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再会

セイヤは拍子抜けしていた。自分が発破をかけるまでもなく、ハワードが飛び出していったからだ。供も連れずに急いで出て行ったが、彼が今、これだけ慌ててる理由は、おそらく、実行中の悪巧みで何があったのだろう。セイヤは手鏡で部下に連絡を取りながら、ハワードの後を追うことにした。

ハワードが開け放ったドアの隙間から、その様子を見ていたコンラートは、ニヤリと笑みを浮かべるのだった。




将軍との距離が僅かに出来た隙に、私は結界の外へ駆け出した。

「待て!」

しかし、すぐに将軍に追いつかれ、腕を掴まれてしまった。


「勇者がいたぞ!」

「げっ!?俺らを雇ったおっさんまで一緒じゃねえか!」


その時、私を追ってチンピラ達までやって来た。

将軍だけでなく、チンピラ達にも囲まれてしまった……詰んだな、これ。

「お前達……よくも面倒なことを仕出かしてくれたな」

「あんたの部下が俺らを怒らせたからだろ!その女を寄越せ!」

将軍とチンピラ達がにらみ会う。将軍は私を自分の背に隠し、すらりと剣を抜いた。

「ガキが……調子に乗りおって……」

「この人数相手に、一人でやろうってのか?お前ら、やっちまえ!」

チンピラ達も各々武器を構え、将軍に向かっていった。将軍は十数人を相手に、怯むことなく、対等に渡り合っている。

私は自分への注意が逸れたこの隙に、その場を離れようと、そっと繁みの方へ近づいていた。そこから一気に駆け出すつもりだった。

しかし――


「逃がすか!」


チンピラの一人が私に気づいていた。チンピラは私に向かって棍棒を振り上げる。

「大人しく寝てろ!」

殴って気絶させる気なのだろう。


あんなので殴られたら、気絶どころでは済まないかもしれない。

それに、捕まったら何をされるかわからない。

嫌だ。怖い。

誰か助けて!助けて……――


「アーティ!!」


私は咄嗟に頭を腕で隠しながら、叫んでいた。



――次の瞬間、首から下げた護りの石が光を放つ。



「呼んだ?」



光が消えると、目の前に、いつもの飄々とした調子でアーティが立っていた。

……これは、また夢なのだろうか?

私は頬をつねってみるが、痛かった。夢じゃない。

「な……何だ、お前!?」

光に驚いてそのままの格好で止まっていたチンピラは、突然現れたアーティに向かって、棍棒を降り下ろした。

私の方を向いていたので、後ろから攻撃を受けたアーティだが、頭にぶつかる前に素手で棍棒を掴むと、それをチンピラごと振り回して地面に叩きつけた。

「“何”はこっちの台詞。桃子に何してるの?」

「アーティ……どうやって……?」

驚きから呆然としてしまっていたが、少し冷静を取り戻した私は、ぱっぱっと手を払うアーティに尋ねる。一体、どうやってこの場に現れたのか?

「護りの石にかけてた魔法で、桃子に召喚されたんだよ」

「私に?」

アーティはチンピラの背中を踏みつけながら私の問いに答えた。怖い思いをさせられたので、あまり同情できない。

「どうした!?」

「誰だ、お前!?」

こちらの様子に気づいた他のチンピラや、将軍の目がアーティへ向く。

「……アティール・レイノルド!」

将軍が驚いた様子で言った名前に、チンピラ達がどよめく。

「アティール・レイノルド!?」

「類いまれなる魔力を生まれながらに持った、あの“天才魔法使い”!?」

「訓練ではさぼってばかりだったのに、あらゆる武術大会で優勝したっていう“嫌みな最強戦士”!?」

「女のために、フーリヤ国を一人で滅ぼしかけたって噂の“悪魔”!?」

どんだけ悪名高いんだ、この人……。

「確かに魔力は生まれつきだけど、武術は、大きすぎる力を制御するには強靭な肉体が必要だってお祖父様に鍛えられたんだよ。訓練も別にさぼったわけじゃ……まあ、どうでもいいか。君達を簡単にボコボコにできちゃうってのに、代わりはないしね」

アーティは淡々と言いながら、踏みつけているチンピラの棍棒を拾い上げた。

「くそっ……お前ら、怯むな!ただの噂だろ!おっさん諸共やっちまえ!」

リーダーらしきチンピラの号令で、躊躇していたチンピラ達が一斉にアーティや将軍に襲いかかる。

アーティは自分に向かってきたチンピラ達を一瞬で蹴散らし、チンピラ達はその場に崩れ落ちた。将軍に向かっていったチンピラ達も、一人、また一人と次々に斬り捨てられていく。さっさと自分の分を倒したアーティは、地面を蹴り、将軍の方にいる残りのチンピラ達を卒倒させた。

あっという間に気絶したチンピラの山が出来上がり、アーティは次いで将軍に武器を向けた。

「……なんの真似だ、レイノルド?」

「またまたぁ。これだけ証拠がいれば、言い逃れできませんよ?」

「証拠?この者達のことなら、私は知らないぞ。勇者が襲われているところにたまたま出くわし、助けに入っただけだからな」

全てを見聞きした私がいるというのに、将軍は苦しい言い訳をしている。それに、先程からそわそわとした様子で私を見ているのは何故だろう?


「彼なら来ませんよ、叔父上」


その時、空から声がして見上げると、ロンに運ばれてセイヤ王子が降りてきた。



――いよいよ、セイヤ王子とハワード将軍の直接対決が始まる。




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