第17話 矛盾ヒーロー
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます!!
本当は先週に更新できる予定だったのですが、かなり遅れてしまいました。
今回は文量が多いです。お楽しみいただければ幸いです。
それでは、どうぞ!
けふ、と息を吐き、淀峰は腹を擦る。静寂に包まれた部屋の中には、彼女一人しかいない。
「これをあと六回繰り返す。合計二百八十名の生徒を食っちゃうとは、麗子ちゃんはホンマに肉食系女子やなぁ」
扉が開かれると、勅使河原と安住が淀峰のもとへ歩いてきた。
「はっは。勅使河原、お前ブッ殺す」
笑顔を作るも、その言動は極めて物騒である。着物の裾を上げ、腕まくりを始める淀峰を止めたのは安住だった。
「所長。動かないでください。今から接続を行いますので」
そう言って、淀峰の腕や足にケーブルのようなものを装着させ、頭部にはヘッドギア型の装置を取り付けた。その手際は素早く、手慣れたものだった。
「そうそう。麗子ちゃんが動いたら、子供達が地震と勘違いしてしまうやろ? その“腹”ん中におるわけやし」
「む……って、おい勅使河原。その言い方は止めろ。まるで私が妊娠したみたいだろう」
一拍、無音が流れ――勅使河原の爆笑が始まったのは言うまでもない。安住も笑うまいと口を手で押さえて堪えているが、ほとんど笑ってしまっているようなものだった。
「~ッ! ええい、早く画面に繋げろ! 四十連結!」
顔を真っ赤にさせて大声を出す。その命令に答えるように、第一研究所の職員がぞろぞろと現れた。一人一人に台車を押し、その台車の上には大型のテレビ機器が置かれている。
総数四十台、A組の生徒数と一致するテレビは次々と組み立てられる。縦四台に横十台で設置され、壁の如くそびえ立った。
それらから伸ばされたケーブルを全て淀峰の頭部装置に接続する。
「こちらは準備完了です。所長は……」
「ああ、良好だ……と格好つけたいんだがな。勅使河原、椅子を持ってこい。これ、重いんだよ」
頭部装置を指差す。幾本のケーブルを支えるその装置の重量は、淀峰の体重の半分ほどの重さであった。
「去年もそう言うてたから、今年は前もって用意しといたで。しかも背もたれ付きや」
ドヤ顏の勅使河原は備えていた椅子に淀峰を座らせる。
「それは助かるな。そうそう、去年はこれが無かったせいでひっくり返ったんだった」
「ホンマ、あれは間抜けやったなぁ麗子ちゃ――痛いッ!」
油断しきっていた勅使河原のあごに目掛けてアッパーをかましたところで、淀峰は手を鳴らした。
「さぁ、始めよう。電源を入れろ」
一斉に画面に光が灯る。同時に、淀峰の頭部装置も駆動音を鳴らし始めた。
四十の画面に色が宿る。全て、生徒一人一人を映し出していた。辺りを見渡す天草の姿もあれば、盛大に感動している崇や、ただひたすらに歩いている善吉がいた。
次に、音声機能も起動される。既に戦闘音すら聞こえた。
「ほう。戦場ヶ崎と鷹頭か。場所は……森林地区」
「計測出ました。戦場ヶ崎 戦、“エネミー”討伐数は八。鷹頭 凜、討伐数はありませんが、戦闘はしています」
安住は青く光っている窓枠陣から表示された情報を淀峰に伝える。
窓枠陣とは、仮想型情報処理端末のこと。窓枠のようなフレーム状の薄い光の板――という表現が一番妥当である。登録した人間の指紋に反応し、そのスペックは一般のパソコンを軽く超える。
「やれやれ、富嶽も厄介な娘を持ったな。これは戦清会の未来も明るい」
溜め息交じりに、旧知の仲である極道に対して笑いかける。
「市街地区にて大賀島 忠吾、“エネミー”の群れと戦闘中。現在の討伐数は四」
「おっと、須藤 崇が浅月 秀英と接触。ついでに相良 和海は一之瀬 貴臣と戦闘開始。いやぁ、皆さん若ぅて何よりやわ」
画面を見て、勅使河原も繰り広げられる試験の経過報告を口にしていく。
「群れ……か。“エネミー”の発生確率と、頒布はどうなっている?」
淀峰の問い掛けに、安住が窓枠陣を操作して結果を弾き出した。
「“エネミー”の発生確率は市街地が異常に上がっています。頒布も市街地方面に偏っていますね。逆に、その他地域では例年通りの平均値を見せています」
見れば、次々と“エネミー”が生成され、大賀島を始めとする生徒達に襲いかかっている。この速度から考えられる仮説は、一つ。
「ふむ、“巣”があるな。市街地区に数ヶ所……といったところか。この速度だと」
「どうしますか。こちらの方で“巣”を特定して、いくつか削除してあげることも可能ですが」
安住 礼――自分には酷く厳しいくせに、他人には同じように接することはできない。要するに甘いのだ。それは中立の立場である研究者としては失格レベルの性格であるが、だからこそ淀峰は彼女を欲しがった。
「いいや、しばらく様子見だな。善戦しているようだし、わざわざ難易度を下げてやる必要も無い」
これは試験だ。いくら運用チェック目的とはいえ、途中で手を差し伸べてやるのは例外でしか有り得ない。
「〝暴帝黄金宮殿『戦奴闘技場』〟――毎度思うことやけど、どえらい“血戦武装”やなぁ」
不意に、勅使河原が感嘆の声を上げる。淀峰の持つ“血戦武装”は、それだけ規格外ということ。
「まさか、自分を戦場に変えてその中に対象を引きずりこむ……なんて能力、デタラメ過ぎるわ。その中には“エネミー”っちゅう、麗子ちゃんの意思次第でバケモンにも虫ケラにもなる兵隊が無限に生成されるんやから、堪ったもんやない」
はぁ、と溜め息を吐き、勅使河原は『お手上げ』と言いたげに肩をすくめる。
「発動してから約一秒間は逃れるチャンスがあるけども、範囲がバカ広いから無意味、かといって引きずりこまれた後も脱出不可能ときた。無理に暴れれば消化されて終わり……流石は“血戦武装”の生みの親ってところやな」
「大雑把な説明をどうもありがとうよ勅使河原。つまり、私のコレはズルい、と?」
聞く人によってはかなり嫌味が込められた説明だったかもしれないが、あいにく勅使河原に悪意は無い。それは淀峰にも十分にわかっている。
「いやいや、むしろズルいから大助かりですわ。例えば、広い土地を使用しなくてもこうして試験をすることもできるし、“エネミー”っちゅう丁度良い練習相手もおる。最高の環境を生徒に与えられていると思うとります」
最高の環境――それは本来、どの武装高校でも必須なはず。しかし、現状その環境を与えられているのは明星館学園しか無い。
当然と言えば当然だろう。勅使河原も毎年褒めちぎるこの“血戦武装”は、淀峰のみが持ち得る特別製なのだ。似たような武装を開発し、それを各学校に配ろうにも、それを扱える人間自体がいない。結果として、武装高校の成果の格差が生まれてしまう。
その原因としては他にも多々あるが、真っ先に挙げられるのは――キャパシティの問題。そもそも、人間が人間を中に圧縮させることなど、不可能なのだ。
「所長! 戦場ヶ崎と鷹頭が互いに“血戦武装”の限定解除を行いました!」
