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第11話 回想2

 「うっ……無事か!?ルイス!!」

足元に転がった瓦礫をどかしながら叫ぶ。額からは血が流れ前が見え辛い。血を何度拭っても垂れてくる。右腕の肩には相手の攻撃により剣の欠片が刺さっていた。

この剣の持ち主であるボスの男を足で退ける。見ると身体は真っ二つに切れていた。

 激しい攻防の末なんとか勝つことが出来た。相手は相変わらず単調な攻撃ながら一つ一つが早く、そして凶悪な威力を秘めていた。もろに食らうことはなかったが掠っただけでも相当なダメ―ジを負ってしまった。ただ、幸いなことに相手は基本的な攻撃力が上がっただけで魔法は使ってこなかった。おそらく使えなかったのだろう、魔法を使われていたら危なかったかもしれない。

 思い切って剣を抜くと血が吹き出る。痛みに耐えながらマントを口でちぎると傷口に巻く。今はこのぐらいしか出来ないが、これでもいくらかましになった。

右腕を庇いながらルイスを呼ぶ。

「ルイス!返事をしろ!!」

いくら声を上げても返事がない。もしかしたらやられてしまったのだろうか?

そんな不吉な思いが脳裏を微かに過ぎる。

「はいっ!ここです!!生きてます!!」

ルイスの声が聞こえる。辺りを見回すと瓦礫の下から手が伸びている所があった。手の持ち主はのしかかっている瓦礫を一気にどけると姿を現わした。

「良かった。…女の子は!?」

「大丈夫ですよ。ここにいます。」

ルイスの懐から少女の小さな頭部が現れる。

「無事かい?」

「うん。ありがとう。」

少女は怯えながらも感謝の言葉を口にする。

そんな少女を不安にさせないため頭をなでてやる。今の俺たちにはこの子だけが生きる希望となっていた。そんな見ず知らずの少女になぜそんな感情を抱くのかと疑問に思うかもしれないが、そんなことはどうでも良かった。今は守るものがあるだけ、それだけで良かった。とてもではないが自分一人では戦場を走り切ることは出来ない。

「よし、敵のいない今がチャンスだ。急いで行くぞ。」

「はい!」

そうして行こうとしたその時、頭上から拍手が起こる。はっとして頭上に視線を移した。

「素晴らしい!実に見事な闘いだった!!…感動したよ。」

声は崩れた瓦礫の上から聞こえてきた。背筋に寒気が走る。その声は驚くほど透き通っていてこの戦場には酷く不釣り合いなものだった。だが、何よりも驚いたのは、自分たちのすぐ近くにいたのに俺たちは全く気付くことが出来なかったということであった。

「誰だ!!」

ルイスが声を上げる。疲労しきったはずにも関わらず未だ闘争心の尽きぬ目は炎のように揺れていた。

「いやぁ、名乗るほどの者じゃないよ。古来から生きる者、とだけ言っておこうかな。」

声の主の顔を認識する。金髪に透き通った白い肌、身体はマントで覆われ確認することは出来ないが、身長はかなり大きいと思われる。深い緑色の目が煌々と光り、射抜くように鋭かった。

