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第5話 魔法

 やっと帰ってきた。もう辺りは日が傾いて静寂が包みこもうとしている。

ひどく疲れていることに気付く。実はもうすでに三日は経っているのではないだろうか。

「ここです。ここが俺の家です。」

相変わらず背負われていることに些かの恥ずかしみを隠せない俺だが今はそれどころではなかった。

「ほう、立派な家じゃないか。」

「でしょ。新築なんですよ。まだ一年と少ししか経ってないんですから。」

この木造の二階建ての家は俺の欲望がすべて詰まっている。それはまた今度順を追って紹介しよう。

 最も、詰め込みすぎてほぼ使いこなせていないのが現状なのだが…。

「それじゃあ早速、失礼しよう。」

「はい。どうぞ。」

アレンさんは俺を背負ったまま扉を開けた。

ここに人を入れるのは初めてだ。まさかこんな形で迎えるとは思ってもみなかったのだが…。

「よっと、なかなか綺麗にしてあるじゃないか。」

そうだ。俺は案外綺麗好きである。きっとじじ様の影響だろう。小さい頃から毎日掃除をさせられていた俺は気付けばいつの間にか掃除が好きになっていた。このままいけばきっといいお婿さんになれるだろう。

 もらってくれる人がいればの話なのだが……。残念ながら俺にはまだそんな嬉し恥ずかしいものに心当たりはない。

 


「へっくちゅん!」

「これはまた可愛らしいくしゃみじゃの。」

「なにかしら。風邪じゃないと思うけど…。誰か噂しているのかしら?」

特に噂される心当たりはないのだがもしそうならレオンだったら良いなぁっとか考えてみる。

「レオンかもしれんの。良かったじゃないか。」

じじ様がにやけながらそんなことを言ってきた。

「もう何いってるんですか。別に私たちそんな関係じゃありませんから。」

「そんな関係?はて何のことじゃ?儂はそんなこと言った覚えはないんじゃが??」

しまった。まんまと引っ掛けられてしまった。

「べ、別になんでもありません!ほら、さっさと掃除終わらしちゃいましょ。」

「どうしたんじゃ?顔が赤いぞ。何考えておったんじゃ?」

じじ様は相変わらずにやけ顔のままこっちを見ている。

「何も考えてません!か、顔が赤いのは掃除してるからですよ。」

そうだ。きっとそうに決まっている。決してレオンのことを考えていたのを見破られて赤くなっているのではない

「いやらしいのう。」

「ちょっと!今の話ちゃんと聞いてましたか?!」

「若いとは恥ずかしいのう。」

「……。」

もう何を言っても仕方ないだろう。こうなったら適当にかわすしかない。

全く、今度腹いせにレオンに会ったら激からのカレーを食べさせてやる。



「うおっ!」

「ん、どうした。怪我が痛むか?一様あまり動かさないようには意識しているんだが。」

「あぁ、違いますよ。なんでもありません。」

いったい今のは何なんだろう?なんともいえない寒気を背筋に感じたのだが。

やはり傷のせいだろうか。これは一刻も早く診てもらわないと。

「部屋はどこに行けばいいんだい?」

「居間でいいですよ。治療道具もそこにありますし。」

「ここでいいのかい?」

「はい。」

アレンさんを玄関に入ってすぐ右の部屋に誘導して入ってもらった。

「おお、これは大きな本棚だな。」

部屋を入って目の前にある大きな本棚を見ながら驚きの声を上げた。

「この本棚は俺が注文して作ってもらったものの一つです。」

この部屋は台所と一緒になっていて大きい造りになっているのだが、置いているものが少ないせいか本棚が余計に目立ってしまう。主にここでは食べるか本を読むかしかしないので結果こうなってしまったのだが。

