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第6話 リベンジ

 家を出ると辺りはもうすっかり暗くなっていていた。僅かな月の光が地面を照らしているだけである。

「相当怒ってますね。」

再びアレンさんに背負ってもらう。家を出ると森がざわついているのが嫌でも分かった。今回はどっちにいるのかもはっきりと分かる。

「そうだな。よほど腹が立ったのだろう。」

さっきからモンスター特有と思われる狂ったような叫び声が聞こえてくる。森のみんなは身を隠しているようだ。

「良かった。動物たちは避難しているみたいです。」

「よし。それなら周りを気にせずにやれるな。」

アレンさんは昼間怪我を負わされた動物たちの手当をしていて応援に遅れたという話は聞いていた。

しかし、昼間のこともあり動物たちの警戒はMAXになっていたのだろう、完全に気配は森から消えていた。これなら動物たちに被害はなさそうだ。

「それにしてもアレンさんに倒されたのに何でまたここで暴れているんですかね?」

動物なら普通は一度、力関係を教えると相手のエリアには入ろうとはしないものである。やはりモンスターと動物とでは違うのだろうか。

「そうだな。まぁ私が一撃で倒したから私のことを覚えていないのかもしれないな。だが、おそらく原因はこの月にある。」

「月…ですか?」

月はいつもと変わらないように見える。綺麗な満月だった。

「今宵は満月だ。おそらくそれが原因だろうな。」

満月?それとモンスターに一体何の関係があるのだろうか。まさか伝説で言うところの狼人間のようなものなのだろうか。

「モンスターにはそれぞれある条件下になると急に力を増したり気性が荒くなったり、姿が変わるものまでいる。」

「ある条件とは?」

「多種多様だ。気象や宝石、中には食べ物なんかで変わるものもいる。ゴルンガの場合月だな。それも満月の時だけだ。この日は力が増して気性が荒くなる。そして何より見かけが変わる。」

おっと、これは本当に狼人間のようなものみたいだぞ。

「アレンさんは大丈夫なんですか?そんなやつを相手にするなんて。」

「大丈夫だ。レオンには絶対に危害を加えさせない。…さすがに背負ったまま闘うのは無理だがね。」

「すみません…。」

背負われていることに罪悪感を感じながらも降ろしてもらうわけにはいかなかった。魔法が見たいのはもちろんだが、それよりも俺が手も足も出なかったやつにアレンさんがどんな戦闘をするのか、この目で見るまで納得がいかなかったからだ。

「ふふ、そんなに興味があるかね?」

「はい。とっても。」

どんどん気配が濃くなっていく。暴れているのだろう、木々を破壊し岩を砕く音が聞こえてくる。実際この辺りはすでに荒らされていた。あの野郎、好き勝手にやりやがって。

「良いだろう。見ていなさい。」



 

 満月の影響で成体へと姿を変えたゴルンガは自分に敗北を与えた者を目にし平静を保っていることはできなかった。

「ゴアァァ嗚呼ぁアぁ嗚呼ああ嗚呼あああ嗚呼アア!!!!!!」

手は以前と変わらず血で濡れたように赤く染まっているが、黒かった身体は月明かりに照らされて金色に輝いていた。以前よりも明らかに大きさが違う。まるで岩山のようだ。

「ふふ。覚えているかね。君に敗北を与えたものだ。」

ゴルンガは叫ぶのを止め相手を睨んでいる。一度負けた相手なのもあり警戒しているのだろう、息は相変わらず荒いもののなんとか理性を保っているようだ。今まで撒き散らしていた狂気を目の前の人間に向けている。

「昼間のように簡単に倒れてくれるなよ。」

 アレンさんの挑発的な言葉が終わると同時にゴルンガが動いた。大きな巨体からは考えられないような速さだ。

ゴルンガは一瞬で近くによるとその凶悪な腕を振るう。

「危ないっ!!」

 アレンさんは気付いていないのだろうか?全く動かない。

その腕が当たると思われたその時、

「アぁ嗚呼ああ嗚呼あああああ!!」

 叫び声が夜の森に響く。だがそれは襲われたアレンさんではなく襲ったあいつの方だった。手が本当に血で赤色に染まっている。

「何で…。」

「防御魔法だ。この魔法は相手の直接的な攻撃も魔法も通さない。」

 防御魔法。それがあったからアレンさんは動かなかったのか。

 ゴルンガは不可解なダメージを考えているどころではないようだ。ぞっとするような苦痛の声を出して転げまわっている。血まみれになっているやつの左腕はもう使い物にならないだろう。

それは誰にでも分かるチャンスだがそれでもアレンさんは動く素振りは見せない。未だ依然とその場に立ったままだった。

「立て。これで終わりなわけないよな。」

アレンさんは苦しんでいるやつを注意深く観察するように見ながら回復を待つ。ゴルンガはすぐにそれに気付くと、素早く距離をとった。

「さぁ次は何だ!全力でかかってこい!!」

ゴルンガはアレンさんの挑発を聞くも怒ってはいないようだった。それどころか笑っている。それは明らかに相手を馬鹿にしている笑顔だった。と、その時ゴルンガが口を開けた。凶悪な牙が夜の暗い森の中でもぎらついて光っている。