現状を憂いている淀峰を引き戻したのは、安住の一声だった。
“血戦武装”の名前を呼ぶことを、一般的に『限定解除』と定義されている。
「『鬼怒』と『疾鷹』だな。二人の具現安定度を解析しろ。血流も確認、本人に異常がないか、全て調べ上げるんだ」
これを四十人分――いや、正確には三十九人分か。
安住や勅使河原、その他の研究員達に支持を出した後、淀峰は目線を画面に戻した。中央の画面には問題の生徒がいた。
「さぁ、新開。お前にとって最高の環境だろう。存分に暴れていいんだぞ」
玄一郎の“神開一新流”が私の“血戦武装”にどこまで通用するかな。それともやはり――。
頭に重みを感じながら、椅子の背もたれに軽く体重を任せた。
●
試験に参加できる、と聞いた時の心境は、嬉しさ半分と不完全燃焼感が半分。自分は“血戦武装”の具現化に成功していないのに、何故許可が下りたのか? という疑問も続いて生まれた。
他の連中がまるで自分のことのように喜んでくれたから――戦だけは理由が明確だったが――無下に断るわけにもいかず、そのままズルズルとこの場に立っている。
さて、ここはどこだ。
「海……だな」
目の前には青く透き通った大海原。水平線が綺麗に見える。足下は砂浜。頭上には輝く太陽。ブレザーを着込んでいるせいか、不思議と暑さも感じてきた。
小さな貝殻を拾い上げる。
「つまりここで戦え、と」
状況がよく飲み込めないが、何かに引き込まれた感覚は覚えている。となればここは試験場――と考えるのが妥当だ。ならば、
「戦に見つからないようにしないとな」
戦う相手は慎重に選ばなければならないだろう。もちろん挑まれたら受けて立つが、それでも天敵、というモノがあるのだ。
すなわち、戦場ヶ崎 戦。お互い素手同士で戦り合うだけでもかなり長引くというのに、武装化された彼女となんて正直、戦いたくない。こちらが丸腰だからといって、決して手加減はしないだろうし、情けもかけてくれないに違いない。
自分から仕掛けることはないのだから、このまま海を眺めていても良いのかもしれないが……それでは試験にならない。そもそもあれだけ啖呵を切ったのだから、やれるだけのことはするべきだ。
自分のような半端者でも許可が下りたということは、何か俺でもできることがあるということ。それを模索していると、
「ん?」
砂浜から陸地に続く方向にある堤防に何かが立っていた。
人――と見間違えたが、それはあくまでシルエットで判断した場合。すぐに、それが人ではないと理解した。
まず色。何もかもが赤で着色されたよう。次に形。確かに頭部に四肢、と人の特徴を捉えているが、人間のような曲線は無く、どちらかといえば粗いポリゴンで造られた人形、と言えた。
それがこちらをジッと――目や鼻、口らしい顔のパーツは見えなかったが――見つめている。
「何だ……もしかしてアレが」
“エネミー”って奴か。そう言い切る前に、赤が堤防から飛び降り、砂浜を駆けて来た。人間味ある速度であったが、自然的な色ではない赤色が迫って来る、という威圧感が体感速度を狂わせる。
「ッ!」
軽くいなして海に叩き落としてやろう、とカウンターの用意で待ち構えていると、その両手の異常性に気付き、横っ飛びで攻撃を躱す。
すぐに身を持ち上げて距離を取りながら、その両手を凝視した。
鋭く尖った槍。人間でいうと手首から下の部分は凶器と化していた。手首を掴み上げて無力化し、そのまま足払いして投げ飛ばす、というカウンターをもし行っていれば、自分の両手は串刺しにされていただろう。
刺殺目的として非常に優秀であろうその武器を、“エネミー”はこちらに向けて再度突進してきた。心なしか、速度も増しているように感じられる。しかし、
「まだ、だ」
その両突きを躱すように素早く身を捻り、がら空きになった“エネミー”の胴体部分を捉えた。
回転の勢いを殺さずそのまま、足を思い切り砂浜に踏みつけて拳を叩き込む。
「ッせ!」
拳を撃ち込まれた部分にひびが入り、広がっていく。
「ッ! 踏み込みが浅かったか……!」
地は柔らかい砂浜。踏みつけて得られるエネルギー量はやはり小さいものとなる。それだけでなく、砂で踏み込みの位置が数センチほどズレたことで、一撃必殺とはならなかった。
しかし、体勢を崩すだけのダメージは通ったのか、ぐらりと赤い身体が倒れていく。
今こそ好機! バランスを失っている今、追撃しない手は無い!
先程踏み込みを決めた足を今度は支点として、逆に支点であった足を離す。その回転力は先の一撃の勢いより増していた。狙うは一点――ひび割れた、同じ部分のみ。
「ッシ!」
大人しく倒れようとしている“エネミー”に回し蹴りをお見舞いする。ガラスが割れたような音を鳴らし、ひびが身体全体へと広がり、そして砕けた。太陽の光に乱反射して、砂浜に赤い欠片が飛散する。
「具現化していないと倒せない、ってわけじゃなさそうだ」
姿勢を元に戻し、その欠片を拾い上げた。色ガラスのように半透明で、しかも少し力を加えるだけで更に細かく、砂状に崩れていった。
「やけに脆かったな……お前等もそうなのか? もう少し頑丈だと嬉しいんだが」
背後に忍び寄る青と緑の人型“エネミー”に問い掛ける。二体は自分達に向けられた言葉だと理解したのか、立ち止まった。
青色は両手が剣。緑色は斧。どうやら形状も個体差があるようだ。どちらも先程倒した赤色よりも一回り大きい。
「俺、人形に呪われでもしたかな」
自嘲気味に眼前の敵を見据える。今朝も脳内で対戦してきた人形を想起しながら、二体の“エネミー”に向かって走り出した。
●
砂浜で“エネミー”と戦う大和を見て、淀峰はぽつり、と呟いた。
「まだまだだなぁ……」
その小さな本音を、勅使河原が聞き逃さなかった。
「い、いやいや麗子ちゃん? そう言うてるけど、生身で“エネミー”を倒すって、普通はできんことやで?」
勅使河原を初め、多くの研究職員はその結果に絶句していたところだった。具現化せず、対“血戦武装”兵器になりうる“エネミー”を撃退した例は、未だかつて無い。
「いくら難易度調整しているからといって、“血戦武装”を使わんと勝てるわけが――」
「別に具現化しなくても、この程度の“エネミー”ならば倒せる奴は倒せるよ。そりゃあ生身の人間ならば勝てないだろうが、あいにく私の腹の中にいる全員はその身に“血戦武装”を宿している」
すなわち、装甲を身に纏っている人間ならば撃退は可能なのである。
「新開だってそうさ。あの右腕が“血戦武装”のようなもので、封をしていてもその装甲の影響が失われたわけではない」
一拍置いて、溜め息を漏らす。
「とはいえ、具現化せずに倒したことに関しては私も驚いている」
何故なら具現化せずに“エネミー”を攻撃した生徒は、大和が初めてであったのだ。今までそんなルール破りの大馬鹿者はいなかった。
淀峰の創り出した試験場自体には、ある仕掛けがあった。
