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迷子の行方

その日、稔くんは行方不明のまま発見されることがなかった──



「何故、たった十数メートルの距離で迷子になったあげく、城内のどこにもいないんだ!?」

ヨシュアさんはばんっと机を叩いて叫んだ。幼馴染みがほんとにすみません……。

「アティール。トーコさんの時みたいに、場所がわからなくても飛んでいったりできないの?」

「桃子の時は護りの石に魔法をかけてたから……桃子がピンチの時に助けを呼んだら駆けつけられるようにって。でも、残念ながら稔くんにはまだ何もしてない」

ミリアさんの問いに、アーティは肩をすくめて答えた。


──稔くんの行方不明により、勇者作戦は中断し、彼の捜索を行うことになった。勇者が行方不明なんてスキャンダルを公に出来ないため、捜索はセイヤ様の部下と覆面さん達でこっそり行っている。私はセイヤ様の執務室でアーティ、ヨシュアさん、ミリアさんと捜索本部として捜索範囲を検討したり、実働部隊の報告をとりまとめたりしていた。

何で、こんなことに……。


「トーコ。ミノルはこういう時、どういう行動を取る?大体どの方角に向かうか等、わかるか?」

皇太子を継承したばかりで忙しいセイヤ様まで、こちらに来てくれている。……誠に申し訳ございません!

既に口に出して何度も謝ったが、アーティ達から「もうわかったから」と止められてしまったので、私は心の中で謝り続けている。元の世界で保護者的立場の兄はいつも胃を痛めていたが、私もお腹が痛くなってきた。

「えっと……一番彼の行動パターンがわかるのは、彼の両親か私の兄なので、私はあまり読めないのですが……とりあえず真っ直ぐ目的地に向かうことはない、ということはわかります」

「お前の兄と連絡は取れないのか?」

「携帯電話を持っているのは稔くんなので……」

「取れますよ」

私の言葉を遮って、アーティがさらりとセイヤ様に答えた。私が驚いてアーティを見ると、彼はいつもの無表情のまま、こてんと首を傾げた。

「忘れちゃったの、桃子?僕は桃子の世界の人達とメール交換してるでしょ。お兄さんの電話番号を教えてくれたら、連絡出来ると思うよ」

そういえば、変人だけどほぼ万能だった、この人……。

「ちなみに、稔くんには既にどこにいるの?ってメールを送ってるんだけど、返信がないんだ」

「そうなんですか……じゃあ、兄の番号を教えますね」

「うん、ちょっと待ってて」

アーティは持参していたアタッシュケースのようなカバンから、異世界との連絡用の本を取り出した。筆記具を用意し、文章を書こうと本を開いたところで、アーティの動きがぴたりと止まった。

「……おやおや」

「どうしたんですか?」

私は横からアーティが開いているページを覗きこんだ。



“あっくん、ごめーん!

なぜか王宮から出てたあげく、ケータイチェックするの忘れてた(笑)

で、気がついたらでっかい荷物と一緒に外国に来ちゃって、サザールの諜報員さんに保護されました(笑)”



「かっこ笑いじゃなーい!!」

私は思わずメール文に向かって叫んでいた。どれだけの人に迷惑をかけ、どんなに心配をしたと思っているんだ!

「外国!?」

「どうやったら王宮内のトイレから外国なんて行けるの!?」

メールの内容を伝えると、ヨシュアさんとミリアさんもツッコミを入れずにはいられないほどの衝撃を受けたようだ。アーティとセイヤ様は何故平然としていられるのだろうか?

「いやいや。僕も驚いてるよ。びっくりー」

じっと私が見ていると、言いたいことに気づいたのか、アーティがパタパタと顔の前で手を振りながら言った。……その割には棒読みですね。

「私も驚いているのだが、他に考えさせられることが多くてな……」

セイヤ様は顎に拳を添えて俯いていた。

「……アーティ。ミノルはどの国にいるんだ?諜報員というのは、何という者だ?」

「ちょっと待ってくださいね。二通目があるみたいなので、開きます」

アーティがそう言ってページを捲ると、そこにも文字が書かれていた。



“なんかその諜報員さんいわく、俺の空手と、神様から貰った言語自動翻訳機能が使えるみたいで、協力してほしいって頼まれちゃった

俺、最近スパイアクションゲームにハマっててさー

勇者よりそっちの方が楽しそうだし、協力することにしました!

てなわけで、トーコちゃん!あとよろしく!

テキトーなところでそっちに送ってもらうから、心配しないでねー”



「……」

絶句だ。あまりの事態に言葉が出ない。セイヤ様達も呆気に取られている。アーティだけが平然とした様子で、おもむろにペンを走らせた。



“今度、スパイアクションっていうの詳しく教えて”



「……って、そうじゃないでしょ!!」

私は稔くんに対するものも込めて、アーティに向かって叫んだのだった。






To:お兄ちゃん

From:桃子

件名:お兄ちゃんへ

本文:

アーティがお兄ちゃんとメール出来るようにしてくれました。


お兄ちゃん……稔くんが迷子になって外国に行って、スパイになるとか言ってるんだけど、どうしたらいいですか?助けてください。




To:桃子

From:佐久良

件名:Re:お兄ちゃんへ

本文:

すまん、桃子。さすがに異世界じゃ兄ちゃん、助けてやれねぇ。

頑張れ!とにかく頑張れ!!



……稔、帰ったらはっ倒す。




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