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第14話 修業の成果

鳥の鳴く声が聞こえる。ふと眼を覚ますと銀色の毛が目に入った。天馬の毛はとても柔らかく綺麗で、何より温かかった。

親の天馬、俺、子供の天馬で川の字になって寝ているのだが全身が毛で包まれて冬なのを忘れるくらいに温かい。いつもは我慢しながら寝ているだけにとてつもないありがたみを感じる。

「あ、覚ましちゃったかな?」

俺が動いたのが分かったのか俺のそばで丸まって寝ていた子供の天馬が目を覚ましてしまった。

俺はゴメンと小声で言うとまだ寝ぼけているのか頭を俺の胸に置いてきた。俺も柔らかい毛並みに顔を埋める。

幸せってこういうことを言うんだろうなぁ…。前まであれだけ布団が恋しかったのになんかもうどうでもよくなってきた。まさに魔性の誘惑。

レオンは幸せをかみしめていると不意に気配を感じた。微かだが空気が変わるのが分かる。

親の天馬も感じ取ったのか起き上がり始める。子供の天馬はまだ何が起こっているのか分かっていないようだ。

気配のする茂みに目を向ける。微かだが間違いなくこの方角から向かってきている。

しばらく気配のする方向を見つめていると、茂みの奥から何かが飛んできた。何だ?俺に向かって飛んできたものを掴む。見るとみずみずしい果実を握っていた。

リンゴ?

「誰だ!!」

「おいおい、私の顔を忘れてしまったのかい?」

「アレンさん!!」

茂みから現れたのはアレンさんだった。アレンさんの手にも俺と同じ果実が握られていた。

アレンさんは出していた手をマントの中にしまうと片膝をついてこちらに頭を下げてる。

何してんだろう?

横にいた天馬はゆっくりとアレンさんに近づいていくとアレンさんにお辞儀をした。そして天馬が頭を上げるとつられるようにアレンさんも頭を上げる。

「良かった。大丈夫なようだな。」

「何がですか?」

俺はたまらずアレンさんに聞くもアレンさんはマントからリンゴを出してかじり始めた。

「この生き物の名前を知っているかい?」

なんで質問に質問で返してくるんだよ!!と言いたいところだが何とかこらえる。

俺もこの三か月で成長したんだ。このぐらいでいちいち怒らないさ。

「この生き物の名前はペガサスだ。」

「自分で言うのかよ!」

アレンさんがにやにやした顔でこちらを見てくる。

くそ…ついつい言ってしまった。どうやらまだこの人には勝てそうにないらしい。

「このペガサスという生き物はとても気高い生き物なんだ。滅多に人と関わらないんだぞ。」

「そんなことないですよ。なっ!」

レオンはそういうと子供のペガサスのタテガミをなでる。

「お前ぐらいだよ、そんなことが出来るのは。」

「そうですかねぇ…それより、今日で期限ですよね。」

レオンは改まるとアレンさんに向き直る。その目は以前とは違ってどこか野性味を帯びているようだった。

「そうだな。あぁ、そうだ。もうレオンも気付いているとは思うが、ここには正真正銘のモンスターが生息している。レオンの知っている獣と違い強く賢い森のモンスターに恐怖する日もあっただろう、良く生き残ったな……合格だ。」

アレンさんは俺の顔をまっすぐに見つめるとそう言った。

「よっしゃ~~!!終わった~~!!!」

レオンは万歳をしてペガサスに飛びつく。ペガサスも理解しているのか、レオンが嬉しそうだからなの分からないが、ペガサスも一緒になって喜んでいた。

「何を言ってるんだ?これからだぞ。」

「あっ、そうでしたね…。」

そうだった。まだ修業は始まったばかり、やっと第一段階が終わったばかりなのだ。いや、もしかしたら始まってすらいないのかもしれない。俺は未だに魔法を使ったことがないどころか、使えるのかさえ分かっていないのだから。

俺ががっかりしているのが分かったのだろうか、さっきまではしゃいでいた俺が急に落ち込んだのを見て子供のペガサスが手を突いてきた。

「あぁ、大丈夫だよ。俺、頑張るから…。」

「そんなに心配するな。次は待ちに待った魔法の修業に入るぞ。」

「ほんとですか!?」

レオンの瞳がパッと明るくなる。それを見た子供のペガサスも嬉しそうにレオンの側をはねていた。

「ついでに格闘術なんかも教えようと思う。まぁ、こちらが主なんだがね。」

でしょうね!!分かってましたよ!どうせそんな事だろうと思ってましたよ。

だが、少しながらも魔法は教えてもらえるようだ。僅かながらでもそこに希望をもつしかないだろう。

「まぁ、良いですよ。何でもいいから魔法教えてくださいよ。」

レオンがぶっきらぼうにそう感想を述べているのを見て、アレンさんは何故か懐かしそうな顔をしていた。すねるレオンとそれを頬笑みながらなだめるアレンさんは師弟というよりはまるで父と子の親子のように見えた。

