スカートの中には夢と危険が詰まっている
王子に押しきられた形だが話がまとまり、アーティは細かい打ち合わせと準備のために王宮に残り、私はしばらくアーティの家に預けられることになった。王宮内ではいろいろ詮索されたり、煩わしいことがあるだろうという配慮だそうだ。単に準備の邪魔だから、体よく出された気がする……。
私は来た時と同じくヨシュアさんとミリアさんに馬車へ乗せられ、アーティの家に案内された。
王宮から十数分の距離に構えられたそれは、赤と白が基調となった、王宮に負けず劣らずの立派な屋敷だった。門から建物まで数分かかる広々とした敷地には、もはや森なんじゃないかという程豊かな木々が植えられ、屋敷を守るかのように覆っている。
レイノルド家は代々宰相を務め、王家に次ぐ権力を持つ上流貴族だそうだ。さらに、国王の妃であるセイヤ王子の祖母は、レイノルド家の当主であるアーティの祖父の妹だという。つまり、王子とアーティは再従兄弟同士。通りで似ているわけだ……主に我の強さが。
そんな肩書きに似合う立派な屋敷の前には一人の女性が立って、私を待ち構えていた。
「お待ちしてました。ようこそ、レイノルド家へ」
私が馬車から降りると、女性は丁寧にお辞儀をする。
「私はマリース。アティールくんのお姉ちゃんです」
アーティのお姉さんはふわりと微笑んだ。彼女は髪の色は金色で違うが、瞳はアーティと同じエメラルドで、柔らかい雰囲気を持つ美人だ。そして、巨乳。動く度に揺れるそれに、つい目が行ってしまう。これだけ大きいと、特徴とも言えるだろう。
「どうしたの?」
「あ……トーコ・フジタです。お世話になります」
慌てて視線を顔に戻し、私もお姉さんに挨拶をする。
「遠慮せず、自分の家だと思って寛いでね。アティールくんが迷惑かけちゃったみたいだし……ごめんね」
申し訳なさそうにこてんっと首を傾げて謝るお姉さんは、アーティと違っていらっとこない。癒し系なお姉さんだなぁ。
「それでは、マリースさん。後のことはお願いします。何かあったらお知らせください」
「は~い。ミリアちゃん、ヨシュアくん、ありがとう。セイヤくんによろしくね~」
ミリアさん達は王宮に戻り、私はお姉さんと二人きりになった。
「……さて、と。早速お部屋に案内するね。それから着替えも……アティールくんってば、あいかわらず女の子の格好に無頓着なんだから!せっかくかわいいんだから、おしゃれしなくっちゃ!」
お姉さんはそう言うと、私の手を引いて屋敷に入っていった。
「……お姉さん」
「なぁに?」
「この世界では、これがおしゃれなんですか?」
下着姿にされた私は、なぜか右の太ももにベルトを巻かれ、そこにナイフを装着されている。
「そんなことないよ?これはもしもの時のため。女の子だって、いざって時は戦えなくちゃ。私はこんなに着けてるよ」
お姉さんは、ぴらりと自身のスカートを捲り上げる。ガーターベルトには銃やナイフ、アイスピック。スカートの裏には手榴弾とおぼしきものまであった。
「スカートってゆったりしているものだと、中にいろいろ仕込めるからいいよね」
楽しそうに物騒なことを言うお姉さんに、私はされるがまま、左の太ももへ掌サイズの銃を着けられる。癒し系の笑顔が今は怖い。
「トーコちゃんにはアティールくんがついてるから、これくらいでいいかな?」
最後に爪先から刃が飛び出す焦げ茶色のブーツを履かされて、藍色のワンピースを着せてもらった。白い襟に赤い棒ネクタイを結び、二の腕辺りまでの袖口とウエスト部分がきゅっと締まったかわいい服だ。しかし、その下に物騒なものを身につけていると思うと、気分が上がらない。
そんな私に対し、お姉さんは上機嫌で私の髪をとかし、赤いカチューシャを着けてくれた。
「女の子はいいね、楽しくて。やっぱり妹も欲しかったなぁ」
「兄弟はアーティだけですか?」
「うん。あ……でも、ミリアちゃんは妹みたいなものかな?」
ミリアさんも貴族の出身で、アーティとは幼なじみらしい。当然、お姉さんとも交流がある。
「ミリアちゃん、私に武術を教えてって言ってきた時は全然運動できなかったけど、今や立派な軍人さんになってくれたよ」
「ミリアさんの先生なんですか?じゃあ、お姉さんも軍人?」
「ううん。私は家の事をしたり、施設の子ども達の勉強を見たりしているよ」
それなのに、こんなに武器を所持し、少女を軍人に鍛え上げれるなんて……。癒し系の外見からは想像もつかない。
「ミリアちゃんみたいに貴族のお姫さまが軍人になるなんて稀だよ。私みたいに施設のお手伝いをしてる人は結構いるけど、大概は働くことはないよ。女の子は家で守られるものっていうのが、常識みたい」
「そういうものなんですね」
貴族とかお姫さまとか、元の世界では全く無縁なのでわからない。私の周りでは女の人もバリバリ働いて、重要な役職に就いていることも、もはや珍しくない。
「……でも、私は守られるだけじゃ、ダメだと思う。女の子だって、守りたいものはあるんだ」
そう言ったお姉さんは俯いていて表情が見えない。しかし、すぐに顔を上げて、ふわりと笑みを見せる。
「だから!トーコちゃんも、もしもの時はこれを使ってね!」
お姉さんは、過去に守りたくても守れなかったものがあるのだろう。だから、人を鍛えられるくらい強くなって、武器を常に持つようにしているのか。今度こそ、守れるように備えて……。
私は、ふとこれまでの自分を振り返る。異世界に連れてこられて、野性動物に襲われたり、穴に落ちたり、神様に会ったり、そして今、偽勇者にされる。
普通では考えられないことだし、備えることもできなかった。でも、既にこれだけのことがあって、これからも様々なことがあるのは間違いない。そのために備えておけば、今までよりまともな対応ができるはずだ。
「……お姉さん、お願いがあります」
私は密かな復讐心に燃えていた。
――アーティ、王子さま。いつまでも振り回されるだけの私じゃありませんよ!