それは“血戦武装”の具現化を促す効果のある匂い。それが試験場全てに充満しており、また、手に入れた武装の実戦投入という心理作用も相まって、ほとんどの生徒が具現化して試験に臨む。
「どれだけ悠長な奴なんだ、バカタレ」
何も知らない少年は片方の――緑色のボディをした――“エネミー”を破壊する。その姿はますます、淀峰の目論見から外れていく。
「悠長?」
勅使河原のオウム返しに、淀峰はすぐさま言葉を吐きだした。
「お前も言ったろう、荒療治だと。“エネミー”に襲われれば具現化できるかも、と淡い期待を抱いていた私が愚かだったかもしれんが」
この環境下、加えて命の危機に瀕すれば本能的に具現化するかもしれない。精神論であるが、確かに荒療治としては試す価値があった。
そんなマンガ的な展開は有り得ない? いいや、きっと有り得る。フィクションは時としてリアルを描くものだ。
「それに、私が『まだまだ』と言ったのはこの結果のことではないよ」
大和がついに青色の“エネミー”を蹴り砕いた。赤色と比べると苦戦したようだが、まだまだ涼しい顔をしている。
「“神開一新流”……ですか?」
安住の答えに、淀峰は満足そうな表情で返す。
「私は玄一郎も零二も見てきたから、断言できる」
淀峰は大和が戦闘を始めた時から、その動作一つ一つをつぶさに見てきた。それは新開 玄一郎にも、新開 零二にも向けた同様の眼差しである。
その観察眼は、冷静に新開 大和を解析していく。十数年以上の努力の結晶を鑑定していく。
「完成度に関しては言うまでもない。動きも悪くないし、なるほど確かに殺人拳としては至高だろう。流石は“神開一新流”だ」
“血戦武装”抜きで体術のみの戦闘ならば、同学年で右に出るものはいないかもしれない。もちろん鷹頭のように特別な訓練を受けた生徒は存在するが、それで“神開一新流”に並ぶはずもない。新開家だからこその戦闘術は、間違いなく殺人拳である。
「当時の玄一郎よりかはマシだが、少しムラがあるな。零二はもっと神経質なまでに綺麗だった。あれもあれで問題だが」
創始者である玄一郎が、この戦闘術を今の“神開一新流”にまで作り上げたのは、中国から帰国してからのこと。戦中では、日本の古流武術や軍隊の格闘術やステゴロ(素手の喧嘩)などを滅茶苦茶に混ぜ合わせた、流派と名乗るには実に苦しい出来であったから、それと比べると大和の方がずっと素晴らしい。
「まぁ、私が口出しするまでもないだろう。どうせ玄一郎が矯正する」
私はあくまで“血戦武装”が専門だからな、と淀峰は付け加え、もう一度全体重を背もたれに預けた。
「正直に言ってしまうと“血戦武装”での戦闘に体術はそこまで重要じゃない。あっても良いが、別に無くて困るわけでもない」
“血戦武装”とは兵器である。兵器同士の戦いに、たかが人間の技術が介入してその勝敗を分けるということは実に稀なのだ。
しかし、それは普通の技術での話。
「だが、もしも“神開一新流”レベルの技術を身に付けた生徒が“血戦武装”を具現化させた場合、それは脅威以外の何物でもない」
その稀を、常に引き出せるとしたら――。
兵器の戦闘にその技術を組み込めたら――。
「だから今の時代、武道が盛んになりつつあるのさ。下地があれば、成果も期待できるからな」
日本を始めとする世界全体で、“血戦武装”の開発とともに人材の育成に力を注ぎ、日々競い合っている。
より強く、より結果の出せる“血戦武装”とその保有者の数を増やす。それ自体は最初の製造者である淀峰も認めていた。それが彼女の夢に、理想に繋がるからだ。
「続々と具現化してきたな。いいぞ、もっとお前達の魂を見せてくれ」
画面に広がる少年少女の武装を見て、満足そうに淀峰は頷く。
「期待しているぞ、須藤。それに司馬。私はお前達の“夢想”を理解した上で、その武装を造ったんだ」
二名の生徒を名指し、映る画面に目線を映した。
現実世界で万人に高い評価を得られない彼等を、私は認めよう。受け入れよう。包み込もう。そういう人間でも――“血戦武装”はきっと応えてくれる。
●
「――抜錨――」
出会い頭一発、やるべきことがある――崇はこの場に立った時から、そう心に誓っていた。
そして、それがついに実行される。
「〝鮮烈駆逐忍道『陽炎』〟!!」
指と指を合わせ、力を込めた。
常に元気な声を発していた口は“血戦武装”の装備である黒い口当てによって隠され、更に首元にはマフラー状の装備も追加される。
右手には従来と比べ、やや小振り――機能性や携帯性を重視した――である刀、忍者刀が。
左手には両刃の鉄、手裏剣にも用途がある苦無が。
その姿は忍者――と呼ぶには実に派手すぎた。仮にも忍ぶ者を気取るのならば、極力控えめな登場をすべきだっただろう。
しかし、須藤 崇はその暗黙のルールをぶち壊し、真っ向から彼の前に立ち、自らの“血戦武装”の限定解除をしてのけた。
その意図を、当然相対する少年、浅月 秀英が理解できるわけがない。
崇とはこの廃墟の中で偶然居合わせた。それが十数秒前。
いきなり具現化するのはまだ理解できる。これはそういう試験だ。
しかし、いきなり自身の“血戦武装”の名を叫ぶその馬鹿っぷりにはどうやったってついていけない。
奇を衒ったつもりか――それは、浅月が最も好ましくない戦略だった。
「何の真似だ」
鋭い目つきで、さも忍者のようなポージングをしている崇に冷たく言い放つ。
「別に」
それに崇は動じない。口当ての効果か、浅月には崇の表情の変化が読み取りにくくなっていたが、どうにも笑っているよう。それだけは雰囲気からでもよくわかった。
「ただ、お前だけなんだよな、まだ俺の名前を呼んでもらってないのはさ」
そう言って、崇は忍者刀と苦無を逆手に持ち変える。体勢を低くし、浅月に訴えかけた。
かかってこい、と。
その言動に不覚にも、気分が僅かに高揚した。
どうしてだ、と浅月はすぐさま自分に疑問を投げた。その臨戦態勢、その安っぽい挑発をどうしても避けられない、理由とは。
「人をノセるのが上手いな。そういう特技は、嫌いじゃない」
華がある、というのは似合わないだろうか。とにかく彼の言葉には、話には人を惹き付ける。近坂という女子生徒とはまた違った路線だ。落語家などに向いているのかもしれない。
そう、浅月は気を取り直し、いつものように冷静に目の前の少年を分析する。
「気が向いた。お前の土俵に乗ってやる」
浅月は右手に握っていた銃を前に突き出した。
銃――銀色で形作られたオートマチックマグナム。これこそ浅月 秀英の“血戦武装”に他ならない。
「武装の名前は呼ばなくても平気かよ?」
「心配ない」
流石に崇のような暴挙に出るほど、浅月は彼の特技に酔っていない。
「お? あとで後悔しても知らねぇぜ?」
目が笑っている。口も、当て布から浮き上がるくらいに三日月を作り上げていた。
何故笑うのだろう――そう考えたのは一瞬。
すぐに思考を断ち切ったのは、自分も僅かに笑っていたから。
「それだけ言うなら……後悔させてみせろ」
俺がこの“血戦武装”の名を口にするだけの価値がお前にあるのか――まずは見極めてやる。
