第三十三話 英雄として現れる
「久しぶりじゃないか、白神真くん、私の顔は覚えているかね」
「セルゲイ……てめえが俺を紛争地帯に放り込んだのか!」
セルゲイの顔はとても印象に残っていた。
色白で目つきが鋭く、鼻が高めのロシア人ぽい顔つきの奴だ。
「残念だったよ、君が私の計画に気づかなかったなんてね」
「どういうことだ?」
「君の為に説明してやろう、
私はその昔、第二次月面戦争の時、一発の流れ弾で妻が死んだ、その時から私は人間を憎んでいた!
私はその日から研究を始めた、表向きには第二次月面戦争で残っていた穢れを排除する装置といった、
だがそれは違う、
本当は効率的にクローンを生み出す技術だ、穢れの方は完全に排除した、クローンに穢れを移してな……
穢れを消した功労者として私は議長の座についた、そこから私は議会の解散時に残っていた者に話をもちかけたのだ、それはもう知っているだろう…?
私は地上に降り、一人の人間にこう囁いた、
『戦争を起こせば世界を君の物にする』
とな、
彼はすぐに戦争を始めた、その戦争で人類種の殲滅をする、そうすることで私の手は煩わせない、素晴らしい案だろ?
だがその案はすぐに潰えた、予想を遥かに下回る被害しか出なかった。
そこでだ、月から隕石を降らせ、恐竜滅亡を再現させようとしたが、あいつらは迎撃システムなんぞ作り出した。お陰で被害が半減した。
君は師匠と呼ばれる人間に戦闘術を学んだそうだな、そこで君を見つけた、その戦闘能力を人類種の殲滅に使うのだ、
だが、それも失敗に終わった、なぜなら目を覚ましてしまったからだ。
だが君は幻想郷に現れることを事前に知った、
そこで私は何年もかけて女王のクローン作成に成功した、
癖、声量、分泌物、ありとあらゆるものが女王と同じになるように作成したのは本当に時間がかかった…
女王とクローンをすり替えて偽の命令を軍隊に出した、月は女王の命令無しには命令を変更出来ない、その女王も死亡したと報告があった、これで君を殺せば誰も女王がすり替わっていることに気づいていない、これで我々が地球を支配する日も近い」
「…………あんたは気づいていないのかもしれないが……
アクーラを知ってるか?あれが堕ちた時に死んだとお前は思っている、だが、実際はどうだ?おそらくあんたは救助ポッドが出ていることに気づいていないな?」
そこまで聞いて指定されたテレビ局に合わせる。
《全月の民の皆さん、こんばんわ、とても大切な話があります、テレビを点けて静かに聞いてください》
画面が無いので音声だけだが、それだけでもセルゲイを震え上がらせるには十分だった。
「な…なんで女王がいる!?今日のアレはもう活動を停止しているはずだ!!」
テレビ音声は切らずにそのまま流し続ける。
《私は女王であるフィオナ・D・ムーンベルクです、私はこの日まで悪意あるものに閉じ込められていましたそれは現議長であるアヴァランチ・セルゲイによるものです、
彼は私のクローンを作り出し、全ての軍隊に偽の命令を出し、私を殺そうとしました、
ですが、私は今ここにいます、なぜなら私について来てくれた人たちがいるからです、
皆さん、忌々しい戦争は終わったのです、これからは平和の時代なのです》
「どうだ?あんたの計画はこれで潰えたな、どうする?」
《私は議長を処刑するつもりなどありません、しっかりと罪を生きて償わせる必要があります》
その音声を聞いた途端、彼の冷や汗は一瞬で消え去り、先ほどの憎たらしい笑顔が浮き出て来た。
「わかった、おとなしく縛につこう、さあ、私を連れて行くといい、当然、丁重に扱ってくれるだろう?」
Missions update
アヴァランチ・セルゲイを殺害、もしくは拘束する。
突然大きな揺れがビルを襲う、
窓から一応様子を見る、
チームが皆倒れていた。
「あぁ、研究体RS4294のことか?あれは博麗の力を少し抽出できたからあいつの体を使ってテストしてみたんだが…知性が足りないな、破棄しなければなるまい」
そう言った瞬間、俺の中で何かが弾け、奴の首元を掴んで左、右と殴る。
そのまま有無を言わさずガラスである壁に叩きつける。
「てめえのせいで……!てめえのせいで……!」
壁に何度も何度も叩きつけ、何度も何度も殴りつける。
「貴様が!貴様が命を無駄にした!貴様だけは殺す!絶対に殺す!」
ハンドガンのグリップの角で窓をひたすら叩く、強化ガラスではあるがそんなこと知らない。
ようやくヒビが入り、再びガラスに叩きつける。
十回程叩きつけたところで窓ガラスが割れ、そのまま外へ出る。
窓の淵を掴み、俺は落下を防ぐ。だが奴は俺の足を掴み引きずり落とそうとする。
「貴様……私の顔になにをしやがる!共に地獄へ落としてやる!」
このままでは落とされる、片手だけ離して右脚にかけてあるホルスターに手を伸ばす、届き、ハンドガンを手に取り構え引き金を引く!
