第二十三話 伏線
少し待った後、戦艦は谷から離れていく。
「まだだ、まだだ……今だ、やれ!」
すると、戦艦のあちこちから爆発が起きる。
「よくやったスカイイーグル!早くそこから離脱するんだ!」
《大丈夫だ、脱出ポッドをさっき見つけた、それで脱出する》
「了解した!早くしないと爆発に巻き込まれるぞ!」
通信を終えたすぐ後に機銃のシステムがダウンしてしまったため、戦車のハッチからすぐに飛び出す。
敵はどうやら戦艦が爆発したことで士気を失ったようだ、次々と背を向けて逃げて行く。
《マズイ!あと一人しか乗れない!》
通信越しに健吾と文の切羽詰まった会話が聞こえる。
《それってもしかして……乗れなかった方はここからドックまではしるんですか?間に合いませんよ!》
《……俺が行く、俺の方が足が早いからな》
《そんなの無茶です!》
《いいから早く乗れ!二人共落ちるぞ!》
「こっちから見て完全に落ちるまであと一分だ!間に合うか?」
《やってみせる!》
「あと一分だ!一分持ちこたえろ!」
そう言って攻撃を開始するが、三十秒程でマシンガンの弾が切れる。
空を見ていると、一つの影が後ろから落ちていくのが見えた。
健吾だ。
あとは空を飛び、脱出地点まで移動するだけだ、
しかし、様子がおかしい。
「健吾応答しろ!どうした?!」
《マズイ……飛べない!》
「どうした?!何があったんだ?!」
このまま落下すれば十秒以内に地面に叩きつけられてしまう。
ここからはどう考えても間に合わない。
絶対絶命、その時だった。
戦艦から出て来た脱出ポッドの一つから人影が現れたかと思うと、高速で健吾に向かう。
早すぎる!あれは誰だ?答えはすぐに分かった。
《こちら文、健吾さんは無事に回収しました、これから回収地点に向かいます》
それを聞いて全チャンネルに話しかける。
「総員よくやった、敵は指揮官を失い、統制が取れなくなった、あとは妖怪達に任せれば勝手に全滅するだろう、もう戦う必要はない、各員周囲の敵を殲滅次第LZ(軍事用語で着陸地点)まで撤退しろ」
《待ってください、ポッドの人達はどうしましょう、もうすぐ着陸しますが》
「回収地点に近い、そのまま向かう」
全員が回収地点に到着し、ポッドの前に集まる、ポッドは全部で五個。
それらをぐるりと取り囲むように展開し、俺が扉を開く。
アサルトライフルを片腕で持ち、扉が開くのを警戒して、中の様子を探る。
中には三人、とにかく警告する。
「おっと、動くなよ、死にたくなければな」
「この方を誰と思っている!!」
「いけません依姫!私達の状況を考えなさい!」
髪を一本に結んだ女性と帽子をかぶった女性が言い争いをしていると、もう一人の女性がこちらに声をかける。
「貴方達は月の兵士達を従えているようですが……貴方達は敵ですか?味方ですか?」
「俺たちは味方でも敵でもない、あんたたちの答え方次第だ」
「なら、私達はこう答えましょう、私はフィオナ.D.ムーンベルク、月の都の女王です、貴方達に保護を求めます」
「いいだろう、あんたがそう言うなら俺たちはしっかりあんたたちを保護しよう、あとのポッドはあんたたちで開いてくれ」
全部のポッドを開かせ、全員を取り囲むように部隊を展開し、ヘリまで誘導する。
全員で十五人。
全員をヘリに誘導して、全員が乗り込んだところでカルロにヘリを操縦させる。
ハッチは閉めずに地上を眺めていると、一人の女性が敵に襲撃されているのを見た。
「ちょっと先に行っててくれ、あいつ助けてくる」
「あ、ちょっおい!」
返事を聞かずにハッチから飛び降りる。
途中でパラシュートを開き、敵の後ろに着陸し、すぐに銃を構える。
正確に敵の頭を撃ち抜く。全員が地に伏したところで彼女の安全を確保するため駆け寄る。
「それ以上近づいちゃダメ!」
彼女が大きな声を上げ、静止する。
彼女はフリルが沢山ついた服をきて、髪を顎の下あたりでリボンで結んだ緑髪の女性だ。
「とりあえずあんたの名前だけでも教えてほしい!」
「私は鍵山雛、厄を溜め込む程度を持っているわ、あまり近寄らない方がいいわよ、私の厄があなたに移るから」
「厄を溜め込む程度の能力……?」
そんな能力か……
「だから私に近寄らないでください……?」
「あんた怪我しているじゃないか、今行くぞ!」
「あなた今の話聞いてました?」
普通に近づいて怪我の様子を見る。
「これは酷くやられてるな、少し我慢してくれ」
腕が裂けて中の筋肉が見えている、その筋肉もズタズタにされている、一体何が起きたのだろうか。
カバンの中から一本の注射器を取り出す。
「あなたなんで私に触れるの……?今までは近づくことすらできなかったのに」
「それはきっと……」
腕に特別な薬を入れた注射器を刺す。
「既に不幸だからさ」
全ての薬が腕に吸い込まれた途端、筋肉が元通りになり、裂けていた腕も元通りになった。
「不思議な答え……ハハハハハハ!!不思議!怪我が治っているわ!そして初めて人の肌に触れたわ!なんていい日なの!今までの厄が嘘みたい!」
大きく口を開け、白い歯を見せながら、俺の周りをくるくると回る。
何がそんなにおかしいのだろうか?