その思いを銃口から、弾丸として送り届ける。
「うおわッ!」
咄嗟に身を屈め、超高速で襲い掛かる点から逃れた。武装による動体視力のおかげで直撃は免れたが、その弾速は従来のそれを遥かに超えている。
「お返しだっつの!」
足を踏み抜き、一気に加速の世界へ入り込む。迫る次弾を右に、左にと回避し、あっと言う間に忍者刀の攻撃範囲まで近付いた。
崇は刀の扱い方を知らない。漫画やテレビ、スポーツでの剣道、という形でしか目にしたことは無かった。苦無なんてモノになれば、尚更である。
しかし崇は俊敏に、右逆手の忍者刀を振る。身体に染み付いていなくとも血が、魂が反応しているのだ。“血戦武装”という形で刻み込まれている。
下方向から斬り上げ。それから流れるように腕を横にして薙ぎ払い。二撃とも銃身で受け止められたが、代わりに苦無の範囲にまで迫ることができた。
忍者刀と苦無――長さ、大きさ、形状に用法とどれを取っても異なる二種類の武器を最大限に有効活用するテクニックは、タイミングを外すことである。
スポーツだけでなくどのような対戦行為でも同じことが言えるが、いかに相手の慣れや把握といった有利な状況を作り出させないか、が勝利のカギとなることが多い。
相手の思い通りに事を運ばせない。その為に攻撃のタイミングすら、相手に掴ませてはいけないのだ。
相手に決して『イケる』と思わせてはいけない――そういう意識を、崇は本能的に理解していた。だからこそ、器用に異なる攻撃パターンで攻め始める。
今までの崇の連撃は右手のみだったが、これからは両手となり手数は段違いに増える。左右から異なる攻撃が浅月に襲い掛かるという事実は、銃一丁で凌いでいた浅月にとって不利としか言えないだろう。
加えて、対銃の優勢パターンは接近戦に持ち込むこと。現に先程から浅月は弾丸を発射できていない。崇の素早い連続攻撃に防戦一方のまま、徐々に後退している。
靴裏が土と擦れる。それを崇は聞き逃さない。
「よっと!」
上方攻撃で浅月の両手が上に挙げられた瞬間、その脇にできた突破口に体躯を突っ込ませる。決して小柄とはいえないその身体、しかし忍者の如き身のこなしでそれを成功させた崇は見事に浅月の後方を取ることができた。
「フッ!」
しかし、背後からの強襲は行えない。浅月は急いで翻し、銃口を前に出した。そう、戦闘経験者であるならば、その反射行動はどうしたって行うものだろう。
「もらいィッ!」
崇はその、浅月の反射神経速度を信じた。コイツならきっと予想以上の速さで得物を構えてくれる――と。
斬り上げた苦無の刃が銀の銃身とぶつかり、二つの武装は持ち主の手から離れた。それを意味するのはすなわち、浅月が無防備状態となったということ。
好機――! 崇は残る右手の忍者刀を斜めに斬り下ろした。
「……ねらいは良いな」
その刀身は装甲を纏った浅月の身体を裂くことなく、前のめりに空振りで終わる。
「え」
崇には全てがスローモーションに感じた。横目で見れば、浅月は身を少し捻っている。そして崇の肩には、浅月の手が軽く置かれていた。まるで――攻撃の勢いを手助けしたように。
強い既知感を覚えた。それを崇が思い出す前に、浅月の反撃が崇の想起を強制的に中断させる。
「ッシ!」
身を捻った反動を最大限に活かし、口当てで隠れた顔面目掛けて掌底を叩き放つ。頭部が後方に飛び、それに引っ張られて身体も後を追う。
その勢いは廃墟群の大きなガレキによって身体ごと塞き止められ、ようやく沈黙した。
「あ、ぐ……」
ぼんやりとした視界の中、目に映った浅月の構えは、崇の記憶を掘り起こさせるに十分過ぎるほどのものであった。
酷似していたのだ――自分のよく知る親友の、十数年の結晶と。
●
ああ――また思い出す。雷鳴のように心に轟いて、戒めのように俺に事実を突き付ける。
「あのさ」
赤毛混じりの少年は、机越しに目の前でアイスを頬張っている黒髪の少年に問い掛けた。
「ん?」
その声に反応し、少年は青い長方形を口から離した。
「俺、いつかさ……大和みたいになれるかな」
「……はぁ?」
大和、と呼ばれた少年は手に持っていたアイスを落としそうになりながらも、間一髪で畳を汚さずに済ませる。
「崇。そんなの宿題にあったか?」
そう言って、崇少年の目の前に広げられたワークの山を見る。今、彼が取り組んでいるのは『夏休みの親友 算数 五学年』である。
「いや、そうじゃなくってさ」
「そうじゃない、じゃない。和海はもう終わったんだぞ。千春だって志月が見てるからすぐに終わる。お前だけ遊べなくなるのは嫌だろ?」
明日から八月――夏休みはまだ半分以上もあるというのに、まるで今日が最終日のような追い込みをかけている。
これは小学校一年生の時からずっと行ってきたことであった。
夏休みといった長期の学校休みは遊ぶ為の時間。宿題に追われてしまうような時間にはしたくない。だから、ワーク類といった宿題は自分達が決めた期日までに終わらせて、その後は何も心配なく目いっぱい遊ぼう――そういう約束を今年も果たそうと崇は必死に取り組んでいた。
「だってさ、大和とか一週間で終わらせたじゃんか。工作だってもうやってるし、自由研究の天体観測だって毎日やってるし」
「それで? 俺みたいになりたいってか? それだったら志月を見習えよ。二日で自由研究以外を終わらせてるんだ」
「だから、そうじゃないんだって……」
頭を掻いて、仰向けに倒れた。汗ばんだ青のタンクトップを前に伸ばし戻し、風を起こして少しでも頭を涼しくさせようと試みるが、どうしても今は宿題に集中できそうになかった。
「そうじゃなくってさ……俺、馬鹿じゃんかよ」
「お前らしくないな」
その姿を見て、大和はコンセントの限界まで扇風機を崇の近くに寄せ、その隣に座る。
「ほら、この間の公園」
「ああ……六年生の言ったことなんか気にするなよ」
先日、崇は上級生である六学年数名と喧嘩した。当然、一対多数では崇に勝ち目は無く、思い切り殴られ蹴られ放題で負かされ、今も身体中に傷跡や絆創膏が見える。
原因は、千春が六年生に泣かされていた現場を目撃し、殴り掛かったことにある。
千春は非常に幼く、愛くるしい容姿をしている。明るくハキハキとした性格ということも相まって、男女問わず人気があった。
そういう女子は、どの時代においても男子からのちょっかいを受けることになる。要は好きな女の子ほどいじめたくなる、という心理だ。
しかし、彼女の天性とも言えるゲームの才能が発覚してからは、ますますそれが悪い方向へとエスカレートしていった。
ゲームというのは、男の子の遊びの中でも最たるものである。誰が一番上手いか。誰が一番強いか。誰が一番早いか。男子達はゲームに関して、常に競争意識を持っていた。
その男子のテリトリーに、自分達よりかなり身長が小さい、人形のような女の子が瞬く間にトップに立ったことは、プライドのある一部の男子には気に入らないことだったのだろう。
