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今までと違う感じ



……え?


何これ?え?


……いやいや。ほんと、何これ?






──突如現れたアーティに抱き締められた私は、混乱していた。

今までも私が穴に落ちて、もしくは誘拐されてしばらく離れた後に再会!といったことがあったが、こんな展開はなかった。アーティは、再会のハグなんてする人じゃない。

ひょいっと抱えあげられることはしょっちゅうだが、こんな、正面から閉じ込められるように抱き締められること自体初めてで、心臓はドキドキしてるし、どう反応したらいいかわからない。アーティの懐から飛び出したリィとクゥが、ミィとじゃれていること、マリースさんとイーサさんが生暖かい目でこちらを見守っていることも気にならない、というか気がつけないくらい焦っていた。

アーティは何も話さず、放してくれる気配もなくて途方に暮れそうになっていると、ミリアさんが近づいてきた。そして──



ゴッ



と鈍い音を立てて、アーティの頭に銃の持ち手の底をぶつけた。……痛そう。


「あんた、何?なんなの?……一撃?私達がどれだけやっても壊れなかった結界を一撃?ふざけてんの?」

アーティの頭をぶつけた銃でグリグリしているミリアさんが恐い。背後に般若の顔がありそうな迫力だ。アーティは私を腕に閉じ込めたまま、目線をミリアさんに向けた。

「一応、向こう側にヒビっぽいの入ってたよ。僕はそこにツルハシを振り下ろしただけ」

「そうなの?でも……それでも悔しい!腹立つー!」

「まあまあ、ミリアちゃん。アティールくんは助けに来てくれたんだから、その辺で」

キーッとヒステリックになっているミリアさんをマリースさんが宥めた。

「姉さん!」

アーティはようやく私を解放し、今度はマリースさんを抱き締めた。

「ごめんね、アティールくん。心配かけて」

「……姉さん達が無事なら、いいんです」


美しい姉弟愛だ。きっと私のも、そう。血縁関係はないけど、兄と妹みたいな?……うん、納得。さっきのドキドキも、今の一瞬のズキッも気のせいだ。ドキドキはともかく、何でアーティがマリースさんを同じように抱き締めてズキッとしているんだろう?わけがわからない。




「あれ?あっくん、スーパー野菜星人じゃなくなってる!」



ぐるぐる思考を廻っていた私は、その暢気な声の方へばっと顔を向けた。

「稔くん!」

行方不明になって何故か外国で諜報員に保護されて「スパイになる!」と言ってそのまま戻って来なかった幼馴染みが、何故かここにいる。

いろいろ言いたいことがあるが、まずは──


「どれだけ心配かけたと思ってんだ、このばかちんがー!!」


「しゃぶばっ!?」


私は思いっきり、右の掌を稔くんの頬っぺたに叩きつけた。

「……いってぇ!!え、サクちゃん?その台詞、サクちゃんの真似?」

そう、兄はいつもこのとんでもない方向音痴を保護した時、必ずこの一喝と一発の制裁を加えているのだ。

「お兄ちゃんが、俺の代わりにやっとけって」

「マジか!サクちゃん、容赦ねぇ!俺、ちゃんとスパイ頑張ってたのに!」

「そういうことじゃないでしょ!」

そのまま説教をしようとおもったが、ふと稔くんの格好に目がいった。白のカッターシャツに、チェックの柄の紺色のズボン、焦げ茶色の革靴はまるでどこかの学校の制服みたいだ。それも気になるのだが、彼の腰には、縄がしっかりと結ばれて、どこかに繋がっているようだ。その縄の先を辿っていくと……髪はボサボサ、服はヨレヨレ、憔悴しきった様子のヨシュアさんがいた。いつもの凛々しさを感じられず、目線はどこに向いてるかわからないが、縄の端を右手に巻き付けてしっかり持っている。

「よ……ヨシュアさん?」

「……トーコさん……ご無事で何よりです」

私が声をかけると、ヨシュアさんは笑顔を向けてくれるが、その目は笑っていない。……というより、生気が感じられない。

「えっと……そちらもいろいろあったみたいですね」

「ええ……トーコさん達を捜索中に偶然ミノルさんを発見しまして、聞いた目的地と全く違う方へ向かおうとされるので、連れてくることにしました。でも、ちょっと目を離した隙に脱そ……迷子になられますので、もうこいつは縄で縛っておくしかな……ミノルさんには用心のため縄を括りつけさせていただきました。人権?一度こいつ……この方のお世話をしてみろ」

「ごめんなさい!もういいです、ヨシュアさん!ご迷惑をおかけして、本当にすみません!」

稔くんは、家族と、私や兄と一緒だったら、黙って一緒に歩くのだが、慣れてない人とだと、何故かふと目を離した隙に別の道へ逸れていってしまうのだ。そのため、保護してくださった方々にはいつも迷惑をかけてしまっている。今回も、稔くんはヨシュアさんに対して、相当やらかしたらしい。







「──で?状況は?ここはどこなの?」

いろいろなものを後回しにわいわいしてしまっていたところへ、マオレク王子が軌道修正の声をかけてきた。

「そうでした。ここはサザール国境近くのフーリヤ領です」

フーリヤといえば、この間サザールに攻めてきた国だ。その国に転移させられたということは、もしかして、犯人は……?

「詳しい話は後。まずは移動するよ」

そう言ってアーティは、右手でマリースさん、左手で私の手を握った。

「アティールくん?」

「……アーティ?」

突飛な行動は相変わらずだが、今は止めてほしい。さっきから、ドキドキしておかしいから。

「お二人とも、しばらくこんな調子でしょうが、許してやってください。マリースさんとトーコさんが同時にいなくなって、大分精神的ダメージがあったようなんで……」

ヨシュアさんが苦笑して説明してくれる。なんだか、アーティに大切にされているようで、ますますドキドキしてしまう。

「あっくん、スーパー野菜星人になってたもんね!」

「……何?その、スーパー野菜星人って?」

もしかして、あちらの世界の某アニメに出てくる髪型と色が変わって強くなる人のことだろうか?

もしそうなら、アーティの髪型と色が変わっていつも以上に強くなっていたってこと……?

「早く行くよー」


私は稔くんの謎の発言について考え込むことで、アーティに手を引かれて歩いていても意識せず、妙なドキドキに襲われずに済んだのだった──




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