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勇者、死す?

「何故そんなことをするんですか?」

この世界の事情に疎い私には理解できない。どうして、自分の兄の息子を蹴落としてまで王様になりたいのか……。

「……それが私の主の望みだからだよ」

コンラートさんがそう言って、少し寂しそうな顔をしている気がした。私が求めた答えではなかったので、更に問いかけようとしたその時、壁に立て掛けられた大きな鏡がチカッと点滅するように光を放つ。

「マスター、将軍からの連絡です」

覆面一号が鏡に手をかざして言った。どうやらこの鏡を使って通信しているらしい。

「繋いでくれ」

コンラートさんの指示を受け、覆面一号はぶつぶつと呪文を唱え始めた。私が今まで見ていた魔法使い――アーティは、ふざけた呪文を唱えることもあるが、基本的に黙ったままで魔法を使いこなす。しかし、一般的には魔法を発動させる時は呪文を唱えるものだと、色眼鏡で読んだ本に書いてあった。そうすることで術が安定し、効果を高めることができるそうだ。

覆面一号が呪文を唱え終えると、でんっと巨大な鷲鼻が写った。

『コンラート君!』

鼻が喋った……ように見える。

コンラートさんはぷっと小さく吹き出し、他の覆面達は覆面のせいで顔はよくわからないが、笑いを堪えているようだ。

「……拡大しすぎました。調整します」

わざとなのかそうでないのか、覆面一号は冷静に言って対処した。

『おい、何だ?何があった?』

「何でもありません。こちらの話です」

ちゃんと鏡に納まった将軍がこちらの様子を気にして問いかけるが、覆面一号はきっぱり答えてコンラートさんの後ろに下がった。立ち上がって鏡に写った将軍に一礼したコンラートさんは、ニタリと不気味に見える笑みを浮かべる。

「ハワード様。そちらの様子はいかがですか?」

『パーティ中は勇者不在を上手く誤魔化し、昨夜は何事もなく終わってしまった』

「では、セイヤ様は勇者誘拐を伏せることにされた、と?」

『そうであれば、こちらから公にしてやったさ!しかしセイヤめ、先手を打ちおった!勇者は国内の不穏な動きを察知し、自らが部下に命じて召喚したと!敵にわざと捕まり、一網打尽にするつもりだと、今朝になって王や大臣達の前で宣言しよった!』

――何言っちゃってるの、王子!?

見栄を張っているのか、本当に私をわざと誘拐させたのか……どちらにせよ、その発言は私にとって寝耳に水だった。

『わかっていて誘拐されるとは生意気な……!』

どうやら将軍は、王子の言葉をそのまま受け取ったようだ。

私は将軍に睨まれて内心たじたじだが、顔に出さないように努めた。王子が大勢の前で言ったということは、わざと敵の耳に入れたのだ。この先のことも、王子がいろいろ考えているはずだ。だから私は、なるべくその通りに演じた方がいいと判断したのだ。

もしもの時は、アーティが助けてくれる。他力本願のようだが、私はそう確信して気持ちを落ち着けていた。

しかし――

『こうなったら、予定変更だ……勇者には死んでもらうしかない』

私は、将軍のその発言が一瞬理解できなかった。


――死んでもらう?私……殺される?


そう考えた瞬間、一気に頭が恐怖で支配される。きっと顔にも出ているだろう。逃げ出したくて椅子から立ち上がろうとするが、いつの間にか私の後ろに回っていた覆面一号に肩を押さえられる。

「大丈夫」

覆面一号が私に何か囁きかける。しかし、それどころではない私の耳には届かない。逃げなければ殺されるのだ。なおも立ち上がろうと力を込めるが、覆面一号はびくともしなかった。