先日も、千春が大和の家に向かう途中の出来事。髪を引っ張ったり、鞄を投げたり――最初は千春も反撃していたが、多人数ではどうしても抵抗できなくなってしまった。崇が偶然居合わせなければ、彼女はもっと酷い目に遭っていたかもしれない。
「大和や和海がいたらすぐ逃げ出すくせにさ、卑怯者だよアイツ等」
そういう揉め事を解決していたのはいつも大和と和海だった。既に“神開一新流”の鍛錬を続けていた大和にとっては、小学生の喧嘩は幼稚すぎるものであり、“神開一新流”の技を使うまでも無いくらいの力量差があったと言える。
また、和海も大和同様自ら進んで荒事にする傾向ではなかったものの、血気盛んな性格で男子顔負けの実力を誇っていた。
「俺は大和の金魚のフンじゃねぇっつの……」
結局は、須藤 崇に対する周りの評価はそんなもの。同学年も上級生も、果ては大人まで新開 大和や白石 志月のような優等生と比べる。
特に崇は大和に強い憧れを抱いている。劣等感を持ったことは数知れず。
強く、勤勉で、模範的な人間。近所の大人達や学校の先生からの信頼も厚く、少々口下手だけど、それでも皆を引っ張っていける気質を持っている。
何もかも――自分には持ち合わせていないものだ。崇には羨ましくて堪らなかった。
「俺はさ、お前みたいなヒーローになりてぇ」
本音を呟き、天井を映していた目の上に手を乗せる。
ヒーロー。それは須藤 崇が望んで、夢見て止まない存在。まさしく主人公らしい大和にぴったりの言葉なのだ。
非力な自分ではどうやったってなれない存在。その現実を小学五年生の段階で見せつけられていた崇には、大和が遠く感じられた。こんなにも近いのに、こんなにも遠い――。
「はぁ?」
黙々と、アイスを食していた大和の返事は、首を傾げた疑問形だった。
残った木の板棒を軽く指で弄びながら、扇風機に顔を近づける。
「まず、お前にとって俺はヒーローなんだと仮定しよう。けど、俺は怪人とか悪者を倒したりはしないからな」
扇風機から送られる風によって、その声はくぐもって聞こえた。
「……じゃあ、何で毎日玄一郎さんと特訓してんだよ」
「大切なものを守る為だよ」
「何から守るんだよ」
「知らん。そもそも、そんな目的が無くたって俺はアレを続けてるよ。俺は新開 大和だからな」
何を言っているんだろう――崇の目から、いや誰の目で見ても明白なくらいに、彼は小学五年生とは思えないほど大人びていた。持ち合わせる語彙も志月以上の豊富さかもしれない。
歳不相応な達観した性格から発せられるその言葉は、子供である崇には理解しがたいのだ。
「でも……その気持ちはわからないでもない」
「え?」
意外だった。大和にも、自分と同じような感情を持つことがあるのか。
「もしかして、玄一郎さん?」
「そうだな。俺もあの歳であれぐらい動けるようにはなりたいけど、お前ので言うと、ちょっと違う」
十分に暑さが抜けて汗が乾いたのか、扇風機から顔を離して崇に向き直る。
「俺だって、千春みたいにゲームが得意になりたいし、世渡り上手になりたい」
心から。
「俺だって、和海みたいにスポーツ万能になりたいし、料理上手になりたい」
真剣に。
「俺だって、志月みたいに博学で、趣味に全力を注げる人間になりたい」
現実に絶望しながら。
「俺だって……崇みたいにいつも皆に元気を与える、明るい人間になりたい」
矮小で空白の自分を殺したいほどに。
「一回きりじゃない。いつも思っている。どうして俺はああなれないんだろう、って」
羨望することは罪ではない。他に憧れるのも人間であるが故の特権のようなモノなのだ。
それを大和は理解している。誰よりも強く望み欲しているからこそ、その真理に辿り着いた。
「羨ましいよ。悔しいよ。それも“強さ”の証だから、どうしたって欲しくて堪らない」
乾いた棒板を机の上に投げ捨てるように置いた。
『ハズレ』――まるで、大和の存在を否定するかのように、その三文字は彼に重く圧し掛かった。お前には強運すら持っていない、と。
「崇。お前は俺をヒーローって言ったな。ヒーローってのは、こんなにも何も無い人間のことを指すか?」
大和は決して自己評価の低い人間ではない。自分をきちんと受け入れている。狂気的なまでに、自分を客観視して理解し尽くしている。
そして、そのことを崇はまだ知らない。ただ首を横に振る彼を見て、大和は頷いた。
「違うよな。俺の知ってるヒーローは、そんな人間らしい存在じゃない」
ヒーロー。主人公。ああ、なんて甘美な響き。誰だってそんな存在になりたくて堪らないし、誰だってそんな存在になりたくないだろう。
皮肉な矛盾。人の心を弄ぶ、至高の偶像。それがヒーローだ。
「でも……お前は、何も無い奴じゃないだろ!」
崇からしてみれば、大和は他者の長所を列挙しているだけ。その長所が目立っているだけで、決して大和のような優れた人間ではない。
それに、許せなかった。自分が憧れる親友が自分を否定しているようで、その言葉が嫌いでならなかった。
「まぁ、俺のヒーロー論なんか置いておいて、俺の希望を言おうか」
そんな崇の思いに気付いているのか、または気付いていない単なる偶然か、結論へと話を進める。
新開 大和が須藤 崇へと送る結論を。
「崇。俺はお前にヒーローなんかになってもらいたくない」
これは彼の全否定。崇の夢を粉砕する悪魔の言葉。
「親友がヒーロー? ごめんだね」
ヒーローであることを望む親友の為に、大和は自分の意志を伝える。大和から、周りから求められている須藤 崇とは、何か。
「俺の親友は、ヒーローじゃなくて須藤 崇なんだよ」
暑さが感じられなくなっていた。うっとうしい蝉の声も聞こえない。崇の世界は、止まってしまったかのように冷たく凍り付いていた。
「それは、いつも横で笑わせてくれる大馬鹿者でしかできないことだ」
須藤 崇は子供だった。わからなかった。親友でありつつ自分よりも上の存在から、自分の夢を完璧に否定されたことしか、わからなかった。
その理解不足が後に彼等と、真宮市に戻って来た戦清会を巻き込んだ一大事件へと繋がることになる。
そして出会う――戦場ヶ崎 戦に。
●
空中で踊っていた銃が落下し、浅月の手元に収まる。同時に落ちてきた苦無は、誰の手にも受け止められることなく、地面に突き刺さった。
それが合図のように、地に伏した崇は叩き付けるように地面を殴りつけ、身を持ち上げる。
「俺は……ヒーローじゃない……ッ!」
口の内部が切れ、鼻血も止まることなく垂れている。歯を食いしばりながら、情けない自分とこの現実を認める。
「ちぇ……黒歴史思い出した」
そのきっかけは、もちろん浅月の掌底。あの時も大和に、今と同じように顔面に思い切り殴りつけられた経験が蘇った。
「古武術でもやってんのか?」
口と鼻から流れ出る血を制服の裾で拭いながら、構えを解いた浅月に問い掛ける。
「どうしてそう思った?」
立ち上がったことには大して驚いていないのか、浅月は平淡に答えた。
「大和のと似てるんだよ。特に殴られた瞬間とか、身体ん中から痛くなる感じ。あと動き」
