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第15話 VSキメラ

「んー…。」

アレンさんは片手で顔を覆うと考え始めた。これまでの生活の中でアレンさんは決して嘘が上手いとは言えないのは十分に理解していた。良い意味でも悪い意味でも嘘が付けない人とはこういう人のことを言うのだろう。

「…分からん。」

ん?…今アレンさんは何といったのだ?ワカラン?分からないという意味なのだろうか、いや、それは流石にないだろう。きっと俺の聞き間違いに違いない。

「ア、アレンさん?今何て言いました?」

「分からないといったんだ。」

アレンさんはなぜか胸を張って自信満々にそういった。前を向いてはっきりというアレンさんには清々しささえ感じられ、俺もついついあ、そうですか。と言いそうになった。

「何でですか?!」

「仕方ないだろう、分からないんだから。」

アレンさんは自分の中で結論が出たのかそれ以上は何も言おうとはしなかった。

「なんでそんな自信満々に言ってるんですか?!ちゃんとこっち見てくださいよ!なんで遠くを見てるんですか?」

アレンさんは一向にこちらを見ることもなくただひたすら空を眺めている。

「見ろ、レオン。鳥が飛んでいるぞ。」

「そんなことどうでもいいですよ!なに話を逸らそうとしてるんですか!ふざけないで下さいよ!」

「心外だな。ふざけてなどいない。本当に分からないんだ。仕方ないだろう、私だって分からないことはある。それとも何だ、私は何でも知っていないといけないのか?」

空を見つめていた目は一転してこちらを威圧するように見つめてくる。

「うっ…。」

アレンさんが反撃をしてきた。めちゃくちゃなことを言っているとは分かるのだが、自信満々に言うアレンさんの言葉に思わず納得しそうになるのだから恐ろしいものである。  

 そんなレオンの困る様子をアレンさんはじっと見つめていた。

(分からないというのは、私では測りきることが出来なかったということだ…。)

実は、今の組手でアレンさんが観察していたのはレオンの魔力の保有量であった。

レオンが全力で拳を振るった瞬間にアレンさんはその魔力の限界値を計ろうとしていたのだ。しかし、アレンさんが感じたのは底知れぬ何か、強大な何かであった。

「手に汗を握るとはな…。」

アレンさんの掌にはうっすらと汗が滲んでいた。

「アレンさん?どうかしたんですか?」

「いや、なんでもない。ただ…腹が減ったな…。」

「あぁ、確かにお腹すきましたね……本当に何も分からないんですね。」

「それだけは自信を持って言えるよ。保障しよう。」

いや、なんの保証なんだよ。レオンは口に出して言おうとするも、清々しそうに前を見ているアレンさんを見てしまったので心の中で呟くだけにしておこう。

「まぁ良いでしょう…。とりあえずご飯にしますか。」

「よし。それじゃあ……よいしょっと…!」

アレンさんがそこそこの大きさのテーブルをマントの中から引っ張り出してきた。

「うおぉ!!何ですかこれ!?」

するとアレンさんはこれまたいつの間にか取り出した食器を綺麗に並べていく。ご丁寧に俺の分までちゃんと用意していた。

「食事というのはとても大事だ。健全な食事に健全な魂が宿るといっても過言ではないだろう。」

「それで食べ方が大事なのはなんとなく分かりましたけど、肝心の料理とかは…。」

アレンさんの理屈はなんとなく分かるのだが、根本的なことが分かっていないように思えて仕方なかった。そして、ここで俺が突然テーブルが出てきたことについて何も言わないことはスルーしてもらいたい。もう、慣れてしまったとだけ言っておこう…。

「何を言っているんだ、これから獲りに行くんだよ。」

「じゃあなんでこれ出したんですか…。」

「うっ…。」

「見せたかった、とかじゃないですよね?」

俺がそういうとアレンさんはびくっと身体を震わせた。よく見ると綺麗に作られていたが手触りや円の曲がり具合などから手作りなのが分かった。仮にも大工を仕事にしていたのだ、これぐらいなら見抜くことが出来る。

