0.前世の終わり。
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第一章 瑶子
建設会社の事務の仕事をやっていた。
中々ブラックな会社だった。
会社は大きいが、働いている支店の事務所は小さく仕事内容は多岐に渡る。
人が少ないのに、何故か仕事が多すぎる。
給料は少なく、残業代は出ない…
おかしい…
仕事内容は電話番、来客の対応、備品の発注に、宣伝用のチラシの作成。
営業が手書きで書いたプランをソフトに打ち込み簡易のプレゼン資料の作成。
更にはCADの打ち込みまでさせられ、図面の作成までやっている。
他にも雑務にet cetera.etc…
事務の仕事を逸脱している…
朝8時に出社、夜は毎日午前様を迎え終電はない。
仕方なく車通勤をするも片道一時間。
行きは問題ないが帰りは眠気に襲われるため、信号で停まるごとにギアをパーキング&フットブレーキ。
眠気があまりにひどい時にはコンビニの駐車場にピットインし仮眠。
やばくない?
残業時間は大体月100〜120時間を超えている。
年間だと余裕で1000時間を突破。
私の限界も突破である。
月70時間を超えたあたりで、お医者さんの問診の必用がどうのと上司が言っていたが、実際に受けたことも受けるように促されたこともない。
どうかしている…。
人間関係は比較的良好だ。
営業さん同士はぎくしゃくしているが、私には優しく接してくれる。
ただし、仕事は優しくない。
夕方5時
「行ってきまーす。」
部長さん直帰するつもりですね?
夜8時
「これ明日までにやっておいて。」
課長さんあなたも帰られるのですか?
夜10時
「これ来週まででいいから。」
主任さんそれは私の仕事なんですか?
深夜1時
「これ分からないので、教えて下さい。」
新人さん今じゃないとダメですか?
こんな毎日を過ごしていた。
所謂社畜というやつである。
会社に拘束され、良い出会いもない。
最近は結婚が早いか遅いか二極化しているらしいが、私は確実に遅くなってしまうようだ。
容姿は私自身は悪くないと思っているし、評判も良い。ただ、日頃の寝不足、深夜の食事により、肌は荒れ、髪も艶をなくしてしまっていた。
いつかやめてやる!と考え続け、早6年が過ぎてしまった。
いつかはいつ来るのでしょうか?
…
……
………
「きゃああぁぁぁぁぁぁ」
いつかは突然やって来た。
大型トラックがひっくり返った車を轢き、火花を飛び散らし、引き摺りながら私の方に飛んできた。
私は死んだ
時は少し遡る。
久しぶりの金、土、日の3連休で千葉ネズミ王国に遊びに行く予定だった。
しかし、予定がどんどん変更されていく。
社畜はつらい…。
まず金曜日までにやらなければならない図面の打ち込みが入った。
夜中に出発し土曜日遊んで、日曜日に帰る予定になった。
そして次に、現場の地盤調査立会の予定が日曜日に入った。
金曜日…仕事。深夜出発。徹夜で運転。東京へ。
土曜日…千葉ネズミ王国堪能。夜中出発。徹夜で運転。帰宅。
日曜日…朝、地盤調査立会。
=睡眠不足からの徹夜で運転からの全力遊びからの徹夜で運転からの仕事
=超強行軍
=計画に無理があった
何故こんなに無茶な日程を組んでまで、遊びに行ったのかには理由がある。
東京の大学に行っている愛しのマイブラザー・春愛希との久しぶりのデートだったからだ。
ブラコンなのである。
私のハル君は可愛くてカワイくてkawaiiのである。
ハル君は10歳年下の大学1年生。
大学生になってもお姉ちゃんと遊園地に行ってくれるとてもとてもいい子。
「ハル君久しぶり元気だった?大学は楽しい?お姉ちゃんいなくて寂しくなかった?私は寂しかったよ。サークルには入った?友達は出来た?彼女は?」
「姉さん…。そんなに一気に喋らなくても大丈夫だよ…。元気でやってるよ。姉さんこそ元気だったの?スマホ既読にも中々ならないし、病気や怪我していないよね?一応しばらくしてから返信してくれるし、大丈夫だとは思ってはいたんだけど、心配になるよ。」
体の心配をしてくれるとは、なんていい子。
ラブリーすぎる。
「昔みたいに瑶子お姉ちゃんって呼んで欲しいなー。病気も怪我もしてないよ。ただちょっと仕事中スマホみられないのと、会社がブラック過ぎて24時間働けますか?みたいな時が多いから、ゾンビみたいになってることも多いかも。あはは」
もう、ほんと強行軍みたいになる時が多すぎる。ハル君の連絡には即レスして、毎日電話かけたいくらいなんだけど、自由になる時間はほとんど意識が朦朧としているし、家に帰ってシャワーを浴びたらほぼ即落ちするから申し訳なくて…。
「ゾンビ……。姉さんは転職しないの?待遇も良くなさそうだし、ずっとそのままだと体壊すよ?瑶子お姉ちゃんって言ってたのは小学生の頃だよ。今はちょっと恥ずかしいかな。」
そうなんだよねー。
最近徹夜もしんどいし、休みも少ないし、給料も少ないし、営業さん達ギスギスしてるし、出会いもないし、ハル君にも中々会えないし…。
あれ?