伊達に親友を名乗ってはいない。大和の“神開一新流”がどのようなものなのか、その外殻程度は知っているつもりだった。
逆に言えば、その“つもり”だけで浅月と大和の動きの共通点を見つけた、ということである。
「新開か。やはりアイツも……」
浅月には大和が自分と同種の人間であると前々から感じ取っていた。自分と同じ、武の道を歩んで来た人間だ、と。
「古武術なんて大したものじゃない。護身術さ」
名を“浅月呑狼流”――“神開一新流”と同じく、世の明るみには出ていない個人流派である。
日本の武道を参考にしつつも、独自の技と動きを持ち、またその完成度は洗練されたもの。一朝一夕では身に付かない、血の努力によって鍛え上げられた体術は浅月 達也の強さを底上げする。
基本は銃型の“血戦武装”で攻め、接近戦に持ち込まれたら体術で応戦といった戦闘スタイル。バランス良く、臨機応変に戦えるこの方法は、冷静な浅月には適していると言えるだろう。
対する崇の『陽炎』は忍者装備の“血戦武装”。機動力が随一に秀でて接近戦も遠隔戦も行えるが、他にも特筆すべき点はある。
「その割には痛かったぜッ!」
忍者刀や苦無の他には手裏剣、煙幕、鎖鎌といった武器を隠し持ち、これも相手に合わせて変えることで対応が可能。
手裏剣を出現させ、十数の刃を浅月に向かって放った。
「痛くしたからな」
迫る暗器の乱舞を、慌てることなく銃弾で全て弾き落とした。表情一つ変えずに見事対応してみせた浅月を見て、崇は忍者の真髄を披露することを決める。
そう、忍者と言えば、忍術。
「ぜってー! 倍返しにしてやらぁッ!」
崇が浅月に唯一勝っている点は、“血戦武装”の機動力。限定解除を行った『陽炎』の速度は一瞬にして二人の距離を詰めるほど。
しかし、いくら速いと言っても浅月本人のスペックと“血戦武装”の強化により、反応できない、ということは無かった。突進してきた崇に対し、浅月は反撃の構えを見せる。
「やれるものなら、な」
振り下された忍者刀、そのタイミングに合わせて柄を持つ腕に目掛けてアッパーを叩き放つ。
「俺は馬鹿だけど、同じ失敗はしたくねぇ!」
結果、その攻撃は当たらなかった。否、正確には崇自身には当たらなかった。
「なっ」
今、浅月の眼前にはあるのは崇に似せた裁縫人形。無駄に顔が美化されているそのデザインを無視し、人形の柔らかい腕を殴り上げた。
「えーと……火遁! 餓鬼畜生滅炎の術!!」
その声は上空から。見上げた時には既に遅く、真っ赤な渦が視界を覆った。
「くっ……!」
カッコイイと思う中二な言葉を並べ、口から徐々に燃え盛っていく炎を吐き出した。
これぞ忍者。多彩な武器と攻撃方法、疾風の速度で翻弄するトリッキーな“血戦武装”。
生身では到底勝ち目の無い相手でも、こうして戦える――それは崇にとって大きな自信へと繋がる。
と、同時に崇は理解した。“血戦武装”の持つ無限の可能性を。
火の手から逃れようとする浅月を見て、下にずらしていた口当てを元に戻し、一旦距離を取った。
これで倒せたはずが無い。火の忍術とはいえまだ“血戦武装”を手に入れたばかり。そこまで成長しているわけも無く、期待以上の持続力は見せずにあっけなく鎮火した。
制服に焦げ跡が付いているものの、生身自体にダメージは見当たらない。それだけ浅月の装甲が強固であるという証だろう。
「……中身の無い奇策は嫌いだが」
ススを掃うように手で服を叩き、もう片方の手で銃のグリップ部分を握り締め直す。
「今のは驚いた」
その冷たい目は、熱を帯びて上昇していく崇の自信を失わせるには十分過ぎる威力を持っていた。
万が一にも相手に『イケるかも』と思わせてはいけない――それは浅月とて理解していたこと。
浅月は溜め息を吐いて、赤毛の少年を見据える。
「――――」
空気が、変わった。浅月の纏う雰囲気がより剣呑に研ぎ澄まされる。
その急な変化に、崇は動揺した。良くも悪くも須藤 崇は一般家庭で、一般環境で育った、一般人だったから。
「それでも、届かないこともある」
そうして浅月は崇に近付く。速度は崇よりずっと遅いものの、どうしてか崇は棒立ちで反応できていない。
崇からしてみれば、浅月は瞬間移動したかのような速度で近付いてきた、と錯覚してしまったほど。
あまりにも自然で無駄の無い足運び。それに速い遅いは関係無く――ただ動けないという事実だけが残るのみ。
「ッシ!」
初手は腹部に決まり、追撃として銃弾を数発撃ち込む。
崇の声を遮断するように、更なる連続攻撃を開始した。
まず厄介な機動力を削ぐ為に足払い、宙を舞う崇の全身に連打を決める。地に伏した彼に復帰行動の猶予すら与えず、頭部に踵を垂直に振り下した。
「できることなら」
しかし、崇とて一方的にやられてばかりではなかった。頭を横にズラして踵落としを回避、起き上がりざまに忍者刀で一閃を加えて後方に飛び跳ねる。
この時、崇の頭には距離を稼ぐことしか無かった。全身に走る痛みのほとんどは浅月の体術――接近戦で受けたダメージだった為、危険予測の比重はどうしても接近戦に偏る。
崇は二つ――失念していた。一つは、浅月には遠隔戦の飛び道具があるということ。
そしてもう一つは、浅月の銃は成長しきっていないとはいえ、戦略破壊級兵器、“血戦武装”であるということ。
「次に期待しよう」
ゆっくりと、銃を前に突き出して構える。銀色に光る銃口から発せられる弾丸は、点ではなく――穴。
「う……そだろッ!!」
穴と形容できたのはあまりにも大きく、吸い込まれそうだったから。
細い口から迸るは大出力の極太レーザー。光り輝く群青色で形成された奔流は、必死に回避しようとする少年を嘲笑うかの如く、浅月の前方を飲み込んだ。
痛声すら掻き消して、極閃は途切れていく。やがて線になり、淡く散っていった。
浅月の眼前に映るのは不自然に抉り取られた廃墟群と、倒れ伏す須藤 崇のみ。
装甲により致命傷にはなっていないものの、身体も服も心もボロボロに崩れて、一目で大ダメージだとわかるほどだった。
ピクリとも動かない少年の姿を見て、浅月は感情を生まない。これはこういう試験で、彼もそれだけの覚悟があって挑んできたのだから、間違っても同情のような感情は持ってはいけない。人間の心には疎い浅月でも、それだけのことは理解していた。
認めよう。須藤 崇はいずれ自分の脅威になるだろう。“次”は近い将来かもしれない――。
本音の称賛を心中で贈りつつ、彼の背を向けると、掠れた声が空気を震わせた。
「……かっこ……悪ぃ、なぁ」
決して驕りは無かった。自分の、現時点での限界を尽くして倒したはずだった。それなのに、何故立ち上がれる?
浅月もまた、一つ失念していたのだ――限定解除を行っている武装と、そうでない武装。その強さの位階は違う、ということを。
●
本当に、格好悪い。
そういえば、今まで楽しいことばかりだったけど、俺って意外と上手くいってない。自分一人で何かを成し遂げられたこと、あったっけ?