「違う。私はレオンに食の大切さを伝えたかったんだ。」

なぜこの人はこんなにも堂々と嘘が付けるのだろう。

「そうですか。それではちゃっちゃと獲りに行きましょう。」

これ以上追及するのはあれなのでとりあえず今晩の食料を確保しに行こう。

「本当だからな。決して見せたかったわけではない。」

…最早哀れである。


「はぁ~食った食った。」

レオンはもう食べれないといわんばかりにお腹を抱えるとそのまま地べたに横になった。

「全く、礼儀が悪いな。」

「よく言いますよ。食事が何だとか、正しい食器の使い方だとか、食事中にあれだけしゃべっておきながら…。」

「何だって?」

「…何でもないですよ。」

「うむ。」

アレンさんはそういうとそこそこ大きなテーブルをマントの中にしまった。代わりにランプと本を取り出すとアレンさんは指先から小さく火を出してランプに明かりを灯した。そのままランプを目線まで上げて手を離すと、ランプは重力に従って落ちるどころかそこに置かれたかのように微動だにしない。宙に浮いたランプは本を読む手元を明るく照らしていた。

「すげぇ―――――!!」

レオンは目を輝かせながら一部始終を見ているといつの間にか横に並んだペガサスの子供も同じように見入っていた。

「まるで兄弟だな。」

アレンさんは頬笑みながらそういうと本を読み始めた。

母親のペガサスがゆっくりとこちらに近づいてくる。ペガサスは野生の生き物なので食事も狩りをして確保している。アレンさんいわくただ与えられるだけでは野生の感というものが鈍ってしまうんだとか。本当に立派な生き物である。

「どうだ?ちゃんと獲物は獲れたか?」

レオンの質問に子供のペガサスは嬉しそうにレオンにじゃれ始める。

「そっかそっか。頑張ったな。よしよし。」

レオンは頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めた。

おお、本当に人間みたいだな。

レオンはそんな感想を抱くとそっと母親のペガサスがレオンの側で横になった。

「お前本当はペガサスなんじゃないのか?」

アレンさんが本を読みながら呟いてくる。ペガサスは警戒心が強いらしく、人間が嫌いなのだそうだが

俺は一緒に共闘したせいもあってか別段そういった素振りは見せない。アレンさんにしても特に距離を取っている感じもしないので実は人間が好きなのではないかとも思っているぐらいだ。まぁアレンさんいわく間違いないのだそうだが…。

「明日からは本格的に修業に入るぞ。」

「はい。やっとアレンさんから修業を付けて貰えるんですね。」

「あぁ、厳しいから覚悟しておけよ。」

アレンさんはそういうと本を閉じてこちらに不敵な笑みを浮かべた。

「受けて立ちますよ。こっちだって何度も死にそうなところを乗り越えてきましたからね。」

「死よりも辛いことは沢山あるさ。」

「…お手柔らかによろしくお願いします。」

「うむ。」

アレンさんの不吉な言葉に若干寝づらかったが、なんだかんだで今日も夜が更けていった。




「起きろレオン。」

アレンさんの声が聞こえる。目は閉じたままだが顔の辺りに日の光を感じる。どうやらもう日は昇ったようだ。

「…はい。」

アレンさんに起こされ周りを見渡してみるとそこは見知らぬ草原…などではなく見なれた景色が広がっていた。昨晩焚いた木の燃えカスがさびしそうに残っているので間違いないだろう。