顔はここから見てもかなり整っていることが分かる。男女問わずこの顔を見たら真っ先に美しいと答えるだろう。男なのか女なのかよく分からない顔をしていた。

「何の用だ!!」

こいつはやばい、俺の直感が全力で警戒の鐘を鳴らしている。

 こいつからは何も感じない。それがどれだけ異常なのかは武を知る者にとって考えられないことだった。どんな達人が気を隠そうとしても必ず少しは痕跡が残ってしまう。

いくら死体のようになろうとしても生きている限り死体にはなれない。

「やつから何か感じるか?」

「いいえ、全く。」

ルイスも同じことを考えているのだろう、緊張しているのがこちらにも伝わってくる。

「生きたいか?」

突然そいつが言葉を切りだした。その声には神々しささえ感じる威厳を持っていた。

「当たり前だ!!」

臆している自分を隠すため大声で返答する。

大丈夫だ。これまで何度かこれと似たような死線を経験してきた。倒すことは出来ないにしても逃げることならなんとかなる。

「良いだろう。良い物を見せて貰ったお礼だ。逃がしてやるよ。」

危機が一変、ようやく生きた心地がした。今は戦わないのが一番に決まっている。相手が強ければなおさらである。

絶望の淵に立っていた状態からやっと希望の光が差しこんだ気がした。急なことに思わず腰が抜けてその場にしゃがみ込んでしまった。

「だが、一つ条件がある。」

「「条件?」」

俺とルイスは同時に同じ言葉を声にする。見るとルイスも片膝をついていた。

ここまでくればどんな条件でも構わない。逃がして貰えるのならなんでも言うことは聞く覚悟だった。


「その娘を捧げろ。」


何だ?今何と言ったのだ?信じられず顔を見つめるが、瓦礫の上に立ったそいつはじっとルイスの側で小さくなっている子供を深緑の瞳で射抜くように捕えていた。

「どういうことだ。なぜこの子なんだ!!」

「どうもこうもないさ。そら、早く差し出せ。」

その深緑の瞳の持ち主は淡々と何事もなかったかのように涼しげな表情をしている。

「どうするつもりだ!それに…貴様は何者だ!!」

その質問と同時に突然、突風が吹いた。思わず目を閉じる。

突風が過ぎて目を開けるとそこには信じられないものが目に飛び込んできた。

「あれは…紋章…。」

羽織っている大きなマントは風で大きく揺らぎなびいていた。マントの下からはかなり鍛えられた無駄のない筋肉が付いている。そこでようやくそいつが男だということが分かった。

だが、注目すべきはそのマントの内側にあった。丁度マントの端、そこには大きな紋章が彫られていたのだ。その紋章の周りには赤い文字が彫られている。あの文字は確か古代文字だったような気がする。

「そういうことだ。俺はお前たちの敵だ。」

希望から一変、絶望に包まれる。こいつは敵だったのだ。良く考えれば当たり前ではないか、もし味方ならば先ほどの戦闘の途中で加勢してくれるはずである。

「早くこの子を連れて逃げてください!!ここは俺が引き止めます!!」

ルイスはそういうと俺と少女を庇うようにして目の前に立った。男から視線を外したことで我に帰る。

「何を言っている!お前だけ置いていけるか!!」

「その通りだ。逃がしやしないよ。」

「なんっ――――!!」

ルイスが続きを言おうとしたその時、身体が急に動かなくなる。腕どころか指一本動かない。

「なんだ、これ…。」

全く身体が動かない。かろうじて動くのは目と口だけだ。

明らかに何かの攻撃を受けている。だが、未だ目の前の男からは何も感じない。

「ふふふ。まぁ見てな。」

そういうと男は手をこちらに向ける。それでもまだ何も感じない。

すると、俺の横にいた少女がふと立ちあがる。いや、よく見ると足が中に浮いていた。

「えっ!?いやっ!!助けて!助けてー!!」

少女が突然のことに悲鳴を上げる。必死にこちらに手を伸ばしてくるが空を切るばかりである。こちらも必死に手を伸ばそうとするが、手を伸ばすどころか指一本動かせない。

「止めろ!!何をする!!…止めてくれ!!!」

必死の言葉も虚しく少女はそのまま浮き上がっていく。

ルイスは必死に動こうとうめき声を上げて力を入れているがびくともしていなかった。

「これより生贄の儀式を行う。」

その透き通った声からおぞましい儀式の名前が聞こえる。

生贄の儀式、それは古来に行われていた儀式の一つで主に飢餓や災害が起こったとき、古来の人々が神に救ってもらうために肉体を捧げることである。選ばれる人間は主に戦争で捕虜にした人間や囚人であるが、女や貴族が選ばれることもあったと言われている。