 ゴルンガは口を大きく開けると突然口先から白い円形のようなものが浮かび上がった。その白い円形のものにはびっしりとよく分からない文字が並びぐるぐると回っている。

「何だあれは…あれはやばいぞ…。」

背筋に悪寒が走る。白い円はみるみるうちに攻撃的で獰猛な色に染まっていく。それはまるで血のような赤色だった。

すると突然アレンさんが俺の前に現れた。

「大丈夫だ。私に任せろ。」

背中で語るアレンさんはとても大きく見えた。

 完全に染まったその時、口からとてつもないエネルギーが放出された。大気を震わし轟音が耳を貫く。

「うわぁあああああ!!」

「はっ!!!」

死を覚悟したその時、アレンさんが先ほどゴルンガが同じような銀色の円を展開した。その円はとてつもなく大きく、ゴルンガの放ったエネルギーと同じか、それ以上の大きさだった。

 円とエネルギーがぶつかったその時、衝撃が大気を揺らした。

「うっ!!」

爆風が襲う中、微かに見えたのは光り輝く円とそれに手をかざすアレンさんの姿だった。辺りが砂埃を覆い風が吹き荒れる。


 ゴルンガは笑っていた。最初はなぜ攻撃を受けたのか分からなかったが、あの人間は何もせずただ見ているだけだった。人間の視線に気付き距離を取ると勝利を確信した。あいつは余裕をかましているがそれもこれまでだ。それを思うと怒りよりもむしろ憐みを感じてしまう。

とっておきの攻撃を口先に溜めるがそれでもあいつは動かない。馬鹿が、お前は終わりだ。跡形もなく消し去ってやる。


 覆っていた砂埃が消えていく。辺りは何もなくなっていた。地面は深くえぐれ木々は消滅していた。

ゴルンガが勝利を確信したその時、目の前には信じられない光景が広がっていた。

「うむ。大した威力だ。私でなければ跡形もなく消滅していただろうな。」

「死ぬかと思いましたよ。ってなんだこりゃ!?」

レオンは驚きの声を上げた。それもそうだろう気付くと自分たちの目の前の地面や木々が跡形もなく消えていたからだ。まるで定規で線を引いたかのように綺麗な境界が出来ていた。

「レオン、大丈夫か?怪我はないだろうね。」

「はい、大丈夫です。それよりレオンさん…これって…。」

「そうか、なら良かった。」

「いや、だから、レオンさん?これは…」

レオンさんは俺の安否を確認するとすぐに前を向いた。俺はすでに視界には入っていないようだ。その眼差しはただ目の前の敵だけに全神経を注いでいた。


 怪我ひとつない二人の姿を見てゴルンガは呆気にとらわれていた。跡形もなく消えているはずの人間が今もなお自分の目の前にいる。

ただ生きているだけでも驚きのことだったが、なんとそこにはなんの傷もなく攻撃を放つ前の姿のままそこに立っていたのだ。それも自分のことなど視界に入っていないかのように二人は話し合っていた。この状況にゴルンガは毛頭我慢など出来るはずもなく、その怒りは頂点に達していた。

「ゴアァぁああ嗚呼嗚呼アアアああああ!!!」

ゴルンガは怒りの咆哮を上げた。たとえ自分の攻撃が効かなくとも負けを認めるわけにはいかなかった。



「こいつ、なんでまだやる気何ですかね?」

力の差はレオンでも分かるぐらい歴然なものだった。それでもゴルンガは闘いを止めようとはしない。逃げれるとは思わないが逃げることなど微塵も考えていないようだった。

「レオンはなぜこれだけ力の差を見せつけられてあいつは諦めないのか分かるかい?」

アレンさんに言われて少し考えてみる。

「やけくそ、じゃないんですかね?逃げるという選択肢もあるとは思いますが、わざわざ再戦を申し込んでくるようなやつですしそれはプライドが許さないでしょう。」

「おしいね、半分正解だ。」

アレンさんはそう言うと今度は自分が臨戦態勢に入る。ゴルンガは今にも襲いかかりそうだった。

「見ていろ、レオン。魔法はこんなことも出来るんだぞ。」

そう言うとアレンさんはさっきの円を自分の右側に展開した。円に右腕を通していく、通した右腕から赤い薄い膜のようなものが徐々に身体全体をを覆っていく。荒々しく血のような色のそれはまるで意思を持っているかのように身体から溢れていた。

ゴルンガは気にもとめず大きな岩を投げつける。それはアレンさんに届く前に粉々に砕けた。いや、正確に言うと届く前にアレンさんが目にもとまらない速さで腕を振るったのだ。あまりにもの速さでレオンには何が何だか分かっていなかった。