俺はペガサスを起こさないようにゆっくりと立ち上が…ろうとしたが途中で気付かれてしまった。

ペガサスは一瞬俺の顔を見るも眠気には勝てないのかそのまま母親の下にすり寄っていく。

母親のペガサスはすでに起きており子供が甘えて来るのを優しい目で見守っていた。

「成体のペガサスは寝ないようだな。それとも子供がいるからか…実に面白い生き物だ。」

「きっと母親の愛情ですよ。」

俺はなんの確証もなかったが、ふと言葉が出ていた。

アレンさんもそう思ったのかそれ以上は言わなかった。

「起こしても悪いし少し離れようか。」

「そうですね。」

そうして俺たちはそこからすぐ近くの川にやってきた。朝飯を取りにやってきたのだが、川の水が透き通りすぎて魚が丸見えである。魚は懸命に逃げようとするが今の俺にとっては止まっているも同然であった。

「アレンさん!ばんばん釣れますよ!」

「いや、釣ってはいないだろ…。」

レオンはさながら冬眠から覚めたクマの如く魚を岸に引き上げていく。引き上げられた魚は山のように積み上げられていた。

「一つ聞くが、その魚は全部お前が食べるんだよな。」

「何言っているんですか、アレンさんの分もあるに決まってるじゃないですか。」

「私はもう確保している。」

見るとアレンさんの手には数匹の魚が紐で結ばれて一つにまとめられていた。どれも大きく太いので選んで獲ってものと思われる。

「じゃあ、これどうするんですか……。」

二人の間に沈黙が流れる。そんな二人をあざ笑うかのように山積みの魚たちはぴちぴちと音をたてて跳ねていた。まるで早く戻せよと言わんばかりである。

「戻しますか…。」

「当然だ。」

「なんか…すみません。」

「次からは気をつけろよ。」

「はい。」

レオンは少々はしゃぎすぎたのを反省するとともに、魚たちを戻していく。獲って数分経ったはずの魚たちが勢いよく川の中を泳いで行った。

なにはともあれ食材を確保したわけで今朝もレオンは無事食事にありつくことが出来たのであった。

「それでは気の扱い方を教えよう。」

「はい!」

「それでは、まずは気の説明からだな…」

気とは身体中を流れるエネルギーのようなもので誰しもの身体に存在している。だが、そのエネルギーの量や質などは指紋と同じで一人ひとり異なっている。量に限っては鍛えても増えることはない。また、エネルギーが尽きると身体が動かなくなり、無理に動こうとすると死んでしまうこともあるらしいとか。

「なるほど。だから扱い方が大事になってくるんですね。」

「そうだ。だが、レオンに限っては量の心配はしないで良いかもしれないな。」

「本当ですか!?へぇ~、俺って量が多いんですね。」

「それで油断したら駄目だぞ。量が多いやつなんてざらにいるからな。扱い方によってゴミにもダイヤにもなる。」

「それじゃあその気を扱うことが出来れば俺も炎を出したり動かしたりできるんですね!」

「まぁ似たようなものだな。修業次第だ。」

「よし!頑張るぞ!!」

こうして俺の気を使う修業が始まった。



あれから数カ月が経った。季節も変わり春風が心地よく身体をすり抜けていく。

「気合を入れろ。」

「はい―――!」

ライオンの頭、山羊の身体、蛇の尻尾を持ったキメラがレオンを囲むようにして睨んでいる。

その瞳は飢えた獣同様の獰猛さと獣にはない狡猾さを宿していた。

「九頭か…。」

レオンの身体は疲労が蓄積していて意識していないと今にも倒れてしまいそうである。それでも頭の中では今の現状を打開しようと冷静な自分が内在していた。

「うっ…。」

傷を負った右腕がずきりと痛む。ほんの一瞬、自分にしか分からない程度に痛みを感じたその時だった。

「ガアぁアアッ!!!」

右の死角から一頭が飛びかかってくる。そしてそれを合図に次々とキメラが襲いかかってきた。

「おらっ!!」

初めに襲いかかってきたキメラの顎を砕く。逃げ場がなかったので空中に一時回避をした。

およそ人間とは思えない跳躍をしたレオンは空中でバランスを取るとさっきまでいた地面を見下ろす。

さっきまで自分がいた場所には先ほど顎を砕いたキメラのみで他のキメラはすでにその場にはいなかった。ホッとしたのもつかの間すぐに身体に寒気が走った。逃げたはずの空中だが未だに殺意が身体にまとわりついている。するとすぐに横からキメラが襲いかかってきた。見ると他のキメラが木を器用に登って来ているのが分かる。

