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8.買い物とお金。


宿から村長邸は近い。

あっという間に着いてしまう距離なのだが、道中村人の家々も立ち並んでいるので、今日は結構村人に会う。


「こんにちはー。」


「こんにちは。アンタ達が昨日来た旅人さんだね。」



「こんにちはー。」


「こんにちは。村長から聞いてるよ。村で困ったことがあったら力になるよ。」


……


「こんにちは。」


「こんにちは。あんたらエラい別嬪(べっぴん)さん達だな。家の息子の嫁に来ないか?」



「お姉ちゃん達、どこから来たの?街の人?私も街に行ってみたい!」


「こんにちは。村の外は怖いのよ。怖い鬼がいるのよ。」


……


近いけど、中々辿り着かない。

村の皆さん思ったより、フレンドリーだ。初日は人見知りじゃなくて、警戒してただけみたい。

そして、家のクロちゃんはやっぱり人見知りの様だ。

小さな声で挨拶を返す以外は、喋る気配がない。

ちょっと緊張しているようにも見える。


「やっと着いたねー。近くて遠い村長邸だったね。クロちゃんやっぱり人見知りなんだねー。」


『疲れたのじゃ。瑶子はすごいのじゃ。頑張っているのじゃが、限界なのじゃ。吾に其の能力があれば今頃力を取り戻しているのじゃ。』


一杯一杯だったみたい。

どうやらクロちゃんの一番の弱点はコミュ障なようだ。


「それなら私も一緒に頑張れば、クロちゃんが神様に返り咲ける日は近いね!」


神様サポーター瑶子誕生。

ん?

それは巫女とか神官というのか?

黒乃教巫女瑶子誕生。

何だか強そう。

クロちゃんは神様兼教祖様兼巫女だね。


『瑶子!入らぬのか?』


は。


「意識が巫女さんだったよ。そうだね。村長さーん!」


こんこん



かちゃり。

多恵子さんが出てきた。


「主人は今寄り合いで不在ですが、如何なさいました?」


「買い物をさせていただきたいのですが、大丈夫ですか?」


「それなら、大丈夫ですよ。昨日は蔵だけだったみたいですので、服も見ていかれませんか?寝間着以外の服は奥の部屋の方にございます。」


『是非、お願いするのじゃ。替えの服が最低二枚ずつ、下着が四枚ずつ、旅用の丈夫で大きな背負い袋を三つ欲しいの。月のものを抑える薬も二ヶ月分ずつ欲しいのじゃ。瑶子よ、シャンプーとリンスに必要な物は何じゃ?』


そうだ。

下着も買うならクマさんじゃなくて良かったよ。

月のものの薬って何?

後で教えてもらおう。


「重曹とクエン酸と香水はありますか?もし、なければおろし金と石鹸、出来るだけ匂いの弱い酢があればお願いします。」


「重曹とクエン酸?が何か分かりませんが、おろし金と石鹸、酢、香水はご用意させてもらいますね。酢は米酢と黒酢、りんご酢がありますが、りんご酢がよろしいですか?香水も何種類かありますが、好みもあると思うのでお持ちいたしますね。」


重曹とクエン酸はないんだね。

オババ様の知恵袋が火を吹きそうだ。

厳しくも優しいオババ様の教えがこんな所で役に立つとは。


「はい。お願いします。酢はりんご酢で大丈夫です。液体を保存出来るものを持っていないのですが、一緒にお願いしてもよろしいですか?」


「大丈夫ですよ。ご用意致しますね。では、服を置いている部屋にご案内致します。」



「服がこちらで、下着がこちらです。それぞれ麻素材と絹素材がございます。」


おぉ。

シルクの下着だ。

高級品!


『値段は幾らかの?男装も二着ずつ欲しいのじゃが、あるかの?』


「ありますよ。値段は下着が麻素材の物が百(ぺい)、絹素材の物が二百平。服が麻素材の物が三百平、絹素材の物が六百平です。男装は上下別ですので、二割増しです。素材毎で一律の値段になりますが、計算は出来ますか?」


『計算はできるから大丈夫じゃ、絹にしては随分安いの。』


養蚕(ようさん)をしておりますし、村人が機織(はたお)りも出来ますので、都会と比べると大分お安いかもしれませんね。では、私は準備してまいりますので、ゆっくり見ていてください。」


『うむ。』


多恵子さんが蔵の方へと出ていった。


「クロちゃんクロちゃん。」


『何じゃ?』


「お金の価値を教えてください。」


『そうじゃったの。まだ教えておらなんだな。』


クロちゃんは懐から紙と黒チョーク(?)を取り出した。

いつも持ち歩いているんだね。


『まず金の単位じゃが、(ぺい)と呼ばれておる。一平がざっくり十円位の価値じゃな。硬貨は大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大鉄貨、鉄貨、大銅貨、銅貨の八種類。紙幣は国が発行する金貨と交換できる券の様なものじゃな。千平から千平単位で幾らでも設定出来るのじゃ。一万平札、十万平札で発行する事が多いの』