「何を言っている!止めろ!!」

「クソが!!!」

必死に抵抗するがまるで自分の体ではないようだ。意識ははっきりしていても身体はびくともしない。

「あっ…うっ……。」

少女は恐怖のあまり声が出ていない。男がとても優しげに少女を見つめる。どうやら何かを呟いているようだ。

まるで美しい絵を見ているようだ。そう一瞬思ったその時、

「キャァああああ嗚呼ああ嗚呼あああ」

おぞましい叫び声が聞こえる。見ると少女の腕が無くなっていた。

俺達はあまりのことに言葉を失う。

男は未だ涼しい顔で何かを呟いている。少女の腕からはおぞましいほどの血が流れていた。

すると今度は少女から何かが垂れ下がってきた。かなりの長さだ、そこでふとある事を思い出した。

人の腸は自分の身長ほどあるということを…。

「ウワぁ嗚呼あ嗚呼アアああ嗚呼ああ!!!」

そのおぞましい光景に自分の声とは思えぬ叫び声が出る。

ルイスは恐怖で何も口に出さない。いや、まるで言葉を失ったかのように口を開け茫然としていた。

もはや少女からは泣き声も聞こえない。ぐったりとしているようである。

それでも男は止めようとしない。

 すると突然、少女の首があり得ない方に動く。じりじりと右に動いていき、背中を正面としたところで首は止まった。少女は口から血と舌を吐き出し、目が異様に見開かれていた。目からは涙と血の入り混じった液体が流れていた。

首が胴体と分断され首が足元に落ちる。ゴトンッ、とまるで重い物を落としたような音が耳に残る。残った身体は急に身体の内部から爆発すると肉片となって落ちてきた。目の前に少女のものと思われる小さな指が転がった。

「うっ――――!!」

嘔吐しそうになるも、もはや身体の中には何も残ってはいなかった。

ひたすらの嗚咽と不快感が身体を包み込む。すると不意に身体が束縛から解放された。両手で自分を守るように身体を包むが震えは止まらない。恐怖に思わず少女の指を払いのける。

「成立だ。逃げてもいいよ。」

男の涼しげな声が聞こえると同時に辺り一面を覆っていた思い空気が軽くなった。

「はっ、はっ、はっ…。」

息が吸えない。必死に空気を吸おうとするが肺に空気が入ってこない。

「大丈夫ですか…。」

ルイスの震えた声が聞こえる。その声には今までに聞いたことがないほど恐怖に満ちていた。ルイスの震えた手が背中を触れる。震えた手からは確かな生きた人の温もりを感じた。

「うぅ…うぅう…。」

涙が溢れる。ただひたすらに生きていることに安堵していた。ルイスも泣いていた。






 「その後この場から逃げるように森の中に入るといつの間にかこの村に着いていた。そして戦いに疲れたわしたちは魔法を捨てこの村で生活を始めたというわけじゃ。」

じじ様は語り終えるとそのまま押し黙ってしまった。

まさかそんなことがあったとは、初めて聞いたことながら驚きが隠せなかった。エレナも涙は流していないものの顔は青ざめていた。

おやじさんも眉間にしわを寄せて押し黙っている。

アレンさんは失礼なことを聞いてしまったとばつの悪そうな顔をしているが案外平然な顔をしていた。

「失礼なことを聞いてしまいました。申し訳ありません。街にはそれから一度も行ってないんですか?」

謝っておいてすぐに質問してんじゃねぇよ!と言いたいところをぐっとこらえる。

「あぁ一度も行っておらんよ。時々話には聞くがな。」

「なるほど。魔法を使っていないと言いましたが、それではなぜ森に結界を張っているのですか?」

結界?何のことだ?森にそんなものがあるだなんて聞いたことがない。

「やはりあなたでしたか。外部からの侵入を防ぐためにこの村に来てすぐに結界を張ったんじゃよ。だが、この村はただでさえ入り組んでいて普通には入れないようになっておる。迷い込んでもいつの間にか出口に出るようになっとんじゃよ。」

そうだったのか。だから小さい頃この森で迷った時も帰ってくることが出来たんだな。あの時は俺の直感が働いたとばかり思っていたがそうではなかったのか。

「それでも入ってくるようなら結界で追い払うようになっておったんじゃが、それがこの前壊されたと聞いてな。今まで破られなかっただけに、そりゃあもう驚いたものじゃよ。」

横のアレンさんにみんなの視線が集まる。

この人は一体どうなっているんだ。只者ではないことは分かっていたが、ここまで来るともはや変人である。…それにしても一体どうやって入ってきたんだ?

