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なろラジ大賞2 応募作品

偽物

作者: 海堂直也

目指す場所は視界に入っている。はしゃいだ子供なら駆け上って行くであろう坂道を、私は杖を突きながら歩いて行く。


もうすぐ逢える、もう焦らなくて良い、もう私を縛るモノは何も無い。


緩い上り坂をのぼれば小屋がある。あれは、後ろにそびえる山へ向かう者の為の始まりの小屋だ。しかし、男はここを終わりの小屋にしたい。男の目的は勿論、登山では無い。


小屋には美しい風景画が飾られてある。

「間違い無い、フランス印象派点描技法、本物だ。」

かすかに震える杖は、体力の衰えと歓喜によるもの。


男は今迄に数枚の絵を確保して来た。数十年前、祖父の美術館に偽物を見つけてから、数百回の旅をする為に、数千数万の情報を掻き集めて。


誰もが本物のと信じて疑わなかった偽物達、それ等は大戦末期、贋作者達の魂心の1枚であり、本物を越える程の美しさを持つ。


第二次世界大戦中、ヒトラーに集められた美術品は敗戦が濃厚になると、敵に取られるくらいなら燃やしてしまえと命令が下る。しかし、レジスタンスの活躍によりその難は免れるのだが、先手を打ち既に贋作者たちが入替えた物もあった為に、世の中に本物として偽物が出てしまい、贋作者達は本物を隠し続ける事になったという。


祖父はレジスタンスの一人で、美術品の返還と保管を担当し、後に美術館の館長を務める。そして、ある日贋作者から届いた一通の手紙で真実を知る。最初は信じなかった、だが、手紙には偽物の目印が記されてあり、展示品にそれはあった。


贋作者は、本物と見分けがつかない、偽物を造る。しかし、これは贋作として偽物。偽物と分かるように仕掛けのある偽物。


男はこれで、手紙に書かれた全ての作品を保管した。


美術館には保管した絵と手紙と贋作、全てが展示されている。

頬を伝う涙は全ての人へ。



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