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再び

「──それで、私にまた何か加護を与えろと?」


運命を司る神サウラは、サザール国の西の外れの渓谷に不思議な洞窟を築き、そこへ時折訪れ、憩いを求めている。以前、ここを訪れた私はサウラから護りの石を与えられ、その力にいろいろと助けられた。だから、またしても魔法使いがミスをして、異世界に召喚されてしまった幼なじみのため、この世界で身を守る術を貰えないかと、アーティ、稔くん、ハク、ロンと共に再び洞窟にやって来たのだ。洞窟の中のオアシスで寛いでいたところへ突然やって来た私達に、サウラの神獣のヘルゼは大分お怒りだ。サウラはわかっていたようで、寝そべったままこちらに目をやり、話を聞いてくれた。

「何でもかんでも神様を頼るなよ」

「困った時の神頼みでしょ?」

呆れるサウラに対し、アーティがいつもの感情の読めない表情で言った。元はと言えば、この変人美少年が原因のはずなのだが、反省の色が伺えない。するとサウラは、それまで私に向けていた金色の瞳をすっと細めてアーティを見た。

「そう易々と手助けしたら、有り難みも何もないだろう?」

「うわぁ~。神様ってケチだねぇ」

「そもそも、本来お前はここに立ち入れる人間ではない。私が招いたのはハクとロンと異世界人だ。おまけがあまり口出しするな」

「すみません!甘えすぎました!諦めますから!」

気のせいか、アーティとサウラの間に火花が散ってるように見える。神様に喧嘩を売って、罰が当たるんじゃないかと思った私は、慌ててアーティの腕を掴み、サウラから引き離して謝罪した。

「それと、ハク……そう簡単にいろいろ連れてきてくれるな。でなくば、私はお前との面会も叶わなくなる」

「悪い……トーコが困っていたからなんとかしてやりたくて……」

「まあ、お前のその純粋な優しさは好きだがな」

しゅんっと項垂れる白銀の狼の頭をサウラは優しく撫でる。それを見ているヘルゼの方から、ギッと歯を擦り合わせる音がする。黒豹も嫉妬で歯ぎしりするんだな……。

「トーコちゃん、トーコちゃん」

「何?」

それまでキョロキョロと辺りを見渡しながらも、隅っこで大人しくしていた稔くんが、背後から私の肩を叩く。彼は耳に携帯電話を当てていて、いつの間にやら、誰かと通話しているようだ。


稔くんが召喚されてから、元の世界との通話が可能となり、私はその日の内に母と話をさせてもらった。約二週間ぶりの連絡だというのに、母からの第一声は、

「今日の夕飯、あんみつと杏仁豆腐どっちがいいかな?」

だった。どっちもご飯じゃなくておやつだし、ほぼ行方不明状態の娘にかける言葉がもっと他にあるだろう!そんなツッコミを抑えつつ、私が状況を説明すると、

「良い経験じゃない。誰にでも出来ることじゃないんだから、楽しんでらっしゃい」

と言った。たしかにそうだけど!誰にでも出来る経験じゃないけど!約15年間一緒にいるが、未だに母の言動には頭を悩ませられる。アーティと早く打ち解けられたのは、ある意味、この母のお陰かもしれない。


そんな母との会話を思い出していると、稔くんが携帯電話を耳から離す。

「今、サクちゃんと電話してんだけど、めっちゃ怒ってる。トーコちゃん、何か言ってあげてよ」

そう言って、稔くんは携帯電話を操作し、スピーカーに切り替えた。


『稔!聞いてんのか!?お前が変なやつとメールしてっから、うちの桃子が巻き込まれたんだろ!!』


周囲に怒号が響き渡る。その声は、私にとって慣れ親しんだものだ。

「……お兄ちゃん」

電話の相手は私の二つ上の兄、佐久良(さくら)だった。怒鳴り声でも、久しぶりに聞くことができて嬉しくて、呼びかけた声が震えてしまった。

『桃子!!無事か!?変なことされてないか!?』

「……うん、平気」

ただでさえとんでもない状況で心配をかけているのに、勇者にされたり、化け物と戦ったり、誘拐されたりしていますなんて言えない。

『おふくろから異世界に召喚されたって聞いて……信じられないけど、本当なんだな?』

「冗談でこんなこと言わないよ」

『だよな。突然、稔の親戚んちに花嫁修業に行ったって聞いてたけど、さすがに二週間も連絡とれないとか普通じゃないしな』

花嫁修業って、どんな誤魔化し方!?しかも稔くんの親戚の家にって、稔くんの家に嫁に行くつもりみたいじゃないか!?

私が稔くんを睨むと、彼はテヘッと舌を出して笑った。スピーカーなので会話は筒抜けで、サウラは大爆笑して、ハクとロンは私に同情の目を向けている。ヘルゼはまるで興味がないらしく、サウラに擦り寄っている。そして、アーティは珍しく表情を崩しているが、何故かものすごく不機嫌そうだ。

『稔との結婚は認めねぇけど、家事を勉強するのは良いことだ。おふくろはあんなだから、まともな花嫁修業出来ないだろうし……』

「花嫁修業なんて行ってないよ!今、異世界にいるんだって!」

『わかってるって。まあ、元気そうでちょっと安心した……ちゃんと帰ってこれるんだよな?』

「大丈夫」

不安がないと言えば嘘になるが、アーティならきっと元の世界に帰してくれる。私はそう信じている。

「アーティは変人だけど、すごい人だから。絶対元の世界に帰してくれるから、お兄ちゃんも信じて待ってて」


「──だそうだぞ、少年?」

サウラはニヤニヤしながらアーティに目をやる。彼はまた元の無表情に戻っているようだが、心なしか口元が緩み、嬉しそうだ。

「青春だねぇ。これだから、人間はおもしろい」

サウラは機嫌が良くなって頭や背中を撫でるので、ヘルゼもご機嫌になって喉を鳴らすのだった。


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