「凄いな。」

驚くのも無理はない。この本棚はとても大きく、もはや壁といっても問題はないだろう。縦2横5メートルの大きさで、中には隙間なくびっしりと本が詰められている。

「本が好きなようだね。」

レオンさんは俺を床に降ろしてくれると興味深そうに本を見ている。

「はい。小さい頃から本は読んでますから。」

ここには沢山の種類の本が置いてある。小さい頃じじ様に読んでもらった絵本から薬草図鑑まで幅広く置いてあるがどれも俺の思い出が詰まった宝物だ。

「本を読むことはいいことだよ。本には沢山の知識が詰まっている。新しい知識からこれまでの歴史、自分とは違った人の考えまで数多く記されている。」

「そうですね。本を読むと心が静かになります。自分と向き合うことが出来るというか、何年か経って読み直してみると今度は全く違う感想を思うことなんかもあったりしますよ。」

「うーむ、どれも読んだことがない物ばかりだ。」

「あれ?アレンさん聞いてますか?」

アレンさんはどれを読もうか迷っていて俺の話しを聞いていないようだ。

「おっと、すまない。夢中になるとつい周りが見えなくなるんだ。ところでこの中で君が一番思い入れがあるものといわれたらどれだね。」

「一番思い入れのあるものですか?」

この中にあるものは全て思い入れがありどれが一番といわれたら少し困ってしまう。一番思い入れがあるとしたら初めてじじ様に読んでもらった絵本なのだろうが、いかんせん他にも何冊かあり選ぶことが出来ない。

う~む。これは困ったな。

「そ~ですね、どれも思い出があるんで一番とかは選べないんですけど、この動物を治療するための本なんかは多分一番使ってますね。」

本棚とは別のところにあるテーブルを指さしながらそう答えた。なんだよ、図鑑かよと思うかもしれないが事実これで何頭もの動物を治療してきたという経歴があるのだ。

この前の小鳥もこの本で治してやったのだから文句はないだろう。

「これか。ずいぶん大きな本だが全部読んだのかい?」

「いえいえ、それは主に必要な時に使っているだけですよ。たまに読みますけどいつも途中で寝ちゃうんですよね。」

「ふふ、確かにこれを読破するのは些か苦労しそうだね。」

アレンさんはそう言いながら嬉しそうに本を読んでいる。治療される側の言うことではないのだろうが、一体いつになったら治療をしてくれるのだろうか。

「おっと、済まない。早く君の手当をしないとな。」

念が通じたのか本を勢いよく閉じると早速俺の治療に掛かってくれた。

「あぁ、治療道具は台所のところに置いてますから好きに使って下さい。」

「了解した。もしも足りなくなったそれも使わせてもらうとしおう。」

ん?何のことだ?アレンさんは治療道具どころかほとんど何も持っていなかったはずだ。

「よし。それでは包帯と添え木と……。」

なんだなんだ?いったいどうなっているんだ?何もないはずなのにマントの中から綺麗な包帯が出てきたぞ。手元はマントで覆われていてここからの角度では見ることは出来ないが、明らかに何かを取り出している。

うわ、なんか高そうな宝石まで出てきたぞ。

「おっと、これは関係ないな。失礼。」

赤色に光る明らかに高そうな宝石が再びマントの中に戻っていく。おかしい。あんなものがあればアレンさんを見つけた時に絶対に気付いたはずだ。

すると俺の視線に気付いたのか、アレンさんは動かしている手を止めた。

「残念ながら君にあげれないよ。別段高価というわけでもないのだが金に換えれる手持ちが今はこれしかないものでね。寝ている間に取ろうとしても無駄だよ。」

アレンさんは失礼な感想を言うとそそくさと隠してしまった。

「取りませんよ。この村じゃお金なんてほとんど意味なんてありませんし、使うとしてもルーイさんに交換してもらうくらいしかありませんし。」

「なるほど。なら安全だね。ところで、ルーイとは誰のことだい?」

慣れた手つきで包帯と添え木を巻いていくのを見て、おもわず関心してしまう。

「ああ、ルーイさんは月に二度この村に生活に必要な物資から子供のおもちゃまでいろいろなものを運んでくださっている人です。一度目は食料とか家具とか、二度目は服とかその他の雑貨とか」

