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手紙  作者: 甲池 幸
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追憶◇片瀬 光

「この前、洸の墓参り行ったら時にさ伊藤先生に会ったんだよね」


伊藤先生は高校一年の時の担任の先生で、いつも冗談を言っていた面白い先生だ。わりと若い先生で、教え方もうまいから生徒にはかなり人気があった。洸も、私も片瀬もたくさんお世話になった。


「近くのファミレスで話してたら、一時間もたってて二人で大笑い」


そんなに面白い話をしたのか、肩を震わせる片瀬をぼんやりと眺めていると、また顔を覗き込まれた。


「洸のこと、たくさん思い出そうよ。今日は、あいつに近かった奴が二人もいるんだからさ」


そういって、ふわりと優しく微笑んだ片瀬は私の知らない洸のことを語りだした。


###


俺が、坂崎 洸に話しかけたのはいつも隣にいる幼馴染に興味があったからだ。長い艶のある黒髪に二重の大きな目。控えめにいってもかなりの美人で、しかも気さくな性格ですごく話しやすいと、男子の中では有名だった。


「さーかざきくん」


「なに?」


本を読んでいた坂崎 洸に話しかけると、不機嫌そうな答えが返ってきた。俺はその言い方にムッとしながらも、本に目を戻そうとはしない坂崎 洸に、話を続けた。


「幼馴染ちゃんってさ、名前何ていうの?」


「姫崎 夏恋だけど」


幼馴染の話が出来るのが嬉しいのか、さっきよりも不機嫌さが薄まった声に心の中だけで驚く。普通、好きなやつのことを男が聞いてきたら、嫌な顔するだろ。


「夏恋チャンと坂崎くんて付き合ってんの?」


「は!?な!んな!わけ?!ねぇだろ!!」


逆に怪しまれるほどキョドりように、素で笑いがこぼれた。休み時間に本なんて読んでるからどんな堅物かと思いきや、普通に話せる良い奴かもしれない、そんなふうに感じた。


「へぇー、でも好きなんだ」


「だあから!ちげえって言ってんだろ!」


「認めても誰にも言わねえよ?」


くすくすと笑う俺の顔を憎らしそうに見ながら、坂崎は振り上げていた拳を下ろすと、はぁーっと溜息をつきながら机に突っ伏した。


「好きだけどさ。あいつ好きな人いるらしいんだよ。はぁーーーー、叶わねえ恋とかがらじゃねえー」


初対面の相手になんでも話せるタイプなのか、ただ単に悩みが溜まっていて聞いて欲しかっただけなのかは分からないけれど坂崎はそう言って、愚痴り始めた。


「そんなの、直接聞いてみるしかないだろ」


「無理に決まってんだろ?」


「幼馴染だろ?いけるって」


「幼馴染なめてるだろ」


坂崎にじとっと睨まれて、俺はまたくすくすと笑った。坂崎がなんでも素直に話すせいか俺も普段は人に隠している素で坂崎に接していた。


「好きな人の話とか、できねえよ。聞いたらぜってえ落ち込むし。でも、次の日も一緒に学校行かなきゃなんねえんだぞ?勇気でねえよ」


そう言うと、坂崎はまた机に突っ伏した。


そこでチャイムがなって、俺はなぜか名残惜しさを感じながら坂崎の席をあとにした。


その日から俺は、休み時間のたびに坂崎に絡むようになった。夏恋チャンとも親しくなれたけれど、前のような下心はもうなかった。こんなに、本気で夏恋チャンのこと好きなやつが目の前にいるのに、遊び半分で手を出そうとは思えなかった。


高一の夏休み直前。坂崎が俺の家に泊まりに来た時、ついに告白することにしたと報告してきた。


「決めたんだけどさ、どうやって言おうか悩んでてて。なんかいいアイディアねえ?」


「夏祭り行ってくれば?」


「付き合ってから行きたい」


「わがままかよ」


俺が投げやりに突っ込むと、なぜか腹筋をしながら坂崎が膨れた。男子高校生がやっても可愛くないのに、坂崎がやると無駄な愛嬌が出るから不思議だ。


「だってさー、付き合ってなかったらいつもと変わんねえじゃん」


「毎年行ってんの?」


「行ってる、2人で」


「もう、さっさとくっつけよ、お前ら」


俺が枕を投げると、腹筋をしていた坂崎の顔面にちょうどヒットする。まさか当たると思っていなかった俺は謝ろうとしたけれど、笑いが止まらなかった。


それから、枕投げが始まって俺たちは最初に何を話していたのかすら覚えていないまま眠りについた。


結局、2人ともいい告白のシュチュエーションが浮かばないまま花火大会がやってきた。悲しいことに、俺は誰とも行く約束をしていなくて、花火が上がる音を聞きながら部屋でぼーっとゲームをしていた。花火が上がり出して15分もすればあっという間に静かになって、遠くにいるのに花火大会が終わったのがわかった。


「光ー!坂崎くん来たわよー!」


音がしなくなってからさらに30分くらいたったあと、母に呼ばれて二階の自分の部屋から一階に降りると真っ赤な顔をした坂崎が玄関にたっていた。


「いえた。で、オッケーだった」


ぼそっと呟いた坂崎に、関係ないのに自分のことのように嬉しくなって、飛び上がりそうだった。でも、同時に初めてできた友人と呼びたい人の一番優先される立場が埋まってしまったことがなんだか寂しかった。


そんな女々しいこと絶対に本人には言わないけれど。


そのまま夏恋チャンと、坂崎は順調に付き合っていた。1回別れた時もあったけれど、それも夏恋チャンの親友と俺のファインプレーでなんとか仲を取り戻した。結婚式の、友達代表のスピーチを割と真面目に考えたりもした。


でも、それもぜんぶ、空想で終わってしまった。

五月のゴールデンウィーク初日、坂崎は事故にあった。


_____お前はやっぱ、馬鹿だよ、坂崎。


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