サラサラと書いていく。


紙幣 …1,000平〜約10,000円〜


大金貨…5,000平 約50,000円

 金貨…1,000平 約10,000円

大銀貨…  500平 約 5,000円

 銀貨…  100平 約 1,000円

大鉄貨…   50平 約   500円

 鉄貨…   10平 約   100円

大銅貨…    5平 約    50円

 銅貨…    1平 約    10円


「紙幣は古くて使えなかったんだよね?どうして金貨や銀貨は使えたの?」


『硬貨は貴金属そのままの価値で取り引きされておるので、大きさが変わらねばそのまま使えるのじゃ。今の所大きさの変更も無い様じゃな。紙幣は統治者の代替わりに変更されるのじゃ。変更後五年位は前の紙幣も金か新紙幣に交換してくれるのじゃが、定めた期間が過ぎれば紙切れなのじゃ。』


「へー。そうなんだー。紙切れになるかも知れないのに使うの?金貨の方が良さそうな気がするけど…。」


『基本的には硬貨を使うのじゃ。じゃが、紙幣は硬貨より軽いし、嵩張らぬため移動に向いておる。隠す事も出来るの。そのため、旅人や商人が使う事が多いのじゃ。』


「確かに持ち歩くのは便利かも。ちなみになんですがクロちゃんのお金はお幾ら万円紙切れになったのでしょうか?」


クロちゃんが目を逸らした。


『……。百万平ちょっとじゃ…。(ボソッ)』


え。

百万平って。

「一千万円!!大金じゃないですか!大丈夫なの!?」


『大丈夫じゃ。資金の大半は宝石なのじゃ。霊装としても使えるので、余り売りたくはないがの。』


すごい。

やっぱりお大尽様だ。


「ハル君のお守りは売るとどれ位になるの?」


絶対に手放したくはないけど、クロちゃんばかりに負担を掛け続ける訳にはいかない。

お金を稼ぐ手段が見つからなければ最悪は…。


『其の様な事を考える必要は無いのじゃ。其の守りは大事な物じゃろうし、何より瑶子にとっても吾にとっても必ず役に立つのじゃ。』


「お守りが役に立つの?力はもう無くなってるんだよね?」


『うむ。込められた力については使い切ったのじゃ。じゃが、元々超一級品の霊装で有るし、根源を経た事により、神器にも至るのじゃ。触媒としても使え、力を込め直せば守る事も力を放つ事も出来るのじゃ。価値が有り過ぎで値を付けようも無いの。』


「クロちゃんの役にも立てるの?助けてもらって、お金も使ってもらって、貰ってばかりで…。」


お返し出来るビジョンが浮かばない。

早く慣れて、せめてお金だけでも返せるようにならないと。


『気にするで無い。真名を貰う事で吾も助けられたのじゃ。お互い様じゃし、瑶子が中つ国に戻るまではしっかり手伝ってもらう予定なのじゃ。』


「うん。お手伝い出来ると嬉しいよ。神様お手伝い瑶子だね。」


『ふふっ。手伝いと言うより神の代行の様な事をやってもらう予定じゃがな。そろそろ服を選ぶぞ。かなり安いので男装以外は全て絹から選ぶのじゃ。多めに買って他の街で売るのも良いかも知れぬ。』


神様代行瑶子誕生だった。

私に出来るのかな?

とりあえずやってみてから考えるか。

それにしても服を選ぶのって楽しいよね。

種類は多くないけど、ツヤツヤサラサラ良い素材だね。


「絹の下着ってすごい贅沢だね。お貴族様だ。」


ん?

そういえば身分制度とかあるのかな?


「この世界には貴族とか王様とかいるの?偉い人とぶつかって斬り捨て御免とかないよね?」


『周辺六国には貴族も王もおるの。中央の皇国は皇と大貴族で構成されておるのじゃ。貴族の権力が強いため、地域によっては斬り捨て御免も有り得るかも知れぬの。』



お貴族様怖いね。

雑談しながら服を選びしていると、多恵子さんが戻ってきた。


「こちらは準備出来ました。良い服はありましたか?」


『うむ。質が非常に良いの。多めに買わせてもらうのじゃ。瑶子は欲しいものは決まったかの?気になった物はとりあえず買っておけば良いのじゃ。』


クロちゃんはもう決まっているようで、ポイポイと一か所に固めていっている。


「うーん。ちょっと迷うけど、これとこれとこれと…。後はクロちゃんにお任せで。」


とりあえず着たい服と下着だけは選んだ。


『そうか。では後はこれとこれとこれじゃな。』


流石お大尽様。買い方が豪快だ。


……


「たくさんお買い上げありがとうございましたー。」


『良い買い物じゃった。此方こそ礼を言うぞ。』


「ありがとうございました。」


ホクホクで村長邸を出た。



☆☆☆☆☆※※※※※※※※※☆☆☆☆☆

ストーリー外メモ


平安時代頃のお金、「銅銭」は出土されますが、一部で使われていただけで、まだ一般的では無かったようです。

鉄や布、米等の現物がまだまだお金の代わりだったんですね。

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