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手紙  作者: 甲池 幸
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二通目

あの日、洸が病室に現れたとき。魔法がかかったような気がした。もう二度とかかることのない魔法。


私の泣き声が届くところに洸は、もう、いない。


そうなんでしょう?洸

どんなに泣き叫んだって、

心で強く願ったって、

もう、洸に届くことはないんでしょう?

馬鹿だなぁって迎えに来てはくれないんでしょう?


胸に、ナイフを突き刺されたような鋭い痛みが走る。


あの頃のことを思い出す度に、洸がいないことを痛感して胸が痛むから、もう思い出さないように、でも決して忘れないように、そっと大事に心の奥底にしまい込む。


「ねえ、夏恋」


急に真面目なトーンになった凛音に緊張して口の中が乾く。私は氷が溶けて薄くなったアイスココアをゆっくりとかき混ぜて一口飲んでから答える。


「なに?」


凛音はちょっと戸惑ったように見えた。言うのを躊躇うような、そんな感じ。3秒くらいそうやって悩んでから意を決したように息を吸いこんでゆっくり言葉を紡いだ。


「もう、進もう、夏恋」


眉を下げて困ったように笑う凛音になんだか泣きたくなる。


「………まだ、進めない」


あの日、洸が私の隣から消えた日からうまく笑えないままの私は俯いて小さく呟いた。


「そう」

洸と別れたことを告げた日みたいに、優しく短く呟いた凛音は作り物みたいに綺麗に笑った。その笑顔がなんだか眩しくて私は上げかけた目線をまた下げた。


「じゃあ、これ」


凛音が差し出したのは、家に届いたのと同じ封筒だった。同じように洸の字で私の名前が書かれている。凛音の言葉に続きがあるような気がして、目線を凛音の目に合わせる。


「坂崎くんは、ばかだよ」

凛音はなぜか小さくそう呟くと、涙を流した。


大きくて、透明な、雫が静かに頬を伝って、テーブルの上にこぼれ落ちる。


その一連の様子を私は息もできずに見守っていた。凛音がどうして泣いているのかも、言葉の意味も、何もわからない中で唯一分かったのは、彼女がもう、声を上げて泣かないことだけ。


凛音の時間は確実に進んでいる。

凛音は空いた手で涙を拭ってから、私に手紙を握らせた。親指で涙を拭うその仕草が、なんだかとても大人びて見えて、凛音を急に遠く感じた。


お会計を済ませて外に出ると、家を出た時には9時だった時計は、もう10時半を指している。手紙を読むために私は小さな公園に向かうことにした。


足を進めながら、昔本で読んだ話を思い出す。


同じ色を見ていても、見る人によって微妙に違う色に見える、という話。その話を読んだ時、私は小さな孤立した世界がたくさんあるような不思議な感覚に陥った。


街ですれ違う人、同じ高校に通う人。凛音、片瀬くん、洸。いろんな人がそれぞれの世界で生きているような、不思議な感じを覚えた。


そして、私もその世界を持っているのだと信じて疑わなかった。

でも、それは間違いだった。


私の世界は、洸の世界の中にあった。洸が作って、動かしている暖かくて安心できる世界の中に。だから、洸がいないと動けないのだ。


私の世界だけが、世間の時間に置いてかれている。


『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン』


公園のベンチに座って手紙を開くと、1行目に書かれていた言葉に唇の端を歪めた。まだ、うまく笑えない。


『凛音とちゃんと話したか?

俺の思い出話沢山した?

夏恋は、一人だと全然俺のこと考えなさそうなので、今日は夜までかけて、俺のこと思い出すツアーに出かけてもらいたいと思いまーす。

じゃ、次の場所のヒントな。

高一の夏恋の誕生日にポップコーンを食べたところ。

P.S

どんなに遠く離れていても、夏恋の声だけは聞こえてるよ』


嘘つき。声が聞こえてるなら、会いに来てよ、馬鹿。

手紙をカバンの中にしまうと次の目的地に行くために駅を目指した。


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