今の戦いだって、真剣勝負だった。理由としては、単純に大和の前に浅月を見つけたからっていうのと、アイツだけは俺が話し掛けてもノリ悪いし、クラスの中でも目立ってなくて、このまま孤立してしまいそうで嫌だったから。
俺は仲間外れが嫌いだ。だから、大和が試験を受けられるって聞いた時は、アイツの本心を知らないフリして喜んだ。
悪く言えばお節介で偽善者野郎。でも結局、浅月には俺の名前呼んでもらえずに“次”とか言われちまった。
ヒーローだったら、主人公だったら、きっとこの勝負も勝って、浅月との間にも友情が芽生えて、あわよくばアイツの中にある心の闇? みたいなのも晴らせるんだろうけど……無理だよなぁ。
大和はきっと浅月とも仲良くできるはず。桜花の時だってアイツがいたから、今の桜花がいるんだ。きっと上手くやる。
俺は、せいぜい主人公の親友ポジション、かな。つまり引き立て役ってこと。悔しいけど、妬ましいけど、これが真実だ。
俺は――ヒーローにはなれない。どうやったって、何度死んで生まれ変わったって、須藤 崇っていう魂は主人公の器じゃないんだ。
それは“血戦武装”を手に入れても同じだった。忍者は闇に潜む存在。決して表舞台で光を浴びることの無い。
そういう立ち位置の主人公は、ダークヒーローとかそういうの。決して世間から正しい評価を得られず、孤独で戦っていく。
そういうモノに憧れたこともあるけれど、やっぱり俺は認められたい。褒められたい。皆から必要だって、言われたい。
しかし現実、俺の魂が選んだ武装は忍者。製造者である淀峰所長を悪く言うつもりは無い。あの人はただ俺の血と魂に合った武装を造り上げただけ。問題なのは、俺という存在自体なんだから。流石にそこまで馬鹿じゃねぇよ。
よくこういう励ましを耳にする。
『脇役がいなければ、物語は作れない』
それは、本当に自分が脇役だと認識したことがない、とても幸せな人が吐ける台詞だ。
そりゃあ、脇役がいなければ物語は成り立たないだろうさ。でもその脇役は、誰だって良いんだろう? 誰が演じても、何も困らないんだろう?
つまり俺じゃなくても良いということ。だから俺は脇役であるという自覚を持つ度に、自分の存在価値が薄れて消えてしまう感覚に襲われる。
欲しい。ヒーローのような圧倒的な存在感が、欲しいんだ。
俺は蜃気楼。いつでも消えて見えなくなる、薄く寂しい幻。
『崇。俺はお前にヒーローなんかになってもらいたくない』
俺の夢想を大和は否定した。
『俺の親友は、ヒーローじゃなくて須藤 崇なんだよ』
大和は俺を必要だと言ってくれた。
『それは、いつも横で笑わせてくれる大馬鹿者でしかできないことだ』
俺の存在理由を固めてくれた。俺だけの席を用意してくれた。それは純粋に嬉しいことだったけれど。
それで良いのだろうか、と。
この言葉の意味が理解できた時、俺の中で矛盾が生まれた。
ヒーローになりたい。でもなれない。
ヒーローにならない。でもなりたい。
自分でもどうしたいか、たまにわからなくなる。自分の本音は、矛盾に食われてしまったような気がして、どうしても答えが出ない。
答えの出ない本能と共に俺は生きていくんだ――そんな痩せ我慢を、見え見えの嘘を自分に言い聞かす。
須藤 崇は――ヒーローになれない。
●
「まだ、まだ……」
膝を震わせて、崇は立ち上がる。足下に落とした忍者刀を拾い上げて、強く握り締めた。
「悪あがきは嫌いだ。もう止せ」
その姿は、決した勝負の結果にダダをこねいている子供のよう。
諦めの悪さは長所だ。しかし、短所となることの方が多い。
何より、浅月にとってこれ以上戦闘行為を続ける理由も必要性も無かった。
「何がお前をそこまで……」
理解できない。これはただの試験だ。勝ち負けよりも、動作を確認することの方が重要だろう。
浅月はどこまでもクールに、冷えた頭で考えている。だから――崇が理解できないのだ。
「言ったろ……」
その眼光で浅月は一瞬身構える。どのような危機的状況でも、死んでない目をしている者ほど警戒すべきことはない。
「俺の名前、言わせてやるってよ……なぁ、浅月」
口当ては破れ、吊り上がった口が見える。健康的な白い歯を覗かせ、崇は笑っているのだ。
「俺は……誰だよ」
まだ、この状況をひっくり返すつもりでいる。笑顔を見て、本能で浅月は恐れた。無意識に、僅かながら、須藤 崇の未知数に恐怖を抱く。
それは、精神的優位性が崩れたことを意味する。
「――抜錨――」
小刻みに震える両手を合わせ、指二本を立てる。擦り、力を込めた。
画面越しにその姿を見て、淀峰は小さく笑った。淀峰の慧眼は、崇をも捉えていたからである。
彼女は、須藤 崇が持つ“矛盾”を理解して、それを認めた。
その矛盾は、異材。唯一無二の夢想を抱えた、新しい可能性。
その矛盾は、かけがえの無い才能に他ならない。
その矛盾は、きっと須藤 崇の力になる。
だから、今は悩め。もがき苦しんで揺れ動いて、一つ一つ整理していけば良い。それこそ人間である証。がむしゃらに追い求める“存在理由”だ。
「〝暗影駆逐忍道『不知火』〟」
須藤 崇が所有する二つ目の“血戦武装”――その名を静かに呼ぶ。
瞬間、彼の身体に黒色が纏わりついた。それは荒々しい墨で書かれた書のように、どんどんと彼の存在を屈折させていく。
崇を中心に蠢く墨。それは影という表現にも近い。
「まさか……二つ目、とはな」
今、目の前に広がる事実は未知。流石の浅月も驚きを表情に出し、何とか認めようと努めている。
“血戦武装”は一人に一つ――それは誰が定義しただろうか。
確かに通常、人間一人に所有できる“血戦武装”は一つである。“血戦武装”を製造する際、その人間に応じた適切な“血戦武装”の容量にする。
また、平均的な人間には一つ程度の“血戦武装”が限界となる――これは淀峰 麗子の研究によって立証されている。
だからこそ、須藤 崇は稀有だった。その魂は“血戦武装”を二つ、易々と所有できるほどの容量を有していたのである。
何故、須藤 崇なのか――それは彼が夢見がちな子供だったからだと淀峰は予想している。
崇には空がいつまでも青く見えるし、世界が輝いているように見えている。その心は、確かに“童心”という特性を持っていた。
夢はヒーロー。葛藤とも取れる矛盾は、夢想へと昇華する。
夢とは、魂を彩る最高の目的である。故に崇の魂の強さに、“血戦武装”は応えた。
現実で弱者とされている者ほど、その心に秘めた夢の大きさは反比例している。その良し悪しは置いておいて、確実にその人間の人格形成に影響を与えている。
しかし、これはまだ予想に過ぎない――淀峰は須藤 崇という例を記録しつつも、確証の無い空言だと自分を戒めた。
これまでも崇のような人間はいた。しかし、全員が同じような夢想者であった、とは限らなかった。遺伝子にも可能性があるだろうし、本当に偶然の産物かもしれない。