「村の住人かね?」

「いいえ、ここから遠くに離れた街から運んでくださっているんですが家族がそっちに住んでるみたいなんで村には住んでいません。」

村の住人ではないのだがじじ様とおやじさんとは昔からの仲のようでこの村にはよくしてもらっている。月に一度来た時にはいつも三人で飲んでいる。

「物資は無料で配られるのかい?」

「物資は来て下さる時に欲しい物を書いた紙とそれと同じくらいの価値の食べ物を渡すんです。それを街で交換してもらうっていうわけです。」

「それは大変だな。来る途中で襲われたりはしないのかね。」

「さぁ、そんな話聞いたこともありませんが多分襲われたとしても大丈夫ですよ。」

「なぜ?」

「腕っ節がかなり強いんです。昔傭兵をしていたとかいうのも聞いたことがありますし、たとえ襲われたとしても返り討ちですよ。」

傭兵だったというのはあくまで噂なのだが強いというのは確かだ。俺はまだ一度もルーイさんに腕相撲で勝ったことがない。

「それなら安心だな。なるほど、いわばその人は村の生命線のような人というわけだね。」

「そうですね。ルーイさんがいないと服もないし足りない食べ物なんかもありますしね。」

ルーイさんにはほんとにお世話になっている。台所にある調理器具なんかもルーイさんが持ってきてくれたものだ。

「よし。治療は以上だ。薬をだしておくから朝と晩の二回に分けて飲みなさい。」

頭に肩に胸に腕にと包帯で巻かれてこれではまるでミイラ男のようだ。

「すみません。本当に何から何まで。」

「何を言うんだい、それはこちらの台詞だよ。森の中であのまま君に会わないまま倒れていたら今頃餓死して死んでしまっていたよ。」

確かにあのまま倒れていたら危なかったかもしれない。あの時、近くにはゴルンガもいたのだし…。

ん?そう言えばゴルンガはどうなったのだ?不吉な考えが脳裏をよぎる。

「…そう言えばアレンさん、ゴルンガはどうなったんですか?

「ゴルンガならあの後鎖で縛っておいたよ。」

「鎖?!そんなもの何処に合ったんですか?!てかいつそんなことしたんですか?」

「ん?…私が持っていたもので君が動物と戯れていた時だが。何かまずかったかい?」

「いいえ、問題はないですけど、あの、さっきから気になってたんですが何処にそんなものしまっていたんですか?」

そうだ。さっきから一体何処から取り出しているのだろう?ゴルンガを縛るとなるとよほど大きなものになる。

ましてやそんなものとてもポケットには入るとは思えない。

空間魔法(ディメンション)を知らないのかい?」

「ディメンション?」

なんだそれは。聞いたことがない。

「これは驚いた。君は魔法を知らないのかい?」

魔法?魔法だと?!おとぎ話で出てくるあの魔法のことか?

「魔法って、そんな、からかわないでくださいよ。」

「事実だ。でなければどうやってこんなもの運ぶというんだ?」

その通りだ。こんな荷物普通は運べないだろう。頭が否定していても目の前で起きている現実はそうではなかった。

「本当に魔法は存在するんですよね。」

「もちろんだ。」

嘘ではない。何と言うことだろう。手が震えてしまう。

「アレンさんはどんな魔法が使えるんですか?」

「そうだな。これなどはどうかな?」

アレンさんは手を前に出したかと思うと掌からいきなり炎が出た。アレンさんは熱さなど感じないのだろうか?

今も煌々と燃えている。それはとても綺麗だった。

「綺麗だ……。」

「よし。それじゃあもっと面白い物を見せてあげよう。」

アレンさんはそう言うと掌で燃えている炎を両手で覆うようにすると次の瞬間炎から両手を勢いよく弾いた。

「うわっ!あちっ!」

火の粉が飛ぶ。目の前でまるで小さな花火が上がったようだ。するとその七色に光る炎は形を変えていく。

「うわぁ――――!」

炎はみるみる姿を変えていく。出来あがった炎は大きな角を持った伝説上の生物である小さなユニコーンだった。

ユニコーンは掌で足をならすと空を駆け始めた。

「スゲーー!」

部屋中を駆け巡るユニコーンの走った後には炎がなびいていた。そして思う存分走ったかと思うと元のアレンさんの掌に戻ってきた。戻ってくると同時に静かな火花をだしながら消えていった。