「いやぁ私も驚きましたよ。あんな結界そうそうお目にかけられるもんじゃない。ついつい私も熱くなってしまいましたよ。」

アレンさんは何の悪びれも感じるどころか、もっと言ってといわんばかりに自慢げにしている。

さっきまで真剣だった雰囲気は一変陽気な雰囲気になってしまった。

「まぁ結界を破ったところでこの村に辿り着くのは難しいんじゃがな。」

そこでアレンさんの顔が引きつっているのが分かった。

そうだった。アレンさんと初めて会った時はアレンさんが森の中で倒れていたのを俺が見つけたのが最初だった。

アレンさんも同じことを思い出しているのだろう、自慢げな態度は一変してうなだれている。

「そういえばアレンさん、俺と初めて会った時のことを覚えてますか?」

追い打ちをかけるようにアレンさんの耳元で呟くとアレンさんが目を薄くしてこちらを睨んできた。

「ふふふ。」

エレナが笑みをこぼす。すると周りのみんなもつられて笑いだした。




「…で、なんでこうなるんですか?」

俺が疑問の声を上げるも誰も疑問の答えを返してくれる人はいない。

みんなエレナの作ったごはんを黙々と食べている。

「何がだい?」

「何って、なんで普通にご飯食べてるんですか?」

「普通ご飯は食べるだろ。食欲がないのなら私が食べてあげよう。」

アレンさんが俺の分のご飯に手を伸ばしたところで自分の皿を遠ざける。

あげませんよ、と目で訴える。アレンさんも俺の視線に気づくと諦めて自分のご飯に集中する。

「よくあんな話の後に普通にご飯食べられますね。」

「昔の話じゃよ。気にしてたらきりががないんでな。」

「そうだ。過去のことばかり気にしてたらモテんぞ。レオン。」

さっきまで深刻そうにしていたじじ様とおやじさんの二人も今となっては何事もなかったかのように食事をしている。

もしかしたらさっきの話は全部嘘なのではないだろうか?そんな疑問が頭をよぎる。

「別にモテなくて良いですよ。なんならこの村出てお嫁さんもらって帰ってきましょうか。」

言い終えると同時に台所で皿の割れる音が聞こえる。

なぜか周りのみんなが、アレンさんですらこちらを呆れたような顔で見てくる。

そんなに面白くなかっただろうか?軽い冗談のつもりで言ったのにここまで真面目な反応をされるとは思わなかった。

はいはい。どうせ田舎者ですよ。でも夢ぐらい見たっていいじゃないですか。

「大丈夫か?」

じじ様が台所にいるエレナに声をかける。エレナが大丈夫です。と応答する。良かった。怪我はなさそうだ。

「それにしても…本当に気付かんのか?」

「何がですか?」

「私でも一瞬で分かったのに。」

アレンさんが信じられないといった顔で首を振っている。じじ様とおやじさんはなぜか深いため息を吐いていた。

「何なんですか…病気なんじゃないんですか。」

「病気はお前だ。」

「えぇっ!!」

アレンさんの言葉にじじ様もおやじさんもうんうんとうなずいている。初対面なのにもかかわらず早くも一体感が出来つつあった。

いったい何なんだよ。もしかして本当に俺が病気なのだろうか。

レオンが自分を見失いそうになったところで、エレナがフォローに入る。

「もういいから!!早く食べないとご飯が冷めちゃうわよ!!」

「うおぉう!!」

エレナの怒声に我に帰る。

俺は何を考え込んでいるんだ。この人たちの言葉を深読みしていては思うつぼではないか。これではご飯が食べられなくなってしまう。アレンさんに限ってはそれが目的かもしれない。とりあえず早くご飯を食べてしまおう。

「不憫ですな。」

「エレナは優しいからのぉ」

「我ながら自慢の娘だ。レオンのために、と思って変な虫がつかんよう気を使ってやっとるというのに…。」

三人はレオンの方に視線を向けるが、レオンは食べるのに夢中で全く聞いてなかった。

美味い、美味い。ともごもご独り言を言いながらエレナの料理に手当たり次第手を伸ばして口一杯に頬張っている。

「美味しい?レオン。」

「ん?ほお(おお)、へちゃくちゃ(めちゃくちゃ)ふまひよ(美味いよ)。」

「そ、レオンに喜んでもらえて良かった。」

何を言っているのか分からないレオンの発言もエレナには分かるようで、エレナがとても嬉しそうにしているのは傍から見ていて明らかだった。そんなエレナの気持ちを全く感じることなくレオンは食べ続けている。エレナはそんなレオンの様子に肘をついてうっとりと熱い視線を送っている。