「それで、具体的には何をするんですか?」

レオンが焼き魚を食べながらそう尋ねる。場所を移して今は広い草原のようなところで食事をしていた。もちろん、ペガサスの親子も一緒に。この魚は先ほど戦った池のものである。あのモンスターは魚を食べないのか池には沢山の魚が生息しており、その上とても大きかった。

「私と勝負してもらう。」

「おっ、組手ですね。負けませんよ。」

レオンは自慢げにアレンさんの顔を見つめる。なにやら秘策があるのだろうかレオンは魚を食べながら邪悪な笑みを浮かべている。横で魚を食べているペガサスが少し引いているように見えた。

「ふふ、全力でかかってきたまえ。あぁもちろん、魔法は使わない。」

「じゃあ、アレンさんに魔法を使わしたら俺の勝ちにしてくださいよ。」

「いいだろう。」

レオンの瞳に好戦的な光が宿る。今にも戦いたくてうずうずしているようだ。

「よっしゃ!それなら早く食べて修業しましょう!!」

レオンは慌てて魚にがっつく。アレンさんはそれを見てやれやれと首を振っていた。



「よし来い。」

レオンさんが来いと手を広げている。シャツのようなゆったりとした服を着ていながらもその下にある強靭な肉体が連想出来た。隙だらけに見えるがやけに手の出しにくい雰囲気を醸し出している。

「何でもありですよね?」

「あぁ。」

レオンさんが変わらず笑みを浮かべたまま返事をする。その表情からは余裕が感じられた。

くそぉ、一発ぎゃふんといわせてやる。

「それじゃあ行きます、よっ!!」

レオンが隠し持っていた石を全力で投げつける。凄まじい勢いで投げられた石はアレンさんの顔面に向かって飛んでいく。今のレオンが投げる石は太古で使われたときと同じく正真正銘の凶器と化していた。

「遅い。」

レオンさんの前で石が粉々に砕ける。石が自然と砂埃となったかのように見えるが、実はアレンさんが目にも止まらぬスピードで石を弾いていたのだ。

「分かってますよ。」

レオンが砂埃で視界の見えにくくなった顔面にアッパーを放つ。レオンは石を投げると同時にアレンさんの元に走っていたのだ。石が砕けると同時にレオンが死角から攻撃を仕掛ける。

「分かっていたよ。」

アレンさんがレオンの拳を受け止める。アレンの死角からの攻撃はいともたやすく塞がれてしまった。

「ふっ!!」

レオンはすかさずガラ空きの腹に拳を放つ。レオンは最初からこれが本命だった。右手の拳には先ほどの闘いで見せた猛烈な力が籠る。

「甘い!!」

アレンさんは掴んだ拳から肘を掴むと上に突きあげる。レオンの身体は伸びてしまい力が入らなくなる。それどころか放った拳と交差する形になり胴が完全に空いてしまった。アレンさんの拳が飛んでくる。

「やばっ!」

レオンはとっさに膝を曲げてアレンさんの拳を足で受け止める。受け止めたと思ったその時、足首を不意に掴まれた。受け止めたと思ったレオンは急に力を入れることが出来ず、なすがままになる。

足を掴んだアレンさんはレオンを地面に思いっきり叩きつけた。

「ぐっ―――!」

とっさに頭を守るも身体中に衝撃が伝わる。守ったはずの頭にも衝撃が伝わった。

「こんなもんかい?」

アレンさんの声が聞こえる。それを聞いたレオンは慌てて距離を取った。

くそ、やっぱり全く歯が立たないな。

レオンは軽く舌打ちをする。この森で暮らしたせいか、レオンの危険を感知する能力は格段に上がっていた。時には逃げなければならないこの世界において、この能力は必要不可欠なものだったからだ。

「私は魔法を使うどころかこの場所からまだ一歩も動いておらんぞ。」

「うっ…。」

アレンさんの周りには俺が激しく動いた跡が残っているものの、足もとは綺麗に残っている。さっき叩きつけられた場所には穴が開いていた。

「本気で来い。」

アレンさんの口元から笑顔が消える。瞳には挑戦的な色が浮かんでいた。

その瞳を見つめると言いようのない重圧がのしかかってくる。モンスターとの戦闘の時に感じた時と同じ獰猛な空気がびりびりと伝わってくる。

「分かりました。」

アレンさんが俺を試している。俺がどこまで成長したのかを真剣に感じ取ろうとしているのだ。それなら俺もそれに全力で答えるだけだ。

レオンはこのサバイバル生活で大きく成長したものが三つある。一つは感知能力、これは回避能力といってもよいだろう。相手の出方をある程度の距離ならば理解できるようになった。二つ目に集中力、生死を分けた野生のモンスターとの戦闘においては一瞬の隙が命取りとなり、日常の生活においても常に気は張っておかねばならなかった。三つ目、これが一番変わったことといってもよいだろう、レオンは身体の中の気を操れるようになっていた。極限ともいえる状況下ではいつまでも気を張っておくわけにはいかず、どうしても少しは気を緩めなければならない。そこでレオンは感知能力と集中力を巧みに使うことでオンとオフをやってのけたのだ。そして、それからしばらくしてレオンは身体の変化に気付いた。

