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聯合艦隊 戀讃之辞  作者: 鋼田 和
-80.プロローグ 
1/18

一九四五年四月七日 天一号作戦

 初めまして。作者の鋼田こうだ のどかと言います。まずは、この小説を読もうとこのページを開いてくださって、本当にありがとうございます。感謝感激雨霰です。

 さて、この『聯合艦隊 戀讃之辞』は学園バトルファンタジーです。難しい、旧字体を用いているのは、旧字体の方にも深い意味がありますので、是非とも皆様の記憶に残り、心に響くことができるように、日々精進して執筆していきたいと考えております。

 ライトノベルと銘打っているこの作品ですが、第2次世界大戦ネタを用いていて、多少苦手意識を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。ですが中身はそんな堅苦しいものにならないよう、明るい雰囲気で書いております。あくまで学園モノ、人がホイホイ死んだり致しません。ご安心してお読みください。

 今のところ一定ペースで更新することができていますが(4日置きぐらいの頻度)いつ崩れてしまうかわかりません。どうか温かく見守って頂けると幸いです。

 前置きが長いのもアレなので、ここで締めさせて頂きます。それでは、読んで頂いた読者の皆様が満足して頂けるよう、また「続きを読みたい!」と思ってくださいますよう祈りつつ、どうぞ本作をお楽しみください。

 

※「文章が難解」という意見を頂き、なるべく読者の皆様にストレスが無いようにしたい為、特にその傾向が強いと考えられるプロローグ部分は読み飛ばして頂いても構わない、ということに致しました。

 一方的に蹂躙できる喜びを、この世界を捜してみて、どれだけの人間が知っているのだろうか。決して反撃が無かったわけではない。ただ、砲撃の支配率が相手の方が圧倒的に多かったということ。空から迫る爆発に、海の上に漂う希望の鋼鉄は集中的に、徹底的に轟沈のみという唯一にして絶対の一択を迫られたということ。その現実に、空が哭いた。海は嗤った。遥か遠くに映る陸地は怒れた。

 一億総特攻のさきがけと、自分はなれただろうか――。

 それはさながら、地獄だった。鉄が燃える、音がする。血煙と共に巻き上がる黒煙は空を滅茶苦茶に汚している。警報音が鳴り響き、それを時折打ち消すように爆発音が飛来する。血肉の焼ける臭いが蔓延する。視界に写る何もかもが、そう、世界の全てが完全敗北を刻み込んでくる。

 我々は――負けたのだ。完膚なきまでに徹底的に、敗北したのだ。火の粉が肌を焦がす。軍服は焼けて、擦り切れてはいるものの、その形は未だ奇跡的に残っている。海はいつもと変わらず、更なる深奥の地獄へと誘うかのようにゆらゆらと揺れている。爆発に合わせてうねりを上げ、敗北者たる我々を嘲り笑っている。周りの艦は炎上を続け、力尽きてはその誘いに取り込まれて沈没を開始する――。

 彼等は無事に退艦しただろうか。無意味に犬死にさせるわけにはいかなかった。例え死ぬことが任務であったとしても、俺はそんなの、心底受諾したくなかった。君達は未来の希望だから、生きてこの先の我が国を見て欲しい。

 艦長……皆……無事か。返事をしてくれ。頼むから。

 そう声を出したくても、必死に思考して紡いだ言葉は一向に空気を震わせない。当然、自分と共に退艦を拒否した人物からの返事は無い。舌が無いのか。口から下は爆撃で吹き飛んだか。全く感覚が掴めない。自分が甲板の上で仰向けに倒れていることは何となくわかる。だが、気を抜けばあっと言う間に自分がどこにいるのかわからなくなりそうで、それが堪らなく嫌で、恐怖して、どうにか気を狂わせながらも自分は無様に生きている。

 この甲板の主は鋼鉄の棺桶か。破滅が轟く地獄の中で、ふと思えた。それにしてはあまりにも巨大で、それこそ自分には勿体無い――なんて最早、生を諦めた思考回路を張り巡らせていると、徐々に痛覚を始めとする感覚が戻り始めてきた。全身を蝕む傷は無数に存在する。金属が飛び散った際の切り傷に爆風で体が跳ねた衝撃による打撲傷、目に見えぬ内臓もきっとボロボロで、骨は当然折れていて、中には肉を、皮膚を食い破って露出しているものもあるだろう。先程はわからなかった口も、今では血が溜まっていて、少し生温さを感じる。

 自分達が汚した空を見ていると、飛行物体がちらちらと黒く、僅かだが視認できた。ああ、また艦載機による爆撃が開始されるのか。まだまだ、地獄は続く。この希望の鋼鉄を海の底に叩き落とすまで――敵は決してこの砲火を止めはしない。

 悔恨の渦が尽きぬまま、巻いて巻いて巻き続ける。俺は、俺達はどこで間違えた。何を間違えた。指揮か? 人選か? この日を選んだことか? この作戦を独断で中止したことか? 戦争を……開始したことか?

