっぱりただデカいだけじゃねーな。」
ガッガガガガ
その間にも熊吾郎は子鬼達を切り、宙へと飛ばし続けている。
「雑魚は任せておけ。然程時間は掛からん。終わり次第加勢する!」
その時八咫烏が八の字に飛んだ。
「村に何かあったようだ!加勢は良いから雑魚が終わったら急いで先に村へと戻ってくれ!」
鬼人と切り結びながら叫ぶ。
「分かった。綱太郎の方は問題ないか?」
「これくらいなら問題ないが、少し時間が掛かるかもしれん。無いとは思うが鬼人が村に入っていたら、何とか持たせておいてくれ!!」
「おう!」
熊吾郎は雑魚を一掃して走っていった。
……………………………………
カンカンカンカンカンカン
緊急時の鐘が村に鳴り響く。
取り急ぎ、コウちゃん達へと緊急時の合図を送る。
村人が広場へと続々と集まってきた。
恵子さんと恵美ちゃんがいた。
「何が起きたんですか?」
「大鬼を含めた鬼達が侵入しちゃったみたいなの。村人が全員避難が出来次第、狩人さんが倒すみたい。」
「大鬼ってすごい強いやつですよね?」
「ええ。お父さんがいれば全然問題無いんだけど、こんなタイミングで…。しかも、村の中に入ってくるなんて…。」
オババ様のお告げ通り、危機がやって来てしまった。
出来る準備はしたつもりだが、正解が分からないため不安は残る。
クロちゃんは鬼の数を把握しようと千里眼に集中している。
「おかあさん。こわいよぅ。」
「大丈夫よ、恵美。お母さんが付いてるわ。それにお婆ちゃんもすぐに来てくれるわ。」
「ううぅぅぅ」
恵美ちゃんが泣き出してしまい、他の子ども達も我慢出来ずに泣き出してしまった。
「桃太郎、服部半蔵、子ども達を勇気付けて!急急如律令」
桃太郎と、服部半蔵はパントマイムで桃太郎の演劇をやりだしたようだ。声を出せない為か子ども達は気付かない。
「子ども達のみんなー!!こっちを見てー!!」
子ども達とつられて大人もこちらを見る、恥ずかしいが仕方がない。
「人形劇がはじまるよー!」
(桃太郎、服部半蔵、はじめからやって。)
桃太郎の劇が始まった。パントマイムでやっているので、私はいまいち何をしているのか内容は分からないが、子どもの興味は引けているようだ。泣いている子どもはいなくなった。以前クロちゃんの音声付きでやってたから、何となく分かるのかな?
「クロちゃんどう?」
『不味いのじゃ。大鬼だけでは無く、一体鬼人までまじっておるのじゃ。』
「鬼人?もしかして大鬼よりも強いの?」
『うむ。かなり強いのじゃ。人が鬼に変化した者じゃから、知恵まで回る。非常に厄介なのじゃ。』
「人が鬼になるって、前に話してた…。」
「全員避難が完了したかー!!区画毎で確認を頼むー!」
狩人の三平太さんが叫んでいる。
クロちゃんが三平太さんの所まで走って行った。
『三平太よ、鬼人がおるのじゃ。心して掛かるのじゃ。』
「なにっ!それはヤバいな…。」
「狩人の皆集まってくれ!!」
狩人の人達は話し合い、鬼人と出会う前に出来るだけ、大鬼、子鬼を減らし、広場へと戻ってくる作戦を立てたようだ。
「では行くぞ!戦える者は広場に近付いてきた鬼を狩ってくれ!大鬼が来たら、広場内にすぐ戻れ!戦えぬ者は決して広場から出ぬように!」
狩人の人達は三人一組となり、散っていった。
「ぐぎゅるるるぎぎ」
「ぐぎぎぎぎぎがぎ」
まずは豆鬼、子鬼が広場の周りに辿り着いた。
狩人の人達がいなくなってからは、多恵子さんが戦える人達を指揮している。
「子鬼を倒せる実力のある人は武器を持って、広場周辺を狩ってください!そうでない人は広場の中より槍を突いて下さい!」
クロちゃんは槍を持っている。何気に武器を持っているのを初めて見るかもしれない。
「クロちゃんは槍を使えるの?」
『使い熟せると言える程では無いが、突くくらいは出来るのじゃ。念の為、術を使う力は後に温存しておくのじゃ。』
「そうか。確かに温存してた方が良さそうだね。あれ?桃太郎達遊ばせてるけど、大丈夫かな?」
『名を付けているおかげか、喚び出す時以外は霊力を使っておらぬから、大丈夫じゃろう。じゃが、そろそろ式神達も鬼退治に向かわせた方がい良いじゃろうな。』
そうだった。子ども達のために演劇をさせたままだった。ちょうど鬼ヶ島の鬼退治をしているシーンのようだ。
「桃太郎、服部半蔵、続きはあっちの鬼を退治して。」
「子ども達も見ていてー。人形劇の続きは広場の外でやるから。ただし!皆は絶対に広場から出ちゃダメだよー。」
「はーい。」と子ども達は返事をした。良し!大丈夫そうだな。
「じゃあ、クロちゃん行こっか。」
『頑張るのじゃ。』
子鬼、豆鬼退治のため、広場の外へ向かった。