「スゲーーーーーーーーー!アレンさん今のが魔法ですか?!俺にも出来るんですかね!?」

「お、落ち着け。傷がまた開いてしまうぞ。」

もう傷なんてどうでもよかった。今思っているのはもっと見たい、もっと知りたい、ただそれだけだった。

「傷なんかもうどうでもいいですよ。もっと見せてください!そんで使い方も教えてください!!」

「分かった!分かったから早くどけ!」

ただでさえ大きな目をこれでもかという具合に開きその大きな瞳は爛々と好奇心旺盛に光っていた。

もしかすると本当に光っているかもしれない。

いくら離そうといてもしがみ付いてくるレオンになかなか離すことが出来ず苦労しているようだった。



「ふぅ。やっと離れたか。」

少し汗をかいてしまったな。

「ちょっと、アレンさん。何もここまでしなくてもいいんじゃないんですか?」

声のした方向に目を向けるとそこには縄で椅子に括りつけられ身動き一つ、いや、指一本曲げられそうにない少々気の毒なレオンの姿があった。

……まぁそのつもりでしたのだが。

「何を言う。あれだけ言っても離れなかったのだから当然だろう。」

「いや、でも一様俺怪我人ですしさすがにこれだと少し傷がいたむかなぁ、なんて。」

「大丈夫だ。怪我を考慮して縛ってある。怪我が痛まないように、そして動けないようにしてある。」

「もう大丈夫ですって!すみませんでした!なにもそんな技を使わなくてもいいじゃないですか!」

いよいよ本当に辛そうだな。身をよじろうとしているが出来ていないのが分かる。返ってきっと締まっているだろう。

「なんかさっきよりもきつい様な…。」

不信感だらけの目を向けてくる。ようやく気付いたようだ。

「もちろん。そうしてある。」

「でしょうね。あの、ほんとにきついんですけど…。」

「……。」

「…アレンさん?」

…もう限界なのだろう。口数が減ってきている。

「大人しくしろよ。」

「はい。」

「よし。」

レオンの確認を取るとすぐに縄をほどいてやった。

「ふぅ~。どうやったらあんな風に出来るんですか?今度教えて下さいよ。」

動きすぎて喉が渇いたのだろう。台所で水を飲んでいる。

「それはかまわないが変なことには使うなよ。」

 ぶふぅーーー!

…ん、なんだ?台所から何かを噴き出すような音がしたような…。

「ごほっ、ごほっ、うー。」

「ゴルンガのような声が出ているぞ。」

「アレン…さん、が、変なこと…言うからですよ。」

変なこと?何のことだ。

「何を言って―――。」


「ゴアァァぁ嗚呼ぁアぁ嗚呼ああ嗚呼ああああ!!!!!!!!」


「何だ!!?」

轟音が森を震わしている。狂気が森に渦巻いていく。

モンスター特有の気配を感じる。

「ゴルンガだな。」

「なっ!!」

まさか本当にゴルンガの声が聞こえるとは。神の気まぐれだろうか。

それにしても、あの鎖をちぎったか。結構力を入れて縛ったつもりだったんだがな。

「アレンさん!どうするんですか!!?」

「もちろんまた倒しに行くさ。だが、きっと怒り狂っているだろうからな。もう簡単には弱点を見せてくれないだろう。」

 今日は確かアレだったな。これは面倒かもしれない。

「早くしないと!!」

「丁度良い。アレン。魔法の使い方を見せてやろう。」

「えっ!?魔法?!」

……また目が輝いている。これは余計だったかもしれないな。


そうして二人は怒声を上げて暴れ狂っているモンスターの元に走り出したのだった。


お久しぶりです。いつも読んで下さりありがとうございます。

今回は2話更新させてもらいました。これからも引き続きよろしくお願いします。

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