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勇者作戦第二弾

私の目の前には、アーティのお父さんとお祖母さんがニコニコと笑って座っている。視界の隅には、アーティと対面して目を吊り上げるお母さんが映る。

「ユーリ・レイノルドです。父と娘から連絡を受けてるよ。息子がごめんねぇ」

「アティールくんがご迷惑をおかけしました。私はタリス。アティールくんのお祖母ちゃんです」

「で、あっちで説教してるのが、嫁のディアンナ」

「アティール!研究するのはいいけど、人に迷惑をかけるんじゃないって、いつも言ってるでしょう!!」

サウラの洞窟からの帰り道、偶然アーティの家族に遭遇した私たちは、王都へ帰還するという馬車に同乗させてもらうことになった。貴族の馬車は六人乗っても余裕がある。私を挟んでアーティと稔くんが座り、向かいにアーティのご両親とお祖母さんが座っている状態だ。

アーティのお父さん・ユーリさんは将来宰相を継ぐために様々な仕事をしていて、現在は外交官として年中外国を回っているそうだ。今回の帰国は皇太子継承に合わせてのものだったが、嵐と土砂災害に阻まれ、式典に間に合わなかったのだと言う。

「少しでもサザールに有益になるようにと思って、ギリギリまで交渉を粘ったせいでもあるけどね」

「だから私は、早く出立しようと言ったのに!」

「結果的に交渉がまとまったから、良いだろ。それが仕事なんだから」

ユーリさんに食って掛かるディアンナさんは、役職には就いておらず、普段は普通の貴族の奥様らしく家を管理している。しかし、ユーリさんが外交の仕事を始めてからは、外国へ連れ回されているそうだ。別に妻同伴でなければならないわけではないが、ユーリさんがディアンナさんを連れていきたいらしい。先程から口喧嘩ばかり見せられているが、仲が悪いというわけではないようだ。

「お義母さままで巻き込んだんだから、少しは反省して!」

「それについては謝る。ごめん、母さん」

タリスさんはレイノルド宰相の妻としての務めの他、デザイナー兼ヘアメイクアーティストとしてサザール国内で人気を博している。今回、息子の外交相手がタリスさんの才能に興味を示したとかで同行することになったそうだ。

「ユーリくんのお仕事が上手くいったからいいのよ。セイヤくんの晴れ姿を見れなかったのは残念だけど……どうだった、アティールくん?」

「相変わらず面の皮が厚いので、ばっちりでした」

「言い方に悪意を感じますよ?」

たしかに、セイヤ王子はいつでも余裕たっぷりの笑みを浮かべていて、継承式も緊張した様子はなく、つつがなくこなしていた。

「そう言うアティールくんのお面は、大分ほぐれてきたわねぇ。そこのお嬢さんのおかげかしら?」

「……え?」

タリスさんが意味ありげに視線を向けてくるので、私は首を傾げた。

アーティのお面がほぐれてきた?表情豊かになったということだろうか?たしかに、たまに怖い顔になったり、笑ったりするが、基本は飄々とした感じに見える無表情だ。これで以前よりマシということか?

ユーリさんまでニヤニヤして私とアーティを見比べているし、ディアンナさんは興味津々といった感じで私を見ている。アーティは相変わらず読めない表情だし、稔くんは馬車から見える景色に夢中で、ハク達動物は久しぶりに羽を広げたいからと、別の道に行ってしまった。私は一人、どう対応していいかわからず、王宮までの道程を居心地悪く過ごすはめになった。





「また鐘が鳴ってしまったので、勇者様達には活躍していただきます。でも、お兄様はお忙しいので、今度の勇者作戦は私が取り仕切りまぁす」

ご機嫌にそう告げたのは、セイヤ様──王子とか皇太子とかややこしいので、アーティ達と同じように呼ばせてもらうことにした──の妹、フローラ王女だ。王宮に到着してすぐセイヤ様の執務室に向かった私達を、兄と共に笑顔で迎えたのだ。

「コンちゃん大魔王にお姫さまを拐われ、勇者様達が助けに行くっていうシナリオです」

「“コンちゃん大魔王”?……というか、何でコンラートさん達がここにいるんですか?」

私は眉をひそめて、向かいのソファーに座る王女に尋ねた。フローラ王女はコンラートさんの膝の上にちょこんと座っているのだ。……美少女を連れ去ろうとする誘拐犯に見える。コンラートさんはセイヤ様を失脚させようとした将軍の従者のはずだが?何故か将軍まで仏頂面でいるし……。

向かって左からセイヤ様、フローラ王女あんどコンラートさん、ハワード将軍。その後ろにはヨシュアさん、ミリアさんが控えている。こちらのソファーはアーティ、私、稔くん。ソファーの横にハク、ロンという図になっている。

「妹は、何故か昔からコンラートに懐いているんだ」

セイヤ様が苦笑して言った。

「……王女は私に将軍とコンラートさんが悪巧みしている夢を見せましたよね?」

「だって事実ですもの。コンちゃんさんは大好きですけど、悪いことはダメなんです」

王女はきっぱりと言って、自分を抱える抱えるコンラートさんを見上げた。

「だけど……追放とか処刑にならなくて良かったです。コンちゃんさんも叔父様も、悪い人じゃないってわかってましたもの」

王女は子どもらしい屈託のない笑顔を見せた。

「フローラ……」

「視界に入らないでください、叔父様。眩しいですぅ」

感動で目を潤ませていた将軍は、姪の笑顔の一言で凍りつく。さすが、セイヤ様の妹……からかいに容赦がない。

「でも、悪者を演じてもらうって……いいんですか?」

「問題ないよ。ちゃんと変装するから」

コンラートさんは心配する私に、ニヤリと笑って見せる。楽しんで協力してくれているようだ。

「他にもコンちゃんさんの部下の方々や、勇者様がお連れになった猫ちゃん達にも協力してもらいますよ」

「アーティ、タイラー、ティボルトは引き続き勇者のサポートを頼む」

「はい!」

コンラートさんが演じてくれるのであれば、猫達の時のような事態にはならないだろう。

私は前回とは比べ物にならない程落ち着いた気持ちで、この勇者作戦を受け入れたのだった。



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