「行くのはてめえだけだ!セルゲイ!地球で死んだやつの魂背負って堕ちろ!」
弾丸は頭を正確撃ち抜き、奴の力が抜けていく。
掴んでいた足を蹴飛ばして、地上に突き落とす。
「これで終わった、全て終わったんだ」
ハンドガンをホルスターに戻し、両手をかけて登る。
少し割れた窓で手を切っているが問題ない。
机の上から奴のカードキーを奪っておく。
十九階に研究室はあった。
議長のカードキーを使用して中に入る。
カプセルに緑色の培養液と人の形をしたものが入っている。
カプセルは全部で二十個、部屋の外周に沿って設置されている。
Submissions
クローン研究室を破壊するか回収させる。
回収すれば幻想郷の科学発展に大きく貢献するだろう。
だが、戦うだけの兵士を量産する科学技術などいらない。
「お前達には恨みがあるわけではないが、ここで破壊させてもらう、すまない」
ライフルを腰で構え、引き金を引く、カプセルのガラスが割れ、中の培養液が溢れ出てくる。
その時、ありがとう、という声が聞こえた気がした。
一応ここで紫に連絡を入れる。
「こちら真、議長は死亡、研究室も破壊が完了した、繰り返す、議長は死亡、研究室は破壊した」
紫からの反応が無い、人まず報告は打ち切って霊夢の確保を急ぐ。
二十階、ついに最上階にたどり着いた。
ロックを議長のカードキーで解除しようとしたがロックされている、最後の直前にロックをかけたらしい。
「あと手元に残ってるものと言えば、こいつしかないか」
あとはカルロから貰った三日月のバッジしかない。
壁のICカード読み取りポートに触れる。
すると、ポートの隣に丸いくぼみが現れる。
これにはめるのか?とりあえずはめて見る。
【認証中……カルロ・R・ムーンベルク、認証完了、ようこそお越しくださいました】
あいつはムーンベルク家の一人だったのか、それまで身分を隠していたのか?
とりあえず秘密にしておこう、変に言って迷惑をかけるわけにはいかない。
硬く閉ざされた鋼鉄製の扉がゆっくりと開く。
部屋に入ると電気が自動で付き、へやの真ん中から横倒しのカプセルがせり上がってくる。
中には霊夢が寝ている。
外にコンソールが無い、どうやら議長のカードキーを入り口で認識しないと開かないらしい。
先ほどの衝撃で目を覚まさなかったところをみると、普通の麻酔薬を使っていないようだ。
ナイフをガラスに突き立ててもダメ、真実を使ってもダメだ、爆発物は危険すぎる、跳弾の危険があるためガラスに向かって発砲するのもダメだ。
突然振動がビルを襲う、若干傾いている。
中央のカプセルに一応手をかけておく。
再び大きな振動がビルを襲う、今度こそ倒壊している、床が大きな角度になる。
カプセルに手をかけ、滑り落ちない様に持つ。
あの怪物がこの階を覗き、カプセルごと俺を持ち、遠くに投げる。
その衝撃で気を失った。