良いこと何もなくない?
ハル君に会える東京に転職しようかな?
それがいいかもしれない。
そうしよう。
「いつかはやめてやる!って考え続けてけど、本格的に考えてもいいかもしれない。目指せ脱社畜だよ!」
「そうするといいよ。姉さんはおっちょこちょいでドジで考えなしに動いていることも多いけど、頭は良いし、仕事もできるんだし、きっともっと良いところに行けるよ。」
愛しのマイブラザーの評価が高いけど、低い。
確かにちょっと直感で動くし、ちょっと見落としがあって失敗することもあるし、机の上から物がよく落ちるし、よくこけるけども。
「ちょこっとドジなことは認めましょう。なのでお姉ちゃんが迷子にならないよう、手を繋いでネズミの王国を楽しみましょう!英気を養うために存分にハル君成分を補充して帰ります!」
「僕の成分……。知り合いがいるかもしれないから恥ずかしいけど、仕方ないなぁ。手を繋いでまわろっか。あと、これちょっと遅くなったけど誕生日プレゼント。お誕生日おめでとう。」
ハル君まじ天使。
見た目も天使みたいだし、中身もまじ天使。
これはきっと大学でもモテモテだね。
「中見てもいい?」
「もちろん。」
ネズミ王国内で使えるネズミの帽子。
カワイイ。
外側が琥珀のような金色で、内側は太陽のような鮮やかな赤色になっている石のついたネックレス。
キレイ。
「これは高かったんじゃない?すごく嬉しいけど、ムリしちゃダメだよ。」
「無理はしてないから大丈夫。実はこれただのネックレスじゃなくてお守りになってるんだよ。姉さんやたらとお守り壊れているみたいだし、実家にも協力してもらって、祈祷もしてもらいました。ちなみに石の色は姉さんの髪と瞳の色と合わせました。すごくキレイでしょ。」
なんて粋なことを。
お姉ちゃんはもうメロメロよ。
私の目は金色で、髪はウェーブがかかり燃えるような赤色をしている。
昔はからかわれることも多かったけど、今は黒のカラコンを入れて、髪は黒く染めている。
両親ともに純和風な黒髪黒目だから、不思議だ。
ハル君なんて髪はシルクのように滑らかで、光を反射する銀髪。瞳はおそろいの金色。肌は陶磁器のようにキメが細かく雪のように白い。目は黒いカラコンを入れてるけど、何故か髪は染めても色が変わらずキレイな銀髪なまま。
自身も不思議だが、ハル君は不思議すぎる。
やっぱり天使なんじゃないだろうか?
ガバッ!
「なんていい子なんでしょう。カワイイ。嫁に来て!」
「姉さん抱きつかないで。僕は男だから嫁は無理だよ。パーク開いたみたいだし、ほら行くよ。」
「はーい。」
…
……
………
「いやー。楽しかったなー。正に夢の王国だね。ハル君成分も満タンだよ。」
「姉さんホントに帰っちゃうの?大丈夫?」
眠たいけど、テンション高いし大丈夫だろう。何よりも朝5時までに帰らないと地盤調査の立ち会いに間に合わない。
これが終わったら、転職先を探そう。
東京に住もう。
待っててハル君。
「大丈夫。大丈夫ー。元気100倍、勇気リンリンだよ。」
「ちょっと何言ってるか分からないけど、ホントに無理しちゃダメだよ。」
「分かったよー。じゃあ、またねー。」
…
……
………
「ハッ」
壁が迫ってきた。
急いで車のハンドルを切った。
ドンッ
高速道路の中央分離帯に衝突。
そのまま車体が浮き上がり、逆さになり、両脇から火花を飛び散らしながら、滑っていった。
「イタタ」
体は大丈夫なようね。
居眠り運転してしまったようだ。
これはマズい。
とりあえず脱出して、警察呼ばないと。
シートベルトしてないと死んでたな、これ。
逆さの状態の車内からなんとか脱出。
警察に電話して、発煙筒焚いて、車から離れてっと。
何故か冷静ね。
ドジっ子返上じゃないかしら。
すでに大失敗した後だけど…。
ドンッッ
「え?」
大型トラックがひっくり返った私の車を轢き、火花を飛び散らし、引き摺りながら私の方に飛んできた。
「きゃああぁぁぁぁぁぁ!」
ドンッ
そこで意識が途切れた。
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ストーリー外メモ
何割かは私が昔実際に経験した事です。死んだかと思いました。異世界転生を果たさなくて本当に良かったです。
時折、気まぐれでメモを残していこうと思います。