だから、淀峰は須藤 崇を見る。『陽炎』と『不知火』を診る。正常な動作を視る。彼の魂の燃焼を、観る。
「俺が、何でここまでお前に拘ってると思う?」
『陽炎』の装備であるマフラーや忍者刀、苦無に纏い、影はその黒色を強めた。
また、口当てを模した影が口元に広がる。まるで、『陽炎』に上乗せするかのように、この“血戦武装”は駆動を続けた。
『陽炎』と『不知火』――どちらも大日本帝国海軍の駆逐艦。陽炎型の一番艦と二番艦である。かつて海を駆り、戦争という地獄の中で自国の勝利を願い続けた鋼鉄。
その名は蜃気楼。存在を曖昧にしてぼかし、幻のように薄く淡い現象。
崇にとって、これ以上の無いほどベストな“血戦武装”の材料だったのだ。
「俺が……お節介で偽善者野郎だからだ!」
数本の黒線が攻性を剥き出しにして、浅月に襲い掛かる。その攻撃に合わせて同時に、崇も忍者刀と苦無を手に走り出した。
「ッ!」
迎撃――しかし、放たれた弾丸は全て影によって撃ち落される。触手のように意志を持った影は、ついに浅月に接近する。
視界に迫る黒線を銃身で叩き落とすものの、一本の腕での抵抗は限界がある。止まらない影の攻撃に、浅月は追い詰められていった。
「休ませるかッ!」
余裕の無い浅月に、追い討ちとばかりに崇の忍者刀が襲い掛かる。それだけでなく、苦無による攻撃も追加された。単純な攻撃回数ならば、先程の何倍にもなる。
「……」
しかし、決定打には結びつかない。攻撃と攻撃の合間、その一瞬を掻い潜り浅月は銃を向けた。
攻撃回数が増えた。パターンも増え、よりタイミングを計ることが難しくなった。が――それだけだ。
「基本的な部分は変わっていない」
銃口の前には崇の顏。先と同様、どれだけの速度をもってしても回避することは叶わない。
「須藤 崇。俺も言ったはずだぞ。次に期待する、とな」
直後、微笑んだかのような表情を見せた崇を飲み込むレーザーが発射される。崇に取り巻いていた影も散り散りと消えていった。
煙が晴れ、前方を確認する。地面も抉れ、何もかも消滅していた。崇の姿が見当たらないということは、どうやらレーザーの勢いに押されて吹き飛んでいったのだろう。目の前に広がる事実を分析し、納得した。
身体もろとも消滅してしまうほどの出力は出していないし、そもそもそんなことをしてしまうわけにはいかなかった。
たかが試験で、殺人なんて愚行は有り得ない。その行いは、もっと相応しい場所で、相応しい相手にするべきだと、浅月は心に決めていた。
「……何だ?」
無言でレーザーの轍を見つめていると、違和感を覚えた。
あんな所に、穴があったか?
それは、今まで自分達が戦っていた位置にぽっかりと空いてあった。今はレーザーの威力により表面が抉れているが、少なくともこれだけ大きな穴を隠すことはできない。
その大きさは、人一人くらいならば入れそうなくらいに――。
「ようやく、俺の名前を呼んでくれたな」
その声は、下から。耳に届いた時には自分は上空を見上げていて、身体は宙を舞っているように無抵抗だった。
前方一帯を消し去る浅月のレーザー。距離も高さもある範囲攻撃に、崇が出した最善の答えは回避ではなく、隠れることだった。
影の触手で瞬時に穴を掘り、その影に引っ張られるようにして穴に入り込む。後は、浅月がいた地点の真下まで掘り進むだけ。
そして今、地中から土竜の如く姿を現して忍者刀によるアッパーで浅月の顎を叩き上げたのだ。峰を利用しての攻撃。ある意味で斬られるより痛むかもしれない。
浅月が奇想天外の不意打ちを理解したのは、身体を地に打ち付けてから。呼吸を忘れそうになる衝撃から即座に復帰し、身を起こして立ち上がった。
「……攻撃は、当たったと思っていたんだな」
血の混じった唾を吐き捨てる。その疑問に、崇はあっけらかんと答えた。
「おー、当たったぜ? いやマジそれ痛ぇ。おかげで“俺”、一発で消えちまった」
“俺”……? 何を馬鹿なことを、と浅月は首を小さく傾げた。須藤 崇は目の前にいるだろう。
そう言いたげな表情を読み取ったのか、崇は構えを解いた。
突如――崇の身体は幾重にも重なったようにブレ始める。
「それは……」
「影分身――とはちょいと違うな。似ちゃあいるが、もっと幻想的で面白いヤツだぜ?」
確かに実体を持っている。しかし、それらに触れることは叶いそうにない。そんな印象を受ける。
すなわち――。
「蜃気楼。みぃんな俺で、俺じゃない」
崇は周りの自分自身を見回して、浅月の方へと向き直る。
須藤 崇は誰でも良い。その役割は、きっと自分でなければならない理由は見当たらないから。
崇の本音の半分を、今ここに体現しているのだ。
崇同様の戦闘力を持ち合わせながら、本人以外の崇には触れられない。触れば最後、その崇は消えて無くなる。それを無限に創り出せるということこそ、『陽炎』と『不知火』の真骨頂にして、同時に駆動することで初めて引き出せる新能力。
現段階、このA組の中で最も進化を遂げているのは須藤 崇に他ならないのだ。
「さて、お互い名前も言ったことだし、第二ラウンドと行こうぜ!」
崇の感情に呼応するかのように、纏う影は一層鋭敏に動き、蜃気楼達は独自に構える。その姿に、浅月はやはり僅かな高揚を感じた。
「本当に……人をノセるのが上手い」
説明できないくらいに、お前は周りを巻き込むんだな。
改めて、そしてもう少しだけ、崇を理解できた気がする。それだけで、浅月がこの名を呼ぶには十分だった。
「――演奏――」
銀の銃が鈍色に光り輝いた。今こそ、浅月 秀英の武装がその音色を奏で、厳かな舞台を披露する時だ。
第17話、いかがでしたでしょうか。これからが本番、というところで終わってしまいましたが……。
ようやく書きたい崇のバトルシーンでした。まだまだ臨場感や迫力のあるバトルには及びませんが、これからも精一杯彼らを書いてあげたいと思います。
よろしければ、お気に入り登録・感想・評価・レビュー等をして頂けるとこの時期に冬服で出かけ、激辛ラーメンを食べて感謝の気持ちを汗と共に垂れ流します。
【具体的な改稿事項】
・全体的に行間を空け、読みやすく変更。×
↑行えない可能性あり。
・数字を漢数字に統一中。×
・天草の大和の呼び方「新開」→「新開君」に全面的に変更。△
・第2話、第4話での“神開一新流”の記述を変更・追加。中国武術の要素を組み込みました。△
×はまだ行えていない状態。△は実行中、あるいは実行確認が完全に確認できていない状態。○は完了した状態。となっています。
×、△は今後も続いていきます。また、改稿事項追加もあると思います。
何かと改稿が多い作品となる(もしくはもうなっている)かもしれませんが、どうか温かい目で見守ってください。
次回更新は未定です。7月ということで、何かと忙しい時期でもありますが……少しでも時間をつくって進めていきます。頑張ります!
本当にありがとうございました!
次回もどうかよろしくお願いします!