それは、ある晩の出来事だった。群れのモンスターに襲われ逃げていた時、レオンは必死に闇の森の中を走っていたのだ。だが、いくら走っても疲れを感じない。群れを完全に振りきるもまだ余力は残っていた。

「なんだ?なんか全然しんどくない…。」

それからレオンが身体のエネルギーを操るのは時間がかからなかった。

そして時は変わって今、目の前には野獣の群れではなく一人の人間が立っている。

アレンさんがこちらの出方を窺っているのが分かる。

レオンは目をつむる。身体中に力が流れているのが分かる。そのエネルギーを頭の上からつま先まで流れていることを意識する。エネルギーがマグマのようにふつふつとこみ上がっていく。まるで噴火寸前の活火山のようだ。体中が熱くなる。

「ほう―――!」

レオンは目を開く。瞳は轟々と燃えて揺れていた。

「―――――!」

レオンが正面から拳を振るう。猛烈な速さだ。地面には足跡がくっきりと残っていた。

「ふっ―――」

アレンさんが紙一重のところでレオンの拳をかわす、レオンは踏ん張ると勢いはそのまま身体をしならせ今度は逆の手で殴りつける。アレンさんもさすがにかわすことはできず防御の体勢を取る。レオンはそれでも構わず防御した腕ごと拳を叩きつけた。アレンさんは防御体制のまま吹き飛ばされていく。足で踏ん張った跡が攻撃の激しさを現わしていた。

「まだだ―――!!」

レオンは両足で地面を蹴って宙に舞う。空中に跳んだ刹那の時間に身体のエネルギーを集中させる。右腕の周りがまるで陽炎のようにゆらゆらと熱気を帯びている。

「おらぁあああああああああ!!!!!」

「はっ――――!」

激しい爆発音が森に轟き、暴風と砂埃が舞った。少し離れたところで見ていたペガサスが翼で子供を覆う。しばらくして砂埃が晴れるのを待っていると、二つの影が見えてきた。一人は立っているが一人は地面に伏しているようである。

「くそ~~。やっぱり駄目か~~~。」

「まだまだだな。」

地面に伏したレオンがアレンさんに話しかけている。レオンは力尽きているのか地面に倒れたままピクリとも動かない。対するアレンさんはまだ生き生きとした様子でレオンを見下ろしていた。

「やっぱりアレンさんも出来たんですね。」

「当然だ。」

先ほどレオンが全力で拳を振るう直前、アレンさんはレオン同様エネルギーを展開することで力を相殺させたのだ。

「これは魔法を使う上で基本となることだからな。」

「そうなんですか?!」

知らなかった。俺は身体の使い方程度にしか思っていなかったのだが、まさか、魔法を使う上で必要になるとは。なんだかアレンさんの掌の上で転がらされていたような気もしないではないのだが・・・。

「まぁここまでする必要はないんだがね。」

「そうなんですか…。なんだかアレンさんの予想通りって感じですね。」

そういうとレオンは若干ふてくされたような顔になる。それを見たアレンさんは頬笑みながらレオンをなだめていた。

「ん?」

レオンの下にペガサスの親子が近付く。親のペガサスはレオンの側にゆっくりと近づいていくと丁度レオンの胸元、心臓のあたりにキスをした。

「うお、すげぇ!!」

「ほぉ―――!」

レオンの傷が見る見るうちに治っていく。まるで魔法のようだ。

「ありがとな。助かったよ。」

レオンの感謝の言葉に親のペガサスはじっと目を見つめる。温かな光を帯びた瞳で見つめる様子はまるでわが子を思うそれに似ている。

本当に人間みたいな目してるんだな。

「流石というべきか、再生を象徴するだけのことはある。私もペガサスが人間相手にこんなことをしているのは初めて見たよ。」

レオンさんはそういうとまたいつものように親子のペガサスをじっと見つめている。

ペガサスは気味悪がっているのか、子供を庇いながらじりじりと距離を取っていた。

「ちょっと、アレンさん。引いてますよ。」

「おっと!…しまった。ついいつもの癖が…。」

アレンさんはそういうとすっといつもの表情に戻った。

「申し訳ない。危害を加えるつもりはないよ。」

親のペガサスがゆっくりと戻ってくる。アレンさんはペガサスは人間が嫌いだといったが、単純に会ったペガサスがアレンさんを引いただけではないだろうか。予想ではあるがそんな光景が脳裏をよぎらずにはいなかった。

「それよりもですよ!どうでしたか?!俺の実力は?!」


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