「行くぞ。」

アレンさんが動く。アレンさんは軽く地面を蹴ったかと思うと瞬間移動したかのようにゴルンガの前に立っていた。ゴルンガもコンマ数秒遅れ目の前の人間に腕を振るう。

「ふんっ!!」

ゴルンガが腕を振るう前にアレンさんが猛烈な右のストレートを腹にめり込ませた。その大きな体が空中でクの字に曲がり衝撃が腹を突き抜け大気を震わす。

「ガッ!!!」

大きな巨体がその場に崩れた。アレンさんはまたも止めを刺さずその場で立ったままだった。

「いいのか?このままでは死んでしまうぞ。」

アレンさんは目の前でうずくまっているモンスターにつぶやく。それを聞いたゴルンガはまたしても反撃に出る。

もはや苦し紛れの攻撃だった。アレンさんはそれをたやすく左腕で受け止める。カウンターで右足を首に

「こんなものか!お前の力はこんなものなのか!!」

アレンさんが叫ぶ。まるで何かを待っているかのようだった。

「嗚呼アア嗚呼嗚呼ああ嗚ああアア嗚呼あああ嗚あああああ!!!!」

ゴルンガから先刻見せた真っ赤な炎が右腕から噴き出した。まだこれだけの力が残っていたのか。

凶悪な力を秘めた拳がアレンさんを襲う。それは間違いなく全身全霊を込めたものだった。

「アレンさん!!!!」

レオンが叫ぶと同時に大きな爆発音と砂埃が舞った。するとどこからともなく声が聞こえてきた。


「全ての生物は生に対して強い執着心を持っている。だが人間は時を経るごとに知恵を蓄え、生か死かの瀬戸際に立つことから回避してきた。それは生き延びるための進化とも言えるだろう。だが、ゴルンガを含むモンスター達は常に生と死の選択に立ち向かい相手から生をもぎ取る事で生き抜いてきた。負けは死を意味する世界の中、モンスター達はより他の種から勝ちを得るように進化してきた。たとえ負けが明らかでも、やけくそでも、少しの希望にしがみついて生き残ろうとするのがモンスターだ。」


 アレンさんの声だ。爆風になんとか耐えて前を見る。

大丈夫だろうか?あれほどの威力だ、さすがにアレンさんでもまずいのではないだろうか。

「ふぅ、少し危なかったかな。」

目の前にはその場に立つアレンさんと地面に突っ伏しているゴルンガの姿があった。アレンさんは攻撃を受けたのであろう左腕は肩から服が破れて露わになっていた。褐色のかなり鍛えられた腕だ、腕自体には傷一つついていないようだった。

「アレンさん!大丈夫ですか!?」

「あぁ問題ないよ。服が破けてしまったがな。」

アレンさんは服を確認している。良かった。怪我はないようだ。そこでふと疑問が脳裏をよぎる。

「どうやってあの攻撃を防いだんですか?」

「なに、簡単なことだよ。もう残り少ないんだが…」

そう言いながら左腕を前に出した。ほんのりと赤く光っているのが分かる。

「どうやったんですか?これ…」

「これはまず相手の魔法を逆計算して封印魔法を展開し自分の魔力を馴染ませて扱いやすくする、その後に体内に徐々に展開していき体に纏わせ……」

「あぁ~もういいです!」

アレンさんの言葉は一から十まで何を言っているのか何も分からない。まるで呪文を唱えているようだった。

「…そうか。分かった。」

まるで出来の悪い生徒を見るような目で俺を見るアレンさんになんとも言えない感情を覚えるも今はそれどころではなかった。

「それよりアレンさん、こいつ、まだ生きてますよね?」

「あぁ、もちろん。」

「…本当に手懐けれるんですか?」

「さぁ、どうだろうな。」

またも意味深なことをつぶやくアレンさんに疑問の目を向ける。

「ふふ、大丈夫だ。明日になればすぐに分かるさ。」

そう言ってアレンさんはもと来た道に帰って行く。

「ちょ、ちょっとアレンさん!ちゃんと教えて下さいよ!」

「帰るぞ、アレン。我が家へ。」

「何でまるで自分の家みたいに言ってるんですか?!」

「あまり使っていないんだろう?」

「それでも俺のですから!」

「悪かった悪かった。いいから早く休ませてくれ。今はそれどころじゃないんだ。」

アレンさんはそう言うと辛そうに木にもたれかかった。苦しそうに左腕を抱えている。

「大丈夫ですか!?」

確かにあれほどの闘いをすれば疲れていても当然だ。その上あんな魔法を使ったのであればたとえ外見が大丈夫でも身体の中がどうなっているかなんてことは想像もつかない。

「危ないかもしれない。早くベットで寝ないと取り返しのつかないことに…。」

「そんな!アレンさん早く家に帰らないと―――!」

「そうだな。早く帰ろう。」

アレンさんはまるで人が変わったように歩きだした。さっきまで痛がっていた左腕は元気に振られている。

ようやくそこで自分が犯した過ちに気付いた。

「あっ……ちょ、ちょっと!アレンさん!」

気付いた時にはすでに遅くアレンさんは何食わぬ顔で歩いていた。

「…分かりましたよ。その代わり明日必ず教えて下さいよ!!」

月明かりに照らされた二人はまるで親子のような足取りで家に帰って行った。こうして慌ただしかった森は静けさを取り戻していったのであった。



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