「くそっ―――!」

とっさの判断で左腕をキメラにかみつかせた。その勢いで後続にいたキメラの追撃を逃れると地面に着地する。着地してもなおかみつくキメラの顎を砕くと払いのける。左腕には気を溜めていたおかげもあってわずかな傷で済んだ。

怪我を確認するように手に力を入れる。良かった、まだ全然使える。

すると遠くから凄まじい勢いで残りのキメラが近づいてくるのが分かった。この距離ならあと五秒ぐらいで追いつかれるだろう。

「なめるなよ…。次はこっちから仕掛けてやる―――!」

猛烈な勢いでキメラがやってきた。やってきたキメラは同胞の死体を確認すると獲物が近くにいることを感じ取る。だが、キメラは同胞の死体には目もくれずに辺りを見回している。生と死の世界、死んだやつのことなどいちいち考えることなどなかった。

「吹っ飛べ!!!」

草むらに隠れていたレオンがキメラの真横に飛び出した。飛び出したレオンは勢いはそのままキメラの腹に渾身の一撃を放つ。するとそのすぐ隣にいたキメラも吹き飛ばされ木に激突した。二匹とも白目をむいて事切れていた。

キメラが死んだことを確認するとすかさず左手に持っていた木をやり投げの選手のように構える。

「ふっ―――!!」

レオンは草むらに向かって思いっきり木を投げた。するとその方向から来ていたキメラ二匹が串刺しになる。レオンが気を込めた木は本物の槍と同じかそれ以上の貫通力と殺傷能力を纏う。

「残り三匹―――!」

残り少ないながら安心はしていられない。レオンの身体はすでに疲労で限界である。

「これならいけるか。」

レオンは勝利を静かに感じ取ったその時だった。

突然の爆音が聴覚を支配する。音のする方を見るとそこには灼熱の赤が目の前に襲いかかってきた。

「――――!!」

レオンはなんとか後ろに後退して炎の脅威から回避する。

炎の出所を確認するとそこには大型になりさらに凶悪さを増したキメラが待ち構えていた。

「何だあれ―――。」

レオンの疑問もつかの間すぐに追撃が放たれる。レオンはこれもぎりぎりでかわすと森の中に落ちていった。レオンは綺麗に着地するとすぐさま敵の位置を確認する。ある程度の距離があることを確認するとすぐさま分析に入った。

頭が三つに増えてそれぞれが自立したように動いている。それぞれに意思があるのかどうかは分からないが、間違いなく死角が狭まっただろう。…というか死角なんかないのではないだろうか。

レオンはキメラに気付かれないよう絶妙な距離を取りながら今度は観察を始める。

 一方、キメラは余裕があるのか自ら獲物を探しに行く事もなく悠々と周りを確認しながら森を進んでいく。

仲間が次々と死んでいくことに命の危機を感じた三匹のキメラは融合という最後の手段を使うことになった。一度融合してしまったらもう二度と元に戻ることはできないが、その代わりにとても大きな力を手にすることが出来る。キメラは力を手に入れたせいもあってか先程までの恐怖は無くなりつつあり代わりに余裕すら出ているようであった。自分たちをいとも簡単に屠っていったあの人間も今の自分にとっては最早敵ではない。その証拠に炎を一つ二つ噴いてやっただけでどこかに逃げて行ってしまった。

姿は見せないがこの近くにいるだろう。自分から仕留めに行くのもいいが、なんならもう一度掛かってきたときに仕留めるのも悪くない。

 キメラが見せたほんのちょっとした油断がこの世界では命取りであるということをこの後キメラはすぐに思い知ることになる。


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