こんな時でもあいかわらず
桃子の捜索に出たその日の夜――アーティ達は立ち寄った町の宿にいた。正面から動物は入れられなかったので、ハク達をこっそり入れ、全員がテーブルに集まる。猫達がうとうとと船を漕いでいるが、今日は敵がわざと置いたであろう桃子の持ち物しか発見できなかった反省と、今後の作戦会議を開くのだ。
「とりあえず、コウモリが王宮からの飛んでいったという方角へ来たが……この辺りにトーコさんの物が放置されていたということは、この方角で間違いないんだろう」
「問題はどこまで行ったかよ。どうせ魔法でカモフラージュされているだろうし、闇雲に探してたら、いつ見つかるか……」
「使えるかと思った探知機は本能のままに生きるお子さま達だからな」
ヨシュアは言いながら、机の上でだらんとしている猫達をつつく。猫達はぴくりと反応するが、起き上がらない。完全に寝てしまったようだ。
「アティール。あんたはどう思うの?」
ミリアが先程から黙ったまま俯くアーティに声をかけると、彼はゆっくり顔を上げた。ぼんやりしていて、眠りかけていたのだと一目でわかる。ミリアは呆れて溜め息を吐いた。
「あんたねぇ……」
「ここのところ、徹夜続きだから」
「自業自得だ」
欠伸を噛み殺すアーティを、ヨシュアはきっぱり切り捨てる。そもそも、この一連の騒動の発端は彼が間違えて桃子を召喚したことだ。そのため、異世界転送魔法の研究や、勇者でっち上げ作戦で連日フル稼働していても、あまり同情できない。
「お前はもう寝ろ。明日の捜索に影響が出たら困る」
「やっぱりヨシュアは優しいねぇ」
「仕方なくだ」
ヨシュアの許可を得て、アーティはさっさとベッドに移動し、布団に潜り込んだ。
「ティボルト、ハク、ロン。私達も明日の打ち合わせが済んだら、今日はもう休もう」
「そうだな」
「んじゃ、昼間飛んだところはここだから、明日は……」
ヨシュア達の話し声を聞きながら、アーティは眠りに落ちていく。
――ある魔法をかけて。
「やあ、桃子」
私は自分の頬をつねってみる。……痛くないということは、これは夢だ。
私はがっかりして、目の前で胡座をかいて座る人物の隣に腰かけた。
「助けに来るのが遅いじゃないですか、アーティ」
「セイヤ様の問題もあるから、勝手に動けないんだよ。部下ってた~いへ~ん」
真っ白な空間に突然現れたアーティは、現実と同じく、のんびりとした口調だ。私の夢なのだから、もう少しはきはきとかっこよくしてくれてもいいのにと思う。しかし、夢の中とは言え、アーティに会えて嬉しかった。私は俯いて、ぽつりと溢す。
「……もう嫌です。早く家に帰してください」
アーティとセイヤ王子を信じて、現実では頑張っているつもりだ。しかし、本当は怖くて堪らない。コンラートさん達はそんなに悪い人達ではないようだが、それでもいつ危害を加えられるかわからない状況だ。元はと言えばアーティが間違えたせいなのだが、私は彼がいたからこんな異世界で耐えられていたのかもしれない。
そんな不安な気持ちを、夢の中のアーティへ正直にぶつけた。
すると、アーティは私の肩を抱き寄せた。
「ごめんね、桃子」
しかも、滅多にない謝罪付きで。一瞬、何が起こったかわからなかったが、現状がわかると、私は苦笑いを浮かべた。
「あなたが謝るなんて……夢とは言え、現実離れしすぎですね」
私は夢だからいいかと、彼にもたれかかり、甘えさせてもらう。
「正確には完全な夢じゃない。僕は、魔法で無理矢理君の夢に入ってきた別の意識だから」
アーティの言葉に、私はがばっと体を起こした。
「本物のアーティ!?」
「ちょっと現実世界で苦戦しててね。桃子の無事を確認したかったし、何か情報を貰えないかなとも思って」
「無理矢理入ってきたって……あなたはまた!私のプライバシーは無視ですか!?」
本音を言って甘えてしまった私は、顔がゆでダコみたいになっているだろう。一方のアーティはしれっとしてしている。この人は本当にデリカシーというものがない。
「まあ、それは置いといて……」
「置いとけません!」
何で私の夢なのに、手元にハリセンがないのだろう?あれば叩きまくってやるのに。
「首謀者はハワード将軍だよね?」
「……知ってたんですか?」
「そりゃあ、あんなあからさまだし」
なんだか将軍が可哀想になってきた。甥っ子達や部下にもからかわれるし、野心を持って悪巧みしてみてもバレバレだし……。
「あれでも、軍人としての真っ向勝負には強いみたいだけどね。策略を求められる王様には向いてないんだ」
「犯人がわかってるなら、捕まえたらいいだけじゃないんですか?」
「大人にはいろいろ事情があるんだよ」
「あなたと私は二つしか違わないでしょう」
「君の世界での学年的には一つ違いだよ」
「……そうですか」
アーティから大人の事情は説明してくれないらしい。これ以上追及しても無駄なようなので、私は一度溜め息を吐き、こちらの状況を説明することにした。