 否、断じて否。決してそんな“些細なこと”ではない。

この戦争の行く末に、諦観はあった。言ってはいけない、思ってはいけない――しかし、彼は悟っていた。我等が大日本帝国は負ける。本音は勝ちたい、勝ちたいとも。しかし、どうしようもなく、圧倒的に、敵は強かった。

負けたことを思い知らされて尚、彼は敗北の理由を知りたがり、研究する。それは次に活かす為か。それも否。彼は最早満身創痍。いつ事切れて、死んでもおかしくはない。生きるという希望は無い。そんな塵のような希望は一切合財押し潰されて無くなるのが、この地獄である。

 外道畜生、横行跋扈。そんな希望はこの戦場において全くの無為であるし、ただ敵を殺すのにそのような軟弱な思考は要らない。照準を合わせて、射出して、撃沈させる――これで殺せる。結果として生きることができるだけであり、戦場に一度立てば死人同然だ。それを最も実感させるのが海戦。だから、そんな希望など、彼は最初から持ち合わせてなどはいないし、この絶望的状況で希望が芽生えてくるほど現実逃避者ではなかった……はずだった。

 そうして、幾ばくかの思考を経て、彼は確信する。「己が強ければこんなことにはならなかった」と。

 彼は普通の軍人であった。御国を第一と考え、海軍兵学校、海軍大学校に入り、研鑽を重ね、友情を築き上げ、恋をして――そう、普通の男であったのだ。

 生来優しく、人望もあり、人助けも率先して行う、素晴らしい日本男児であったのだ。

 ただ唯一、異常があるとすればその飽くなき渇望。何が彼をそうさせたわけではない。ただ生来、そうであっただけなのだ。生れ落ちてから、あるいは母の胎内にいた時から、この男は“狂っていた”のだ。

『真実、強くなくては男として生まれた意味が無い』

その願いは、望みは、渇望は、常に彼を奮い立たせ、時には絶望を叩き付けてきた。強さのみ追い求めた男、それが彼である。故に彼はこの戦艦の上に立っている。今は死と隣り合わせの無様な姿をしていても、彼を弱い、と罵る愚か者はこの大日本帝国全てを捜してもいやしない。

 しかしそれでも、この海戦は敗北を喫した。彼がどれだけ強大でも、個人で戦局がひっくり返らないのは戦争の自明の理なのであって、敗因が「自分が弱かったから」と断定するのは気が狂っているとしか思えない。彼の上官がいたのなら、このことを知ったのならば、思い上がるな、とその驕り高ぶった傲慢を叱責しただろう。しかしもう、誰も、いない。皆、死んでいるのだ。そして彼は狂っている。生きているという特権をふんだんに濫用して、彼は更なる狂化を進めていく。

 敗北だと絶えず知らせてくれるこの世界で、彼は自分が圧倒的弱者だと悟った。まだ、まだ強くなれる、という喜びと、自分は弱かった、という悲しみが混ざり合って溶けていく。そのごちゃ混ぜになった感情が、確信を生んだのだ。間違った確信を、正解だと思い込んだ。

 その確信は、彼に生きる力を与えた。結果だけを言うならならば、彼はこの海戦にて生存した。どうやって、あの指1つ動かせない絶望的状況を脱したかは知られていない。はっきりとわかることは、この海戦を境に、彼は歴史の裏で、着実と狂気に染まり、人智を超えた化外へと変貌したことだけであり、それもまた、公的記録には残されていない。何故なら彼は戦死したことになっているのだから。そう、彼は愛する女性の元へと帰らなかった。帰れなかった。これは悲恋だ――格好つけるならば、悲戀(ひれん)だ。

 彼は鳴いた。声は出せず、しかし口を開けて、血反吐を撒き散らしながら爆発を鳴り止ます音を発さんと鳴き叫んだ。この絶望に、終止符を打つ為に。

 彼は哭いた。それは鬼哭の如く、酷く、辛く、苦く。嗚呼、悔しい。嗚呼、嬉しい。感情を爆発するように轟き叫んだ。自らを強人にせんとする鼓舞の為に。

 そして、彼は泣いた。生温かい液体が肌を濡らす。その胸中にあるものはいつだって、愛する女性のこと。貴方の傍にいたかった。負けるとわかっていても、死ぬことが任務だったとしても、愛しい想い人の為に何としても、奇跡を起こして勝ちたかった。強い自分を見せて安心させてあげたかった。「自分は強いから、負けないから、笑ってくれ」と、言ってあげたくて。「大丈夫だ」と、「戦争はもう終わる」と、教えてあげたくて。でもそれは最早叶わない。そう、これは悲戀――決して成就されない、虚しく敗れ去った戀を謳い上げるように、静かに呟いた。ただ、貴女の為だけに。

 諦めたこの戦争――貴女が笑ってくれるなら、もう一度。

 

 この海戦の名を坊ノ岬沖海戦――かの戦艦「大和」が沈没した海戦である。


 此の度は栄光ある任務を与えられ、勇躍出撃、必成を期し致死奮戦、皇恩の万分の一に報いる覚悟に御座候。

 此の期に臨み、顧みるとわれら二人の過去は幸運に満ちてるものにして、また私は武人として重大なる覚悟をなさんとする時、親愛なるお前様に後事を託して何ら憂い無きは、この上なき仕合せと喪心より感謝致しり候。

 お前様は私の今の心境をよくご了解になるべく、私が最後まで喜んでいたと思われなば、お前様の余生の淋しさを幾分にてもやわらげることと存じ候。

 心からお前様の幸福を祈りつつ。


四月五日  ■■   いとしき最愛の■■■どの


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