『コンラート君、勇者が着ていたドレスをボロボロにして、適当な場所に捨ててくれ。勇者が死んだように見せかけ、セイヤの失態を露呈するんだ!』

将軍がコンラートさんに出した指示で、私はぴたりと動きを止めた。

「……見せかけ?」

「将軍は人を殺すような人じゃありませんから」

私が思わず反復して言うと、覆面一号がぼそっと教えてくれた。私は一気に力が抜けて、椅子にもたれかかる。……心臓に悪いので、言い方を考えてほしい。

『そのためにも、絶対に勇者を逃がすなよ!持ち物は見たか?』

「はい。武器等は一切所持しておりませんでした。ドレスに武器を仕込む娘など、滅多にいないでしょうが……」

曲者から誘拐時のことを聞いているのか、コンラートさんは苦笑して答える。私もドレスに武器を仕込んでいれば、誘拐されずに済んだかもしれない、と少し後悔した。

『ともかく……頼んだぞ、コンラート君』

「おまかせを」

コンラートさんが頭を下げると、将軍の姿が消え、普通の鏡に戻った。それを確認すると、コンラートさんはくるりと私に向き直る。

「聞いた通りだ、勇者殿。大人しく幽閉されていてくれ」

コンラートさんはそう言って、またニタリと不気味な笑みを浮かべるのだった。




王都近くの森の中――

ハクは道に捨てられていたボロボロのドレスに鼻を近づける。

「間違いない。トーコのにおいだ」

「まさか……トーコさん……」

ミリアの顔からさっと血の気が引く。元は紺色だったドレスは赤黒く染まり、切りつけられたように破れ、あちこち擦りつけられて見るも無惨な状態だ。これを着ていたのが桃子ということは、彼女はどうなったのか……?ミリアの脳裏に最悪な光景が浮かんだ。

「何か見つけたの?」

そこへ、別の方角を探索していたアーティが、空から降りてきた。アーティを運んでいたロンは、彼が地面に下りると、ハクの背に止まった。

「これが……」

青い顔をしたミリアが指差すものを見たアーティはけろりとしている。

「ふーん……いろいろ小細工するねぇ」

「小細工?」

アーティはミリアの頭をぽんっ叩いて落ち着かせながら、ハクの方に目をやる。

「それは桃子の血じゃないんでしょ、ハク君?」

「ああ。本物の血だけど、桃子のじゃない。別のにおいがする」

「多分、動物の血を使ったんだろうね。桃子が死んだかのように見せかけるために……」

桃子捜索のために王都を出発したアーティ達は、都を出てすぐの森の入り口で桃子がパーティで履いていた靴の片方を見つけた。それでひとまず森を捜索しようということになり、分かれたが、アーティの方に収穫はなかった。このドレスも、桃子の居場所を突き止める手がかりにならないかもしれないが、とりあえず回収しなければならない。アーティは着ていたローブを脱いで、ドレスを包んだ。布の端同士を結んで持ち運びやすいようにしていると、「ミャアミャア」という猫の鳴き声と共に、ヨシュアがこちらへ駆けてきた。

「おい!何で私が子猫を引き連れなくてはならない!?」

ヨシュアは腕に三匹の子猫を抱えていた。猫達は「ミャアミャア」と大合唱して尻尾を揺らしている。

「動物達を使うのはいいが、どう考えてもこいつらは邪魔なだけだろ!しかも、さっきからずっと鳴きっぱなしでうるさい!」

「その子達は魔力が強いからねぇ。真面目に魔法を使ってくれたら、すごぉく頼りになるよ。まだお子ちゃまだから、扱うのは難しいけど」

「だったらお前が扱え!」

しれっと答えるアーティに怒るヨシュアは、きっと猫であれば毛を逆立てていることだろう。

「で、何か見つかったかい?」

「……奥まで行ったが、途中で猫達が騒ぎ出した。お前が言ったように、こいつらは魔力が強いから何かあるかもしれないと気配を探ってみたが、何も感じられなかった」

「ヨシュアに感じられない何か、か……気になるね」

アーティとヨシュアがわいわいやっている間に、子猫達を受け取ったミリアは、彼らをハクの前につき出した。猫と言葉が通じるハクに聞くのが一番手っ取り早いと冷静に判断したのだ。

「ハク、猫達は何て言ってるの?」

「“腹へったー、腹へったー”だとさ」

なおも鳴き続ける猫達に、ハクは呆れながら通訳した。それを聞いたヨシュアが鬼の形相で猫達を見た。

「そんなことで騒ぐなー!!」

森の中に、ヨシュアの怒声が響き渡った。


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