どちらにせよもう帰らないとな。
[2050:10.15:15:20:28 博麗神社]
博麗神社に戻り、居間で軍法会議を開いた。
「これより上地健吾の軍法会議を執り行う」
会議といってもしっかりしたものでは無く、ただの刑を言い渡すだけだ。
「上地健吾、貴官は命令に背き戦闘機を破壊した、違うか?」
「ああ、あんたの命令に従わなかった、命令違反だろ?」
「よろしい、では判決を言い渡す、貴官には一週間の外出禁止令を言い渡す」
「………これだけでいいのか?」
「この判決に異議があるのか?」
「…………いいえ、異議はありません」
「では、今日より執行する、では閉廷!」
[2050:10.15:18:35:46 博麗神社]
「それで、あんたは何故あの戦艦にいたんだ?」
俺は今フィオナ……月の女王と話している、具体的には何故女王がここにいるかだ。
「それを今ここで言っても信用ならないでしょう……私が知っている拠点の情報を教えましょう、そこへ行って本当にあれば教えましょう」
「なんか立場が逆転してないか?まぁいい、それで、どこにある?」
実際、この戦争の真実より敵の拠点の位置の方が必要な情報になる。
「あなたは旧都を知っているでしょうか、そこには月の都の補給基地があります、そこでは大型のレーザー砲があります」
「なんだそのレーザー砲は?」
「超大型素粒子レーザー砲、“ガウデーテ“は長時間の充填が必要にはなりますが、発射すれば旧都から北側にある土地は全て焼き尽くされるでしょう」
「当然破壊しても大丈夫だろうな?」
「はい、たとえ100%充填が完了していても発射されなければ爆発も炎上もしない安全な物を使っていますので、気にせず攻撃しても問題ありません」
「それはしばらく大丈夫だろうな?」
「しかし、つい最近、稼働すると聞きました、このレーザー砲は燃料以外は簡単に作れるため、砲部分だけを破壊しても意味がありません、燃料が限界ギリギリまで入った物を破壊しないと余った燃料で撃つことになります、
ものがものですので、少量でも大打撃になりますよ」
「稼働はいつだ?」
「二週間後です」
Viewpoint change 健吾
「えへへ、また来ちゃいました!」
あの作戦からずっと文は毎日の様に博麗神社にやってくる。
いつもの様にただの世間話をしていく。
あそこの木がああだ、終わった後はこうだ、と取り止めもない会話をしていると、突然、その時はきた。
「あの、健吾さん、一つ言いたいことがあるんです、いいですか?」
「なんだ?」
「えっと……その、なんというか、その…………」
急に言葉に詰まった、何がはじまるんです?
「その、健吾さんのことが………す、す、す………」
「?」
「すすす好きです!付き合ってください!」
「………………………えっ?」
「あなたに会った時からずっと好きでした!だから付き合ってください!」
「………こんな親殺しでもいいのか?」
「それを含めて貴方が好きです」
「………こんな俺でいいのなら、付き合ってもいい…かな?」
顔が熱い、熱でもあるのか?
「では!この戦争が終わったら、幻想郷をみてまわりましょう!」
Chapter5fin
状況:妖怪の山を襲撃した敵を撃退、妖怪の山を守った、戦艦アクーラを破壊した。
報酬:月の都軍の補給基地の情報




