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 俺はよく、夕食後にリビングのソファーで眠ってしまう。最近は特に、遅く帰ることもあってほぼ毎日うたた寝をしている。そのたび俺の姉である『蒼井 梨沙』がこっそり俺にVRゴーグルを装着してくるのだ。目が覚めると突然異世界にいるわけだから、めちゃくちゃビックリする。

 今どきのゲームは映像技術も凄まじく、次世代ゲームエンジン『アルカディア・エンジン2』により生み出されたその世界は、まさに現実、いや、それ以上である。更に匂いや気温を肌で感じる五感感知機能『FSS』の実装により、その没入感たるや、恐ろしいものである。


 そして今日も俺は目を覚ますと、森の中にいた。小鳥のさえずり、木漏れ日から漏れる暖かな陽光。その光に運ばれるように木々の匂いが周辺に広がっていた。


「……またかよ」


 これで七度目だ。俺は「アルカディア・ユニバース」の世界にいる。この森はゲームの冒頭部分だ。この森を進むとチュートリアルが始まるのだろうが、俺はこの森を出るつもりはない。今日もさっさとログアウトを済ませるだけだ。


 ----メッセージを受信


 リリィ:春樹、起きた?


 目の前に文字が浮かび上がる。リリィ、姉のゲーム内の名前だ。チュートリアル前の状態である俺とはパーティを組むことは出来ず、ボイスチャットも出来ないために、俺と連絡をゲーム内で取るにはログインIDから俺に直接メッセージを送るしか無かった。



 ----メッセージを返信


                               ID aoharu0323:俺はゲームはしないって言っただろ。


 チュートリアルクリア前なのでキャラクター名を登録していない俺はIDで名前が表示された。




 ----メセージを受信


 リリィ:違う、今回アンタにVRゴーグルを装着したのは私じゃないの

 リリィ:それに、なんか変なの。ログアウトが選択できないの


 

                              ID aoharu0323:誰でもいいよそんなこと。

                              ID aoharu0323:ログアウト出来ない? そんな筈無いだろ。


 俺は慣れた手付きでメニュー画面を開き(というかそれ以外操作をしたことがない)ログアウトボタンを確認した。ボタンは確かにあったが、姉の梨沙、もといリリィが言う通りログアウトの文字は半透明で灰色になっており、選択することが出来なくなっている。


                              ID aoharu0323:なにかした? 


 リリィ:何もしてない。一回合流しよ。後で母さんも連れてきておくから、アンタはさっさとチュートリアルを終えてちょうだい

 リリィ:あ、最初に選択するクラス、私はタンク、お母さんはアタッカーだから、アンタはヒーラーかバッファーでよろしくね



                              ID aoharu0323:よくわからん、断る。




 きっと何か細工をしたのだろう。俺の姉と母はこの『アルカディア・ユニバース』にドハマリしており、俺だけではなく父や妹もこのゲーム世界にどっぷり浸からせてやろうと企んでいる。俺は大学、妹は高校受験を控えているし、父も仕事が忙しいのでゲームにうつつを抜かしている暇はない。ニートの姉や今や家事もしない母とは違うのだ。



 ----メッセージを受信


 リリィ:本当にログアウト出来ないよ。嘘じゃない。とにかくこっちに来て。冒険者ギルド『眠れる騎士の集い』にある下級クエスト掲示板の前にいるわ


 いつになくしつこい。どうやら俺がチュートリアルを終えるまで返してくれないようだ。こうなってはここでじっとしていても時間の無駄だ。やれやれ、仕方がない。俺は観念して森を出ることにした。


 ----メッセージを返信


                              ID aoharu0323:わかった。チュートリアル終わったら帰らせてくれよ。


 メッセージログを閉じると、俺は重い腰を上げて歩きだした。少し進むと天の声が聞こえてきた。それはこの世界の神だの魔法の仕組みだのをくどくどと説明してきたが、俺は右から左へ受け流していた。とりあえずこの世界には七人の悪魔がいて、各国で悪さをしているからそれを倒してくれってことみたいだ。まあ、どうでもいいが。


 それから更に進むと、モンスター出現の文字が現れ、戦闘BGMっぽいものが流れ出してきた。


「敵か。スライムとかゴブリンでも出てくるのかな」


 俺だって昔はゲームをしていたので、こういったファンタジー世界の序盤の敵はスライムかゴブリンということくらい、俺でもよく分かる。しかし、現れたモンスターは俺の想像を超えていた。それは獅子と鷹、そして山羊の頭を一つの体で共有しており、背には蝙蝠の翼、尾は蛇の顔をしていた。


 LV:50 ゴア・キメラ


 表示されるレベルを見て一瞬ビビったが、成程、負けイベってやつか。ならばさっさと負けてやろう。俺は適当に攻撃してみた。当然ダメージは0だ。即座にキメラは蛇の尾で反撃をしてきた。右肩から蛇に噛みつかれた俺は、そのあまりの激痛に言葉を失った。


「ッッーーーー!?」


 激痛、吐き気、めまい。世界がぐるぐると廻る。これ、ゲームなんだよな…?


 俺の思考は間もなく獅子の顎によって砕かれ、消えていった。

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