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勇者の伝記


今や大国の一つとして上げられるサザール王国の地は、かつていくつかの小国があったが、紛争と魔物の襲撃により荒廃していた。国土拡大を目論んだ小国同士が争いを起こしては荒れ、荒んだ人々の心に引き寄せられたように現れた魔物に襲撃されては荒れ、魔物に襲われた地から逃れるため限られた土地や食料等を巡ってまた争い、魔物に襲われる。そんな悪循環が繰り返されていたのだ。

そもそも魔物とは、元はただの野性の動物や植物だ。その中で魔力を有する動植物が陰の気を浴び続け、何らかのきっかけで魔物に転じると考えられている。そして、さらに陰の気を取り込むことで強力に進化する。陰の気とは負の感情から多く発せられる。そのため、魔物達は負の感情を発する人々に引き寄せられるのだろう。


そんな状況を打破するべく、人々は救世主を求めた。



そして、鐘の音と共に現れたのは三人──




二人の青年と一人の少女だった。



彼らはそれぞれ人並み外れた力を持っていた。


青年の一人は武術に秀で、他の者を惹き付けるカリスマ性を持っていた。もう一人は強大な魔力を有し、あらゆる魔法を操れた。そして、少女は神の声を聞くことができ、穢れを浄化するという不思議な力を使った。



三人は兄弟で、兄の名はセルフィス。弟はキース。少女の正式な名前は残されていないが、兄達から“ひめ”と呼ばれ、人々もそれに倣って姫様と呼び慕った。





セルフィスはバラバラだった国を一つにまとめ、大国を作り上げた。

キースは有志を集めて、その筆頭に立ち、多くの魔物を討伐した。

姫は荒れた土地や人々の元へ赴き、癒しの力を発揮した。



人々は彼らを勇者と聖女として讃え、後に、セルフィスはサザール初代国王に、キースはそれを支える宰相となった。

彼らの妹も、聖女として神殿で神の言葉を聞いて、人々を導いてくれるものだと誰もが思っていた。

しかし、彼女にはそれができなかった。


「私は帰りたい。帰ることを諦められない」



そう、兄弟はこの荒れた国々と関係のない国、それも異世界からやって来ていたのだ。

救いを求める人々が総力を挙げて作り上げた召喚魔法でやって来た彼らには、帰る術が用意されていなかった。キースや多くの魔法使いが研究をしてもその術はわからなかったのだ。

セルフィスとキースはこの地や人々に愛着が湧き、自らが作り上げた国のためにも、と早々に元の世界へ帰ることを諦め、この世界で生きていく覚悟を決めたが、妹は諦めきれなかった。


そして、少女はサザールを去った。


他の国を旅して、帰る術を見つけるためだ。愛する妹を心配する兄達はもちろん引き止め、密かに出立した彼女を懸命に探した。

しかし、ついに二人の兄が天寿を全うしても妹の行方は知れず、果たして、元の世界へ帰れたのか、この世界のどこかで故郷へ思いを馳せながら生涯を綴じたのか──誰も知る由もない。



〈参考文献〉

『サザール史』

『サザールの勇者』

『聖女は何者なのか』








──セリーヌ・レイノルド著







「……女王様……ご自身の執筆作品をお薦めくださったんですね……」

「あの人、昔は学者を目指してたみたいで、公務の合間を縫って、ちまちま学会に出席したり、自費で本を書いたりしてるらしいよ」


王宮へ向かう馬車の中、眠気覚ましにセリーヌ女王から渡された本を読んでいた私は、本の中身より著者の方が印象に残ってしまった。騒動の疲れでぼんやりしてしまっていて、最後に女王の名前を見てようやく覚醒した。そして、耳許で聞こえてきた声で状況を理解する。……いつの間にか、隣に座っているアーティにもたれ掛かっていました。

私は慌てて起き上がるが、向かいに座ったセイヤ様とイーサさんに笑顔で見守れていることに気づいて、膝を抱えて顔を隠した。

そんなこんなで、私は本のことをすっかり忘れてしまったのだが……まさか、これが後の重要な手がかりになるなんて、この時の私は思いもしなかった。


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