そんな奇妙な世界観を創りだしている二人に、大人三人はやれやれと首を振っている。

おやじさんに限っては見て見ない振りをしていた。

「可愛いなぁ…。」

エレナは心の内が漏れているのに気付いていないのか平然とそんなことを呟いている。

これには流石のおやじさんも食べていたラーメンを喉に詰まらせていた。

「大変ですな…。」

アレンさんがおやじさんに憐みの言葉を掛けていた。




 慌ただしい食事も無事終わり、風呂にも入ってレオンはようやく自分の部屋で一息ついていた。

ドアをノックする音が聞こえる。レオンが返事をするとドアが静かに開いた。アレンさんだ。

「明日から修業を開始する。」

アレンさんはドアを閉めると静かにそう告げた。

「はい。」

やっとだ。やっと魔法が使える。

レオンは思わず拳を握っていた。

「なんとか村長さんの許可ももらえたしな。思う存分に鍛えてやろう。」

「はい。よろしくお願いします。」

「うむ…それでは今晩はゆっくりとするがいい。ふふ、どうやら私はお邪魔なようだ。」

アレンさんは不意に笑いだすとドアを静かに開ける。見るとそこには寝間着姿のエレナがびっくりした顔で立っていた。

「なんで…!」

「まぁまぁ、入って入って。それじゃ、お休み。」

アレンさんはそう言うとすぐに部屋を出て行った。

「ちょっといい?…レオン。」

「おぉ、いいよ。何?」

「これ。子供たちから。」

「へっ?」

エレナが沢山の手紙を渡してくる。どれも急いで書いたのだろうか、お世辞にも決して綺麗な字ではなく中には便箋にも入れず裸のままのもあった。

「みんな…。」

一つ一つに目を通していく。どれも荒っぽい字ではあるがそこには俺への応援としばしの別れに対する寂しさの言葉が並んでいた。

「子供たちが慌てた様子で持って来たからびっくりしたわよ。…頑張らないとね。」

あいつら、あの後急いで書いて持ってきてくれたのか。家からここまで結構距離あるのに。

素直じゃないやつらだな。

「よっしゃ!!気合入った!!帰ってきたらあいつら驚かせてやる!!」

「頑張りなさいよ。私も応援してるから。」

エレナはそういうとレオンの手を握る。

恥ずかしそうに顔を赤らめるも、その目は真っ直ぐにレオンの目を見つめていた。

「何だよ、そんなこっちみんなよ。照れるじゃねぇかよ。」

「ふふ、それなら良かった。」

「何でだよ?」

レオンが疑問の声を上げるもエレナは変わらず微笑んでこちらを見つめていた。レオンは意味が分からず子供たちの手紙を読み始めていた。

「ねぇ、レオン…。」

「ん?」

エレナがレオンの方に顔を近づけていく。レオンは手紙を読んで気付いていない。

あと少しで絶対領域に入る、そう思ったその時、

「すまんエレナ!!急いで帰るぞ!!」

ドアが勢いよく開く。そこにはおやじさんが立っていた。かなり慌てているようだ。

思わずのことにエレナの動きが止まる。

レオンは何だ?と驚いて後ろに飛び退いた。そのせいでエレナとの距離が開いてしまった。

「何で?」

エレナの明らかに不機嫌な声がおやじさんを捕える。そこでいつもなら引くおやじさんがそれどころではない、といった顔をしていた。

「お母さんから早く帰ってこいと連絡が入った。」

そういうとおやじさんは手に持った白い紙を見せてくる。

「お父さんだけ帰ったら?」

「そういうわけにはいかん。お前この頃帰ってないだろ?連絡もしてないんじゃないのか?お母さん結構怒ってるぞ。」

「いやっ!ここにいる!!」

「…仕方ない。」

おやじさんは覚悟を決めた顔をするとエレナをひょいと担ぐ。エレナは必死に動くががっちり担がれているので脱出は不可能のようだ。

「いやぁ!!助けて!レオン!」

「じゃーなー。」

エレナが必死に頼んでくるが止めることは出来ない。なぜなら、エレナのお母さんは怒ると凄く怖いのだ…。

触らぬ神に祟りなし。ここは見過ごさせてもらおう。

ドアが閉まる。閉じてすぐにおやじさんが階段を降りていく音が聞こえた。

エレナの悲鳴がどんどん遠のいていき、あっという間に聞こえなくなった。

 俺!強くなって帰ってくるからな!!

レオンは改めて決意を固めると布団にもぐりこんでいった。


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